後遺障害専門家の選び方

はじめに

ぼくは現在ふたつのブログを運営している。ひとつはここだが、もうひとつはタイトルは似ていて「交通事故被害者は2度泣かされる」というブログだ。かつてそちらの記事で、頚椎前方固定術についてのデメリットについて書いたことがある。前方固定術を予定しているならセカンドオピニオンをやるべきだと、ぼくはそこで提案した。

同様なことは他の手術の場合にも言える。とくに、人工関節置換術や人口骨頭置換術を検討している場合がそうである。なぜそうなのかというと、アメリカの医療保険公社がセカンドオピニオンを要する例として、以下のものをあげており、その中に、先の人工骨頭置換術や人工関節置換術が含まれているからである。アメリカでは、医療保険金を請求するためには、下記の治療・検査例について必ずセカンドオピニオンを実施しろとしている。そうしないと、保険金がおりないことになっている。それほどリスクのある治療・検査なのだ。

セカンド・オピニオンをすべき治療・検査例

  • 乳線の手術
  • 手根管症候群
  • 白内障の手術
  • 足の手術
  • 胆嚢の手術
  • 膝の手術
  • 鼻の手術
  • 前立腺の手術
  • 背骨の手術
  • 静脈瘤の手術
  • 冠動脈バイパス手術
  • 心臓カテーテル検査
  • 頚動脈の内膜剥離手術
  • 子宮頸管拡張術と子宮内膜掻爬(妊娠中絶の場合を除く)
  • 痔の手術
  • 鼠径ヘルニアの修復
  • 股関節の人工骨頭(関節)置換術
  • 子宮摘出術
  • 心臓ペースメーカー装着
  • 扁桃もしくはアデノイドの切除

*手術は「検査」に含まれる。

これ以外にも、下記の治療や手術例もいれるべきだろう。

  • 脳動脈瘤の手術
  • 各種臓器のがん手術
  • 抗がん剤治療

後遺障害申請する際に注意すべきこと

ところで、人工骨頭置換術や人工関節置換術は後遺障害認定の要件でもある。すなわち、人工骨頭置換術か人工関節置換術を施行し、上下肢関節の1関節に健側と比較して1/2を超過する可動域制限を残した場合を「用廃」とし、8級に該当、1/2を超えない可動域制限については10級としている。これはネット検索すればすぐに見つかる情報である。
 
しかし、セカンド・オピニオンをすべきほどのリスクのある手術だと警告している後遺障害専門家のサイトは、ぼくがみたところ一つも見つからなかった。そういうことは知っていて情報公開していないという場合もあるだろうけれども、そもそもその深刻さを知らなくて情報公開されていない例が圧倒的なのではないだろうか。
 
たいていのサイトは、現状では疼痛による12級かよくて14級どまりだが、人工骨頭置換術や人工関節置換術をすれば10級あるいは8級に後遺障害等級があがりますよとしているだけだ。さらに、人工骨頭や人工関節の耐用性についての言及をしているサイトもあるが、その程度である。
 
中には、

高齢者の場合は寝たきりや認知症の発生を防ぐためにも、麻酔や手術に耐えられる体力のある患者さんであれば、できる限り早く手術をすることが重要です

などとして、一刻もはやく手術をしないと大変なことになると、交通事故被害者の不安をかきたてるようなサイトさえ存在する。これには驚いた。たしかに寝たきりになるリスクも知られていることなので、そのように警告するのもわからないではない。しかし、メリットだけ説明して、デメリットには一切触れようともしないのは大問題である。この記載に不安をかきたてられた事故被害者は、この手の行政書士にひっかかって、急いで手術したために、あとで後悔することはないのだろうか。

デメリットについても教えてくれること

では、デメリットとは何か。一番問題なのは感染の危険なのである。ネット検索したら、MRSA感染による重篤例としてこのような情報が確認できた。
 
「標準整形外科学」によると、人工股関節置換術後の合併症について発生時期で2つに区分し、

(術中・術直後の合併症)

  • 血管障害(術中・術後出血)
  • 神経障害(大腿神経・坐骨神経)
  • 脱臼
  • 感染
  • 血栓性静脈炎
  • 動脈塞栓(肺塞栓)
  • 異所性骨化

 

(術後一定期間経過後の合併症)

  • 弛み
  • 脱臼
  • 骨折
  • ステムの破損・折損
  • 感染

としていた。

問題の感染については、「術後感染は0.5%程度に発生するといわれている。術中感染と術後一定期間経過してからの感染に分けられる」。

 
しかし、骨・関節術後感染予防ガイドラインによると、関節の手術部位感染発生率(深部SSI発生率)について、初回人工関節置換術では0.2%~2.9%、人工関節再置換術では0.5%~17.3%としているのだ。

初回人工関節置換術で最大値は2.9%、人工関節再置換術の最大値は17.8%と大変な高率なのである。決して無視できるようなレベルの話でないことがよくわかるだろう。

ぼく自身が扱った例でも、感染による再手術・再々手術を繰り返したひどい例がいくつかあった。もうこうなると生きていることが悲劇であるように思えてくる。こうした例は多くの事例にあたっていると必ずいくつか出てくる。逆にいえば、多くの事例にあたらないかぎりこの深刻さがわからないのである。

患者の悲痛な嘆きの声

ネット検索すれば、人工骨頭置換術あるいは人工関節置換術をし、その後感染し重篤化した患者の嘆きの声をいくつか見つけることができた。その中でも唖然とさせられたのは、両側同時に人工股関節置換術を施行したケースである。両側同時だなんて、ぼくがもし医者からそういう手術をすると言われたら、即退院するか、それがかなわないなら、病院が寝静まったときに恐ろしくて這ってでも夜逃げするだろう。
 
調査員上がりのぼくがいくら強調しても信用してもらえないだろうから、ここは専門家の言葉を引用することにしたい。「よくない治療、ダメな医者から逃れるヒント」(近藤誠著)より引用する。

感染症の恐ろしさについて

(人工関節)手術は、不自由な関節自体を総とっかえするものだけに、うまくいけば症状は軽快して、なかなか快適な日常生活を再び送ることができるようになります。

しかし、関節は、厳密な無菌性を要求される組織で、手術のときに万が一でも細菌に感染すると、お釈迦です。第3章で、人工関節置換術のあとMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)に感染し、手術前には歩けたのに、歩けなくなってしまった方の話を紹介しました(注1)。人工関節置換術のあと、そのような重篤な感染が生じることは決して珍しいことではないのです。

したがって、日本のように院内感染が多い国(注2)で人工関節置換術をうけるのは、相当勇気がいる行為です。(P203)
 
もし、うけるかうけないか迷っているときに、担当の整形外科医に次のように言われたらどうしますか。

「最近は手術の方法や人工関節の質が非常に向上し、術後のトラブルがかなり防げます。痛みを我慢していたり、歩行障害などで不自由を感じているより、早く手術をして、少しでも快適な生活を送ったほうがいいでは、というのが私どもの考えです」(「週刊朝日」1999年7月2日号)

これは人工関節置換術について解説した記事のなかにある、日本大学病院の整形外科教授の談話です。おそらくこの教授は診察室で、患者たちにもこう語るのでしょう。もしみなさんがリウマチになって歩行障害になって不自由しているときに、担当医にこう語られたら、手術をうける気になるのではないか。

この発言自体は、抽象的とはいえ間違っているとは言えません。ですが問題が少なくとも二つあります。一つは、手術の合併症や後遺症の説明が十分でないことです。記事全体をみても同様で、手術がうまくいった患者の、「もっと早く手術をしていればよかった」という発言が紹介されていて、読者は合併症や後遺症のほうに眼がいきにくくなる文章構造になっている。

その大学病院では、おそらく手術を多数手がけており、慣れもあって他よりも上手にできる可能性が高い。しかしどんなに上手でも、手術の合併症・後遺症から完全に逃れることはできません。たとえば術後感染は、感染する頻度が病院によって異なるだけで、どの病院でもある確率で必ず生じます。万一にも術後感染に当たってしまった人にとって、この談話はどういう意味をもっているのか、わたしには恐るべき蛮勇にみえます。

この記事の第二の問題点は、「歩行障害などで不自由を感じているより」という部分の、「歩行障害」の程度が明らかでないことです。歩けるけれども少し足を引きずる程度から、車椅子でないと動けない程度まで、歩行障害にもいろいろあります。その場合、車椅子の方のほうが、手術への踏ん切りもつけやすく(だめでもともと)、手術後の満足感も高いはずです。文中で喜びの声を上げていた方も、術前は車椅子での生活でした。

それに対し、手術前に歩くことができた方は、かりにも後遺症が残ったら、足をもっと引きずるか、歩けなくなるかのどちらかです。そうなると、手術をしなければよかった、という後悔まで引きずって生きていかねばなりません。そして後悔の程度は、術前の調子がよいほど大きい。現に前述の、人工関節置換術後にMRSAに感染して後悔している方(注1)も、術前は歩くことができたのでした。

えてしてこういう記事は、迷っている人の背中をぐいと押して、手術に踏み切る決心をさせる効果があるものです。したがってその表現には慎重さが要求されますが、この記事は慎重さを欠いている。大学教授の発言を読んだ患者たちのなかからは、手術をうける必要があるかないか微妙な状態なのに手術を決心してしまい、あとで後悔する人が必ず出てくるはずです。

そしてもう一つその記事で、その教授は日常的に、一度に両方の膝関節を手術しているという話を読み、さらに驚きました。両方とも手術してうまくいっている人が大部分でしょうが、万が一にも失敗して、両方一緒にだめになったらどうするのだろう、と、人ごとながら心配になります。

ただし、先の談話を読んで手術をうけて失敗しても、その教授に文句をつけることはできません。談話をもう一度読んでみてください。「術後のトラブルがかなり防げます」とあって、「トラブルがない」とは語っていないのです。つまり談話は、トラブルが生じうることを認めているわけで、あとで文句をつけても、「後遺症の危険についても触れている」と言い抜けられてしまいます。このように専門家の談話は、眼光紙背に徹して読まねば危ない。(P204~207)

(注1)「人工関節置換術後にMRSAに感染した例」というのは、本書P65で紹介している例のことである。すなわち、慢性関節リウマチで手術をしたあと、MRSAに感染し、術前は歩行可能だったのに、術後は歩行不能になったうえ病院から退院をせまられた相談例のことである。近藤氏の例はいずれもリウマチによるものだが、交通事故外傷でも同様のリスクがある。

(注2)「日本のように院内感染が多い国」というのは、これだけではわかりづらいかもしれない。さらに詳しい説明が同書にあるので引用したい。

先進国のなかで、日本の医療レベルは最低です。そういう根拠の一つは、本文でも紹介したMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)の分離率です。感染症の原因菌が黄色ブドウ球菌だった場合、その何割が抗生物資に耐性をもっているかという率ですが、先進国のなかで一番高率なのです。具体的には米国や英国が40パーセント程度で、ドイツ9パーセント、チェコは6パーセント。それが日本の病院だと、70~80パーセントにもなっています。

薬剤耐性菌がこれほど多いのは、日本の医者や病院が、抗生物資を世界一濫用してきた結果です。本文で指摘したように、かぜにも抗生物資を使うことに代表される、非科学的な診療のやり方が耐性菌をはびこらせたのです。それが証拠に、かぜで発熱した子を家庭医に連れていっても、薬は一切処方されず、「家に帰って冷やしましょう。3日たって熱が下がらなかったら、診せにきてください」という指示が与えられるだけのオランダでは、MRSAの分離率は零パーセントです。(文庫版前書きより)

かつてぼくの子どもがかぜをひいて病院に連れて行ったことがある。最後に先生が「薬を出しておきましょう」と言ってたくさん渡された薬のひとつが、この抗生物資だった。「先生、この抗生物資、かぜに必要なのでしょうか」と、ぼくは質問した。すると、その先生は激怒し、「そんなに嫌ならもう帰ってくれ」と言われたことを思い出した。

後遺障害等級獲得よりも大切なこと

交通事故被害者にとってなによりも大切なことは、後遺障害で高い等級を得ることではない。身体が、健康なころにできるだけ戻ることである。少なくとも、現状より悪くなることがあってはならない。

人工骨頭置換術を受ける、あるいは人工関節置換術を受ける決心は最終的には事故被害者自身がしなければいけない。その結果、術前よりも悪くなってもそれは自己責任なのである。しかし、自己責任を負うためにはその決心をする上での情報が十分に与えられていることが必要である。それなくして自己責任などありえないからである。

ぼくの理想とする後遺障害専門家とは、後遺障害認定上に発生するであろうメリットを説明できるだけでなく、デメリットにも言及できることだ。こういう治療をすれば後遺障害等級が何級上がり、その結果、いくらのおカネがはいるかということを強調するよりも、いかにして元の身体に近い状態にまで戻れるかを気遣ってくれるだけの知識と経験を持ち合わせた専門家なのである。ぼくが仮に交通事故被害者なら、こういう専門家にぜひ依頼したい。

(追記)
ある良心的整形外科医がこのように述べているので、こちらも傍証として加えたい。

両側同時手術のメリットは患者さんの経済面での負担軽減です。しかし片側手術と比べて患者さんに対する侵襲が大きくなるため、感染などの種々のリスクが高まる可能性があります。

両側同時手術をウリにしている医療機関もあるようですが、真に患者さんの利益を考えると片側手術の方が推奨されるのではないかと思いました。

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最初、事業をやるつもりで立ち上げてみた当事務所。しかし、いろんな制約があることがわかり、当初の考えが甘すぎた。そのため、現状、有料業務は一切行っていません。仕事を別にしているので、とりあえずあくせくするつもりはない。これまでの経験と知識とを困っている事故被害者のために生かしてみたい。報酬さえ請求しなければ、いろんな制約からも解放される。

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