駐車車両側に過失が問われるとき

装甲車でつぶすよりも道路環境を整備したら

上の画像はエリトリアという国のある市長が、車道上の違法駐車を、装甲車を使って潰してしまったというものです。この行為に対しては賛否両論あったようですが、ぼくはもちろん反対です。いくら違法な駐車をやっていたからといって、それだけでいきなり装甲車で排除するのはあまりに行きすぎです。経過そのものについて知らないので、「いきなり」ではなかったのかしれませんが、仮にそうであってもやりすぎなものはやりすぎです。目的は手段を正当化せず。目的がどれほど崇高だったとしてもです。

この市長さん、自転車愛好家だったらしく、通勤に自転車を使用していたようです。それで違法駐車車両の存在ががまんならなかった。だったら、違法駐車がしにくい構造に道路環境を変えるのが先決でしょう。せっかく市長をやっているんだから。

たとえばこんなふうにです。
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これだったら、車の駐車スペースも確保できて、なおかつ自転車道も整備されています。

かつての違法駐車トラックによる死亡事故のこと

さて、違法駐車で、かつて調査した事例のことを思い出しました。夜間、違法駐車していたトラックに乗用車が接触し、その弾みで、乗用車が対向側に進入、対向側で違法駐車していたトラックにも衝突するという事故がありました。乗用車側の運転者はそれで死亡しております。

仕事の関係で違法駐車していたトラックの運転者たちからその事情を聞きました。この場合に限らないのですが、違法駐車側の罪の意識の希薄さ・鈍感さにウンザリさせられました。要するに、相手が勝手にぶつかってきたのだから・・・というのです。それどころか、中には自分の車が縁起が悪くなっただの、自分には過失がないから葬式にも出るつもりはないだの、まあ、言いたい放題。あんたたちのトラックが違法駐車していなければ事故はなかっただろうし、被害者も死なかっただろうに。

路傍の石論

この罪の意識の無さにはかつての判例理論が大いに影響しています。「かつての判例理論」というのは、平たく言えば、違法駐車車両を郵便ポストだの路傍の石だのに見たてて違法駐車側を免責した「理論」を指します。実際にこのような理論があったのかどうか調べたわけではありませんが、この「理論」に基づいて保険実務では「路傍の石と同じだ」と説明していました。

しかし、これは比喩としても間違っているだけでなく、道義的にも問題がある。郵便ポストは車線内にあることはないし、路傍の石と車とではその規模もちがうし、事故になったときの被害の程度も全然ちがいます。そしてさらに決定的に違うのは、違法駐車側は意識的にそこに駐車させている点です。

違法駐車車両に対するとりしまりの強化

違法駐車車両による事故がこれではいっこうに減らないだけでなく、むしろ増えている現状に対して、平成2年ようやく道交法や保管場所法が改正されました。そして、裁判所も違法駐車車両に対して厳しい判決を出すようになります。たとえば、夜間だが街路灯の下の明るい場所を選んで駐車させた国道上の違法駐車車両にバイクが衝突した事例ですが、違法駐車車両側に対して4割の過失を認定しています。

判例紹介

横浜地裁 平成2年3月17日判決
甲(違法駐車車両運転者)は、制限速度が一般国道よりも高速であり、駐車禁止の規制がされている本件事故現場道路に、夜間、大型車を駐車すると、後続車が追突することが予測されたのであるから、駐車を避けるか、駐車するにしても駐車灯や三角反射板等により、後続車両に駐車車両の存在を警告する措置を講ずるべき義務があるにもかかわらず、これを怠り、後続車両に対する何らの措置を講ずることなく、大型クレーン車を駐車した過失により本件事故を発生させたものであるから、民法709条に基づき損害賠償責任がある。さらに、自動車が道路上に駐車している場合も、自賠法3条にいう「運行」状態にあるものと解すべきであるから、乙(違法駐車車両所有者)は自賠法3条による損害賠償責任を免れない。また、過失割合を判断すると、従来、追突事故の場合は、追突車両側が加害者、駐車車両側が被害者側として扱われることが多く、追突車側の前方不注視の過失が強調される傾向にあった。しかし、近時、夜間における二輪車の駐車車両(とりわけ大型車)への追突事故の増加とその原因の調査によれば、安易に追突車側の前方不注視の過失に偏るべきではなく、具体的事案に即して決定すべきである。

本件の場合、事故現場に大型クレーン車を何らの警告措置も講ずることなく、一晩駐車させることは、交通の妨害になるばかりか極めて危険な行為であるといわざるをえず、また、甲が駐車したのは自宅近くで、翌朝正規の保管場所に取りに行く手間を省くためという身勝手な事情に基づくもので、危険な国道上に駐車すべきやむをえない理由は何もない―――とした。

 

自宅周辺であった違法駐車について

ところで、かつて、自宅周辺にも、公道をまるで自分の駐車場でもあるかのように思っていて、公然と違法駐車させている車が何台かありました。しかもそれが交差点内ないしはそれに近接した場所だから、まったく危険きわまりない。小学生を子供に持つ当時のぼくには気が気でなりませんでした。道路の端に車が駐車していると、道路端を歩くことができず、どうしても車道中央側を歩かざるえなくなるからです。見通しの悪い交差点だと人身事故にもなりかねません。現に違法駐車に起因すると思われる物損事故が何件か発生しています。その常習性による悪質性は刑罰に値すると思います。

そう考え出すと、しだいにこうした無神経な奴らにがまんならなくなり、過去に扱った違法駐車のトラックの運転手の言動まで思い出されて、近所とはいえ強く注意することにしました。それ以来、近所での違法駐車はかなりなくなりました。ただ、ぼくに注意された近所のおっさんは、怒りが収まらないため、公道のどこに駐車させようが勝手だろうし、現にだれだってやっている。警察でもないくせになんだあの変人は・・・などとぼくの近所にぼくの悪口を触れ回ったようでした。

交通事故対策がいろいろいわれていますが、都市計画全体を見直すとともに、こうした身近なところでも、たとえ近所だろうとなあなあですませるのではなく、きちんと言うべきことは言って、解決していく努力も必要なのではと思います。

駐車車両側に過失が問われた判例

さて、駐車車両への接触・衝突事故は、基本がぶつけた側が全過失を負います。しかし、先ほど紹介した判例以外にも駐車車両側にも過失を認定した判例があります。以下はその紹介です。

横浜地裁 昭和48年7月16日判決
車両通行量の多い駐停車禁止規制のあるバイパスの左車線上で自動車が故障し、修繕するに際し、他車への誘導措置をとらなかったために後続車に追突された被害者に20%の過失相殺を認めた事例。

 

東京地裁 昭和61年4月10日判決
駐車禁止の規制がされている道路の、しかも交差点の側端から5mの位置に、夜間、尾灯も駐車灯も点灯させずに駐車していた加害車(普通貨物自動車)に被害車(自動二輪車)が追突して被害者が死亡した事故。加害車運転者の過失を認め、所有者に自賠法3条但し書の免責を認めなかった事例。ただし被害者側に制限速度を時速20キロ以上超える速度超過があったことから65%の過失相殺をしている。

 

千葉地裁 平成13年1月26日判決
深夜、街灯がなく周囲が相当に暗い片側1車線上に、駐車禁止規制があるにもかかわらず駐車させていた無灯火の大型トラックに原付が衝突し、原付運転者が死亡した事故。被告の不法行為責任を認め、かつ被告トラックの汚れ等の状況や、被告は以前にも人身事故に至らなかったものの同様の事故を起こしていたことを考慮しながらも、制限速度10キロ超の速度違反があったことから原付側に35%の過失相殺を認めた事例。

ところで、「絶望の裁判所」という本を書かれた元裁判官の瀬木比呂志氏は、その本の中で違法駐車について実に興味深いことを書いていましたので、引用します。

日本の裁判所、裁判官が新しい判断をきらう傾向が強いことの1つの例として、夜間、非常に暗い場所に違法駐車してあった、しかも背面の汚れた大型トラックにバイクが衝突した事案について、従来の判例の流れとは異なった法理、メルクマールを立て、駐車車両の過失のほうがより大きい(65%)と判断した私の判決について、判例雑誌のコメンテイターが、重要部分に引くこととされている傍線を判決の中核部分に引くことすらせず、「本判決の判断は従来の裁判例の流れに沿うものである」という、およそ考えられないような解説を行った例を挙げておきたい(2001年1月26日千葉地裁判決についての判例時報1761号91頁解説。おそらくは、東京地裁交通部の、あるいはかつてそこに所属していた裁判官によるものと思われる。同じ判決についての判例タイムズ1058号220頁の解説と比較すると、違いがよくわかる)。

私の判決を批判したいのであれば、雑誌に名前を出して判例評論を書くことは、先のような裁判官であればできるはずだし、無記名のコメントであっても、私の判決のどこがどのようにおかしいかを論理明快に指摘すればよいのである。そうしないで先のようなねじ曲げコメントを書くのは、要するにちゃんとした批判ができないからであり、にもかかわらずその結論に反対したい(その影響力を減殺したい)からであることは、明らかというほかない。なぜ、このようなねじけたやり方をしてまで新たな判例の展開を封じ込めようとするのか、全く理解に苦しむ。

この判決は、ともかく衝突した車のほうが悪いと決めてかかっていた従来の判例の流れに反省を促した判断として、単独事件の判決であったにもかかわらず三大紙に大きく報道されたが、結局、現在に至るも、孤立した判例のままとなっている。(P142-143)

駐車と停車の違いについて

「駐車」
法2条「定義」より、車両等が客待ち、貨物の積卸し、故障その他の理由により継続的に停止すること(貨物の積卸しのための停止で5分をこえない時間のもの及び人の乗降のための停止を除く)、または、車両等が停止し、かつ、当該車両等の運転者がその車両等を離れて直ちに運転することができない状態にあることをいう。

「停車」
車両等が停止することで駐車以外のものをいう。

東京地裁27部の駐停車車両に対する評価について

瀬木比呂志氏が槍玉にあげた東京地裁交通部の、駐停車車両に対する追突事故の基本的な考え方をここで確認しておきたい。

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基本黄100:赤0
修正要素赤:退避不能+10
黄:15キロ以上の速度超過+10
黄:30キロ以上の速度超過+20
黄:その他の著しい過失+10
黄:その他の重過失+20
視認不良-10
駐停車禁止場所-10
赤:非常点滅灯等の不灯火等-10~20
赤:駐停車方法不適切-10~20
赤:その他の著しい過失-10
赤:その他の重過失-20

判例タイムズ「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」本・図【157】である。修正要素として最大50%前後の過失相殺を可能なものにしているものの、駐車車両側の基本過失をゼロにしている。修正要素については、それが認められることによって得をする側に立証責任があると考えられるばあいが多いから、駐車車両側に過失加算するのは容易なことではないだろうと思う。

カンバン方式と路上駐車【16・11・12追記】

瀬木氏が批判する日本の裁判所が路上駐車に甘い点について、関連があるのかどうか正直なところぼくにはわからないが、下記のように指摘される方もおられる。カンバン方式、すなわちジャスト・イン・タイム方式は自動車メーカーだけではなく、他の業態の企業も採用している。ぼくがかつて勤めたところもそうだった。したがって一地方の問題ではないだろう。その負の面を指摘する、下の記事がたいへん参考になった。路上駐車の取締の厳格化は、単に路駐の問題だけにとどまらず、日本経済を揺るがしかねない問題にもなりうる。頭のすみっこくらいにおいておいたほうが、思考の幅を広げられると思う。
 

 

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