高齢者認知症の交通事故

高齢者の交通事故

軽乗用車が逆走、正面衝突=夫婦死亡、3人けが―石川県警

2013年に小松市内で発生した事故である。小松市は地元なので事故現場がどういうところなのか、およその想像がつく。ところで、「逆走と聞くと条件反射的に高齢者が運転していたんだろうと思ったが、やはり80歳のじいさんだった。「逆走」ではないが、高齢者の事故で大変印象に残っている事故があったことを思い出した。下図がそのときの事故現場である。

交通事故があってもわからない

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車と自転車の接触事故だった。車を運転していたのがこれも80歳のじいさん、助手席に奥さんが乗っていた。被害者は自転車に乗っていた60代のおばちゃんだった。接触事故の結果、60代のおばちゃんが転倒し、頭部を強打。傷病名は脳挫傷、高次脳機能障害だった。

被害者は高次脳機能障害だった

高次脳機能障害といっても知らない人がほとんどだろう。かなり厄介な傷病で、一見してもわからないレベルから、最悪の場合は四肢麻痺を伴ったり、人格自体が変わってしまうのまでいろいろある。ぼくが担当した中で一番ひどかったのが病室で自分の大便をいじったり自慰行為にふける老人のケースだ。問題があることを承知の上で言うが、四肢麻痺で身体の自由が利かないというのは管理がかえってしやすい。逆に、身体が自由で人格が豹変した場合だと、動き回ることができるから24時間の看視が必要になる。何をしでかすかわからないからである。特に火災に注意しなければいけない。だから、そういった場合は閉鎖病棟のある精神病院送りになると聞いたことがある。

被害者だけでなく家族も不幸になる

今回のケースは、ぼくが病室に被害者のおばちゃんを見舞ったとき、身体は何一つ不自由でなかったのだが、意味不明の言葉をまるで機関銃掃射のごとく発し続け止まらない状態だった。そばにいたご主人と息子さんは途方にくれていた。ぼくにむかって「助けてください、なんとかしてください」と懇願するばかりだった。「やるだけはやってみます」とぼくは答えるしかなかった。

「やるだけはやってみます」という意味は、高次脳機能障害をぼくが治すという意味ではもちろんない。実をいうと、加害者である80歳のじいさんは接触した記憶がないと言い張っていたのである。したがって、「なんとかしてください」というのは、今回の受傷が車との接触事故によるものだったという因果関係を何とか判明させてほしいという意味だった。

もし車の接触による転倒でなく、自分で勝手に転倒したということなら、加害者の車の保険は一切きかないことになる。つまり、治療費だけでなく、将来の看視費用もふくめてすべて自費ということになる。ただでさえのっぴきならぬ事態なのに、賠償金も支払われないとしたら一家離散という暗い将来が容易に想像できそうだった。しかし、ぼくは加害者側の人間である。事故との因果関係を肯定すれば、それはすなわち加害者の莫大な損害賠償責任を認めることになる。ああ、困ってしまった。

事故状況

その後、加害者である80歳のじいさんとは事故現場で事情を聞くことになった。現場(上図)は信号のない交差点で、見通しは非常によかった。くだんのじいさんの話では、交差点に進入する前、一時停止をし、左右の確認をした上で発進したという。そのときは右方側も十分確認したが、自転車はいなかった。それで発進し交差点を通過して3~4m進んだところ、後方でガチャンという音がした。後ろを振り返ると自転車が倒れていた。それで停車した。しかし、自分の車とは一切接触していないと言い張った。あのとき停まったから加害者扱いにされた。停まらずそのまま行ってしまえばよかった。同乗していた奥さんも接触していないと言い張り、災難だ、相手は言いがかりを付けているに違いないとぼくに主張した。

老夫婦の主張を一通り聞いたあとぼくは質問した。事故前自転車は見ていないと言うが、現場は見通しがいいし、進行方向からみて、事故前、自転車は右方交差道路の歩道上にいたはずで、「いなかった」ということはありえない話だ。にもかかわらず、「いなかった」はずの自転車があなたの後方で倒れたわけである。ということは、自転車が天から降ってでもこないかぎりありえない話ではないか。単に自転車を見落とし、その結果、自転車と接触したのではないのか。

ところが、そんなことはありえない。接触したなら音がするはずだが、そんな音も聞いてない。接触したというのならこの車のどこに接触したというのか。たしかに、この車のどこに接触したのかぼくはわからなかった。傷がないからでない。傷だらけの車で特定のしようがなかったからである。

この老夫婦がこのように事故との関係を否定しているため、警察も当初は交通事故なのかどうか不明という捜査状況だった。保険会社も契約者が接触していないと主張しているため、支払うつもりはまったくなかった。

今回の転倒が交通事故によるものなのかどうかを最終的に決定するのは警察である。しかし、なかなか捜査が終了しない。停滞している捜査を促すためにぼくはもう一度訪問することにした。それともう一つ目的があった。現場でわかったある事情を警察へ報告するためであった。

交通事故に潜んでいたある事情

「ある事情」というのは、、事故現場で事情を聞いていたあのじいさんにはどうも変なところがあったからである。現場で事情を聞いているとき、あのじいさんはよろよろと道路の真ん中まで平気で出ることが何度もあった。そのたびに走行中の車を停止させる。危なかしくてみてられなかった。さらに、歩く際もふらふらしており、事故状況を説明する際も取りとめがないような話しっぷりだったのだ。それで、何気なく奥さんに聞いたら、実をいうと認知症だというのだ。過去にも事故を何度か起こしており、子供たちもじいさんにもう運転を止めたらと言っていたのだそうだ。とはいっても、車がないと買い物にもいけんから・・・とその奥さんはこぼした。

ぼくはその話を聞いたとき、今回の事故は車の接触によるものだと確信した。そのことをぜひとも警察の担当官に話しておきたかったのだ。

そういう話が奏功したのかどうかはわからない。しかし、最終的には、車の右サイドミラーと自転車が接触した事故だということで捜査は終了した。たしかに右サイドミラーに引っかき傷のようなものが何本かついていた。自転車は警察で保管されていたので、たぶんうまく照合できたのだと思う。

認知症による交通事故

ところで、認知症である高齢者による交通事故について少し説明したい。下の図は70歳から74歳までの高齢者のドライバー数の推移と免許保持率である。保持率は高止まりしているし、高齢者ドライバー数も2020年まで増え続ける。その結果、高齢者を被害者とする事故も増えるだろうし、今回のような加害者とする事故も増えるだろう。特に問題になるのが認知症を原因とする交通事故だ。ここ数年は、増えることはあっても減ることはないだろう。

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認知症といっても3つのタイプがある。アルツハイマー病、ビック病、血管性認知症である.下の図は、それぞれのタイプ別に、クルマを運転するときにどういう支障があるのかを表したものである。くだんのじいさんがどのタイプなのかはわからない。しかし、認知症患者にクルマを運転させることがいかに危険なことなのかがわかるだろう。

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また、認知症患者にどれくらいの割合で交通事故が実際に発生したのか調査した記録がある。以下の表がその結果である。認知症患者83名中34名つまり全体の実に41%が交通事故を起こしていた。

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認知症に対するガイドラインについて。
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道交法改正

その結果、平成21年6月1日施行の道交法改正により、免許更新時に75歳以上の高齢者に対して予備検査が実施されることになった。認知症対策である。予備検査の内容は、時間の見当識(検査時における年月日・曜日・時間を認識できるか調べる)・手がかり再生(イラストを記憶し、一定の時間をおいてその記憶を回答させる)・時計描画(時計の文字盤と指定された時刻の針を描画させる)である。その検査でもし認知症だと判断されたり疑いがもたれた場合は免許の取消あるいは停止措置を講じることになった。

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さらに、新たな道交法の改正案が、昨年6月11日に成立し、2017年から施行予定である。改正内容は、

●75歳以上の場合、3年に1度の免許更新時に、認知機能の検査を実施する。
●「認知症の疑いあり」と判断された人全員に医師の診断義務が発生。
●発症していたら免許を停止または取り消し。

自己責任ですませる問題だろうか

こういった措置は現状やむをえないと思う。しかし、都会はいざしらず、田舎だとバスや電車などの公共交通機関がほとんどなくなっているのが現状だ。

ぼくの住む田舎も市の総合病院に行こうと思ってもバス便があまりない。いわゆる民営化の流れで自動車がないと病院はおろかちょっとした買い物さえできなくなっているのだ。その最大の被害者はこれら高齢者や通学をする子供たちである。だから、個々の高齢者を非難するというのはやっぱりおかしい。国の無策の犠牲者なのだといえるだろう。自動車の総量規制と公共交通機関の復活・整備が必要だとぼくは思う。
 
(引用と参考)
「認知症と自動車運転」(高知大学医学部・上村直人他著)

「家族介護者のための支援マニュアル」(国立長寿医療センター・荒井由美子著)

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突然、交通事故にあわれた被害者は、怪我をされたり、車を破損などされたりして大変なことです。その損害の賠償をしてもらうために、これから、加害者そして加害者側の損保担当者を相手に示談交渉を進めなければならなくなります。しかし、交通事故は人生でそう何度も経験するわけではありません。なにをどのようにしたらいいのか途方に暮れてしまうのがふつうです。

ところが、事故被害者がまず相手にするのが加害者であり、そして、実際は加害者側損保の担当者です。損保の担当者はそのことで生計を立てているいわばプロであり、百戦錬磨で鍛えた知識と経験があります。かたや、知識も経験もほとんどない事故被害者。そんな素人がプロ相手にどのように交渉していったらいいのでしょうか。

交通事故に詳しい弁護士が知人にいるような幸運な方は別にして、たいていの方は途方に暮れてしまうことでしょう。一昔前は、素人とプロの交渉ごとということにふつうはなって、プロの思い描くストーリーどおりに押し切られるのがふつうでした。しかし、ネットが発達した現在、示談交渉を進める上での情報がネットを検索すればあふれかえっています。が、その情報は正しいものもあれば正しくないものもある。玉石混淆です。それらの情報に接した事故被害者にとって、どの情報が正しくて信頼できるのかがまずわかりづらいし、自分だけでは手に負えなくて、調査や交渉ごとをだれかに任せることも時に必要になってきます。が、ネット上には、われこそは事故被害者のためだと謳っているものばかりなので、実際にいったいだれを信頼したらいいのかわかりません。

知識とは中立なものであること

ここで注意してほしいのは、情報の正確さもさることながら、その情報(知識)そのものが中立なことです。

昔、東大卒が多い自民党が間違えるはずがないと豪語している自民党支持者に会ったことがあります。ぼくは苦笑するしかありませんでした。たしかに東大卒は勉強をいっぱいしているわけだから、その知識量も多くかつ正確だといえるかもしれません。ただ、知識それ自体はあくまで中立なものであり、どちらにも役に立つ武器なのです。したがって、その正確でたくさんの知識をどちらの側に使うかにある。わかりやすいたとえ話をしてみましょう。

知識は刀という武器と同じ

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その昔、武士という職業が存在しました。この武士は帯刀を許された職業のことであり、刀の専門家です。殿様を頂点にして、殿様に雇用され、殿様を守るために武器である刀の技術を日夜みがいていた。

この武器である刀自体は殿様を守るためにも使えるし、農民に加勢して殿様に刃向かうためにも使えます。しかし、悲しいかな、現実は殿様を守るために使われた例が圧倒的に多く、農民に加勢するために使われた例など不幸にしてきわめて少なかった。ごく稀に後者のような武士が現れますが、こういう武士こそ庶民にとっての英雄であり、「七人の侍」はまさにそのようなタイプの武士たちでした。

利益が一致しているか相反しているかが重要

したがって、問題はその使い手自身にあります。使い手がどちらの側に立つかで知識もそれぞれの側の武器になる。そして、その使い手がどちらの側に立つかは双方の利益が一致するか相反するかでふつうは決まってきます。

この、肝心要のことを説明したサイトが皆無といっていいほどにみあたらないのは不思議なことです(というか、あえて否定しているサイトさえいくらでもみつかるくらいです)。

記事を読んでいただければたちどころにわかることですが、当事務所は「立場」を鮮明にしております。あえて鮮明にしているのは、人間や社会に対する見方は、その人自身の立場から自由にはならないからです。中立を装うことは考察を浅くし、論旨を不明確にする。「立場」のない「立場」などありようがない。当事務所の立場は、ぼく自身が社会的弱者であるため、弱者の立場に徹することです。ぼくのような弱虫は「七人の侍」のようには決してなれないけれど、せめてその心意気だけでも真似して、社会的強者に阿らないようにしたい。そういう気持ちで当サイトをたちあげました。よろしくです。

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