肩腱板断裂の後遺障害

腱板断裂に関する疫学調査

肩腱板断裂に関する後遺障害についてのご相談をいただいたばかりだ。この後遺障害については注意したいことがある。腱板断裂に関する後遺障害を考える上での前提知識としてできれば知っておいたほうがいいことがあるので、まずはそのことから書き始めたい。

腱板断裂については有名な疫学調査がある。私がときどき訪問する整形外科医のサイトでつい最近記事にしていたくらいだからあまり知られていないのかもしれないが、よく引用される重要な疫学調査である。これを知っていると知っていないのとでは、後遺障害への認定への取り組み方が違ってくるだろう。疫学調査は、「肩腱板断裂の診療」2011年3月号(全日本病院出版会発行)で紹介されている。

発行元の「全日本病院出版会」HPでは、このように紹介されていた。

腱板断裂の疫学―症候性断裂と無症候性断裂― 山本 敦史
群馬県の山村において症状の有無に関わらない腱板断裂の疫学を調査した.50歳以上の一般住民のおよそ1/4に腱板完全断裂が存在し,そのうちの2/3は無症候性断裂であった.

腱板断裂の病態は未解明なものが多い

腱板断裂は、肩関節疾患のうちの代表的なひとつだが、その病態については未解明なものが多い。たとえば、従来、腱板断裂の断裂そのものが肩の疼痛や機能障害の原因だと考えられていたが、断裂を残したまま保存的治療を行っても症状が軽減することが多いこと、大断裂や広範囲断裂に腱板修復術を施行した場合、術後に再断裂を生じる例があるものの、そのような症例でも、臨床的には満足のいく結果が得られやすいことなど、必ずしも断裂と症状が結び付かないことが多いのだ。さらに、近年、腱板断裂が存在しても症状がない無症候性腱板断裂が存在するらしいことがわかってきた。そして、腱板断裂自体は疾患ではなく、加齢性変化のひとつだとする見解も存在する。

調査対象

腱板断裂の病態把握のためには無症候性腱板断裂を含めた、腱板断裂の全体像を把握することが必要だが、病院にやってくるのは症状のある腱板断裂患者だけなので、群馬大学のグループは、群馬県利根郡片品村(人口の13%にあたる683人の両肩1366が対象)で行われた超音波検査による特定検診において運動器検診を行い、腱板断裂を含めた整形外科領域の各種疾患の有病率の疫学調査を実施した。

腱板断裂に関する調査結果について

50歳以上の一般住民の26.6%に腱板断裂を認め、年齢とともにその頻度も上昇した。

 

年齢とは無関係に、腱板断裂例の65.4%は肩に関する症状がない無症候性断裂だった(症候性断裂の割合は34.6%)。

 

無症候性腱板断裂は症候性腱板断裂と比べ、有意に非利き腕側に多く、インビジメント徴候が陰性で、自動挙上可動域が大きく、外転筋力および外旋筋力が保たれているという特徴があった。

 

今回の対象において、①インビジメント徴候陰性、②外旋筋力低下なし、③非利き腕側の3項目をすべて満たすものは、93.8%が無症候性腱板断裂であり、腱板断裂における症状の出現に関してこれらの因子が強く関与していた。

(以上、上記本より引用した)
 
人口比で言うと、26.6%×65.4%=17.4%の方は、無症候性腱板断裂ということになる。

検査では腱板断裂所見があるにもかかわらず、発症していないものがかなり多いのだ。したがって、後遺障害認定において、事故との因果関係が重要な争点になることが、この疫学調査から分かるかと思う。

相談

交通事故での受傷後6か月が経過し現在も整形外科にて通院治療中です。委任した弁護士と担当の医師からそろそろ症状固定とし、後遺障害の申請をしてみようと提案されています。受傷から現在の状況は以下の通りです。

受傷直後の診断書に「左肩関節打撲傷」の記載がありました。3テスラMRIにて棘上筋腱の部分断裂(裂傷)の画像所見がありますが、小さいものです。
患側主要運動は、
「屈曲」 自動50度他動55度
「外転」 自動60度他動65度
(健側はすべて正常値の180度)

現在も疼痛が続いておりリハビリ通院中です。
上記のような症状では何級の障害が予想されますか。
(つづく)
 

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