後遺障害は1度認定されると重ねて認定されないのか

後遺障害とは

後遺障害とは、「傷害が治ったとき身体に存する傷害」(自賠法施行令2条1項2号)となっている。それも、「一生回復しない」ということが前提である。後遺障害の特徴は、このように「永久残存性」があることが基本的な発想になっている。したがって、ある部位が一度後遺障害としてある等級で評価されたら、「永久残存性」なのだから、その傷害は死ぬまで続くのであり、死ぬまでに同じような受傷をしたとしても、同一部位で同一の等級評価をされることはありえず、すでに評価しつくされているとして、後遺障害が認定されないことになる。もし、同一部位でより高度の障害が発生したなら、新たに加わった部分だけが評価の対象になり、過去に認定された重なり部分は控除される。これが自賠責の基本的な考え方である。

問題の背景

しかし、それだと困ったことが起こる。永久には残存しないが、もっと短期に、たとえば数年ときに10数年にわたって症状が残存する傷病が実際にあるからだ。たとえば頚椎捻挫がその代表例である。こうしたものは「永久残存性」がないことから、原則どおり後遺障害に該当しないとしたら、頚椎捻挫で苦しむ多くの人が保護対象の範囲から除外されてしまって、大きな社会問題になるだろう。そのため、「一生回復しない」でも、労働能力喪失期間を3年から5年ていど(14級の場合)に限定した上で、後遺障害として認定し、保護の対象範囲にいれているのが裁判実務である。

「後遺障害等級認定と裁判実務」の判断

この、基本的発想と実際の運用との違いに注目して、

「後遺障害」の「永久残存性」は、一応の基本的発想というにとどまり、「後遺障害」概念の実際的な機能としては、程度の軽重の格付けのスケールを示すことにあるといえるだろう。(「後遺障害等級認定と裁判実務」P5)

新たに生じた問題

さて、ここでひとつ問題が生じる。加重の場合を除いて、後遺障害の「永久残存性」から、1度評価されると再評価されないという結論を、頚椎捻挫などの「永久残存性」のない後遺障害についてまで及ぼしていいのかである。すなわち、労働喪失期間が3年ないし5年なら、その期間を越える部分については重なりがないのだから、新たな後遺障害としての評価されてもいいはずだからである。そう解釈するほうがきわめて合理的だからである。しかし、自賠責実務は1度評価したら2度と評価しないというスタンスを変えていない。

ところが、最近になってそのようなスタンスを覆す画期的な判決が出た。その疑問に真正面から答えたのが、平成26年8月28日横浜地裁判決である。詳細について知りたい方は、小松弁護士のサイトでご覧いただくとして、ここでは、表題にかかわる、当判決の要点だけ述べたい。

判例

原告であるAさんは今回の交通事故を含め3回事故にあい、3回とも受傷している。1回目、2回目の事故について自賠責の後遺障害認定を受けている。今回の事故では、過去受傷と同一部位に同様の症状を訴えた。詳細については、下のとおり。

【別件事故1】(①は受傷日、②は傷病名、③は自賠責による後遺障害認否と内容、以下同じ)
①(3回目の事故から)8年前の事故受傷。10か月後に症状固定。
②腰椎捻挫及び頸椎捻挫。
③後遺障害は、腰椎捻挫について、腰痛及び長時間座位困難の神経症状により「局部に神経症状を残すもの」として、自賠責より第14級第9号に認定。

【別件事故2】
①4年前の事故受傷。1年2か月後に症状固定。
②頸椎捻挫
③頚椎捻挫について、右上肢しびれの症状につき、自賠責より14級9号認定。

【今回の事故】
②頸椎捻挫、頸部神経根症、腰椎捻挫、右坐骨神経痛、右第8・9肋骨骨折。
③頚椎捻挫および腰痛捻挫について、前者は2回目の事故受傷により、後者は1回目の事故受傷により後遺障害14級9号ですでに評価されているので、重ねて認定できないことを理由に、自賠責は非認定。

【原告の主張】
かつて後遺障害としていずれも認定されているが、本件事故前はいずれも症状はなく、すでに治癒しており、新たな後遺障害として認定すべきである。

【被告の主張】
すでに認定されている部分については重ねて認定されない。加重があったという証拠もないから加重認定もない。

【当判決の判断】
1「本件事故は、別件事故1による後遺障害の症状固定日から約7年、別件事故2による後遺障害の症状固定日から約2年10か月経過した後に発生したものであることを認めることができる」。

2「別件事故1ないし別件事故2による後遺障害の程度や本件事故までの間に相当期間が経過していることに加えて、原告は、平成24年7月に富士山に登頂した他、同年11月に野球の試合に4番1塁手として出場するなどしており、本件事故当時、積極的にスポーツをしていたこと。原告は、本件事故当時、腰痛や右上肢しびれの症状等のための通院等しておらず、別件事故1ないし別件事故2による後遺障害が残存していたことをうかがわせる証拠も見当たらないことを併せて考えれば,原告の別件事故1ないし別件事故2による後遺障害は,本件事故当時、残存していたと認めることはできない」。

3(以上のように認定しても)「後遺障害等級表の第14級第9号の神経症状についての後遺障害に係る労働能力喪失期間が3から5年程度に制限されていることとも整合的である」。


①本件事故は「原告車が横転し,一回転し大破,全損となった態様であること」。②「本件事故によって、頸椎捻挫、頸部神経根症、腰椎捻挫、右坐骨神経痛及び右第8・9肋骨骨折の傷害を負ったと診断され、右上肢痛・しびれ及び腰部痛等の後遺障害が残存した(症状固定日平成25年7月23日)と診断されていること」。
③「自賠責保険の後遺障害等級認定手続において、本件事故による頸部受傷後の右上肢痛・しびれ及び腰部痛の症状については、後遺障害等級表の第14級第9号に該当する後遺障害が残存していることは否定されていないこと」。

④「これらの事実に加えて、原告の治療状況や症状の経過を併せて考えれば、原告には,頸部受傷後の右上肢痛・しびれ及び腰部痛の症状について後遺障害が残存しており(症状固定日平成25年7月23日)、これは「局部に神経症状を残すもの」として後遺障害等級表の第14級第9号に相当するというべきである」。

結論

したがって,原告は,本件事故によって,後遺障害等級表の第14級第9号に相当する後遺障害を負ったと認めることができる。

まとめ

後遺障害は1度認定されると重ねて認定されないのか。

重ねては認定されない。しかし、今回の件のような、労働能力喪失期間を限定して後遺障害を認定している「頚椎捻挫」などについては、過去に後遺障害に認定されていても、過去の後遺障害認定の際の労働能力喪失期間をほぼ経過していれば新たな後遺障害としての認定の対象になりうるとした。

今回のケースではさらに加えて、事故前症状がなかったこと、自賠責が14級相当の症状があることを否定していないことなどの理由から、慎重に判断して認定にいたっている。―――というふうにぼくはまとめてみた(おかしかったら言ってください)。

注意すべきこと

後遺障害は、加重でないかぎり、一度等級が認定された部位で同一等級は一生認定されません―――という理解をされている方が多いし、つい最近もそのような説明をされている方がいた。自賠責の考え方としてはそれは正しい。しかし、頚椎捻挫や腰椎捻挫など労働能力喪失期間が限定されているものについては裁判所では必ずしもそういう判断をしないから、要注意である。1度認定されているからといって、あきらめたらダメである。

 
【16・3・21追記】一部訂正した。訂正前の間違った記載は取消線を引き、赤字で明示してしばらく残すことにしました。訂正理由については別記事で書きましたが、こちらにまとめました。理由は以下のとおりです。
【16・12・03追記】公示期間を半年とし、2箇所の赤字訂正箇所を削除した。間違えた記載をいつまでも残しておきたくないし、かえってわかりづらいため。

自賠法16条の3新設による「支払基準」のしばり

自賠法16条の3(支払基準)

Ⅰ保険会社は、保険金等を支払うときは、死亡、後遺障害及び傷害の別に国土交通大臣及び内閣総理大臣が定める支払基準(以下「支払基準」という。)に従つてこれを支払わなければならない。

支払基準

(*自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準
siharaikijun

どうして間違えたのか

この「16条の3」は新設規定です。とはいっても10年以上も前に新設されたものですが、この規定が新設される前は、保険金支払額の上限だけが規制され、その限度内ならどのような損害算定も可能だったのです。しかし、16条の3が新設されてからは、「支払基準」に拘束されることになりました。したがって「支払基準」で定められた、たとえば(ライプニッツ係数における)労働能力喪失期間や労働能力喪失率については「支払基準」以外の数値を用いて損害を算定することは許されなくなりました。

当該記事を書いているとき、改正前の規定のことを思い出し、深くは考えもせずにそれをそのまま記事に書いたことによる間違いでした。いま読み返してみたらすぐに間違いに気づいたのですが、いずれにしろ大変申し訳ありませんでした。間違えたところはしばらく赤字にして、訂正文ともに残しておきますので、よろしければ再確認してください。すみませんでした。

【16・12・03追記】2箇所の赤字訂正箇所を削除した。

まとめ

自賠法は「支払基準」に拘束される。その結果、たとえば14級の頚椎捻挫による後遺障害で、裁判実務および保険実務でふつうに行われている労働能力喪失期間を制限して2年から5年にしたり、自賠責の労働能力喪失率5/100を4/100とか3/100とかにしたりすることは、自賠責ではできない。

なお、当記事に関して、「新型・非典型後遺障害の評価」という本に参考となる記載をみつけましたので、それも加えます。

自賠責実務の考え方は、後遺障害とは永久残存性のあるものであるから、いったん自賠責保険手続で(先の事故で)後遺障害ありと認定された以上は、その障害は後の事故の時点でも残存していたはずであるという考え方を採る。その結果、上位の等級が認定できる状態でない限り、自賠責保険からの支払いはできないという取扱いがなされている。

これに対して、損害賠償においては、現実に後の事故により障害が悪化したのであれば、損害の発生を認めざるを得ない。また、むち打ち症のような症状の永続性に疑問がある障害の場合には、そもそも永久残存性に疑問があるため、後の事故発生の時点では障害が消滅している可能性もあるので、以前に障害が認定されていても、上位の後遺障害等級にまで達していないからとして損害が発生しないという考え方は、必ずしも採らないことになる(P23)

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突然、交通事故にあわれた被害者は、怪我をされたり、車を破損などされたりして大変なことです。その損害の賠償をしてもらうために、これから、加害者そして加害者側の損保担当者を相手に示談交渉を進めなければならなくなります。しかし、交通事故は人生でそう何度も経験するわけではありません。なにをどのようにしたらいいのか途方に暮れてしまうのがふつうです。

ところが、事故被害者がまず相手にするのが加害者であり、そして、実際は加害者側損保の担当者です。損保の担当者はそのことで生計を立てているいわばプロであり、百戦錬磨で鍛えた知識と経験があります。かたや、知識も経験もほとんどない事故被害者。そんな素人がプロ相手にどのように交渉していったらいいのでしょうか。

交通事故に詳しい弁護士が知人にいるような幸運な方は別にして、たいていの方は途方に暮れてしまうことでしょう。一昔前は、素人とプロの交渉ごとということにふつうはなって、プロの思い描くストーリーどおりに押し切られるのがふつうでした。しかし、ネットが発達した現在、示談交渉を進める上での情報がネットを検索すればあふれかえっています。が、その情報は正しいものもあれば正しくないものもある。玉石混淆です。それらの情報に接した事故被害者にとって、どの情報が正しくて信頼できるのかがまずわかりづらいし、自分だけでは手に負えなくて、調査や交渉ごとをだれかに任せることも時に必要になってきます。が、ネット上には、われこそは事故被害者のためだと謳っているものばかりなので、実際にいったいだれを信頼したらいいのかわかりません。

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ここで注意してほしいのは、情報の正確さもさることながら、その情報(知識)そのものが中立なことです。

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知識は刀という武器と同じ

hitininnno
その昔、武士という職業が存在しました。この武士は帯刀を許された職業のことであり、刀の専門家です。殿様を頂点にして、殿様に雇用され、殿様を守るために武器である刀の技術を日夜みがいていた。

この武器である刀自体は殿様を守るためにも使えるし、農民に加勢して殿様に刃向かうためにも使えます。しかし、悲しいかな、現実は殿様を守るために使われた例が圧倒的に多く、農民に加勢するために使われた例など不幸にしてきわめて少なかった。ごく稀に後者のような武士が現れますが、こういう武士こそ庶民にとっての英雄であり、「七人の侍」はまさにそのようなタイプの武士たちでした。

利益が一致しているか相反しているかが重要

したがって、問題はその使い手自身にあります。使い手がどちらの側に立つかで知識もそれぞれの側の武器になる。そして、その使い手がどちらの側に立つかは双方の利益が一致するか相反するかでふつうは決まってきます。

この、肝心要のことを説明したサイトが皆無といっていいほどにみあたらないのは不思議なことです(というか、あえて否定しているサイトさえいくらでもみつかるくらいです)。

記事を読んでいただければたちどころにわかることですが、当事務所は「立場」を鮮明にしております。あえて鮮明にしているのは、人間や社会に対する見方は、その人自身の立場から自由にはならないからです。中立を装うことは考察を浅くし、論旨を不明確にする。「立場」のない「立場」などありようがない。当事務所の立場は、ぼく自身が社会的弱者であるため、弱者の立場に徹することです。ぼくのような弱虫は「七人の侍」のようには決してなれないけれど、せめてその心意気だけでも真似して、社会的強者に阿らないようにしたい。そういう気持ちで当サイトをたちあげました。よろしくです。

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