第三者行為手続の問題点

はじめに

「交通事故診療と損害賠償実務の交錯」という本の中に、表題にある「第三者手続の問題点」という論文がある。ぼくの知らないことがけっこう書いてあっただけでなく、かなり重要な指摘を含むものなので、ぜひご紹介したい。
 

第三者行為手続とは

保険調査員にとってはごくふつうにある調査のひとつに、この第三者行為手続というのがある。健康保険への切り替え手続、つづめて「健切り」とぼくらは言っていた。ぼくも、何回というか、何十回この手続をやったかしれない。

第三者行為手続というのは、交通事故で負傷した人が病院で治療をうけているときに、当初、自由診療で受けていたものをその人の健康保険を使った診療に変更するための手続のことである。健康保険は、歯が痛かったとか、ぼくは風邪では病院へ行かないが、風邪を引いたとか、喘息のときだとかなどで病院に行くときにふつう使う。第三者から風邪を移されたとしても、第三者のだれから、どういう因果関係を通して移されたのかの立証がたいへんだ。

したがって、この第三者行為手続というのは第三者によって怪我をさせられたことが立証可能なときにとられる手続のことであり、だから第三者行為手続というのだろうけれど、交通事故受傷がその典型例である。したがって、この手続は、健康保険に切り替えることによって、保険組合などの保険者がいったん治療費を立て替えるなどした後、第三者である加害者側に立替分を請求するための求償権が保険者にあることを手続的に保証することが目的である。

調査会社が行う第三者手続について

当初は事故被害者の承諾を含めてその手続の代行を保険調査員がやっていたが、その後、被害者の承諾を保険調査員がやることはいわゆる非弁行為にあたることから、被害者の承諾は損保担当者がやり、その後の手続を保険調査員がやるというふうに役割の分担をするようになった。

とはいえ、実際のところはアイマイで、こちらは、承諾がすでに済んでいるものと思って第三者行為の届出の書面を持参して事故被害者にお会いすると、いや、そんな承諾はしていないとか、電話でわけのわからない説明を保険会社から一方的に受けただけだとかとなって、ときにトラブルになることがあった。その後、社会保険労務士の資格のある保険調査員が専属でやるようになったので、ぼくにはまったくお声がかからなくなった。

第三者行為手続の問題の所在

先に紹介した本(P70‐78)から、第三者行為手続きのどこに問題があるのかを引用したい。
交通事故にあい受傷した場合に、日本には2つの公的保険がある。ひとつが自賠責保険、もうひとつが公的医療保険である。

制度本来の趣旨からすれば、自動車事故の被害者の医療費は、自賠責保険(及び民間の自動車保険)によってカバーされるのが筋である。ただし、実際は、被害者がいったん公的医療保険を使用することも制度的に可能となっている。その場合、事後的に公的医療保険の保険者から自賠責保険の保険者に求償行為がなされることによって、保険者間での財政調整がなされる仕組みである。

 
そのために必要になるのが、この第三者行為手続である。
 

この第三者行為手続のプロセスに問題がある。現実には、「第三者行為による傷病届」が被害者によって出されないケースがあるためだ。それゆえに、本来費用負担しなくてもよいはずの公的医療保険者が最終的な費用負担をしてしまっているケースが存在する。

 
「第三者行為による傷病届」が被害者によって出されないケースというのは、どういう場合だろうか。事故被害者が自ら進んで健康保険を使ったにもかかわらず「第三者行為による傷病届」を出さなかったというのはちょっと考えにくい。たいていは、自分の健康保険をどうして使わないといけないのかと文句を言われるからである。相手保険会社が言う前に、自分から進んで健康保険を使うなどというのは、ぼくは聞いたことがない。

したがって、たとえば自賠責の120万円の枠内で納まりそうなケースで任意保険会社の介入がなかったばあいとか、被害者の過失が100のばあいとか、任意保険会社が事故との因果関係を否定しているばあいとかだろう。そのため、事故被害者が健康保険を使うしかなくなったが、「第三者行為による傷病届」の提出を怠ったばあいというのが考えられる。また、この本で指摘されていることだが、治療打切りによる健康保険の使用が原因であるとしている。
 

このような制度運用のもとでは、自賠責保険を管理運営する保険会社が自動車事故被害者の診療費負担において最初は自賠責保険を使わず公的医療保険を利用させよとするインセンティブを持つことは避けられない。

 
健康保険組合などの保険者へ第三者行為手続がされていないためそのことを知らないことから、加害者ひいては加害者側保険会社への求償が事実上できないという主張であり、本来負担すべき立場の保険会社がそのことによって得をしているとみなされている。その額が年間118億円になるという。そして、こういう医療関係者の言葉を引用している。
 

自賠責も任意保険も財政運営は民間保険会社がコントロールしている。患者さんは症状があると言うのに、保険会社からの医療費の支払いが打ち切られるケースがめずらしいことではない。打ち切られたとしても症状があれば、当然、公的医療保険で診ることになる。特に、民間保険会社にとっては任意保険がドル箱であり、自賠責の範囲(傷害の上限120万円)を超えると途端に医療費の支払いを打ち切るべく、法的手段も交えて交渉に来る。

「第三者行為の実戦ノート」から

以上述べたことについて、「第三者行為の実戦ノート」という古い本だがそちらがよりわかりやすくかつ詳細なので、第三者行為手続の基本的なこと、わかりづらいことをそこから引用することで補足していきたい。

健康保険には公務員用のものと一般企業向けのものと、自営業などに向けたものが知られている。以下の表にその区分を示した。
 
【「第三者行為の実戦ノート」より】

健康保険の区分
健康保険健康保険
国民健康保険
船員保険
日雇労働者健康保険
国家公務員共済組合
地方公務員等共済組合

 

第三者行為求償制度とは、被保険者が第三者によって負傷又は死亡した場合において、保険者が行う保険給付と被保険者が第三者に対して有する損害賠償請求権との調整のために設けられた法的制度である。(P9)

 

立法目的としては、・・・
①二重利得の禁止
②不法行為(注:債務不履行責任も)責任を免責しないこと
③公平性の確保と財源の確保(P13)

 

損害賠償請求権を代位取得するための要件
①給付原因が第三者の行為に起因していること。
②第三者行為に関し保険給付を行ったこと。
③第三者行為に関し当該被保険者の第三者に対する損害賠償請求権が消滅していないこと。(P19)

 
(追記予定)

第三者行為の届出の書面

①「交通事故、自損事故、第三者(他人)等の行為による傷病(事故)届」
②「負傷原因報告書」
③「事故発生状況報告書」
④「念書」
⑤「損害賠償金納付確約書・念書」「損害賠償金納付確約書」
⑥「同意書」
協会けんぽHPより】
 
daisannsyakoui01
 
daisaannsyakoui02
 
daisannsyakoui03
 
daisannsyakoui04
 
daisannsyakoui05
詳細は協会けんぽHPにリンクを貼ってあるのでそちらで確認していただくとして、
かんたんな説明を加える。

②の「負傷原因報告書」は、ぼくが調査員だったころはなかった書類である。労災事故を排除するために必要な書類のようだ。

④の被害者の「念書」は、勝手に示談をしたり、加害者から金銭を受けとらないようにするための念書である。保険者(健康保険組合など)が被害者に代わって治療費を病院に支払ったばあいに勝手に加害者と被害者が示談などしてしまうと、保険者が加害者に立替分を請求できなくなる恐れがあるから、それを排除するために差し入れる書面である。

⑤の加害者の「誓約書」は、加害者側保険会社がこの手続を代行している場合、提出しなくてもいい書面である。

⑥の書面はレセプトの写しを保険者が請求する際の同意書のようである。こういう書面はまったく見たことがない。こんなのあったけぇかなあ。以前はなかった書面である。

このように、とにかく提出しなければならない書面がやたら多くて、事故被害者は戸惑うことだろう。が、現在はネットが普及しているので、その書き方を解説しているサイトなどすぐにみつけることができる。

健康保険に切り替えることに保険会社が積極的なわけ

病院で治療するとふつうは健康保険が適用されるが、自由診療というときもある。歯医者に行くと自由診療でやりますか、それとも健康保険でやりますかと聞かれるから、みなさんもご存知だろう。

自由診療は1点が20円である。ところが健康保険に切り替えると1点が10円になる。保険点数が500点だとする。1点が20円なら、500×20なので、病院は治療費を10000円請求できる。が、10点なら500×10なので5000円しか請求できない。つまりは、健康保険を使うことで、病院の治療費を半分に圧縮できるから保険会社が大いに得をする。加害者側保険会社は病院への支払を半分に減らすことができるのである。逆からいうと、病院側の儲けが半減してしまうことにもなる。そのため、保険会社と病院とで、いざこざになることが多い。たとえば、「交通事故診療」という、医療機関向けに書かれた本でもこんなことが書かれている。
 

軽症で通院だけで済む場合は、自賠責の120万円の枠内で収まってしまう場合が多いから保険会社は健康保険の切り替えを求める実益がないため限度枠にとどまるかぎり、健康保険を使ってほしいとは言ってこない。が、入院を要するような重症の場合は120万円の枠内で収まるはずがないから、この手続を最初から求めてくる。

 

この問題解けますか

損害保険の法律相談〈1〉自動車保険 (最新青林法律相談) という本が最近出版された。版元で内容を確認したら、この本の中に「第三者行為災害による代位請求」という欄があって、そこに以下のことが書いてあった。

私は,普通自動二輪を運転し,信号機により交通整理の行われている交差点を青信号に従って直進していたところ,Aさんの運転するAさん所有車両が急に右折してきたため事故となり,外傷性クモ膜下出血で入院しました。AさんはY保険会社と自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)契約を締結していましたが,任意保険には加入していませんでした。私は,健康保険を使って治療費を支払い,退院後,Y保険会社に対し,自動車損害賠償保障法(自賠法)16条1項に基づき被害者請求を行いました。私の傷害部分の損害は,自己負担分の治療費,入院雑費,交通費,慰謝料 等総額300万円であり,自賠責保険の傷害限度額120万円全額が支払われるものと思っていました。ところが,Y保険会社は,私の加入しているZ健康保険組合から200万円分の治療費に関する求償請求がなされたことを理由に,120万円全額は支払えない,案分した金額しか支払えないと回答してきました。案分されてしまうのでしょうか。

 

回答

追記予定
 

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当事務所の立場

突然、交通事故にあわれた被害者は、怪我をされたり、車を破損などされたりして大変なことです。その損害の賠償をしてもらうために、これから、加害者そして加害者側の損保担当者を相手に示談交渉を進めなければならなくなります。しかし、交通事故は人生でそう何度も経験するわけではありません。なにをどのようにしたらいいのか途方に暮れてしまうのがふつうです。

ところが、事故被害者がまず相手にするのが加害者であり、そして、実際は加害者側損保の担当者です。損保の担当者はそのことで生計を立てているいわばプロであり、百戦錬磨で鍛えた知識と経験があります。かたや、知識も経験もほとんどない事故被害者。そんな素人がプロ相手にどのように交渉していったらいいのでしょうか。

交通事故に詳しい弁護士が知人にいるような幸運な方は別にして、たいていの方は途方に暮れてしまうことでしょう。一昔前は、素人とプロの交渉ごとということにふつうはなって、プロの思い描くストーリーどおりに押し切られるのがふつうでした。しかし、ネットが発達した現在、示談交渉を進める上での情報がネットを検索すればあふれかえっています。が、その情報は正しいものもあれば正しくないものもある。玉石混淆です。それらの情報に接した事故被害者にとって、どの情報が正しくて信頼できるのかがまずわかりづらいし、自分だけでは手に負えなくて、調査や交渉ごとをだれかに任せることも時に必要になってきます。が、ネット上には、われこそは事故被害者のためだと謳っているものばかりなので、実際にいったいだれを信頼したらいいのかわかりません。

知識とは中立なものであること

ここで注意してほしいのは、情報の正確さもさることながら、その情報(知識)そのものが中立なことです。

昔、東大卒が多い自民党が間違えるはずがないと豪語している自民党支持者に会ったことがあります。ぼくは苦笑するしかありませんでした。たしかに東大卒は勉強をいっぱいしているわけだから、その知識量も多くかつ正確だといえるかもしれません。ただ、知識それ自体はあくまで中立なものであり、どちらにも役に立つ武器なのです。したがって、その正確でたくさんの知識をどちらの側に使うかにある。わかりやすいたとえ話をしてみましょう。

知識は刀という武器と同じ

hitininnno
その昔、武士という職業が存在しました。この武士は帯刀を許された職業のことであり、刀の専門家です。殿様を頂点にして、殿様に雇用され、殿様を守るために武器である刀の技術を日夜みがいていた。

この武器である刀自体は殿様を守るためにも使えるし、農民に加勢して殿様に刃向かうためにも使えます。しかし、悲しいかな、現実は殿様を守るために使われた例が圧倒的に多く、農民に加勢するために使われた例など不幸にしてきわめて少なかった。ごく稀に後者のような武士が現れますが、こういう武士こそ庶民にとっての英雄であり、「七人の侍」はまさにそのようなタイプの武士たちでした。

利益が一致しているか相反しているかが重要

したがって、問題はその使い手自身にあります。使い手がどちらの側に立つかで知識もそれぞれの側の武器になる。そして、その使い手がどちらの側に立つかは双方の利益が一致するか相反するかでふつうは決まってきます。

この、肝心要のことを説明したサイトが皆無といっていいほどにみあたらないのは不思議なことです(というか、あえて否定しているサイトさえいくらでもみつかるくらいです)。

記事を読んでいただければたちどころにわかることですが、当事務所は「立場」を鮮明にしております。あえて鮮明にしているのは、人間や社会に対する見方は、その人自身の立場から自由にはならないからです。中立を装うことは考察を浅くし、論旨を不明確にする。「立場」のない「立場」などありようがない。当事務所の立場は、ぼく自身が社会的弱者であるため、弱者の立場に徹することです。ぼくのような弱虫は「七人の侍」のようには決してなれないけれど、せめてその心意気だけでも真似して、社会的強者に阿らないようにしたい。そういう気持ちで当サイトをたちあげました。よろしくです。

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