交差点における直進車と対向右折車との衝突事故の過失割合

最初に

通称右直事故と言われる事故調査をかなりの数やったように思う。あまりにやりすぎて、かえって思い出せないほどである。右直事故というのは直進車と対向右折車が衝突する事故のことである。事故現場は、たとえば対向車線を横切ってパチンコ屋の駐車場にはいろうとしたり、喫茶店の駐車場にはいろうとしたりしたときの路外への右折以外は、交差点内である。ここでは交差点で発生した事故をとりあげる。交差点は信号のあるものとないものとがあることから、信号のあるものとないものとに2大別できよう。そして、信号のあるものは信号の色が優劣を決する。信号のないものは原則直進車優先である。

ここでとりあげる右直事故は、通常、判例タイムズの過失相殺本に載っている典型事故のひとつであり、過失相殺本により過失割合が決せられる。
 


 
しかし、中には、過失相殺本を見ただけでは、過失割合が決められないケースも出てくる。当記事では、最初に典型的な右直事故、すなわち、過失相殺本に載っている直進車と対向右折車の衝突事故の基本を示す。その後、過失相殺本では決められない非典型事故について、いったいどういうものがあるのか、そして、そのような非典型事故の過失割合はどのようにして決めているのかを知るために、代表的な判例をご紹介してゆくつもりだ。

右直事故を考えるうえでの前提知識

車両は、交差点で右折する場合には、当該交差点において直進し、または左折しようとする車両等があるときは、当該車両等の進行妨害をしてはならない(法37条)イコール直進車優先の原則。

しかし、直進車に法36条4項による注意義務は免除されず、具体的事故の場面での直進車の前方不注視、ハンドル・ブレーキ操作の不適切等何らか過失が肯定されることが多い。

なお、判例タイムズの過失相殺本に出てくる修正要素について、わかりづらいものがあるので、いくつか補足を加えたい。

徐行なしとは

ふつうはすぐに停止できる速度ということで時速10キロ以下を指す。しかし、ここでいう「徐行」は、右折車としての通常の速度を意味している。

 

法50条違反の交差点進入とは

交通整理の行われている交差点に入ろうとする車両は、進路前方の車両等の状況(例えば渋滞)により、交差点に入ると当該交差点内で停止することとなって、交差道路における車両等の通行の妨害となるおそれがあるときは、当該交差点に入ってはならない(法50条1項)。

にもかかわらず、これに反して交差点に進入することをいう。交差点がこのような状況にあるときには、右折車は、直進車の進入がないことを期待して右折することが定型的に予測されるから、直進車に過失加算修正することにしている。

 

既右折とは

直進車が交差点に進入する時点において、右折車が右折を完了していることまたはそれに近い状態にあることをいう。

 

早回り右折とは

交差点の中心の直近の内側(道路標識等により通行すべき部分が指定されているときは、その指定された部分)を進行しない右折をいう(法34条2項)。

 

大回り右折とは

あらかじめ道路の中央に寄らない右折をいう(法34条2項)。

 

直近右折とは

直進車の至近距離で右折する場合をいう。たとえば、対向直進車が通常の速度で停止線を越えて交差点に入る付近まで来ている場合に右折を開始したとき。

判例タイムズ過失相殺本に載っている典型事故

信号機なし

utyokujiko10
 

基本赤20:黄80
修正要素黄:既右折+10
赤:法50条違反
赤:15キロ以上の速度超過+10
赤:30キロ以上の速度超過+20
赤:その他の著しい過失+10
赤:その他の重過失+20
黄:徐行なし-10
黄:直近右折-10
黄:早回り右折-5
黄:大回り右折-5
黄:合図なし-10
黄:その他の過失・重過失-10

 

信号機あり

【双方青・青の場合】
 
aosinngou02
 

基本赤20:黄80
修正要素黄:既右折+10
赤:法50条違反+10
赤:15キロ以上の速度超過+10
赤:30キロ以上の速度超過+20
赤:その他の著しい過失+10
赤:その他の重過失+20
黄:徐行なし-10
黄:直近右折-10
黄:早回り右折-5
黄:大回り右折-5
黄:合図なし-10
黄:その他の過失・重過失-10

 
【直進車黄進入、右折車は青で進入し、黄で右折の場合】
 
utyokujiko03
 
基本赤70:黄30
修正要素黄:既右折
赤:法50条違反
赤:15キロ以上の速度超過+5
赤:30キロ以上の速度超過+10
赤:その他の著しい過失+10
赤:その他の重過失+20
黄:徐行なし
黄:直近右折
黄:早回り右折
黄:大回り右折
黄:合図なし-10
黄:その他の過失・重過失-10

 
【直進車・右折車ともに黄で進入した場合】
 
utyokujiko04
 
 
基本赤40:黄60
修正要素黄:既右折+10
赤:法50条違反+10
赤:15キロ以上の速度超過+10
赤:30キロ以上の速度超過+20
赤:その他の著しい過失+10
赤:その他の重過失+20
黄:徐行なし-10
黄:直近右折-10
黄:早回り右折-5
黄:大回り右折-5
黄:合図なし-10
黄:その他の過失・重過失-10

 
【直進車・右折車ともに赤で進入した場合】
 
utyokujiko05
  
基本赤50:黄50
修正要素黄:既右折+10
赤:法50条違反+10
赤:15キロ以上の速度超過+10
赤:30キロ以上の速度超過+20
赤:その他の著しい過失+10
赤:その他の重過失+20
黄:徐行なし-10
黄:直近右折-10
黄:早回り右折-5
黄:大回り右折-5
黄:合図なし-10
黄:その他の過失・重過失-10

 
【直進車赤で進入、右折車が青で進入後、赤で右折した場合】
utyokujiko08
 
基本赤90:黄10
修正要素黄:既右折
赤:法50条違反
赤:15キロ以上の速度超過+5
赤:30キロ以上の速度超過+10
赤:その他の著しい過失+5
赤:その他の重過失+10
黄:徐行なし
黄:直近右折
黄:早回り右折
黄:大回り右折
黄:合図なし-10
黄:その他の過失・重過失-10

 
【直進車が赤で進入し、右折車が黄で進入後、赤で右折した場合】
 
utyokujiko06
 
 
基本赤70:黄30
修正要素黄:既右折
赤:法50条違反
赤:15キロ以上の速度超過+5
赤:30キロ以上の速度超過+10
赤:その他の著しい過失+5
赤:その他の重過失+10
黄:徐行なし
黄:直近右折
黄:早回り右折
黄:大回り右折
黄:合図なし-10
黄:その他の過失・重過失-10

 
【直進車赤で進入し、右折車が右折青矢印で進入した場合】
 
utyokujiiko09
 
基本赤100:黄0
修正要素黄:既右折
赤:法50条違反
赤:15キロ以上の速度超過+5
赤:30キロ以上の速度超過+10
赤:その他の著しい過失+5
赤:その他の重過失+10
黄:徐行なし
黄:直近右折
黄:早回り右折
黄:大回り右折
黄:合図なし-10
黄:その他の過失・重過失-10~20

判例紹介

東京高裁 昭和51年1月21日判決
交通整理の行われていない交差点で、信号が青から黄に変わった直後に右折を開始したA車と、時速50キロの制限速度を30キロ超過した高速で進行してきた対向直進のB車との衝突事故。

Bが制限速度を遵守し、かつ、対面信号が黄に変わった時点で直ちに制動措置をとっていれば、交差点手前の法定停止地点で停止できたとして、直進車優先の規定の考慮の余地はないとした。

ただし、A側にも対向車両の安全を確認した上で、右折をすべき注意義務があり、これを尽くさなかったことにより20%の過失相殺をした事例。

 

福岡地裁 昭和55年11月4日判決
渋滞中の交差点において、停止車両の側方を通過して交差点に進入した直進自動二輪車と、右折しようとした対向普通乗用車との衝突事故。

自動二輪車側にも右折対向車の存在に細心の注意を払い、かつ、状況に応じ減速をすべきであったとして、これを怠った自動二輪車側に25%の過失相殺をした事例。

 

名古屋支部 昭和60年6月21日裁定・名審153号
交通整理の行われていない交差点を右折中の普通乗用車Aとそれに直交する左折専用道路(側道)の左から時速50キロ(制限速度30キロ)で直進してきた普通乗用車Bとの衝突事故。

Bには対面信号青に気をとられ左折の標識や標示を見落とし、制限速度を越えて直進した過失あり、Aには、同車道が左折専用であり直進できないものと即断して側道に対する安全確認を怠った過失ありとした。よって、Aに20%の過失相殺を行った事例。
utyokku

 

名古屋支部 昭和63年6月27日裁定・名審258号
信号のある交差点において、黄色で交差点に直進した普通乗用車Aと、赤・右折可でUターンを開始した対向進行中の普通貨物自動車Bとの衝突事故。Aに、B車が停止するものと軽信して減速せず交差点に進入した過失があり、Bには信号を信頼し、対向車の確認を怠った過失がありとして、A40%、B60%の過失相殺を認めた事例。

 

大阪地裁 昭和63年10月6日判決
交通整理の行われている見通しのよい交差点で、対向車両の有無の確認を怠ったうえに、交差点を早回りでA普通乗用車の前方直近を右折しようとしたB普通乗用車と、直進のA車とが衝突した事故。B車の動静に注意を払わず、制限速度を約10キロ超過する時速約40キロで直進し、B車を認めた後も衝突を回避する措置をとらず、衝突の際の衝撃によりアクセルペダルを踏んでA車の速度をあげてしまい、損害を拡大させてしまったA車運転者に、30%の過失相殺をした事例。

 

大阪地裁 平成5年12月22日判決
交通整理が行われている交差点での右折A車と対向直進B車との衝突事故。A車が直進車の進行を妨害してはならないのにこれを怠り、右折のため徐行しつつ対向車線に進入したところ、B車が前方注視を欠き、制限速度を10キロ超過して進行したために発生したものであるとして、右折A60対直進B40の過失相殺を認めた事例。

 

東京地裁 平成10年1月27日判決
交通整理の行われている交差点において、右折車と対向直進車との衝突事故。対面信号機の表示について、双方の主張が対立し、目撃者もいないため、双方の過失割合を50対50とした事例。

 

神戸地裁 平成11年1月18日
信号のある交差点における右折普通乗用車と直進の原付との衝突事故。信号の表示に従わず、速度超過もあった原付の過失がはるかに大きいが、対向方向から進行してくる車両の有無を確認しないまま右折を開始した乗用車にも安全確認義務違反の過失があるとして、10%の過失相殺を認めた事例。

 

旭川地裁 平成11年1月26日判決
交通整理の行われている見通しのよい交差点において、青で進入し、交差点内で一時停止したものの対面信号が黄色に変わったことから、前方を注視しないで右折を開始した普通乗用車Aと、Aが右折を開始しないものと軽信し、制限速度を約10キロ超過した速度のまま黄色で交差点に進入した普通乗用車Bの衝突事故につき、A60対B40とした事例。

 

名古屋地裁 平成11年1月27日判決
交通整理の行われている見通しのよい交差点において、片側4車線の南北道路を南進し、右折のため北進の第3車線を延長した位置で停止中のA普通乗用車に、北進の第3車線を走行中のB普通乗用車との衝突事故。Bにも飲酒の影響による前方不注視があるとして、A60対B40の過失相殺を認めた事例。

 

大阪地裁 平成11年5月28日判決
時差式信号機により交通整理を行っている見通しのよい交差点において、対面信号が赤に変わったのでUターンを開始したA普通貨物自動車が、青信号に従い対向車線を直進してきたB軽四乗用車と衝突した事故。制限速度を20キロオーバーして走行した軽四側に20%の過失相殺をした事例。

 
判例は順次追加予定。
 
【16・11・07】「徐行なし」「直近右折」「大回り右折」「早回り右折」の定義を加筆した。

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突然、交通事故にあわれた被害者は、怪我をされたり、車を破損などされたりして大変なことです。その損害の賠償をしてもらうために、これから、加害者そして加害者側の損保担当者を相手に示談交渉を進めなければならなくなります。しかし、交通事故は人生でそう何度も経験するわけではありません。なにをどのようにしたらいいのか途方に暮れてしまうのがふつうです。

ところが、事故被害者がまず相手にするのが加害者であり、そして、実際は加害者側損保の担当者です。損保の担当者はそのことで生計を立てているいわばプロであり、百戦錬磨で鍛えた知識と経験があります。かたや、知識も経験もほとんどない事故被害者。そんな素人がプロ相手にどのように交渉していったらいいのでしょうか。

交通事故に詳しい弁護士が知人にいるような幸運な方は別にして、たいていの方は途方に暮れてしまうことでしょう。一昔前は、素人とプロの交渉ごとということにふつうはなって、プロの思い描くストーリーどおりに押し切られるのがふつうでした。しかし、ネットが発達した現在、示談交渉を進める上での情報がネットを検索すればあふれかえっています。が、その情報は正しいものもあれば正しくないものもある。玉石混淆です。それらの情報に接した事故被害者にとって、どの情報が正しくて信頼できるのかがまずわかりづらいし、自分だけでは手に負えなくて、調査や交渉ごとをだれかに任せることも時に必要になってきます。が、ネット上には、われこそは事故被害者のためだと謳っているものばかりなので、実際にいったいだれを信頼したらいいのかわかりません。

知識とは中立なものであること

ここで注意してほしいのは、情報の正確さもさることながら、その情報(知識)そのものが中立なことです。

昔、東大卒が多い自民党が間違えるはずがないと豪語している自民党支持者に会ったことがあります。ぼくは苦笑するしかありませんでした。たしかに東大卒は勉強をいっぱいしているわけだから、その知識量も多くかつ正確だといえるかもしれません。ただ、知識それ自体はあくまで中立なものであり、どちらにも役に立つ武器なのです。したがって、その正確でたくさんの知識をどちらの側に使うかにある。わかりやすいたとえ話をしてみましょう。

知識は刀という武器と同じ

hitininnno
その昔、武士という職業が存在しました。この武士は帯刀を許された職業のことであり、刀の専門家です。殿様を頂点にして、殿様に雇用され、殿様を守るために武器である刀の技術を日夜みがいていた。

この武器である刀自体は殿様を守るためにも使えるし、農民に加勢して殿様に刃向かうためにも使えます。しかし、悲しいかな、現実は殿様を守るために使われた例が圧倒的に多く、農民に加勢するために使われた例など不幸にしてきわめて少なかった。ごく稀に後者のような武士が現れますが、こういう武士こそ庶民にとっての英雄であり、「七人の侍」はまさにそのようなタイプの武士たちでした。

利益が一致しているか相反しているかが重要

したがって、問題はその使い手自身にあります。使い手がどちらの側に立つかで知識もそれぞれの側の武器になる。そして、その使い手がどちらの側に立つかは双方の利益が一致するか相反するかでふつうは決まってきます。

この、肝心要のことを説明したサイトが皆無といっていいほどにみあたらないのは不思議なことです(というか、あえて否定しているサイトさえいくらでもみつかるくらいです)。

記事を読んでいただければたちどころにわかることですが、当事務所は「立場」を鮮明にしております。あえて鮮明にしているのは、人間や社会に対する見方は、その人自身の立場から自由にはならないからです。中立を装うことは考察を浅くし、論旨を不明確にする。「立場」のない「立場」などありようがない。当事務所の立場は、ぼく自身が社会的弱者であるため、弱者の立場に徹することです。ぼくのような弱虫は「七人の侍」のようには決してなれないけれど、せめてその心意気だけでも真似して、社会的強者に阿らないようにしたい。そういう気持ちで当サイトをたちあげました。よろしくです。

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