発進時の事故と判例

車椅子はどうして車道の真ん中で轢かれたのか

交通事故:電動車椅子の男性、車にはねられ死亡--宇城市 /熊本
現場は片側1車線で、道路中央付近ではねられる。

 
何年か前の新聞記事である。車椅子の方が車に轢かれる事故というのを何度か担当したことがある。ぼくのような身体障害のない者にとって車椅子で移動することがどれほど大変なことなのか、実をいうとぼくにはなかなか理解できなかった。いや、仕事が忙しすぎてという口実で、理解しようという姿勢がなかったというほうが正しい。

車椅子の方が車に轢かれるのはたいてい車椅子側が車道上で移動していた場合である。歩道がないばあいももちろんあるが、そばに歩道があるにもかかわらず車道上で事故に遭う。どうして安全な歩道を進行せず、危険な車道を進行しようとしたのか、しかも上記記事にあるような車道のど真ん中を。

そのような疑問が起きても、それ以上に突っ込むことなく、車椅子にぼくはまったく無理解だった。

ところが、後日、車道上で、それもど真ん中で、車との接触事故にあった車椅子の身障者の方から、どうして歩道で移動しなかったのかその理由を聞いたことがある。以下のようなことを教えていただいた。その方は脊髄損傷のため下半身が不自由になり車椅子に乗られていた。その方の説明である。

第一。そもそも、歩道がないところがいっぱいある。
第二。歩道があっても、駐車車両があったり、鉢植えなど障害物が置かれていたりして、歩道が利用できないことがある。
第三。歩道と左右交差道路部に段差が生じているため、段差を移動する際に車椅子が上下し、脊髄損傷部に響く。
第四。点字ブロックによる段差があるため、これも脊髄損傷部に響く。
第五。歩道上は凸凹がかなりあるため脊髄損傷部に響く。

 
そのため、車道に出ざるを得ないということだった。古傷が響くということを初めて知った。

ぼくが担当したこの身障者の方の事故は、上記理由で歩道ではなく車道上を車椅子を使って移動していたときに発生した。事故現場は路上駐車があったため、その右側面を通過した際に、路上駐車車両が突然発進したため、道路中央付近で車椅子と接触事故を起こしたのだ。当該車両がウインカーも出さずに発進したため車椅子の方は車の動静を予期することができず、衝突した事故だった。

車椅子は歩行者として扱われる

ところで、身体障害者用の車椅子は、道交法では「軽車両」ではなく、「歩行者」として扱われる(法2条3項1号)。したがって、本件事故は、車道上で発生した歩行者と4輪車の事故として扱うことになる。上記事故状況と同じような車椅子と路上駐車の発進時の事故に関する判例を探したが、その当時はみつからなかったし、今もみつからない。それで、車椅子を歩行者に替えて改めて判例を探したが、駐車場内とかはあるものの、車道上のものは見つからなかった。

なお、電動車椅子の取り扱いについて(警察庁)


 

TSマークについて(基準適応を示す)

発進車と側方通過車の事故相談

2車線の左車線上に客待ちのタクシーが停車していて、左車線が通行できない状態でした。そのため、タクシーの動静に注意しながらその側方を通過し、先の交差点で左折しようとしました。ところが、タクシーがウインカーも出さないで発進したため、タクシーに自車左側面を衝突されました。

タクシーの運転手は後方確認も前方確認もすることなく、発進してしまったと警察にも供述していたのですが、当方の保険会社から、こちらの過失が70で、相手は30だと言われてしました。まったく納得がいきません。

発進車側の過失が大である

過失割合が相談者が70だと判断した理由について、保険会社に詳しく聞くべきだである。

事故状況について簡単な説明だけしかないので、ぼくの大雑把な見立てでしかないが、たぶん、進路変更車と後続直進車の事故とし、進路変更した側に無理があったと判断して、質問者側に厳しい判断が下されたようである。判タの過失相殺率基準本の153表(下図)で処理しているのだと思われる。


 
ただ、この表が想定する事故は事故前双方が車線を走行中であることが前提である。今回のような道路端で停車中の車両の発進時の衝突事故とはまったく違う。道路端からの発進車と後続直進車の事故について発進車側に70%の過失を認定した例(大阪地裁平成12年1月11日判決)、第一車線の路肩駐車後、第二車線への発進車と、第二車線から第一車線への進路変更車との接触事故について発進車側に70%の過失認定した例(大阪地裁昭和61年10月27日)がある(各判例の詳細については次の判例紹介を参照)。いずれも妥当なもので、発進車側に厳しい判断をしているのが裁判所の姿勢である。

発進時の事故の判例

以下、対歩行者ではない、発進時の事故の判例を参考のために挙げてみる。

札幌地裁 昭和57年8月30日判決
並進中の自動車のうち加害車が交差点で左折しようとしてエンストを起こしたため、被害車が先に左折し右(左?)交差点をほぼ通り抜けたあたりでエンスト中の加害車が突然前方に飛び出し被害車に追突した事故。前方の状態を確認しないまま発進した加害車運転者の全面的過失とした。

被告は加害車を運転して、信号2回ないし3回待ちで通過する本件交差点を西進して差しかかり左折しようとしたところ信号機直前でエンストを起こした。折から右被告車と並進しその左折の合図とエンストの状況を注視していた原告は、自車を同交差点で左折すべく、十分左側車両が左折できる部分を残しながら左折を開始し同交差点をほぼ通り抜けたあたりで、被告は同交差点を飛び出し加害車左前部を原告車の右側後部に追突させた。

 

大阪地裁 昭和57年12月23日判決
加害車(普通貨物自動車)が交差点の手前で信号待ちのため、進行方向に向かって左側の歩道から1.1メートル程度の間隔で停止していたところ、後方から進行してきた被害者(原付)が加害車の左側方を通過しようとして、被害車の前輪を歩道側壁に衝突させ、右側に大きく傾いて加害車側に倒れこんだため、加害車と接触し、放り出された被害者が、信号に従い発進した加害車の左後輪で轢過された事故につき、加害車運転者に左側方確認不十分の過失30を認め、被害者にハンドル操作ミスと速度調整ミスによる過失70を認めた。

 

昭和61年10月27日大阪地裁判決
並進中の自動車同士の接触事故につき、前方左側第一車線に停止中の加害車が、右側方向指示器を点滅させていたにもかかわらず、加害車が直ちに発進することはないと軽信し、加害車の動静を確認せずに、加害車が停止位置の前方3.7メートルの地点で第二車線から左側第一車線に進入を開始した被害者に30%の過失相殺を認めた事例。

 

福岡地裁小倉支部 昭和57年7月28日判決
加害駐車車両の右側を被害バイクで通過しようとした際、加害車が発進の合図なしに右折発進したため衝突した事案につき、被害バイクに事故回避の余裕はなかったとされ、過失相殺されなかった事例。

本件事故現場の道路は、中央分離帯によって区分されたアスファルト舗装道路であって、その幅員は甲車と乙車が進行した左側部分で7・5㍍あり、前後の見通しがよい。 乙車は、右の道路左側部分を時速30ないし35㌔㍍程度の速度で進行していたが、進路前方左側に進路左側端に添って甲車が駐車していたのでこれの右側を通り抜けるべく、道路左側端から3・5㍍の地点を進行したところ、突然、甲車がなんの合図もしないまま発進し、進路を変更して乙車の進路前方に出てこようとした。このため、乙車は回避手段をとる暇もないまま、その左側シート付近その他の箇所を甲車の右前部フェンダーに接触させて転倒してしまった。一方、甲車を運転していた被告は、発進して乙車と接触するまでの約3・5㍍の距離を進行する間、乙車の存在にまったく気がつかなかった。

そこでまず、被告の主張する原告Aが通行区分に違反して乙車を運転していたとの点について検討する。なるほど、右2(一)に認定した本件事故現場の道路においては、車両は中央分離帯により区分された左側部分を通行しなければならず(道路交通法17条4項)、しかもこの場合、自動車及び原動機付自転車にあっては、追越しや右折をするとき、または道路の状況その他の事情によりやむを得ないときを除いて、車道の左側端に寄って通行しなければならない(同法18条1項)。ところが、前記2(二)の認定事実に照らすと、乙車は道路左側端に寄って通行していたとはいえないが、それは甲車が左側端に寄って駐車していたため、これの右側を通過しようとしたからであって、このように通行したのは、まさに同法18条1項但書にいうやむを得ない事情に基づくものである。被告の右主張はまことに失当である。

次に被告は、原告Aが進路前方及び側方への注視を怠った結果、甲車の動静を察知するのが遅れてこれに衝突してしまったと主張するので、この点について検討する。

前掲(証拠略)中には、甲車は時速4㌔㍍(秒速約1・1㍍)の速度で発進したとの供述部分がある。そこで、仮にこの供述部分が真実であるとするならば、これに前記2・(二)に認定した発進地点から衝突地点までの距離が3・5㍍であることを勘案すると、甲車が発進して乙車に衝突するまでの時間は、約3・1秒程度あったことになる。そして、同じ右2(二)に認定した乙車の速度が時速30㌔㍍ないし35㌔㍍(秒速約8・3㍍ないし9・7㍍)であったことに右3・1秒の時間を勘案すると、甲車が発進したとき乙車はその後方約25・7㍍ないし30㍍程度付近を進行していたと推論できそうである。

この推論によれば、なるほど乙車の時速30ないし35㌔㍍におけるブレーキをかけたときの通常考えうる空走距離及び制動距離と、右甲車発進時の甲車と乙車との距離とを対比すると、乙車は甲車と衝突することを回避することが一応可能のようにみられる。

しかし、証人Cの証言に照らすと、右の甲車の速度が果して時速4㌔㍍であったかは大いに疑わしく、むしろそれよりももっと早かったことを推側せしめるのみならず、前記2(二)に認定したように甲車は発進するに際しなんの合図もしないまま発進したのであるから、このようなことは後方を進行してくる車両の運転者にとって予測し難い事態であって、このような予測にない甲車の動静を察知してこれに対応する措置をとるには通常の場合よりも多いそれなりの時間を要するといってよい。このような事情を考えると、甲車の速度を時速4㌔㍍と前提しての前記推論は、自ずと修正されねばならず、果して原告Aに甲車との衝突を避けうる余裕があったかどうかは不明というほかはない。

他に原告Aに過失のあることを窮わせる的確な証拠はないから、結局、本件事故について、原告Aには過失がなかったものとするほかはない。

 

名古屋地裁 昭和63年2月26日判決
見とおしのよい交差点において、交差点手前の道路の左側に停車していた加害車(普通貨物自動車)が突然発進・右折進行したため、後から加害車の側方を通過しようと進行してきた被害車(自動二輪)に接触し、被害者が受傷した事故。漫然と発進・右折した加害者に、後方・側方注意義務違反の過失を認め、前方安全確認義務を怠った被害者に、10%の過失相殺した事例。

 

大阪地裁平成10年12月1日
左端に停車していた被告自動車が発進し、道路中心部に出てきた際、後方を自動二輪車で走行してきた原告がこれを避けようと転倒・衝突した事案。時速20キロの速度超過、酒気帯びのため、適切な回避措置を怠った原告に4割の過失相殺を認めた。現場は駐車禁止場所であるが、被告は一時停止のためその点の考慮なし。合図遅れなし。原告は被告が右に出てくることを予想しつつも通り抜けられると過信した結果の事故。原告側に酒気帯び、速度超過という過失がさらに加わっても4割の過失しか認められていない点に注意したい。

判決の事実認定での重要部分のみ引用する。

「原告は、本件事故当時、原告車両を運転し、時速約60キロメートルで南から北に走行してきたところ、前記交差点の真ん中付近で被告車両が右に出てくるのを発見したが、通り抜けられると考え、そのまま進行したが、被告車両の手前付近まで来た時は、被告車両は既に車道の真ん中付近まで出ていて、被告車両と前記ガードレールとの幅が約1メートルよりなかったため、通り抜けるのは困難となったと判断したため、あわてて急制動の措置を講じ、バランスを崩し、原告車両を転倒させて、原告車両は被告車両と衝突した」との事実認定であり、酒気帯びもあったことから、原告に適切な回避措置を怠ったと認定されている。

 

大阪地裁 平成12年1月11日判決
駐車しようと停車した被告車がハザードランプを点灯したまま発進、一時停車したところへ原告車が追突した事案で、指示器右で発進、停車前にハザード点灯の手順をとらず、後方車両の接近を知りながら停車した被告車に7割の過失相殺を認めた事例。

車椅子事故特有の問題点

ぼくが担当した当該案件は、福岡地裁小倉支部 昭和57年7月28日判決にもみられるように、車両同士なら、過失ゼロが認定されてもおかしくない事案だった。しかし、車椅子は車両ではなくて歩行者扱いなのである。そのために厄介な問題がある。

すなわち、歩行者と同視される車椅子による車道上の事故のばあい、道交法10条2項の規定が問題になる。1項は歩道等と車道の区別のない道路における歩行者の右側通行の原則を掲げ、2項は歩道等がある道路では歩道等通行の原則を掲げている。すなわち、歩行者と同視される車椅子は、歩道があるなら歩道を通行しなければならない。しかし、当該事故は、歩道があったにもかかわらず車道を通行していた。

道交法10条

1歩行者は、歩道又は歩行者の通行に十分な幅員を有する路側帯(次項及び次条において「歩道等」という。)と車道の区別のない道路においては、道路の右側端に寄つて通行しなければならない。ただし、道路の右側端を通行することが危険であるときその他やむを得ないときは、道路の左側端に寄つて通行することができる。

2歩行者は、歩道等と車道の区別のある道路においては、次の各号に掲げる場合を除き、歩道等を通行しなければならない。

一  車道を横断するとき。
二  道路工事等のため歩道等を通行することができないとき、その他やむを得ないとき。

3  略

 
10条2項1号・2号で歩道通行の例外規定、すなわち車道通行が許される場合を設けている。1号が「車道を横断するとき」、2号が「道路工事等のため歩道等を通行することができないとき、その他やむを得ないとき」と規定している。今回のケースは車椅子の被害者が車道を横断しようとしたときに発生したのではない。また、歩道が道路工事等で利用できなかったわけでもない。したがって、2号の「その他やむを得ないとき」に該当するかどうかが問題になる。

「執務資料・道路交通法解説」ではこうなっている。

「その他やむを得ないとき」とは、次に掲げるようなときに、一時車道に立ち入る場合が考えられる。

①風で吹き飛ばされ車道に落下した帽子を拾うとき。
②車道に飛び出した幼児を連れ戻すとき。
③児童が車道に転がり出た球を拾うとき。
④木材、竹竿等長大物件のため歩道等を通行することができないとき。
⑤身体障害者用の車いす又は二輪の車両を押して通行する場合に、歩道の縁石等のため歩道に入ることが困難なとき。(P152・16訂版)


 
いわゆる例示である。⑤「身体障害者用の車椅子又は二輪の車両を押して通行する場合に、歩道の縁石等のため歩道に入ることが困難なとき」としているが、この文章だと車椅子を押して通行する場合という意味にとれる。しかし、それではおかしい。この「押して」は2輪にのみかかるとしないと意味が通らない。車椅子が縁石等のために歩道を通行できず、車道を通行するしかなかった場合ということだろう。

車椅子が快適に利用できる歩道整備がまずなによりも必要だろう

この例外規定が適用されるのは車道への通行が一時的な場合に限定されていることである。歩行者が歩道を歩くことは難なくできるが、車椅子が歩道を移動することがいかに困難なことか。そのことに無頓着な、歩道整備などの道路行政の不備を棚に挙げて、車椅子側にそのことに起因する過失を問うのはどうだろうか。最初に紹介した新聞記事の事故も似たような事情があったのかもしれない。
 
【17・6・18追記】発進車と側方通過車との衝突事故相談を加筆した。
 

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知識とは中立なものであること

ここで注意してほしいのは、情報の正確さもさることながら、その情報(知識)そのものが中立なことです。

昔、東大卒が多い自民党が間違えるはずがないと豪語している自民党支持者に会ったことがあります。ぼくは苦笑するしかありませんでした。たしかに東大卒は勉強をいっぱいしているわけだから、その知識量も多くかつ正確だといえるかもしれません。ただ、知識それ自体はあくまで中立なものであり、どちらにも役に立つ武器なのです。したがって、その正確でたくさんの知識をどちらの側に使うかにある。わかりやすいたとえ話をしてみましょう。

知識は刀という武器と同じ

hitininnno
その昔、武士という職業が存在しました。この武士は帯刀を許された職業のことであり、刀の専門家です。殿様を頂点にして、殿様に雇用され、殿様を守るために武器である刀の技術を日夜みがいていた。

この武器である刀自体は殿様を守るためにも使えるし、農民に加勢して殿様に刃向かうためにも使えます。しかし、悲しいかな、現実は殿様を守るために使われた例が圧倒的に多く、農民に加勢するために使われた例など不幸にしてきわめて少なかった。ごく稀に後者のような武士が現れますが、こういう武士こそ庶民にとっての英雄であり、「七人の侍」はまさにそのようなタイプの武士たちでした。

利益が一致しているか相反しているかが重要

したがって、問題はその使い手自身にあります。使い手がどちらの側に立つかで知識もそれぞれの側の武器になる。そして、その使い手がどちらの側に立つかは双方の利益が一致するか相反するかでふつうは決まってきます。

この、肝心要のことを説明したサイトが皆無といっていいほどにみあたらないのは不思議なことです(というか、あえて否定しているサイトさえいくらでもみつかるくらいです)。

記事を読んでいただければたちどころにわかることですが、当事務所は「立場」を鮮明にしております。あえて鮮明にしているのは、人間や社会に対する見方は、その人自身の立場から自由にはならないからです。中立を装うことは考察を浅くし、論旨を不明確にし、自己を無責任な立場に置くことになる。「立場」のない「立場」などありようがない。当事務所の立場は、ぼく自身が社会的弱者であるため、弱者の立場に徹することです。ぼくのような弱虫は「七人の侍」のようには決してなれないけれど、せめてその心意気だけでも真似して、社会的強者に阿らないようにしたい。そういう気持ちで当サイトをたちあげました。丸山真男のことばを最後に引用しておきます。

丸山真男から

ゲーテは「行動者は常に非良心的である」といっておりますが、私たちが観照者、テオリア(見る)の立場に立つ限り、この言葉には永遠の真実があると思います。つまり完全にわかっていないものをわかったとして行動するという意味でも、また対立する立場の双方に得点と失点があるのに、決断として一方に与するという意味でも、非良心的です。にもかかわらず私たちが生きていく限りにおいて、日々無数の問題について現に決断を下しているし、また下さざるを得ない。純粋に観照者の立場、純粋にテオリアの立場に立てるものは神だけであります。その意味では神だけが完全に良心的であります。

私たちの社会というものは、私たちの無数の行動の網と申しますか、行動の組合せから成り立っております。社会がこうして私たちの行動関連から成り立つ限りにおいて、私たちは行動あるいは非行動を通じて他人に、つまり社会に責任を負っています。その意味では純粋に「見る」立場、ゲーテの言う意味での完全に良心な立場というものは、完全に無責任な立場ということになります。

したがってこの点でも神だけが、完全に無責任でありうるわけであります。認識することと決断することとの矛盾中に生きることが、私たち神でない人間の宿命であります。私たちが人間らしく生きることは、この宿命を積極的に引き受け、その結果に責任を取ることだと思います。この宿命を自覚する必要は行動関連が異常に複雑になった現代においていよいよ痛切になってきたのです。

世のなかには一方では、認識の過程の無限性に目をふさぎ、理論の仮説性を忘れる独断主義者もいれば、またそもそも認識の意味自体を頭から蔑視する肉体的行動主義者がいます。しかし他方その半面では、物事はそう簡単にはイエスかノーかきめられないのだ、もっとよく研究してからでなければなんともいえないという名目の下に、いつも決断を回避することが学者らしい態度だという考え方がかなり強い。

あるいは対立する政治的争点に対して、あれももっとも、これももっとも、逆にそれを裏返しとして、あれもいけない、これもいけないということで、結局具体的な争点に対して明瞭な方向性を打ち出すことを避ける態度をもって、良識的であるとか、不偏不党であるとか考える評論家やジャーナリストもかなりいるようであります。

たびたびゲーテの言葉を引いて恐縮ですが、ゲーテはこういうことをいっています。「自分は公正であることを約束できるけれども、不偏不党であるということは約束できない。」今申しましたような世上いわゆる良識者は対立者に対してフェアであるということを、どっちつかずということと混同しているのではないでしょうか。
「現代政治の思想と行動」丸山真男 P452-454

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