判例タイムズの過失相殺基準本では解決できそうにない交差点での出合頭衝突事故

信号が壊れたときの対処法:中国版】

基準本には載っていないんだけれど

交差点での出合頭衝突事故というのは、追突事故に次ぐくらいに多い事故類型である。判例タイムズの過失相殺基準本でももちろん載っている。


 
しかし、ちょっと条件を変えてみると、過失相殺基準本ではわからないものがある。つまり、基準本は全く役に立たないのである。そのような、ある意味特殊だけれど、道交法の原理原則にかかわるような事故の判例をとりあげてみたい。

第一

信号が壊れていたり、おかしかった場合どうなるか。

第二

優先道路を走行している車との事故なのだが、道路標示である中央線が薄くて消えかけていたらどうなるか。

第三

信号のある交差点で赤・赤だったら、どうなるか。

第四

黄進入無免許車と赤進入車との事故なら・・・。

第五

双方とも一時停止規制があったら、どうなるか。

第六

信号無視事故で、一方が死人に口なしだったら・・・

ほかにもいろいろありそうだが、気がついたら追記していきたい。

信号が壊れていたり、おかしかったりしたら

東京高裁 昭和54年1月31日判決
夜間、信号機が故障していた見通しの悪い交差点での、徐行を怠った被害車(普通乗用車)と、その左方車で同じく徐行を怠った加害車(大型トラック)との出合頭衝突事故につき、左方優先を考慮して(左方車時速30キロ、右方車時速15キロ)被害者に50%の過失相殺をした。

 

千葉地裁 平成10年11月24日判決
双方の道路ともに黄色点滅信号となった交差点での出合頭衝突事故。事故は双方がその徐行義務を怠ったことによって発生したものとし、黄色点滅信号であることを認めたが減速することなく時速42~45キロの速度(制限速度時速40キロ)で進入した被害者の過失を40%とした。
なお、交差点の双方の道路をともに黄色点滅信号とすると、双方において「他の交通に注意して進行することができること」となって、それは、たとえ双方黄色点滅信号の交差点が交通整理の行われていない交差点と解され、そのため、車両が交差点に進入するに際しては道路交通法によって種々の注意義務が課せられるとしても、何ら信号機の設置されていない交差点に比べてかえって危険な状態となるのである(注:黄点滅側は交差道路側を赤点滅だと予想し、停止してくれるものと期待してしまうから)。

以上の点を総合考慮すると、本件交差点において主道路及び従道路をともに黄色点滅信号とすることは相当でないというべきであって、一方の道路の信号を黄色点滅とする以上、他方の道路の信号をも赤色点滅とすべきである。そうとすれば、本件交差点の主道路及び従道路の信号をともに黄色点滅とした被告千葉県の管理には本件交差点の信号が通常有すべき安全性を欠いていたものとして国家賠償法2条1項にいう「瑕疵」があったものというべきである。

優先道路の道路標示が消えかけていたら

浦和地裁 昭和55年1月21日判決
信号はないが見通しのよい交差点での出合頭衝突事故であり、農道から優先道路に進入するに際し一時停止を怠った原告車が、時速50キロ(40キロ規制)で進行してきた被告車と衝突し死亡した事案。原告側に80%の過失相殺を認めた。原告側は、優先道路の中央線が消えかかっていたと主張するが、原告は事故現場が優先道路であることを知悉していたことを理由にその主張を斥けた。
 

どっちも赤だったら

東京地裁 平成12年9月27日判決
Xは、晴海通りを日比谷方面から月島方面に向けて第三車線を時速45~50キロの速度で走行して本件交差点に向かい、本件交差点手前の停止線を超え、かつ、横断歩道上に進入した段階で、対面信号が赤から青に変わったので、加速に転じたものの、その直後、右方から走行してくるY車を発見、ただちに急制動措置をとっっ。しかし、Y車と衝突した。

Xが対面信号の表示が青に変わったのを見たとき速度及びその地点とY車との衝突地点までの距離(約15m)からすると、x車の対面信号が青に変わってから本件事故が発生するまで少なくとも1秒以上は経過していたと考えられる。

Yは、外堀通りを新橋方面から東京駅方面に向けて第二車線を時速50キロで走行していたが、本件交差点内に入った直後、左方から走行しているX車に気づき、ただちに急制動措置をとったものの、同車と衝突した。Y車の速度、本件交差点の信号サイクル(Y車の対面信号の黄4秒、全赤2秒、その後X車の対面信号が青になる)のほか、本件事故がX車の対面信号が青になってから少なくとも1秒以上は経過した後に発生したと考えられることを総合すると、Y車が本件交差点手前の停止線を通過する際の対面信号の表示は、Y車の対面信号が黄から赤に変わった直後であったと考えられる。

以上の事実によれば、本件事故発生の主たる原因は、Yが、青から黄に変わった対面信号の表示に従って本件交差点手前の停止線の位置で停止するために速やかに制動措置をとるべきであったにもかかわらず、これを遵守せずにそのまま走行し、対面信号が赤に変わった直後に本件交差点に進入した運転態様にあった。

しかし、他方、運転者は、本来、交差点の対面信号が赤であれば、交差点手前の停止線の位置を安全に停止できるように十分な注意を払って運転するように努めなければならない。にもかかわらず、Xは、時速45~50キロの速度を維持したまま、平然と本件交差点手前の停止線を通過し、かつ、横断歩道に進入したものであり、かかる信号をまったく遵守しようとしない走行態様は極めて危険かつ悪質であるというべきであって、たまたま、横断歩道上で対面信号が青になったからといって、本件事故に関与したXの運転態度に対する責任非難が消滅すると考えるのは不合理である。そして、その責任の程度は、Xの運転態様が、いわゆる見切り発車とは比較にならないほどの反規範的性質を有すること、本件事故の相手方がたまたま信号を遵守せずに本件交差点に進入したY車であったとしても、Xの運転態様も信号不遵守という点では基本的には同質であること、X車が破壊力の大きい重量車であり、それゆえXにはより細心の運転上の注意義務を尽くすことが求められる。

以上から、過失割合をX40:Y60とした。

無免許の黄進入車が赤進入車と衝突したら

広島地裁 昭和63年1月14日判決
30数メートル前で黄信号になったが、時速5、60キロで交差点に進入した14歳少年の運転する原付自転車と、赤信号進入の乗用車の衝突事故。被害者は無免許であったが、事故発生の一因とは認められないとし、過失の態様を車種等から被害者15対加害者85とした。

双方ともに一時停止規制があったら

双方に一時停止規制のある交差点での出合頭衝突事故においての過失割合をどう考えるべきだろうか。すなわち、このような場合、左方優先が適用され基本過失割合は左方40対右方60なのか、それとも、左方優先が適用されず、基本50対50で処理すべきなのか。残念ながら判例は存在しない。

もし、交点の生じる事故ということで優先・劣後の関係を生じさせる利益を重んじるなら、この場合は左方優先を適用すべきであり、優先・劣後の関係を作りださないといけないだろう。しかし、双方に一時停止規制のある交差点というのは、たとえば見通しが相当に悪く、過去に事故が多発していた交差点であるとか、児童の通学路になっているためとかである。そのため、単に一方のみに一時停止規制をしてもそれでも事故が多発したり、重大事故が発生しかねないため、やむをえず双方に一時停止規制をかけたという経緯があるようだ。道交法の原則を貫徹すると、かえって事故防止にならないということになるのだろう。

どちらがより現実的かつ説得的かというと、やはり後者であるようにぼくは思う。ここで参考にする資料として、警視庁の内部マニュアルの見解を紹介しておきたい。

交差点の4つの入口に公安委員会の設置した一時停止規制がある場合、交差点における他の車両等との関係は、道交法第43条後段「交差道路を通行する車両等の進行妨害をしてはならない」という関係にあり、さらに、同法36条4項の「できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない」注意義務が求められるとし、結論として、交差道路による優劣関係はないとしている。

似たような問題は広路に一時停止規制が存在する場合の狭路との関係でも生じる。これについても、同マニュアルは優先・劣後の関係はないとしている。その上で、広路車は一時停止後43条後段の妨害をしないこと、狭路車は36条3項により徐行すべきこととしている。

赤信号無視事故。一方当事者が即死していたら

東京地裁 昭和58年8月25日判決
信号機の設置された交差点における出合頭の衝突事故について、どちらが赤信号を無視したかを証拠によって認定することは困難な場合が多い。というのは、この種事案においては、目撃者がいることが少ないこと、双方の主張が正反対になることがあること、当事者の一方又は双方が死亡する場合があること(特に、一方当事者死亡の場合には、いわゆる死人に口なしの状態になる)等の事情から、事実の確定が困難となるからである。

ところで、過失相殺の問題に関し、被害者の赤信号無視の事実が認定されれば、原則として過失相殺率10割(免責)となるが、右事実が認定できなければ過失相殺はできないという議論がある。しかし、前項のような事実の確定が困難な事案において、過失相殺率が原則として10割か零かという判断はの問題のあるところであり、当裁判所は以下のとおり考える。

まず、客観的な立場の目撃者がいる等証拠上被害者の赤信号無視の事実を充分認定できる場合は、右事実を前提として、加害者の速度違反や前方側方注意義務違反等の事情があればそれを加味して過失相殺率を決定することになる。逆に、双方当事者が死亡し(或いは供述不能の状態となり)、目撃者もいない場合は、純粋に事実の確定が不可能であるから、立証責任の分配に従って、過失相殺はできないことになる。

問題は、証拠上ある程度の蓋然性をもって事実認定が可能と思われるが、なお真偽不明な部分もあり、判断が困難な場合である。例えば、双方当事者の主張が相反する場合や目撃者がいても供述内容があいまいである場合がこれにあたる。また、一方当事者死亡の、いわゆる死人に口なしの場合もこれに入る。というのは、双方生存していれば相反する主張をすることも考えられ、生存当事者の供述の信用性だけで過失相殺10割か零かに分かれるのは合理的でないと思われるからである。

そして、証拠上ある程度の蓋然性をもって事実認定が可能と思われるがなお真偽不明の部分が残る場合は、真偽不明の部分については、加害者の不利益に帰するものとして、その限度では過失相殺をしないとすることが考えられる。このことは、民法722条2項が「裁判所は損害賠償額を定めるにつき被害者の過失を斟酌することを得」と規定するのみで、いかなる場合にどの程度斟酌するかは当該裁判所の裁量に委ねられていること、また、過失相殺(その基礎事実)の立証責任は加害者が負担するとされていることと理論的に整合するものである。そして、この考え方によれば、一方当事者死亡の、いわゆる死人に口なしの場合でも、原則として10割か零かではなく、中間的な過失相殺をすることが可能となろう。

以上の判断基準のもとに、A車について、赤信号無視を裏づける証拠も多くその蓋然性は相当高いが、なお一部に疑問も残ること、A車に速度違反の事実はあるがB車にも速度違反の事実があること等の事情を考慮して70%の過失相殺とし、B車については、赤信号無視の蓋然性は低いが速度違反の事実が認められることを考慮して、10%の過失相殺をした。

 

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