自動車ドア事故と過失割合

自動車のドア事故が典型事故に格上げされた

駐停車中の自動車のドアを開けた際に、開けたドアが後方から来た自動二輪車や原付自転車、自転車と衝突する事故が絶えない。判例タイムズの過失相殺率認定基準本にはかつては取り上げていなかったが、最新版では取り上げられるようになり、典型事故のひとつに格上げされた。下図がそうである。 


 

 
ドア事故は側面からのも、前方からのもあるけれど、ほとんどが道路左に駐停車していた車の右ドアあるいは左ドアを開けた際に、後続から進行してきた自動二輪車や原付自転車、自転車と衝突する事故である。

ドア開放事故の原因

ドア開放事故の直接の原因は、駐停車車両側の後方の安全確認が不足していたことと後続バイク・自転車の前方にたいする注視がおろそかだったことに求められることが多い。たとえば「寄与率と非典型過失割合」(P299-300)という本には、事故両当事者に以下の注意義務が課されているとする。

道路交通法71条4の3号により、運転者がみずからドアを開いた場合には後方確認義務、同乗者がドアを開いた場合には、同乗者がドアを開くことによって交通の危険を生じさせないようにする義務がある。同乗者がドアを開けるについて、運転者は、注意してドアを開けるように口頭で注意を促しただけでは足りないとされている(最高裁 平成5年10月12日判決)から、運転者が直接後方を確認し安全を確かめたうえで下車させる必要があるということになろう。

 

後続二輪車の過失について検討すると、基本的には前方を注意し、停車車両から人が降車することは予見できるから、ドアが開いても衝突しないように駐停車車両から距離をおいて脇を進行するか、ドアが開いても停止できるように徐行しながら進行するなどの安全運転義務があると考えられる。

ところが、渋滞中、車両のドアが突然開いたというケースもあり、後続の二輪車にとっての予見可能性の程度も必ずしも同じとはいえない。さらに、昨今の道路事情では、交通渋滞は避けられず、二輪車が渋滞する四輪車の列の間を驀進したり、渋滞車両間を縫うように走るケースもあり、このような走行の危険性をどう過失割合に反映させるかも問題となる。

 

 
しかし、ブックマークしている「ろぜつ」さんの記事では、ドアゾーンを考慮していない道路作りにそもそもの問題の根があるという指摘もある。 


自転車レーンの配置とドア衝突リスク
 
全ては文脈——自転車インフラの適否の判断

対バイクとの事故の過失割合

 基本バイク10:車90
修正要素夜間-5
車:ハザード等合図なし-5
車:直前ドア開放-10
車:ドア開放を予測させる事情あり+10
バイク:15キロ以上の速度違反+10
バイク:30キロ以上の速度違反+20
バイク:その他の著しい過失・重過失+10~20

対自転車との事故の過失割合については、上の過失割相殺率表を参考にして、「自転車側の過失相殺率を適宜減算して適用すれば足りると考えられる」(「過失相殺率基準本・P385)としている。しかし、上表だけでは解決がつかないものや、対自転車の「適宜減算して」というのはわかりづらい。以下にそのあたりの不明点を解決するために参考になりそうな判例をご紹介したい。

ドア開放事故の裁判例

東京地裁 昭和43年6月20日判決
片側3車線の道路が渋滞していたため、第1車線で歩道から1.5mくらい離れてタクシーYが停止し、歩道と第1車線の渋滞の列の間を自動二輪車Xが走行していたところ、乗客が突然左側ドアをあけXと衝突した事故。裁判所は、目的地近くまで来て一寸刻みで進行するような渋滞にあい、しかも第1車線に停止中であったから、乗客が業を煮やして下車を試みることはタクシー運転者として予見できたとし、運転者と乗客とに719条の不法行為が成立するとし、全損害について賠償責任があるとした。他方、後続の自動二輪Xについては、ドアが開くことを予見することは不可能であったとして、過失相殺を否定した。

 

名古屋地裁豊橋支部 昭和48年5月25日判決
自動二輪車(被害者)が前方の停止車両のドアが開いているのに気づかず、それに接触して転倒し、折から追い越しのため並進状態にあった加害車に轢過された事故。追い越し前に、加害車はクラクションを鳴らしていた。前方注視を怠った被害者に30%の過失相殺を認めた。

 

大阪地裁 昭和49年3月7日判決
原付自転車(被害者)が駐車中の自動車の右側50センチの近距離を通過しようとした際、開けられたドアに接触して転倒し、死亡した事故。幅員8.3メートルの道路。加害自動車は左端から1.3メートル開けて駐車していた。被害者に80%の過失相殺を認めた。

 

東京地裁 昭和50年10月16日判決
片側車線約4.5mの歩道のある交通の頻繁な市街地道路で、歩道まで1.5mの余裕を残して渋滞のためY車(四輪)が停止したところ、同乗者が後方の安全を確認することなく左ドアを開けた。Xバイクは、Yの後方1mくらいでYが停止したのでその横を時速10キロくらいで左側を通り抜けようとしたところ、左ドアが開いて急ブレーキをかけたが間にあわずドアに接触転倒した。

Yとしては、同乗者の降車の意思が了知された場合には交通の安全を確認しないで漫然とドアを開けることのないように注意し、漫然とドアを開けようとした場合にはこれを制止する義務があるところ、同乗者が降車の意思を示したのに、いきなりドアを開閉するのを制止しなかった過失があるとし、運転者に民法709条、所有者に自賠法3条の責任を認めた。

Xについては、進路を変更することなく、他の車両を追抜いていくのは何ら違法ではなく、Yの停車方法は同乗者を降車させるための停車とは受け取りがたく、ドア開放を発見してからは接触を回避することは不可能であったから、Xには過失がない。

 

京都地裁 昭和56年4月15日判決
踏切手前で停車して、乗客を降ろすため加害車(普通乗用車)の左後部ドアを開けたところ、同車と左側のガードレールとの間に1m前後の部分を時速約20キロの速度で同方向に進行してきた被害者(自動二輪車)がドアに衝突した事故。前方の安全の確認を怠った被害者に10%の過失相殺を認めた。

 

広島地裁 昭和57年7月7日判決
道路左側に停止中の加害車(普通乗用車)が運転席ドアを開けたとたん、右後方から走行して来た原付自動車がドアに衝突した事故。停止中の加害車の近くを通過するに際し、加害車の動静に注視して安全な走行方法と速度をとらなかった被害者に、20%の過失相殺を認めた。なお、事故現場は見通しのよい直線路で片側1車線中の4.2m幅車線で発生。被害者原付の速度は時速30キロ。

 

岡山地裁 昭和60年10月15日判決
被害者搭乗の原付自転車が折から前方に停車中の普通貨物自動車が右ドアを開いていたところ、そこに衝突し、被害者が受傷した事故。被害者にも停止車両の側方を通過する際、前方注視を怠った過失があるとして、70%の過失相殺を認めた。

 

東京地裁 昭和61年6月24日判決
夜間、車道幅員11mの道路上で加害車(普通乗用車)運転者が加害車を道路左側の路側帯に停車させて運転席右側ドアを開いたところ、後方から進行してきた被害者(原付自転車)が右ドアに接触して、被害者を転倒させた事故。加害車運転者に後方の安全を十分に確認しないまま運転席右側ドアを急に開放した過失を認めた。他方、加害車の動静を注視するとともに、加害車との間隔を十分にあけて走行すべき注意義務を怠った被害者に20%の過失相殺を認めた。

 

神戸地裁 平成3年3月26日判決
幅員5.2mの道路に、歩道まで2mの余裕を残しタクシーYが信号待ちで停止していたところ、乗客が下車を求めたので、運転者が左後部ドアをあけた。バイクXは、タクシーの後を追従していたが、タクシーと歩道の間が空いていたので、タクシーの左後部に接近したところ、左側ドアが開き、ドア先端とバイク右側ハンドルが衝突し転倒した事故。Xにも、信号待ちで停車しているタクシーの左側の狭い部分を通ろうとしたのであるから前方の安全を確認し、できるだけ左側に寄って進行すべきであったとして、10%の過失相殺を認めた。

 

東京高裁 平成5年1月25日判決
渋滞中の首都高速3号線(制限速度時速50キロ)の渋滞中の第1車線で軽い追突事故を起こしYが降車しようとして後方を確認することなく右ドアをあけたところ、渋滞車両の間を走行していたXのハンドル左側、左胸部にドア先端を接触させ、第2車線走行中の車両と衝突させた事故。

第1車線、第2車線はいずれも渋滞中でその間隔は2.2mしかなかったのに、Xは、渋滞中の車両間をいわば抜け駆けするように走行するのだから、できる限り安全な速度で走行すべきであったのに、時速40キロで走行したため被害が大きくなったとして、25%の過失相殺をした。

 

広島高裁 平成5年8月31日判決
原付専用レーンに停止したYがルームミラーで後方を確認し停止数秒後に運転席右側ドアを40センチ開いたところ、その右側を通過しようとした原付バイクXがドア先端部分に衝突、右斜め前方に跳ね飛ばされ、付近を走行していた車両の左後輪に激突し、死亡した事故。

Xは、停止直後に突然ドアを開けられたもので前方を注意していても衝突を避けることができたとは言いがたく、加害者のすぐ横を通過したこともYの過失が重大であったことに鑑みると損害を算定するにあたって斟酌するべきXの過失とするのは相当ではない。

 

バイク、自転車の速度との関係

なお、バイクや自転車の速度が問題になることがある。その場合の参考として以下の資料を添付した。「駐停車中のドア開き事故」(交通事故総合分析センターより)。




 
【17・06・06】判例を5つ追加した。
 

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

CAPTCHA


事務所所在地・連絡先

ホームズ調査事務所:
石川県加賀市
電話番号:090-1314-0234

電話・メールをされる前に、「お問い合わせ」欄を読んでくださいね。

当事務所の立場

突然、交通事故にあわれた被害者は、怪我をされたり、車を破損などされたりして大変なことです。その損害の賠償をしてもらうために、これから、加害者そして加害者側の損保担当者を相手に示談交渉を進めなければならなくなります。しかし、交通事故は人生でそう何度も経験するわけではありません。なにをどのようにしたらいいのか途方に暮れてしまうのがふつうです。

ところが、事故被害者がまず相手にするのが加害者であり、そして、実際は加害者側損保の担当者です。損保の担当者はそのことで生計を立てているいわばプロであり、百戦錬磨で鍛えた知識と経験があります。かたや、知識も経験もほとんどない事故被害者。そんな素人がプロ相手にどのように交渉していったらいいのでしょうか。

交通事故に詳しい弁護士が知人にいるような幸運な方は別にして、たいていの方は途方に暮れてしまうことでしょう。一昔前は、素人とプロの交渉ごとということにふつうはなって、プロの思い描くストーリーどおりに押し切られるのがふつうでした。しかし、ネットが発達した現在、示談交渉を進める上での情報がネットを検索すればあふれかえっています。が、その情報は正しいものもあれば正しくないものもある。玉石混淆です。それらの情報に接した事故被害者にとって、どの情報が正しくて信頼できるのかがまずわかりづらいし、自分だけでは手に負えなくて、調査や交渉ごとをだれかに任せることも時に必要になってきます。が、ネット上には、われこそは事故被害者のためだと謳っているものばかりなので、実際にいったいだれを信頼したらいいのかわかりません。

知識とは中立なものであること

ここで注意してほしいのは、情報の正確さもさることながら、その情報(知識)そのものが中立なことです。

昔、東大卒が多い自民党が間違えるはずがないと豪語している自民党支持者に会ったことがあります。ぼくは苦笑するしかありませんでした。たしかに東大卒は勉強をいっぱいしているわけだから、その知識量も多くかつ正確だといえるかもしれません。ただ、知識それ自体はあくまで中立なものであり、どちらにも役に立つ武器なのです。したがって、その正確でたくさんの知識をどちらの側に使うかにある。わかりやすいたとえ話をしてみましょう。

知識は刀という武器と同じ

hitininnno
その昔、武士という職業が存在しました。この武士は帯刀を許された職業のことであり、刀の専門家です。殿様を頂点にして、殿様に雇用され、殿様を守るために武器である刀の技術を日夜みがいていた。

この武器である刀自体は殿様を守るためにも使えるし、農民に加勢して殿様に刃向かうためにも使えます。しかし、悲しいかな、現実は殿様を守るために使われた例が圧倒的に多く、農民に加勢するために使われた例など不幸にしてきわめて少なかった。ごく稀に後者のような武士が現れますが、こういう武士こそ庶民にとっての英雄であり、「七人の侍」はまさにそのようなタイプの武士たちでした。

利益が一致しているか相反しているかが重要

したがって、問題はその使い手自身にあります。使い手がどちらの側に立つかで知識もそれぞれの側の武器になる。そして、その使い手がどちらの側に立つかは双方の利益が一致するか相反するかでふつうは決まってきます。

この、肝心要のことを説明したサイトが皆無といっていいほどにみあたらないのは不思議なことです(というか、あえて否定しているサイトさえいくらでもみつかるくらいです)。

記事を読んでいただければたちどころにわかることですが、当事務所は「立場」を鮮明にしております。あえて鮮明にしているのは、人間や社会に対する見方は、その人自身の立場から自由にはならないからです。中立を装うことは考察を浅くし、論旨を不明確にする。「立場」のない「立場」などありようがない。当事務所の立場は、ぼく自身が社会的弱者であるため、弱者の立場に徹することです。ぼくのような弱虫は「七人の侍」のようには決してなれないけれど、せめてその心意気だけでも真似して、社会的強者に阿らないようにしたい。そういう気持ちで当サイトをたちあげました。よろしくです。

【当サイトご利用上の注意】

当サイト内の情報を利用したことにより何らかの損害が発生しても、一切責任を負いません。自己責任でお願いいたします。また、記事を書いた後に、法律が変わったりするなど、現状を反映していないことがあります。その後の改正等についてはフォローしていくつもりですが、ご注意ください。

著作権にかかわることですが、当サイトの記事をコピーされる方が後を絶たない。公開した記事なので、コピーしていただくのはまったくかまわない。ただし、判例文のコピーによる引用は別にして、それ以外の文章の引用については、引用元を示したうえで、どこからどこまで引用したかも明示してください。

おすすめ記事

アーカイブ

カテゴリー

ページ上部へ戻る