過失割合でもめたとき、どんな調査をするのか?

過失割合の揉め事

交通事故が起こる。当事者間でその説明する事故状況が相違することはよくあることだ。中には双方が青進入を主張する困ったばあいもあるが、たいていはほんのちょっとしたタイミングの違いというか、その認識にずれがあって紛争になっていることも多い。

なんだ、それっぽちのことか。それくらいは折り合えよとぼくは言いたくなる。しかし、決して折り合おうとはしない。話をよく聞いていると、事故状況そのものの違いというより、事故後の相手の態度が気に食わないといった感情的なもつれに起因していることも多い。おカネの問題じゃない、名誉の問題だとおっしゃる。名誉のための1円訴訟なんてあるくらいだから否定はしないが、ほんのちょっとしたタイミングに対する認識の相違、評価の相違による1割ていどの争いなら、そういうのはとっとと妥協して、他のことにエネルギーを使ったらどうかと、ぼくなどは思ってしまう。

調査会社の出番

とにかく、双方の説明する事故状況が違えば、過失割合だって違ってくる。双方で保険会社を介して何とか折り合いをつけようとするが、どちらか一方、あるいは双方ともどうしても納得しない場合がある。それでは、いつまで経っても解決しない。

そういう場合、損保は損害保険調査会社を利用する。調査会社を利用する理由は、事故状況の詳細を確認するためと、調査会社が当事者間に介在することで、過失割合に関する紛争を中立的な立場から解決するためとの2つの目的がある(ただし、調査会社の第三者性についてはただの幻想である。個々の調査員は必ずしもそうではないが、組織としては、調査はあくまで依頼主のために行っているのであって、決して事故当事者のためではない)。

調査先

依頼を受けた調査会社は、調査員に調査を命じる。調査先は
①事故現場 
②事故当事者AとB 
③警察
の4つである(場合によっては同乗者や目撃者などが追加される)。

この順番で調査先にあたるのがふつうだ。しかし、ときには、事故現場の確認をした後、警察を先にやるばあいもある。警察からあらましのことを聞いて、当事者の言っていることが正しいかどうかを確認するため、再度、警察聴取するばあいもある。これはばあいによる。

①事故現場

第1の調査先である事故現場から始めよう。事故現場で何を調べるのか。

  • 現場の道路状況
  • 規制関係
  • 信号がかかわっている場合はその信号サイクル
  • 事故による痕跡の有無とその内容

などを確認し、ストップウオッチやロードメジャーを使ってそれを数値化し、現場の写真撮影を行った上で、現場を図面化するための基礎情報を収集する。その結果できあがるのがこんな図面だ。

実際の図面(見本)

hasei札幌市・長谷川行政書士HPより)

感謝

上図はぼくが書いたものではなくて、長谷川さんが作図されたものである。すばらしい図面だったので、長谷川さんの許可を得て転載しました。長谷川さん、ありがとう。

 
以前は、運輸局だったか県事務所だったかにある道路図をもとにし、現場で得られた情報から、下のような定規を使って手書きで図面を書いていた。今では、パソコンで書くようになった。google mapというすぐれものもあるから、以前と比べて比較にならんほど便利になったと思う。
jougi
 

②事故当事者

第2の調査先である事故当事者については、当事者のABから事故時の状況を確認する。確認ポイントを以下に列記してみよう。

①免許証の記載内容

 
menkyosyou(警察庁HPより)

十数年前までは本籍まで確認したが、その後、人権問題があるためそこは確認したらだめになった(現在は本籍欄そのものがなくなっている)。裏面の処分内容も確認する。中に、ゴールド免許だと過失が小さくなると勘違いされている方がおられるが、まったく無関係。逆に、過去に交通違反を繰り返していても、本件事故には影響しない。

②事故発生日時

 

③事故場所

 

④事故当時の天候

 

⑤走行目的

 

⑥同乗者の有無・位置

 

⑦事故前の速度

 

⑧事故現場は初めての現場か、それともよく走行する現場か

 

⑨相手車発見地点

 

⑩危険認知地点

 

⑪回避措置の有無・内容

 

⑫衝突地点

 

⑬衝突部位

 

⑭衝突後のそれぞれのクルマの停止位置

 

⑮事故前の相手車の動き

 

⑯事故後のやりとり

 

⑰酒の匂いの有無

 

⑱警察見解・飲酒検査の有無

 

⑲路上痕跡の有無・内容

 

⑳規制内容

(信号のある交差点が事故現場である場合は、信号の色も確認ポイントになる)
 

③警察聴取

最後に警察に行く。担当者から

  • 有効免許の有無
  • 現場臨場の有無
  • 飲酒の有無
  • 事故状況
  • 送致の有無・内容

などを確認する。

しかし、警察は民事不介入の原則があるため、以上の質問にどこまで答えるかはその担当者しだいである。たいていは熱心には答えない。地域によっても違う。隣の県である福井県は質問によく答えてくれる傾向があったものの、石川県はかなり厳しくなった。また、交番と本署でも違った。交番はこういうことに慣れていないのか、上司がいないからなのか、比較的よく答えてくれた。しかし、本署の交通課課長クラスになると、そこのところはノラリクラリして、テキトウに答える。ひどい場合は、交通事故証明書の記載内容を鸚鵡返しにする例さえあった。とりわけ飲酒の有無については厳しかった。

以上が、過失割合を決める際の調査の手順およびそのだいたいの内容である。

交通事故調査の問題点

さて、この調査でどこに問題があるだろうか。ぼくがもっとも問題だと思うのは、事故当事者から事故状況を確認するに際して、現場で立ち会った上での確認を行わないことである。現場に行かないで、自宅とか喫茶店で面談する。簡単な(ということは不正確な)図面上でそれをやってのけてしまう点も問題が多い。図面上で、この地点で相手車を発見し、この地点で危険を感じ、そのときブレーキを踏んだとか左に回避したなどと事故当事者が説明しても、これでは真実を担保しにくい。図面上では距離感がわからないし、しょせんは2次元の世界だ。現場に行くことで思い出せることがいっぱいあるはずだからだ。

もちろん、事故の中にはそんなに複雑でないものも多いから、現場に行かずともかんたんな図面で事足りる場合も多い。しかし、たとえば判タの「過失相殺率の認定基準」本の中の修正要素に争いがあるケースだとか、あるいは事故類型として転回車の型なのか被追突の型なのか、車線変更型なのか被追突型なのかといった微妙な場合もあるし、信号の色が争いになっている場合、非接触事故の場合などは、現場に行かないとわからないことがたくさんあって、相当に問題である。

こういった場合、現場で(できるなら事故発生と同じ時間帯で)事故状況を確認していないのは、ときに致命的な欠陥になりだろう。逆に言うと、いま挙げたような例に該当し、現場での確認さえせず、その結果出てきた過失割合というのは、実態を再現したものとはとうてい言えない。争う余地が十分あるということだ。

こういった微妙でかつ詳細な情報をもとに判断すべき事故については、図面ですませるわけにいかない。事故当事者に現場に立ち会ってもらった上で事故状況を確認する――そういう手続きは欠かせないと思う。

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知識とは中立なものであること

ここで注意してほしいのは、情報の正確さもさることながら、その情報(知識)そのものが中立なことです。

昔、東大卒が多い自民党が間違えるはずがないと豪語している自民党支持者に会ったことがあります。ぼくは苦笑するしかありませんでした。たしかに東大卒は勉強をいっぱいしているわけだから、その知識量も多くかつ正確だといえるかもしれません。ただ、知識それ自体はあくまで中立なものであり、どちらにも役に立つ武器なのです。したがって、その正確でたくさんの知識をどちらの側に使うかにある。わかりやすいたとえ話をしてみましょう。

知識は刀という武器と同じ

hitininnno
その昔、武士という職業が存在しました。この武士は帯刀を許された職業のことであり、刀の専門家です。殿様を頂点にして、殿様に雇用され、殿様を守るために武器である刀の技術を日夜みがいていた。

この武器である刀自体は殿様を守るためにも使えるし、農民に加勢して殿様に刃向かうためにも使えます。しかし、悲しいかな、現実は殿様を守るために使われた例が圧倒的に多く、農民に加勢するために使われた例など不幸にしてきわめて少なかった。ごく稀に後者のような武士が現れますが、こういう武士こそ庶民にとっての英雄であり、「七人の侍」はまさにそのようなタイプの武士たちでした。

利益が一致しているか相反しているかが重要

したがって、問題はその使い手自身にあります。使い手がどちらの側に立つかで知識もそれぞれの側の武器になる。そして、その使い手がどちらの側に立つかは双方の利益が一致するか相反するかでふつうは決まってきます。

この、肝心要のことを説明したサイトが皆無といっていいほどにみあたらないのは不思議なことです(というか、あえて否定しているサイトさえいくらでもみつかるくらいです)。

記事を読んでいただければたちどころにわかることですが、当事務所は「立場」を鮮明にしております。あえて鮮明にしているのは、人間や社会に対する見方は、その人自身の立場から自由にはならないからです。中立を装うことは考察を浅くし、論旨を不明確にする。「立場」のない「立場」などありようがない。当事務所の立場は、ぼく自身が社会的弱者であるため、弱者の立場に徹することです。ぼくのような弱虫は「七人の侍」のようには決してなれないけれど、せめてその心意気だけでも真似して、社会的強者に阿らないようにしたい。そういう気持ちで当サイトをたちあげました。よろしくです。

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