重い物を持ってぎっくり腰になったけれど、傷害保険はおりるのか

相談

重い物を持ってぎっくり腰になったのですが、傷害保険はおりるのでしょうか。

傷害保険の対象は疾病ではなくて外傷である

傷害保険が対象にしているのは、急激・偶然・外来の3つの要件を満たす外傷です。でも、この3つの要件を満たしている外傷であっても、「医学的他覚所見による裏付けのない症状」については保険金は支払われないと保険約款に記載されています。どういう場合に「医学的他覚所見による裏付けのない症状」に該当するのか。この解釈にかかわっての、頚椎捻挫や腰痛などでのトラブルが非常に多いのです。

まずは、この3つの要件である「急激・偶然・外来」の定義について、腰痛を例にして説明していきたい。

急激

最初の「急激」についてですが、原因となった事故から結果としての傷害までの過程が直接的で、時間的間隔がないということです。従って、時間をかけて緩慢に発生するものはこの要件に抵触し非該当です。わかりやすい説明のためによく例に出されるのが、マラソン中に転倒して捻挫した場合と靴擦れをおこした場合です。前者は事故から傷害発生までの時間的間隔がありませんから、「急激」に該当します。しかし、マラソン中に靴擦れした場合は、靴擦れの発生機序が緩慢なので「急激」には該当しません。

では、重い物をもって腰痛になった今回の場合についてはどうでしょうか。被保険者がふだん重い物を持たない方で、たまたま重い物を持って腰痛になった場合はどうか。これは「急激」に該当します。しかし、日常的に重い物を持つ習慣あるいは職業をお持ちの方が重い物を持って腰痛になった場合はどうか。この場合は、1回の外力でなったというより、日常的な外力の積み重ねが腰痛の原因だと考えられ、そのため、発生機序が「急激」とはいえないということになります。

このような考え方がある一方、以下のような考え方もあります。
 

「重いものを持ってぎっくり腰になった場合」と「腰をひねってぎっくり腰になった場合」とを考えてみましょう。どちらもぎっくり腰という傷害を負っています。違うのは何か? それは重いものを持ったか、自分の体重を支えられなかったか、の違いです。重いものを持っていれば事故であり、そうでなければ内在的な欠陥とするのが現在の一般的な考え方です。しかしこの結論は「重いもの」の程度を問題にしていない点で、与しがたいと考えます。

ピアノなどの重量物を持ち上げられると過信した結果腰を痛めたのであれば、事故といえるでしょう。しかし10kg程度の米袋を持ち上げようとして腰を痛めたのは「外来の事故」ではなく、内在する疾患と言うべきでしょう。一般の人が10kg程度の物を持ち上げることは日常よくあることで、そうした物を持ち上げることは事故でも何でもないのです。そうした日常よくあることと言う限界を超える重量物を持ち上げようとして生じた腰痛をはじめて「事故による傷害」と考えるべきと思われます。個人差はあるものの、腰に欠陥のない通常人でも発症する可能性のある重量物を持ったという時点で事故性を認めることになります。

 
「からだの保険」(P6)


 
ぼくはこの見解には賛同できません。とくに「10kg程度の米袋を持ち上げようとして腰を痛めたのは「外来の事故」ではなく、内在する疾患と言うべきでしょう」という解釈があまりに恣意的だからです。重いものを持ち上がることによって発症したのだからどのように考えても外来の事故です。ただし、場合によっては内在する疾患が絡んでいる場合もあり得るでしょう。そういう場合は、「外来の事故」であることを基本にして、内在の疾患との競合関係を考えればいいのではないでしょうか。一般人なら10kg程度の物を持ち上げても腰痛にならないといいますが、多くの高齢者もいるわけなので、個人差を無視しすぎではないでしょうか。

偶然

次に「偶然」について。被保険者の立場からみて原因または結果の発生が、予測できないことです。この場合は3つのパターンがあります。第一は原因の発生が偶然である場合、第二が結果が偶然である場合、第三が原因・結果いずれも偶然である場合です。いずれかに該当すれば「偶然」の要件を充足します。ちなみに、「偶然」の反対は「必然」、すなわち「故意」です。

腰痛は「偶然」の要件を満たすのがふつうです。保険金狙いでが故意に腰痛になること(あるいはそれを演じること)は可能性としてはあるものの、ふつうありません。問題になるのは被保険者がある行為の結果を予測できたにもかかわらず、あえてその行為を行ったため傷害が生じた場合です。この作業をやっていると腰痛になるかもしれんなあ、まあなったらなったときだ。つまり未必の故意の問題です。この場合は被保険者の故意による事故招致となり、事故の偶然性が否定されるのです。これはいわゆる「認識ある過失」の問題――すなわち、「行為者が自身の行為が、違法又は有害な結果を招く可能性を予見しながら、その結果が発生しないと軽信し、行為に及んだ際に発生した過失」のこと――とも隣接するため、ここではこれ以上言及しません。

正当防衛での怪我

事故の偶然性を否定される場合でも、たとえば正当防衛で受傷したとか、緊急の救助行為で受傷した場合は保険金は支払われます。正当防衛で思い出したのですが、ぼくが扱った案件でこういうのがありました。

ある中学校の修学旅行での出来事。帰りのバスの中でA君とB君が喧嘩になり、そのため両君とも負傷した。喧嘩は傷害保険の免責事項の一つである「闘争行為」になるので、ふつうなら保険金は支払われません。ところがよくよく事情を聞いてみると、

B君がC君をいじめていた。そこへA君がいじめをやめさせるため仲裁にはいった。ところが、それに怒ったB君がA君を殴った。それでやむをえず反撃したということだったのです。ぼくはこの話感動しながら聞き入っちゃいました。えらい。よくやった。この場合は正当防衛が成立するのでA君の保険金は支払われると考えました。保険金が支払えないなんて口が裂けてもいえませんね。
 

【正当防衛の要件】

①他人の不法行為に対し
②自己または第三者の権利を防衛するため
③不法行為者または第三者に対する加害行為
(「民法Ⅱ」内田貴・P373より)

 

外来

最後の「外来」についてですが、これは疾病から区別するための要件であり、傷害発生の原因から結果にいたるまでの経過において、なんらかの外部要因が身体に及ぶことをいいます。ですから、腰痛の原因が不明とか、くしゃみしてなったというような場合だと「外来性」を満たしませんが、重い物を持って腰痛になった場合は外来性の要件を満たします。

このように、傷害保険というのは疾病は対象にならず、外傷がその対象です。そして、対象になるかどうかを判断するためのメルクマールが「偶然・外来・急激」の3つの要件です。その3つの要件をすべて満たす必要があります。

医学的他覚所見による裏付けのない症状について

いわゆる他覚的所見のない腰痛については傷害保険の免責事由になっている可能性があります。たとえば東京海上日動火災の傷害保険は「従来は、他覚症状のない「むちうち症」と「腰痛」のみを、保険金お支払いの対象外としておりましたが、今回の改定により、医学的に明確な判定ができない症状(医学的他覚所見による裏付けのない症状といいます。)については、「むちうち症」「腰痛」に限らず保険金お支払いの対象外といたします」となっていました。

「医学的他覚所見による裏付けのない症状」というのは、骨折したとか脱臼したときのようにそれが画像所見などで第三者でも確認できるのですが、それが確認できない症状、骨折や脱臼などがなく、つまりは本人が痛い・痛いと言っているだけで第三者には痛いことの確認ができない症状のことです。ぎっくり腰は他覚的所見のない腰痛に含まれる可能性が高いので、免責、つまり保険金を支払われないケースに該当する可能性があります。他社の傷害保険も同じような条項がはいっているように思われ、念のため約款の記載内容を確認してください。

自賠責で後遺障害認定されたむち打ち損傷や腰痛の扱いについて

自賠責で後遺障害認定されたむち打ち損傷や腰痛の、傷害保険での扱いについての内部資料を入手しましたので、たいへん参考になるかと思います。以下がその内容です。

(1)自賠責で第12級以上の等級に認定された場合
このような障害は、諸検査により医学的に証明されたものといえるので、傷害保険にいう「後遺障害」と認め、当該等級を読み替えることによりてん補率を算出する。ただし、経年性(老人性)、職業性等の障害は、事故と相当因果関係がないので、当然ながら除かれる。

(2)自賠責で第14級に認定された場合
自賠責第14級の「むち打ち症」、「腰痛」については永続残存性が認められないので、後遺障害保険金は支払わない。なお、その他の第14級9号の後遺障害で他覚所見のないものについても、永久残存見込みを充分考慮し、厳格に対処する。

 
【17・07・03追記】
「自賠責で後遺障害認定されたむち打ち損傷や腰痛の扱いについて」を追記した。
 

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知識とは中立なものであること

ここで注意してほしいのは、情報の正確さもさることながら、その情報(知識)そのものが中立なことです。

昔、東大卒が多い自民党が間違えるはずがないと豪語している自民党支持者に会ったことがあります。ぼくは苦笑するしかありませんでした。たしかに東大卒は勉強をいっぱいしているわけだから、その知識量も多くかつ正確だといえるかもしれません。ただ、知識それ自体はあくまで中立なものであり、どちらにも役に立つ武器なのです。したがって、その正確でたくさんの知識をどちらの側に使うかにある。わかりやすいたとえ話をしてみましょう。

知識は刀という武器と同じ

hitininnno
その昔、武士という職業が存在しました。この武士は帯刀を許された職業のことであり、刀の専門家です。殿様を頂点にして、殿様に雇用され、殿様を守るために武器である刀の技術を日夜みがいていた。

この武器である刀自体は殿様を守るためにも使えるし、農民に加勢して殿様に刃向かうためにも使えます。しかし、悲しいかな、現実は殿様を守るために使われた例が圧倒的に多く、農民に加勢するために使われた例など不幸にしてきわめて少なかった。ごく稀に後者のような武士が現れますが、こういう武士こそ庶民にとっての英雄であり、「七人の侍」はまさにそのようなタイプの武士たちでした。

利益が一致しているか相反しているかが重要

したがって、問題はその使い手自身にあります。使い手がどちらの側に立つかで知識もそれぞれの側の武器になる。そして、その使い手がどちらの側に立つかは双方の利益が一致するか相反するかでふつうは決まってきます。

この、肝心要のことを説明したサイトが皆無といっていいほどにみあたらないのは不思議なことです(というか、あえて否定しているサイトさえいくらでもみつかるくらいです)。

記事を読んでいただければたちどころにわかることですが、当事務所は「立場」を鮮明にしております。あえて鮮明にしているのは、人間や社会に対する見方は、その人自身の立場から自由にはならないからです。中立を装うことは考察を浅くし、論旨を不明確にする。「立場」のない「立場」などありようがない。当事務所の立場は、ぼく自身が社会的弱者であるため、弱者の立場に徹することです。ぼくのような弱虫は「七人の侍」のようには決してなれないけれど、せめてその心意気だけでも真似して、社会的強者に阿らないようにしたい。そういう気持ちで当サイトをたちあげました。よろしくです。

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