逆突とは

追突か逆突か。わかるようでいて、その見分け方の着眼点をしらなければわかりません。保険調査員としてこの種の調査を何度かやったことがあり、そのときにチェックしたことをここに公開したいと思います。

ドライブレコーダーをつけておけばよいと今さら言われても

追突か逆突か。

Aさんいわく。車を停めていたら、うしろからB車に追突された。Bさんいわく、いや違う。こちらが停止していたら、前にいたA車がバックしてきて、逆突された。どっちが本当なのでしょうか。

こんな調査を私は何度かやったことがあります。事故状況はこのように両者まったく正反対なのだから、両者の主張をどれほど仔細に聞いてみてもいつまでいっても平行線です。

こういう場合、どちらの主張が正しいのかが分かる方法はないのでしょうか。その見分け方がネットに載っていないか調べてみましたら、そういうときに備えてドライブレコーダーを設置しておくべしとアドバイスしているサイトがふつうです。

最初からドライブレコーダーを設置していたらそもそも追突か逆突かで紛糾しないわけだから、こういうのって、ただの余計なお世話じゃないかと思いましたね。ドライブレコーダーがあればそもそも最初から問題にならなかったわけだし、なかったから今回問題になっているわけだから、追突か逆突かで現に困っている人に対しては有効なアドバイスにぜんぜんならないでしょう。

精査して解決したとも書いてあるサイトもありましたが、どんなふうに精査したのか、そこがいちばん知りたいんですよね。ところが、肝心要のそのことが何も書かれていない。別に、伏せるほどのノウハウでもないと思うのです。

技術アジャスターの話だと、追突か逆突かは消去法をとるらしい

追突事故か逆突事故かの判断は、一般的にいって難しい。こうしたばあい技術アジャスターはどのようにして判断しているのでしょうか。

私はこの調査にとりかかる前に、ちょっとそのことに詳しい知り合いに聞いてみたことがあります。そしたら、追突なのか逆突なのか、どちらかの可能性を否定する、いわゆる消去法をとるのだと教えてくれました。

なるほどね。さすが、餅は餅屋だ。すなわち、逆突されたと主張したい側は、自車の追突の可能性を否定することで、相手側の逆突を逆に証明するというやり方です。

追突されたと主張したい側は、自車の逆突の可能性を否定することで、相手側の追突を証明するということになります。

これなら、立証責任の負担が軽くなりそうですね。

追突か逆突かの具体的着眼点

具体的着眼点は、ブレーキ痕やノーズダイブ(注1)からくる衝突位置以外に、ガラス破損の落下位置とかラジエータコアのかじり傷の有無(注2)、ステアリング・ハンドルの曲がり、運転者の負傷部位なども参考にしろということでした。

この着眼点で追突か逆突かがわかったことがあったけれど、ある種の条件下でないとこの手の着眼点は有効ではありません。すなわち、これらは比較的大きな事故についていえることだからです。

注1)

ノーズダイブ
急ブレーキを踏むと、車の重心はサスペンションばねより高い位置にあるので、車体は慣性のために前方へピッチング回転し、フロントサスペンションは縮み、リヤサスペンションは伸びて、過渡的に前かがみの状態になる。このことをノーズダイブnose diveという。

 

(注2)

ラジエータコア内のかじり傷
車は、機構上、作動中に動く部分と、固定静止している部分がある。作動中に衝突したときと、静止中に衝突したときとでは、破損状況が異なることになる。

たとえば、ラジエータ・コアとクーリング・ファンとの関係では、エンジンが作動中にはファンが回っており、衝突によって、その両者が接触すれば、ファンの回転によって円形のかじり傷が生じる。その反対に、エンジンが作動していないときは、ファン・ボスによる損傷となる。

最近の車は金属製のファンではなく、プラスチック製なので、ラジエータ・コアにはあまり鮮明な円形の痕跡を残さないが、このような場合でも、ファンの縁にガサガサしたささくれが認められる。また、サーモ・カップリング(スリップ・ファン)では、かじり傷がほとんど付かないことにも注意されたし。

なお、ここまでの記述はやや古い資料をもとに書いている。たとえばラジエータ・コアはかつては金属製だったが現在はアルミ製なので、その点の修正が必要である。要は、作動中に動く部分と、固定静止している部分があるから、そこに目をつけろということだ。

軽微事故ではその判断もむずかしい

軽微な事故の場合、追突事故の場合に生じる運転者がハンドルにぶつかることによって生じるステアリング・ハンドルの曲がりや運転者の負傷部位というのは起こり得ないですし、ラジエータコア内のかじり傷についても、かなりの衝撃が加わった事故でないとラジエータにまで被害が波及しません。

ファンのかじり痕が残っているかどうかでその車のエンジンがかかっていたかどうかを証明するのですが、たとえば信号待ちの停止中の事故だったら、一時停止するごとにエンジンを切るようなことはやらないわけだから、この場合も参考になりません。ノーズダイブだって、急制動していないと起きないですし。

破損状況で逆突であったことがわかることあり

このように条件に左右されないやり方、左右されないといってしまうと言い過ぎになるので、左右されにくいやり方があります。

損保の技術アジャスターの研修機関である自研センターというところで、この追突か逆突かを、車の破損状況から見分ける方法について講師の先生が解説してくださいました。

講師が例に出した事例についてはそのときは理解できたつもりですが、応用がきかないというか、その後場数を踏んでいないため、追突か逆突かの調査依頼があったときにどこまで自分にできるのか、その自信がありません。

テキストがあるので、車の修理の専門家に相談しながらなら、私でもなんとか対応できるかもしれませんが、正直にいうと、やはり経験不足からくる不安・自信のなさは避けようがありません。この道の専門家にかかると、車の破損状況を一目見るだけでわかるときもあるらしい。

たとえば、下の画像は追突か逆突かで争いがあった事案の一方の車の後部写真です。この損傷をみて、追突によるものか逆突によるものかどちらでしょうか。

ヒントだけ書いておきますが、先ほど「作動中に動く部分と、固定静止している部分があるから、そこに目をつけろ」と書きました。「作動中に動く部分」でだれもがすぐに思い浮かべるのがタイヤですが、この損傷は相手車のタイヤが回転している時にできたものか、そうでないかで、相手車が停止中だったか作動中だったかが一目瞭然にわかる画像です。

以上、技術アジャスターのお話でした。

駐車場における逆突(バック)事故について

駐車場内での逆突事故、すなわち後方に停止していた車への後退(バック)事故が一番多い。人身でないため実況見分調書が作成されておらず、あるのはかんたんな事故報告書だけというのが一番多く、紛糾しやすいし、調査しても結論が出ないことも決して少なくありません。軽微物損事故というのがその典型です。

そのような事故で気を付けるべき点についてはこちらで詳しく書いたので、ぜひ見ていただきたい。
簡裁交通事故訴訟。物損事故は立証が大変だ 駐車場内の交通事故の過失割合と判例

餅は餅屋、追突か逆突かの調査は専門家に

ノウハウの一部についてご紹介しました。が、しょせんは机上のこと、経験のない人が私のこの1文を読んで実際にできるかといったら、たぶん無理だろうと私は思います。その結果、追突か逆突かでかえって紛糾して、けっきょくは痛みわけの判断をされてしまうにちがいありません。

餅は餅屋。何事においても、それぞれの専門家にまかせるのが一番です。調査なら調査経験の豊富な人にと私は思うのですが、まだまだこのことの重要性が認知されておらず、調査員の地位はきわめて低い。それで、事故被害者はものすごく損をしていると思いますね。

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