左方優先の原則と判例

左方優先とは


 
当該交差点で、左方交差道路側から進入してきた赤車が黄車より優先することである。優勢劣後の関係を設けるのは、そうしないとぶつかってしまうためである。もし、黄車と赤車が出合い頭衝突すると、左方優先が適用されて、基本の過失割合は、赤40:黄60になる。しかし、こういうのは結果論であることが多い。事故になって、あとから、たまたま自分が左方側だったと気づくことが多いからである。そのあたりが優先道路だとか一時停止だとかとの大きな違いである。

上図は判例タイムズ過失相殺本の図【101】である。左方優先が適用されるのは「信号により交通整理の行われていない交差点における事故」で、かつ「同幅員の交差点の事故」の場合である。判タの該当箇所(P213-215)で、重要だと思われたところだけ抜き書きしてみた。
 


 

●信号機により交通整理の行われていない交差点における出合い頭の衝突事故のほとんどは、見とおしがきかない交差点において発生することから、これを基本とし、見とおしがきく交差点であることは、修正要素としている。

 

●信号機により交通整理が行われておらず、見とおしがきかない交差点であれば、同幅員の道路、広路、狭路、一時停止規制のある道路、非優先道路を通行する車両にはすべて徐行義務がある。

 

同幅員の交差点の場合には、左方優先の原則(法36条1項1号)が過失相殺率を設定する上で基本となるが、いずれの車両が左方車であるかは結果論にすぎない場合が多いから、減速していない左方車と減速した右方車とでは、前者の過失の方がより重いといえる。

 

見とおしのきかない交差点では、左方車が減速しない限り、交差点進入時に右方車が存在し、自車が同交差点において優先する左方車であることを認識することができないのであるから、左方優先の原則を余り重視するのは相当でない。また、同幅員の交差点では、両車ともに徐行義務があるが(法42条1号)、法の要求する厳格な意味での徐行(法2条1項20号)の程度に至っていなくても、相当の減速をしていれば、それに伴う適切な左右注視等の措置により事故を回避することができる場合が多いから、出合い頭事故においては、両車の交差点進入時の速度が左方優先と並んで重要な要素となる。たとえ左方車であっても、減速をしていない場合には、減速をしている右方車よりも重い過失を肯定すべきであるから、修正要素による調整のみでは不十分であると考え、基本の過失相殺率の設定において車両の速度差のいかんに応じて分類した。

 

 

出合い頭事故においては、左方車(図の赤車)と右方車(図の黄車)がともに減速しない場合と左方車と右方車がともに減速した場合は、いずれの場合にも、左方優先以外に双方の過失の程度に有意な差がないから、本基準の「赤・黄同程度の速度」による。ただし、双方が十分な減速をして法定の徐行を履践し、交差点進入時に相手車を認識し得たときには、見とおしがきく交差点であるときと同様に、左方車について10%の減算修正をすべきであろう。

左方優先が存在するのは回避余地によるというのだが・・・

さて、「左方優先の原則」が存在する理由について、道路交通法辞典では以下のようになっている。

左方からの車両が右方からの車両を突然発見した場合と、その逆の場合とを比較してみると、左側通行を原則としている関係上、右方からの車両の方が一般的に回避のための行動半径が大きいから事故の発生を防止しやすいというところにある。

 
そのことを図で示してみよう。
 
sahouyuusenn02
 
双方の車両の→の交わるところがいわゆる交点だが、そこまでの距離の長いほうが右方車側であることがわかる。したがって、衝突までに右方車は回避可能性が高いという理由で、右方車側の過失を重くし、左方車側を有利に扱っているわけである。

では、次の図はどうだろうか。
 
sahuoyuusenn03
 
道路幅がたとえば双方とも3mくらいだと交点までの距離はほとんど変わらないことがわかる。ではこの場合も左方優先の原則の適用はあるのだろうか。先ほどの辞典の説明では右方車側により回避余地があることを理由に挙げている。が、このケースだと双方とも交点までの距離がほぼ同じくらいであり、いずれも回避余地がないのだから、左方優先の原則は適用されないということになる。そう解さざるをえないだろう。

左方優先の典型的判例

ここで回避余地の有無を根拠に左方優先を主張した判例をみてみよう。熊本地裁昭和63年8月9日判決である。

以下に判決文を示す。

1 本件事故現場は、有効幅員約3・3㍍(被告進路)と同3・6㍍(原告進路)の比較的狭い2つの道路が十字に交差する交通整理の行われていない交差点内で、同交差点の北東角附近には、人家の生垣が道路沿いに密植されているため、同方向への見通しは極めて悪いこと。

2 被告は、右交差点を北から南へ進行するに際し、左方の見通しがきかないのに、徐行して安全を確認することなく、低速で交差点に進入したところ、原告車が交差道路を左(東)から進行して交差点に進入して来るのを認め、急制動したが及ばず、被告車の前部中央附近を原告車の右側前ドアの前部附近に衝突させ、その場に停止したが、原告車はそのままやゝ左斜前方寄りに進行して、交差点南西角のブロック塀に車体の左側面を衝突させて停止したこと。

3 原告は、同交差点を東から西へ比較的低速で進行するについて、右方の交差道路の見通しがきかないのに、徐行して安全を確認することなく、そのまま交差点に進入し交差点内で被告車と衝突する直前まで被告車の存在に気づかなかったこと。以上の事実が認められ、原告及び被告各本人の供述中右認定に反する部分は採用できず、他にこの認定を妨げる証拠は存在しない。

右によれば、本件事故発生については、原被告双方に、見とおしの悪い交差点を通行するについて徐行義務を怠り(道交法42条)、交差道路を通行する車両の有無を確認して、安全な速度と方法で進行しなかった不注意がある(同法36条4項)ことが明らかであるが、被告の進路はより狭い道路であるから、交差点前で一時停止をする等一層の注意運転が望まれること及び座席の位置からして左方道路の車両をより早く確認できることを考慮し、過失割合は原告が4に対し被告が6とするのが相当である(なお、道交法36条1項1号の規定は、交通整理の行われていない交差点を通行する車両等の先順位(すなわち、どちらの車両が先に交差点を通過するか)を定めたものであって、そのまま直ちに、本件の如き交差点内における出会頭の衝突の場合における、双方の過失割合の判定基準となるものではない。)。

事故状況図を作成してみると(ここからは私見)

上記判例の事故状況を図にしてみた。

黄車側
幅員3・3㍍
普通乗用車
低速
前部中央附近

 

赤車側
幅員3・6㍍
普通乗用車
比較的低速
右側前ドアの前部附近

 
赤線は交点までのそれぞれの距離である。
 

 
判例は、黄車のほうが「座席の位置からして左方道路の車両をより早く確認できる」としているが、図をみるかぎり、その差はごくわずか(0.7m。実際はもっとセンター寄りを走行していた蓋然性が高いから、その差はもっと縮まるだろう)であり、ほんの一瞬のことにすぎない。このわずかな差に着目して右方車側の注意義務違反をとらえ、過失割合を論じている。

日本の交通裁判の特徴

この例が象徴的なのだが、日本の交通事故裁判においては、「人は間違える生き物である」という当たり前の事実が無視され、当事者の僅かなミスまでもが過失として責め立てられているように思える。そして、事故原因を事故当事者のみに求めていることである。現に、判例タイムズの過失相殺本が事故当事者の過失を基準化できたのは、「事故に寄与した過失以外の要素をあまり考慮しなくてもよい」としているからである。しかし、交通事故は、「(人-車-道)システムの欠陥によって起こる」(「路上の運転と行動の科学」シャイナー著・P22)。過失相殺本は、(人-車-道)システムの中の「人」だけを取り上げたものであり、「車」や「道」がそこからすっぽり抜け落ちている。前回の記事――車椅子がどうして車道上で事故に遭うのかでも指摘したことだが、現場の事情を知らないことが車椅子側に厳しい過失認定になってしまう背景があった。

すなわち、実際の交通事故は、道路交通システムがヒューマンエラーに対して脆弱であることがその背景にある。道路関連の法律に不備があって、事故リスクを高めていることも挙げられる。そのような多くの原因・背景・構造的歪みがあるにもかかわらず、裁判では、事故当事者以外が生み出してきた過失にまったく目を向けようとしない。その皺寄せが事故当事者に集中し、不条理なまでに厳しい過失認定につながっているように思える。この裁判はその特質がよく現れている。

今回とりあげた判例では、右方側が視界の点で有利なことを挙げて、左方優先の原則を適用している。しかし、こんなわずかの差を根拠にして、不条理なまでに厳しい過失認定を行わずとも、左方優先の原則をそのまま適用すべきだったと思う。

ネジはなぜ右まわしか

ここで、「ネジはなぜ右まわしか」という一文を紹介したい。

ネジはなぜ右まわしか
ネジは、なぜ右にまわすと締まり、左にまわすと緩むのか。逆であっても、それだけでは格別支障がない。ただ、どちらかに統一されていないのでは、たいへん面倒なことになる。ネジを締めるつもりが少しも締まらない、というのはまだ我慢できるとしても、ネジを緩めるつもりがますますきつく締まってしまうのでは、困ったことになる。

さいわいに、いつの時代からか、ネジは右にまわすと締まり、左にまわすと緩む、というように統一された。このような統一は、だれによってなされたのだろうか。もしだれか個人によってなされたのだったら、わたくしはその人にノーベル賞を与えてもいいとさえ思う。もっともノーベル機能賞とでもいうものがあればの話であるが、ネジのような規則の統一があれば、そこに信頼が生まれ、安心感が生じ、それゆえに機能性もでてくる。

・・・ルールは、人間の生活の周辺に数多く作られている。ルールの中には、右でも左でもかまわないが、どちらに統一した方が便利なものがある。とはいえ、できるなら少しでも合理的な方がよい。

ネジが右まわしだということは、人間に右利きが多いということと無関係ではない。右利きの人にとって、右にまわす方が便利である。もちろん、ネジを締めるには、左へまわさなければならない。だが、人類全体にとって、ネジを締める回数の方が、緩める回数よりも多い。というのは、①ネジはかならず締められなければならないが、②締められたネジが緩められる必要性はそれほどない――からである。だから、「右回し=締まる」というルールは、「左まわし=締まる」というルールよりも合理的である。

右側通行か左側通行かは、どちらであってもたいしたことはない。(電話機などの番号表示の)1・4・7を上から並べるか下から並べるかは、どちらでもよいことである。どちらでもよくても、どちらかに統一されていた方がよい。あるいは統一されていなければ困ることがある。
(「事務の科学」千早耿一郎(P65-))

 


 

わずかな回避余地のあるなしで、左方優先の原則を揺るがすべきでない

何度も書いていることだけれども、交点の生じる事故の場合、どちらかを優先させ、どちらかを劣後させないといけない。優先劣後の関係が存在しないと、交通に支障をきたし、事故を誘発させてしまうからである。優先・劣後の関係を作出しないと、どっちも自分が優先だと考えたり、あるいはどっちも自分が劣後だと考えたりしかねないからである。そうすると収拾がつかなくなり、交通秩序が混乱してしまう。それを回避させるためのひとつとして、左方優先の原則が考案されたわけである。「ネジ右まわし」と同じである。左方優先に統一すれば、そこに信頼が生まれ、安心感が生じ、それゆえに機能性もでてくる。

したがって、回避余地がある云々は左方か右方かどっちを優先させたらいいのかを法律で決める際の判断材料である。が、いったん左方優先の原則が法律で決まった後は、わずかな回避余地のあるなしで、その原則をかんたんに揺るがすべきではないと、ぼくは思う。

左方優先に関するその他の判例

京都地裁 平成2年6月19日判決
見通しが悪く信号のない交差点での被害原付車と加害車両との出会頭の衝突につき、左方優先の原則を考慮し、自動車(左方側)対原付車(右方側)の過失をそれぞれ5:5と判断した事例。車道幅員は双方とも5.7m。自動車の速度は時速25キロ。原付の速度については、原付側は一時停止を主張するも、裁判所は以下のように判断している。

「これに対し、原告(原付側)本人は、「自分は、本件交差点手前で人の歩行速度よりやや速い位の速度まで減速徐行し、更に一時停止した上、交差道路左側を確認したが、何も見えなかったので、発進した。」とか、「完全に一時停止したのではなく、ほぼ停止に近い状態であり、この状態で交差道路の安全を確認した後、徐行よりも少し速い速度で交差点に進入させた。」などと供述しているが、右各供述には一貫性がないし、原告が本件事故に至る経緯を実況見分の際どのように警察官に説明したかについても原告本人の供述に一貫性がない上(しかも、当初は、「徐行したことは聞かれなかったので説明していない。」旨不自然な供述をしている。)、原告がその供述するとおり交差道路左側の安全確認をしていたとすれば、前認定の被告車の速度等に照らしても、その接近に全く気付かないということは考えられないから、原告本人の右供述は到底信用できず、他に右認定を左右する証拠はない。

右事実及び右二の判示事実によれば、本件交差点は、交通整理が行われておらず、交差道路左側の見通しがきかなかったのであるから、原告においても、被告と同様右交差点に進入するに当たり、交差道路左側の安全を確認しながら徐行して進行すべき注意義務があったのに、これを怠り、右安全確認をしないまま時速約30キロメートルで原告車を右交差点に進入させた過失があり、これも本件事故の原因となったことが明らかである。そして、本件交差点の状況、原・被告の各注意義務違反の大きさ、車種、被告車が左方車に当たること等によれば、本件事故の発生についての被告及び原告の過失の割合は等しいと解するのが相当である。」

 

京都地裁 平成2年10月30日判決
見とおしの悪い交差点で、制限速度超過の加害ミキサー車と左方進入の被害原付自転車が出合頭で衝突した事故につき、被害者がヘルメット不着用で死亡していることも考慮し原付自転車に35%の過失相殺が適用された。道路幅員等不明。

 

京都地裁 平成6年3月31日判決
被害原付自転車と加害乗用車の交差点における出合頭衝突につき、右方進入の被害車に50%の過失相殺が適用された事例。見通しの悪い交差点。相手を認めたのは双方とも衝突時である。
【原付側】
車道幅員は3.5m
時速20キロ

【自動車側】
5.05m。
時速25キロ

「現場付近は車両などの通行も少ない場所であり、被告進行道路の幅員が明らかに広いとはいえず、また、見とおしのきかない交差点であるから、被告車がいわゆる広路車であったとしても道交法42条1号の徐行義務が全く免除されることはない。本件の場合、形の上では被告が左方優先(36条1項1号)とみられるけれども、これを大きく考慮できず、むしろ同法36条4項の「できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない。」とする特別安全注意義務違反が存するかどうかを判断して双方の過失を定めるべきである。そうすると、原被告ともに速度を落として徐行することなく相手方に気づかず、交差点に進入しており、双方とも過失があることが明らかである。被告車が普通乗用自動車で、原告車が単車であること、原告車の速度が稍速いことなどを考慮して原被告の過失をそれぞれ50%と定める。」

 

【17・01・22:判例を3つ追加】
 

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