椎間板ヘルニアを例にして、外傷性であることの立証が困難な場合の対処法

椎間板ヘルニアが外傷性であることを立証するのはハードルが高い

椎間板ヘルニアは変性疾患すなわち加齢性疾患に通常分類される。ただし、例外的に外傷でなる場合もある。外傷でなったと立証しようとした場合の要件は異常に高い。まず40歳を超えた人にはとても越えられないくらいの高いハードルが設定されている。

損保査定者用に書かれた「医療費点検ハンドブック」(保険毎日新聞社)では、以下の9つの条件のうちの6つ以上に該当した場合は外傷性であるとしている。この本の説明に、ぼくなりの補足を加えると、

1.担当医が専門医であること。
2.画像所見があり、ヘルニアを呈するのが1~2椎間に限られること。
3.圧迫された神経の支配領域に神経学的異常所見が認められること。
4.椎間板の変性の少ないこと(MRI上、輝度変化が少ないこと)。
5.同年齢の者の椎間板の一般的状況と比較して経年性変化が年齢相応以下であること。あるいは35歳以下であること。
6.受傷機転での外力が強いこと。
7.受傷直後から神経症状が発現していること。
8.その後の症状の推移として、たとえば術直後の改善が良好なこと。
9.事故前に腰部に症状がなかったこと、あるいは治療歴や外傷歴がなかったこと。

 
他に、該当部位に骨棘や椎間板狭小化があるかどうかも気になるところです。
 
01-11
 

もし、この外傷性要件を満たさない場合は、すべて事故との因果関係なしとなって、救済の対象からシャットアウトしてしまうと、世の椎間板ヘルニア患者のほとんどは泣くしかないだろう。

そのため、裁判実務ではその要件を緩和している。すなわち、事故前に症状がなく、事故(軽微事故を除く)直後に症状が発現したなら、事故との因果関係を認めるとしているのだ。

裁判所のこの問題に対する傾向

孫引きになるが、交通事故判例速報No522(交通春秋社)の弁護士の西川先生の論文によると、椎間板ヘルニアで事故前に症状がなかった事例では、事故前からの「疾患」の立証が難しく、結果として素因減額の主張が認められないことが多いが、椎間板周辺の経年劣化を示す画像所見が存在し、しかも被害者に生じた受傷が事故により通常生じる程度のものを大きく超えるという場合には素因減額を認めるのが裁判例の傾向であるとしている。

すなわち、事故前の症状がないのなら、事故との因果関係が認められることを前提にしたうえで、「事故前に症状がなかった事例では、事故前からの「疾患」の立証が難しく結果として素因減額の主張が認められないことが多い」ということなのである。

外傷性であることにあまりこだわってはいけない

椎間板ヘルニアの被害者の中には、主治医に傷病名を「外傷性椎間板ヘルニア」などと「外傷性」をつけてもらえるように頼んだり、意見書などで「原因は事故である」と書いてもらうよう頼んだりする例があるが、主治医は、事故前のことをふつう知らないし、事故直前にMRIを撮っていたというような偶然でもないかぎり、そのような頼みは一切応じないのがふつうである。

仮に事故前のことを知らないにもかかわらず「事故が原因である」と書いてしまうと、ひどいばあいは虚偽だとみなされるし、そうでないとしても、事故が原因であることを、では立証していただきましょうということになる。椎間板ヘルニアの原因が外傷性だということを立証するのは高いハードルが設定されているため、そのハードルを越えられないと、外傷性でなかったということになり、事故との因果関係そのものを否定されかねないリスクを負うことになる。したがって、医師にこの種の依頼をするのはやめたほうがいいだろう。

立証できる自信のある人は別にして、そうでない人で事故前に症状のなかった人は、この外傷性要件にあまりこだわらないほうがいいと思う。

すなわち、外傷性であることを立証する必要はなく、加齢的変化は事故前からあったが症状はなかったこと、事故直後に発症したことを立証すれば足りるのだ。そのために過去の受診歴を示したり、主治医に事故前と事故後の日常生活上の支障内容の違いを具体的に説明し、それを意見書に反映させることである。そちらに集中したほうが、立証の負担はよほど軽い。

加齢性疾患に応用が可能(肩関節周囲炎を例に)

これは椎間板ヘルニアに限らず、加齢的変化を原因とすると評価されがちな傷病に応用が可能なことである。たとえば肩関節周囲炎について以下の裁判例を紹介する。

高松高裁 平成11年2月16日判決
傘をさして片手運転の自転車がふらついて後方からの乗用車に衝突され転倒した46歳主婦が一審ではRSDの後遺症を残し、終生右上肢運動障害等60%の労働能力喪失を認められたが、二審では右手も使用しての自転車走行が可能であり、これを否認、12級の右肩関節運動制限として10年間14%喪失で逸失利益を認定した事例である。

 

当判決の、本件交通事故と被控訴人の右肩関節周囲炎との相当因果関係の箇所を引用する。

被控訴人は、本件交通事故後に右肩関節周囲炎に罹患したものであり、本件交通事故以前に既に右疾患に罹患していたものではないといえる。

すなわち、A鑑定などによると、被控訴人は本件交通事故により、右肩、頸、腰部の打撲を受けたことが認められる。ところが、A鑑定人は、本件交通事故以前に被控訴人が右肩関節周囲炎に罹患し、それに基づく症状があったかのように証言する。しかし、右証人は、被控訴人のレントゲン所見から推測して、右証言をしているのであるから、これをにわかに採用することができない。

B証人によると、肩関節周囲炎を窺わせるレントゲン所見がみられても、必ずしも同疾患が発症し、症状が存在していたとはいえないとしている。そうであるから、 本件交通事故以前には、被控訴人は右肩関節周囲炎に罹患していなかったものというべきである。

肩関節周囲炎は、外傷性でない場合もあるが、外傷性を原因とする場合もある。しかし、肩関節周囲炎が、外傷等により、外力が直接又は間接的に肩に加わることによって発症することも明らかである。そうであるから、被控訴人の右肩関節周囲炎の発症機序について、本件交通事故によって引き起こされた外傷性のものであるとみるのが相当である。

すなわち、被控訴人の右肩関節周囲炎は、外傷性肩関節周囲炎ともいうべきものである。したがって、本件交通事故と右肩関節周囲炎との間には、相当因果関係があるというべきである。

 
この判決では外傷性であることを最終的に認定しているが、決め手は事故前症状がなかったことと、事故直後に発症したことから、事故による外傷性だと「擬制」していることである。外傷であることそのものの立証ができなくても、事故の前に発症していなかったこと、事故直後に発症したことが立証できれば、その間の、事故時に受傷したのだとするものである。

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知識は刀という武器と同じ

hitininnno
その昔、武士という職業が存在しました。この武士は帯刀を許された職業のことであり、刀の専門家です。殿様を頂点にして、殿様に雇用され、殿様を守るために武器である刀の技術を日夜みがいていた。

この武器である刀自体は殿様を守るためにも使えるし、農民に加勢して殿様に刃向かうためにも使えます。しかし、悲しいかな、現実は殿様を守るために使われた例が圧倒的に多く、農民に加勢するために使われた例など不幸にしてきわめて少なかった。ごく稀に後者のような武士が現れますが、こういう武士こそ庶民にとっての英雄であり、「七人の侍」はまさにそのようなタイプの武士たちでした。

利益が一致しているか相反しているかが重要

したがって、問題はその使い手自身にあります。使い手がどちらの側に立つかで知識もそれぞれの側の武器になる。そして、その使い手がどちらの側に立つかは双方の利益が一致するか相反するかでふつうは決まってきます。

この、肝心要のことを説明したサイトが皆無といっていいほどにみあたらないのは不思議なことです(というか、あえて否定しているサイトさえいくらでもみつかるくらいです)。

記事を読んでいただければたちどころにわかることですが、当事務所は「立場」を鮮明にしております。あえて鮮明にしているのは、人間や社会に対する見方は、その人自身の立場から自由にはならないからです。中立を装うことは考察を浅くし、論旨を不明確にし、自己を無責任な立場に置くことになる。「立場」のない「立場」などありようがない。当事務所の立場は、ぼく自身が社会的弱者であるため、弱者の立場に徹することです。ぼくのような弱虫は「七人の侍」のようには決してなれないけれど、せめてその心意気だけでも真似して、社会的強者に阿らないようにしたい。そういう気持ちで当サイトをたちあげました。丸山真男のことばを最後に引用しておきます。

丸山真男から

ゲーテは「行動者は常に非良心的である」といっておりますが、私たちが観照者、テオリア(見る)の立場に立つ限り、この言葉には永遠の真実があると思います。つまり完全にわかっていないものをわかったとして行動するという意味でも、また対立する立場の双方に得点と失点があるのに、決断として一方に与するという意味でも、非良心的です。にもかかわらず私たちが生きていく限りにおいて、日々無数の問題について現に決断を下しているし、また下さざるを得ない。純粋に観照者の立場、純粋にテオリアの立場に立てるものは神だけであります。その意味では神だけが完全に良心的であります。

私たちの社会というものは、私たちの無数の行動の網と申しますか、行動の組合せから成り立っております。社会がこうして私たちの行動関連から成り立つ限りにおいて、私たちは行動あるいは非行動を通じて他人に、つまり社会に責任を負っています。その意味では純粋に「見る」立場、ゲーテの言う意味での完全に良心な立場というものは、完全に無責任な立場ということになります。

したがってこの点でも神だけが、完全に無責任でありうるわけであります。認識することと決断することとの矛盾中に生きることが、私たち神でない人間の宿命であります。私たちが人間らしく生きることは、この宿命を積極的に引き受け、その結果に責任を取ることだと思います。この宿命を自覚する必要は行動関連が異常に複雑になった現代においていよいよ痛切になってきたのです。

世のなかには一方では、認識の過程の無限性に目をふさぎ、理論の仮説性を忘れる独断主義者もいれば、またそもそも認識の意味自体を頭から蔑視する肉体的行動主義者がいます。しかし他方その半面では、物事はそう簡単にはイエスかノーかきめられないのだ、もっとよく研究してからでなければなんともいえないという名目の下に、いつも決断を回避することが学者らしい態度だという考え方がかなり強い。

あるいは対立する政治的争点に対して、あれももっとも、これももっとも、逆にそれを裏返しとして、あれもいけない、これもいけないということで、結局具体的な争点に対して明瞭な方向性を打ち出すことを避ける態度をもって、良識的であるとか、不偏不党であるとか考える評論家やジャーナリストもかなりいるようであります。

たびたびゲーテの言葉を引いて恐縮ですが、ゲーテはこういうことをいっています。「自分は公正であることを約束できるけれども、不偏不党であるということは約束できない。」今申しましたような世上いわゆる良識者は対立者に対してフェアであるということを、どっちつかずということと混同しているのではないでしょうか。
「現代政治の思想と行動」丸山真男 P452-454

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