自転車事故の過失割合

自転車は「軽車両」だということの意味するもの

分類は、いうまでもなく、ある意図をもとにした体系化であるから、意図が変われば同じ対象についてまったく異なる体系・分類が可能である。たとえば人間を男と女というふうに二大別することもできるし、大人と子供というふうに二大別することもできる。分類自体は、ある意図をもった操作可能な、その意味できわめて恣意的なものである。

現代の日本では、自転車は「軽車両」である(道交法2条1項8号・11号)。「軽車両」なのだから、「歩行者」ではなくて、「車両」の範疇のひとつであり、要するにふつうの自動車の仲間というわけである。しかし、意図が変われば、自転車を歩行者の仲間とすることもできるし、歩行者でもなくて自動車でもなくて、まったく別のカテゴリーとして独立させることも可能である。自転車は軽車両なのだからなどと、あたかもそれこそが不動の真理でもあるかのように考えている人が多いので、最初に一言したまでだ。

自転車の交通法規

自転車は「軽車両」だが「自動車」ではないから、すべてが自動車と同じ扱いというわけではない。そのあたりのところをまずは整理しておきたい。自転車の交通規則にどういうものがあり、どれが自動車と共通し、どれが自転車独自のものなのか。そのあたりの確認から始めたい。
(以下の文章は、一両日中に全面的に書き直す予定である)

自転車道の通行義務

「普通自転車」(注1)は、「自転車道」(注2)が設けられている道路においては、自転車道を通行しなければならない(法63条の3)。

 

(注1)

「普通自転車」とは、図にあるような普通の自転車のこと。

(裕)の学科教室サイトより】
ここでは詳しくは立ち入らないが、たとえばこういうのは「普通」ではないということ。

 

(注2)

「自転車道」とは、たとえば下図のように縁石などで物理的に分離されているのが特徴である。すなわち、自転車道とは、自転車の通行の用に供するため縁石線またはさくその他これに類する工作物によって区画された車道の部分のことをいう(法2条)。

 
車道の「一部」なのだから、車道ではない歩道上の「普通自転車通行指定部分」(法63条の4の2項)は、道交法上の「自転車道」ではない。

【東京国道事務所HPより】
 
ほかに、「自動車道」と紛らわしいものが2つある。「自転車レーン」と「自転車ナビライン」である。

下図は、車道に色塗りして視覚的に分離してあるだけだが、これを「自転車レーン」(正式名:普通自転車専用通行帯)という。

自転車レーンは、道路標識等により、普通自転車が通行しなければならない車両通行帯を指定したもののことをいう(法20条に基づく道路標識による指定)。

 
物理的分離でないから、自転車レーン上を車が平気で駐車できてしまうのもその特徴である。
 
そして、自転車ナビライン。

東京国道事務所HPより】
 
自転車ナビラインは、交差点における自転車の安全な通行を促すとともに、自転車利用者等に自転車の通行動線を知らせる青色の矢羽根型法定外表示のことをいう。自転車ナビラインは法定外表示であり、道交法に規定された通行方法をしている限りは自転車ナビライン以外の部分を通行しても違反にはならないことに注意したい。

 
さらに、「自転車横断帯」がある。道交法2条1項4号の2で、「道路標識等により自転車の横断の用に供されるための場所であることが示されている道路の部分をいう」。自転車のための「横断歩道」だと思ってもらえばいい。ほかにも、金沢市にある「自転車走行指導帯」とかいうのがある。国土交通省の解説によれば「道路交通法上、自転車が通行すべき「車道の左側端」を路面表示等により明示した部分をいう」らしいが、道交法上の用語ではない。なんかこんがりそうで、ぼくも明確に区別できているわけではない(汗)。

普通自転車の歩道通行

普通自転車は、例外的に下記の場合には、歩道を通行できる(法63条の4Ⅰ)。

 

①道路標識等により歩道を通行するこができるとされているとき

②普通自動車の運転者が児童・幼児のほか、70歳以上の者・身体障害者など車道を通行することが危険であるとして政令で定める者の場合(道交令26条、道交規9条の2の2)。

③その他、車道又は交通の状況に照らして当該自転車の通行の安全を確保するため歩道を通行することがやむを得ないと認められるとき

 
これらの規定で特に問題になるのが第3項である。「歩道を通行することがやむを得ないと認められるとき」とは、どんなときか。「道路交通法解説16訂版」によれば、

道路工事や連続した駐車車両等のために車道の左側部分を通行することが困難な場所を通行する場合、著しく自動車等の交通量が多く、かつ、車道の幅が狭いなどのために、追越しをしようとする自動車等との接触事故の危険がある場合などが該当すると考えられるが、一時的に歩道を通行することがやむを得ないと、車道又は交通の状況に照らして客観的に認められることが必要である(P644)

 
としている。


 

歩道通行が許される自転車は、道路の右・左、いずれの歩道でも通行できる。

 

自転車が歩道を通行する場合、歩道の左側ではなく、歩道の中央から車道寄りの部分、あるいは道路標識等により自転車が通行すべき部分として指定された部分(普通自転車通行指定部分)がある場合にはその部分を通行しなければならない(法63条の4Ⅱ)。

 

東京国道事務所HPより】
 

歩道通行の場合の原則徐行義務、歩行者の通行を妨げることとなるときの一時停止義務がある(同上)。

 

横断・交差点の通行

自転車横断帯がある場合の、通行義務(法63条の6、63条の7Ⅰ)。

 

普通自転車の並進

普通自転車は、道路標識等により並進できるとされている車道では、他の自転車と並進できる。ただし、3台以上の並進不可(法63条の5)。

 

路側帯の通行

自転車は軽車両であるため車道を通行しなければならないが、道路の左側部分に設けられた自転車可の路側帯を通行できる(法17条の2Ⅰ)。

車道の左側端通行義務

自転車は車道の左側部分を通行しなければならない(法17条Ⅳ)が、車両通行帯(注1)の設けられた車道を通行する場合を除き、車道の左側端に寄って通行しなければならない(法18条)。

(注1)

【車両通行帯】


【サイクルプラス「あしたのプラットホーム」
より。解説も大変参考になる】

二段階右折義務

自転車は、右折をするとき、あらかじめその前からできる限り道路の左側端に寄り、かつ、交差点の側端に沿って、徐行しなければならない(法34条Ⅲ)。

自動車と同様の規制

□ 信号に従う義務(法7条)
□ 交差点通行の際の左方優先・広路優先(法36条)
□ 一時停止義務(法43条)
□ 制限速度(法22条Ⅰ)
□ 急ブレーキの禁止(法24条)
□ 車間距離の保持(法26条)
□ 進路変更の禁止(法26条の2)
□ 灯火、合図義務(法52、53条)
□ 酒気帯び、過労運転の禁止(法65、66条)
□ 事故の際の救護義務・事故報告義務(法72条)など

損害賠償の範囲と損害額の確定

自転車は、道交法上の「軽車両」ですが、自賠法の適用がないため、人身事故の場合の補償に欠けるところがあります。また、自転車は任意保険に加入していないことが多いため、自転車を加害者とする事故のばあい、資力に問題が生じやすい。

次に損害賠償の範囲ですが、これは基本的に自動車同士の事故と変わりません。すなわち、人身事故の場合でしたら、治療費・通院交通費・慰謝料・休業損害・後遺障害による逸失利益など請求できます。また、物損事故でも基本は同じです。部分損の場合の修理費とか、全損の場合の車両時価とかです。理論的には休車損の請求も可能です。

また、自転車との事故での過失相殺の適用もあります。最新の判例タイムズの過失相殺基準本では、対自転車との事故が新設されたり、改定されています。しかし、自転車同士の事故など新設をみあわせたものもあります。

相談

ホームズ事務所様、バイクと自転車の非接触事故(当方バイク)についてなのですが判例がどうしても見つからなかったので、おおよそで良いですので過失割合を教えて下さい。

場所は普通の交差点では無く立体交差転の手前の分かれ道です。(画像のURLを貼りますのでそちらも見て下さい)直進すると立体交差点の上に上って、左に車線変更すると立体交差点の下を通る道で私が左に車線変更した時の事故です。道は片道車線ですが大きな道路で車道の脇には歩道と自転車通行帯があります。

私が車線変更をしようとした時に立体交差点の上から降りてきた自転車に接触しそうになったため私はバランスを崩し転倒しました。自転車が下ってきた立体交差点には「自転車は右側通行をすること」という標識や看板があるのに自転車は左側通行をしていたので自転車はそもそもそこを走っていてはいけないはずでした。さらに私が転倒した道路上には自転車ナビライン(青い線で>>>>と道路に書かれている線で自転車の進行方向を指示している)があり自転車はそのナビラインを逆走してきました。

私は自転車が本来走ってはいけない道を本来走ってはいけない方向に走っていたのだから100%自転車が悪いと思っています。自動車と自転車の接触事故等の場合は自転車側が怪我をしている前提なので自動車側の過失割合が多く計算されていますが今回は怪我をしたのは私とバイクだけで自転車側は転等もせず無傷なので自転車側に有利な過失割合にされる理由もないと思います。

近日自転車側と過失割合について協議する予定ですが私は過失割合を何対何と主張するのが適切でしょうか?ご意見をお聞かせ下さい。

論点

自転車の右側通行は違法であり、自転車側の一方的過失である。

 

判例タイムズの過失相殺率基準本は、人身事故を想定したものであり、過失相殺率が負傷したいわゆる交通弱者側に甘く算定されている。今回は、交通弱者である自転車側ではなくて、バイク側が負傷しており、判タの基準本をそのまま援用はできないはず。

 
ご相談の論点はこの2つです。とりわけ、2番目の論点が難問でした。

判例タイムズ過失相殺基準本ではどうなっているのか

判例タイムズの基準本の第5章に、今回の事故当事者と同じ「自転車と四輪・単車との事故」があります。事故形態からいくと、その中の「対向方向の直進自転車と左折四輪車との事故」形態に一番近い。図【291】です。


 
この事故形態の基本過失割合と修正要素は以下のとおりです。

 基本自転車15:車85
修正要素夜間
自転車の著しい過失・重過失+5~10
自転車:児童等・高齢者-10
車:大回り左折・進入路鋭角-10
車:合図遅れ-5
車:合図なし-10
自転車の横断帯通行-10
自転車の横断歩道通行-5
車のその他の著しい過失・重過失-5~10

ただし、「近い」とはいっても相違点もあります。図は、車と自転車の事故ですが、本件はバイクと自転車であること、図では自転車は車道を走行していますが、本件は歩道を走行していることです。

まずは歩道走行の可否についてです。自転車は軽車両であるため、原則は車道走行です。しかし、本件は歩道走行であるため、そのことが過失割合に影響してくるかどうかです。道交法63条の4Ⅰ③の「「歩道を通行することがやむを得ないと認められるとき」、すなわち、このケースでは、「著しく自動車等の交通量が多く、かつ、車道の幅が狭いなどのために、追越しをしようとする自動車等との接触事故の危険がある場合」に該当するかどうかです。

そこで事故現場を改めて確認してみましょう。交通量はこのような基幹道路なら多いといえるでしょう。車道幅ですが、現場画像が1枚だけなので、google map その前後を調べてみました。やはり狭いです。狭いか広いかは相対概念なので主観的な判断になってしまいますが、車に接触されそうで、ぼくなら自転車で車道は通行したくない。危険を感じて歩道に逃れてもそのことで過失が問われるとは思えません。

参考のため車が他車を追い越す際の、外国の側方間隔の数値を上げておきます。日本にはこのような数値規制がないものの、参考になるはずです。また、山中以下の研究も参考のためにあげておきます。

参考

日本の法律では、車が他車を追い越すときの側方間隔の数値規定を設けていない。ちなみに、アメリカのアリゾナ、コロラドなど20州では、0.91m(最低3フィート)の規定がある。また、ペンシルバニアは1.22m(4フィート)である。他の州には数値規定なし。フランスでは、対自転車、対歩行者に対して車は、町中なら1mあけろ、町中以外なら1.5mあけろとなっている。

また、山中英生、半田佳孝、宮城祐貴 (2003)「ニアミス指標による自転車歩行者混合交通の評価法とサービスレベルの提案」によると、自転車が自転車に追い越される場合、心理的に危険を感じ始める側方間隔は1.5mという実験結果がある。

 

自転車が加害者の場合の過失割合

論点2にかかわる問題です。

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コメント

  1. ホームズ調査事務所さんの見解を待ってから交渉しようと思って待ってもらっているのですが、そろそろ見解を聞かせて頂けないでしょうか?

      • ホームズ事務所
      • 2017年 3月 05日

      すみません。その後、緊急を要する相談やぼく自身の深刻な問題も新たに抱えていたりして、遅れたままになっていた。気にはなっていたのですが、かなりの難問もあるため結論に迷いもありました。いずれにしろ、申し訳ない。現状でとりあえず書き上げます。しばらくお待ちを。

    • バイクと自転車の非接触事故について
    • 2017年 3月 25日

    写真のバイクと自転車の非接触事故について示談が成立しましたので報告いたします。
    自転車:バイク=45:55で決着しました。
    根拠は下記のHPより、自転車とバイクの接触事故はバイクが優先の道路であれば50:50とあります。
    http://wakuwaku-jitensha.com/wkj0000176-post/
    事故状況は自転車が複数のルールを破った状態であるので正常な運転をしているバイクのほうが悪質な運転をしている自転車よりも優先だったとみなして50:50
    道路が雨で濡れていたのでバイクはもっと注意すべきだったとみなして5%減算して45:55となりました。
    ご協力ありがとうございました。

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当事務所の立場

突然、交通事故にあわれた被害者は、怪我をされたり、車を破損などされたりして大変なことです。その損害の賠償をしてもらうために、これから、加害者そして加害者側の損保担当者を相手に示談交渉を進めなければならなくなります。しかし、交通事故は人生でそう何度も経験するわけではありません。なにをどのようにしたらいいのか途方に暮れてしまうのがふつうです。

ところが、事故被害者がまず相手にするのが加害者であり、そして、実際は加害者側損保の担当者です。損保の担当者はそのことで生計を立てているいわばプロであり、百戦錬磨で鍛えた知識と経験があります。かたや、知識も経験もほとんどない事故被害者。そんな素人がプロ相手にどのように交渉していったらいいのでしょうか。

交通事故に詳しい弁護士が知人にいるような幸運な方は別にして、たいていの方は途方に暮れてしまうことでしょう。一昔前は、素人とプロの交渉ごとということにふつうはなって、プロの思い描くストーリーどおりに押し切られるのがふつうでした。しかし、ネットが発達した現在、示談交渉を進める上での情報がネットを検索すればあふれかえっています。が、その情報は正しいものもあれば正しくないものもある。玉石混淆です。それらの情報に接した事故被害者にとって、どの情報が正しくて信頼できるのかがまずわかりづらいし、自分だけでは手に負えなくて、調査や交渉ごとをだれかに任せることも時に必要になってきます。が、ネット上には、われこそは事故被害者のためだと謳っているものばかりなので、実際にいったいだれを信頼したらいいのかわかりません。

知識とは中立なものであること

ここで注意してほしいのは、情報の正確さもさることながら、その情報(知識)そのものが中立なことです。

昔、東大卒が多い自民党が間違えるはずがないと豪語している自民党支持者に会ったことがあります。ぼくは苦笑するしかありませんでした。たしかに東大卒は勉強をいっぱいしているわけだから、その知識量も多くかつ正確だといえるかもしれません。ただ、知識それ自体はあくまで中立なものであり、どちらにも役に立つ武器なのです。したがって、その正確でたくさんの知識をどちらの側に使うかにある。わかりやすいたとえ話をしてみましょう。

知識は刀という武器と同じ

hitininnno
その昔、武士という職業が存在しました。この武士は帯刀を許された職業のことであり、刀の専門家です。殿様を頂点にして、殿様に雇用され、殿様を守るために武器である刀の技術を日夜みがいていた。

この武器である刀自体は殿様を守るためにも使えるし、農民に加勢して殿様に刃向かうためにも使えます。しかし、悲しいかな、現実は殿様を守るために使われた例が圧倒的に多く、農民に加勢するために使われた例など不幸にしてきわめて少なかった。ごく稀に後者のような武士が現れますが、こういう武士こそ庶民にとっての英雄であり、「七人の侍」はまさにそのようなタイプの武士たちでした。

利益が一致しているか相反しているかが重要

したがって、問題はその使い手自身にあります。使い手がどちらの側に立つかで知識もそれぞれの側の武器になる。そして、その使い手がどちらの側に立つかは双方の利益が一致するか相反するかでふつうは決まってきます。

この、肝心要のことを説明したサイトが皆無といっていいほどにみあたらないのは不思議なことです(というか、あえて否定しているサイトさえいくらでもみつかるくらいです)。

記事を読んでいただければたちどころにわかることですが、当事務所は「立場」を鮮明にしております。あえて鮮明にしているのは、人間や社会に対する見方は、その人自身の立場から自由にはならないからです。中立を装うことは考察を浅くし、論旨を不明確にする。「立場」のない「立場」などありようがない。当事務所の立場は、ぼく自身が社会的弱者であるため、弱者の立場に徹することです。ぼくのような弱虫は「七人の侍」のようには決してなれないけれど、せめてその心意気だけでも真似して、社会的強者に阿らないようにしたい。そういう気持ちで当サイトをたちあげました。よろしくです。

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