休車損を請求する運送会社の方へ。どちらに重い立証責任があるのかを忘れていないか

損保の提示額を蹴るのはかんたんだが・・・

休車損害について損保の提示額が不満な方はたくさんおられると思う。そのため、弊サイトにも多くの運送会社などが訪問してくる。中には、損保会社が弊サイトの記事をコピーしていくこともある。損保の担当者も休車損を苦手にしている方が非常に多いからである。ネット上、弁護士をさしおいて、休車損でもっとも多くの情報を提供しているのが弊サイトだからである。

ところで、休車損において損保と示談交渉をする際に気をつけなければいけないのは、損保の提示額に不満があっても、それを蹴るのは相当のリスクを覚悟しなければいけないことである。最悪の場合は弁護士対応になり、休車損害が発生したこと自体を争点にしてくる可能性が高いからである。仮に休車損害が発生していないということになると、損保の低めの提示額どころか、ビタ1円も支払われないというリスクを背負うことになるからである。

損保は休車損害が発生しているかどうか不明な場合でも、その点を不問にして、たとえばトン当たり2000円くらいで賠償額を提示してくることがよくある。損保もできるなら早期の示談をしたいためである。しかし、トン当たり2000円ていどの提示では実態にあわず不満だろう。そのため、それを蹴り、交渉が決裂することがある。そして、示談中の提示は一切なかったことにされるだけでなく、休車損そのものがなかったと損保は主張してくることになる。

立証責任は運送会社の側にある

その場合、提示額に不満で裁判なり紛争処理センターなりで争うことになったとしよう。休車損が発生したことや、その損害額がどれくらいになるのかは運送会社がすべて立証しなければならない。立証できなければ、休車損不発生のリスクという重い負担を強いられるのだ。問題はその覚悟があるかどうかなのだ。

多くの運送会社の担当者とお会いしたが、その覚悟が足りない方が非常に多かったようにぼくには思えた。立証は損保が勝手にやってくれるものと勘違いさえしている方さえおられた。何度でも強調したいのだが、運送会社のほうに立証責任があるのだ。立証することのメンドーを回避したいのなら、少々不満でも損保提示額で示談するというのもやむをえない選択のひとつだとぼくは思う。

その覚悟ができているかどうかだ

いや、そういうリスクや立証の負担は覚悟の上だ。休車損は発生していると確信し、損害額も損保の提示額ではとても足りないと考えるなら、そのときは大いに争うべきだろう。

遊休車についての立証責任

問題はそういう事態になったときに、事前にどこまで立証書面等の準備ができているかである。ひとつ例をあげよう。遊休車があると休車損が発生しないとされている。そして、遊休車が存在しないことの立証は運送会社など被害者側に課される。

最初に、遊休車が存在することによって休車損を否定した判例を紹介する。この判例が裁判所の大勢であることは、最近、東京地裁交通部が主体になって出された「交通関係訴訟の実務」という本でも確認できる。遊休車の存在の有無は、休車損が認められるかどうかの第一関門なのである。
 

大阪地裁 平成21年2月24日判決
事故によって、特定の営業用車両を使用することができない状態になった場合にも、遊休車等が存在し、現に、これを活用して営業収益を上げることが可能な場合には、被害者においても、信義則上、損害の拡大を防止すべき義務がある。したがって、遊休車等が存在し、これを活用することによって、事故車両を運行していれば得られるであろう利益を確保できた場合には、原則として、上記利益分については、休車損害として賠償を求めることはできないというべきである。そして、遊休車の存在については、加害者側において立証することは事実上不可能であるから、これが存在しなかったことについての立証責任は、被害者(原告)が負担すると解するのが相当である。
(19台の事業用自動車を保有、ドライバー数は16。事故前年の4月1日~翌年3月31日までの延実在車両数は6935台、延実働車両数は4636台。実働率は4636/6935=0.668。)

 

車両を使用して事業を営む者は、同種車両を複数保有していることが少なくないから、そのうちの1台が交通事故により損傷を受けて使用できなくなったとしても、
他の車両に代えることで休車損を回避し得る可能性がある。もっとも、他の車両が常時稼動している場合にはこれに代えることはできないから、他の車両が常時稼動しているか否か、すなわち遊休車が存在するか否かを確認する必要がある。

裁判例の中には、遊休車の有無にかかわらず休車損を肯定するものもあるが、被害者にも、信義則上、損害の拡大を防止する義務があるところ、被害者が遊休車を保有している場合は、これを活用することによって休車損の発生を回避することができるのであり、それにもかかわらず被害者が遊休車を活用しなかったとすれば、そのために発生した休車損は事故との間の相当因果関係のある損害とはいえない(P439-440)

 
他方、遊休車が存在するにもかかわらず休車損が発生するとした判例もご紹介したい。しかし、きわめて少数的例外である。
 

横浜地裁平成20年12月4日判決
被告は、休車期間中に遊休車の存在がなかったことを立証する必要があると主張するが、遊休車が多数存在し、容易にやりくりをして損害発生を妨げる場合でなければ、被害者である原告に必ずしも、遊休車を使用して損害発生を防止すべき義務はない。そして、原告が、本件事故当時、原告車両を含め7台を保有していたが代替車両はなかったと主張しており、原告が、原告車両に代わる新車を購入することもできないでいる状態からすると、遊休車を利用して、容易に配車をし、業務に支障がでないようにできる状態とは認められない(弁論の全趣旨)。したがって、原告には、上記休車損害を認めることができる。

 

当方の考え

どちらがより実際面を直視し、より説得的だといえるだろうか。ぼくは後者の判例に賛意を表したい。

遊休車の存在の有無の立証責任は運送会社側に課され、被害者に課されないのは、その立証のための資料が運送会社側に独占されているのだから当然である。「遊休車が多数存在し、容易にやりくりをして損害発生を妨げる場合」があるのだから、運送会社側にそうでないことの立証責任を課されるのは当然なことである。

ただし、遊休車があるからといってそのやりくりで容易に損害を防止できるかといったら実際面で相当に困難がことがよくある。机上ではやりくりがかんたんそうに思えても、休車損の調査を実際にやった者にはわかることなのだが、机上のようにはいかず実際は困難なことがよくあるのだ。

そのあたりのこともふくめていかにして立証していくか、どのような事前の準備が必要なのかをよく検討することだとぼくは思う。大手もふくめてその準備がぜんぜんできていないのではないかと、休車損の調査をやっていて、よく思ったものだ。
 

コメント

  1. おめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

    遊休車の存在証明について、判例も被害者が負担することを認めています。
    「被告らから原告に対し、『貨物自動車運送事業実績報告書』等を提出するよう要請があり、当裁判所からも原告にその提出を促した。(中略)しかし、原告は再三にわたる同報告書の提出要請にも応じないし、他の適切な証拠により、代替車両が存在しなかった事実又はこれを使用し得なかった事実を立証することもしない。したがって、本件においては、そもそも原告に休車損害が発生した事実自体の立証がないから、損害について検討するまでもなく、休車損害に関する原告の主張は理由がない」(東京地判H14・5・28 赤い本2004年 休車損の要件及び算定方法p428より)

    被害者の財布の中まで加害者にわからないってことなんでしょうか?

      • ホームズ事務所
      • 2017年 1月 07日

      luckyさん、いつもコメントありがとうございます。今年もよろしくお願いいたします。

      >被害者の財布の中まで加害者にわからないってことなんでしょうか?

      そうですね。とくに遊休車の存在とか、車が休んだことによる損害額とかになると、加害者には立証のすべがありません。なんでもかんでも被害者が立証しろとは思いませんし、立証責任の転換が必要な場合もあると思います。しかし、この場合はそのような必要性も感じません。

      最近読んだ本の中に、その立証責任の転換を強く思ったものがありました。いわゆる欠陥車問題。欠陥車であることが強く疑われる事実が認められたら、メーカーが欠陥でないことを証明すべきです。だが、ユーザー側に欠陥であることの科学的証明まで要求したのがユーザーユニオン事件の第一審裁判所の態度でした。こんな証明、普通の人にできるわけないでしょ。これを言い出すと、企業の作り出す商品に文句もいえなくなる。

      ところで、 luckyさんは赤本の別冊からの引用が多いのですが、どうすれば見ることができるのですか。図書館に頼めばできるでしょうか。それとも赤本を持っているのですか。ぼくは赤本一冊も持っていないです。相談案件の中に、相手側の赤本別冊からの引用もあるため、ちょっと気になりました。

  2. 赤い本は以前ヤフオクで購入しました。
    日本の古本屋の検索でもたまに見つかります。

    休車損害の版は図書館で探してもらいました。
    難しいですが、読み応えあります。

      • ホームズ事務所
      • 2017年 1月 11日

      教えていただきありがとうございます。

      さっそく日本の古本屋で検索をかけたらありました。ただ、最近のものはすべて5000円もしました。定価3000円のものがです。高いよ。回収の可能性がゼロのぼくにとってこの値段はありえない。

      ということで、発行元の東京の弁護士会館にさっき電話したところです。2016年版がほしかったので確認したら在庫あり、2015年度版もあるそうです。17年度版も2月になると発行されるそうです。

      全部購入すると
      3000円×3
      +郵送料(700円)

      講演録だけほしいからをそこだけ注文というわけにもいかないし。全部まとめて買おうか、どうしよう。でも、今必要な16年度版が2月まで遅れることになるし・・・

      弁護士でない正体不明のぼくは料金先払いだった(泣)。

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当事務所の立場

突然、交通事故にあわれた被害者は、怪我をされたり、車を破損などされたりして大変なことです。その損害の賠償をしてもらうために、これから、加害者そして加害者側の損保担当者を相手に示談交渉を進めなければならなくなります。しかし、交通事故は人生でそう何度も経験するわけではありません。なにをどのようにしたらいいのか途方に暮れてしまうのがふつうです。

ところが、事故被害者がまず相手にするのが加害者であり、そして、実際は加害者側損保の担当者です。損保の担当者はそのことで生計を立てているいわばプロであり、百戦錬磨で鍛えた知識と経験があります。かたや、知識も経験もほとんどない事故被害者。そんな素人がプロ相手にどのように交渉していったらいいのでしょうか。

交通事故に詳しい弁護士が知人にいるような幸運な方は別にして、たいていの方は途方に暮れてしまうことでしょう。一昔前は、素人とプロの交渉ごとということにふつうはなって、プロの思い描くストーリーどおりに押し切られるのがふつうでした。しかし、ネットが発達した現在、示談交渉を進める上での情報がネットを検索すればあふれかえっています。が、その情報は正しいものもあれば正しくないものもある。玉石混淆です。それらの情報に接した事故被害者にとって、どの情報が正しくて信頼できるのかがまずわかりづらいし、自分だけでは手に負えなくて、調査や交渉ごとをだれかに任せることも時に必要になってきます。が、ネット上には、われこそは事故被害者のためだと謳っているものばかりなので、実際にいったいだれを信頼したらいいのかわかりません。

知識とは中立なものであること

ここで注意してほしいのは、情報の正確さもさることながら、その情報(知識)そのものが中立なことです。

昔、東大卒が多い自民党が間違えるはずがないと豪語している自民党支持者に会ったことがあります。ぼくは苦笑するしかありませんでした。たしかに東大卒は勉強をいっぱいしているわけだから、その知識量も多くかつ正確だといえるかもしれません。ただ、知識それ自体はあくまで中立なものであり、どちらにも役に立つ武器なのです。したがって、その正確でたくさんの知識をどちらの側に使うかにある。わかりやすいたとえ話をしてみましょう。

知識は刀という武器と同じ

hitininnno
その昔、武士という職業が存在しました。この武士は帯刀を許された職業のことであり、刀の専門家です。殿様を頂点にして、殿様に雇用され、殿様を守るために武器である刀の技術を日夜みがいていた。

この武器である刀自体は殿様を守るためにも使えるし、農民に加勢して殿様に刃向かうためにも使えます。しかし、悲しいかな、現実は殿様を守るために使われた例が圧倒的に多く、農民に加勢するために使われた例など不幸にしてきわめて少なかった。ごく稀に後者のような武士が現れますが、こういう武士こそ庶民にとっての英雄であり、「七人の侍」はまさにそのようなタイプの武士たちでした。

利益が一致しているか相反しているかが重要

したがって、問題はその使い手自身にあります。使い手がどちらの側に立つかで知識もそれぞれの側の武器になる。そして、その使い手がどちらの側に立つかは双方の利益が一致するか相反するかでふつうは決まってきます。

この、肝心要のことを説明したサイトが皆無といっていいほどにみあたらないのは不思議なことです(というか、あえて否定しているサイトさえいくらでもみつかるくらいです)。

記事を読んでいただければたちどころにわかることですが、当事務所は「立場」を鮮明にしております。あえて鮮明にしているのは、人間や社会に対する見方は、その人自身の立場から自由にはならないからです。中立を装うことは考察を浅くし、論旨を不明確にする。「立場」のない「立場」などありようがない。当事務所の立場は、ぼく自身が社会的弱者であるため、弱者の立場に徹することです。ぼくのような弱虫は「七人の侍」のようには決してなれないけれど、せめてその心意気だけでも真似して、社会的強者に阿らないようにしたい。そういう気持ちで当サイトをたちあげました。よろしくです。

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