「第三者機関」としての損害保険調査会社

損保は顧客の立場にある

損害保険会社と損害保険調査会社をいっしょくたにして理解している人が意外と多い。しかし、これはまったくの別ものである。どこがどう別なのかというと、前者は保険を売って、事故があったりした場合に保険契約に基づき保険金や損害賠償金の支払いをする会社のことだが、後者はその支払いをする際に調査を要すると保険会社が判断したときに利用される調査会社のことである。両者は調査委託契約を介して取引関係が生じる。契約上は対等の立場だが、実際は前者が調査料を支払う顧客の立場だから、絶対的に優位な立場にある。重要なことなのでここはしっかり覚えておいてほしい。

損害保険調査会社には損保系と独立系が存在する

損害保険調査会社は2大別できる(損保会社本体の調査部は除く)。すなわち、損害保険会社系列の調査会社の場合と、独立系の場合の2つである。

前者は、損害保険会社との関係がわかりやすいから、よもや損害保険会社から独立している調査会社とは思われない。ネット検索すると、独立系よりも正社員公募など待遇面もいいし、社員数も多く、研修も比較的充実している。

他方、独立系は零細から大手まで幅があって、待遇面も正社員から嘱託(下請)まであり、身分が安定しているとは必ずしもいえない。とりわけ、大手の独立系では調査員が嘱託扱いである。そのため、社会保険も自己負担である。社会保険もなく、報酬も20万円未満が過半なため、国民年金や国民健康保険を自弁したらアルバイト並みの報酬である。研修も充実しているとはとても言えず、嘱託ゆえに、研修費用を自己負担させられるなど、教育面でも問題がある。待遇が悪いため、人の出入りが多いのも独立系の特徴といえるだろう。むしろ組織として小さい会社のほうが身分が保障されていることもある。

独立系の口コミ情報は以下のとおりだった。

A社:(業務委託社員)
・保険会社からの依頼なので、仕事は月によってバラバラで収入が安定しません。女性のパート以上の収入は確保できますが、報告書作成で朝から寝るまで報告書作成しな.・・・

・此処の会社は、社員教育は皆無であり実働部隊である調査員に顧客からのクレームを押し付け、3ヶ月に渡り仕事を一切させずに退職に至らせる。

 

B社:
・ほとんど支社長の裁量にかかっている。支社長がいい人であれば、良いキャリアアップや指導を受けられる。変な支社長(今はいるかわからないが)に当たれば、最悪で…

・会社の採用は、中途の場合は、契約社員がほとんどのため、正社員になりたくて退職しました。

・ 業務について興味を持ち、仕事をしていくのであればいいが、待遇を求めるのであればこの会社は向かない。そもそも保険会社の経費から調査料が支払われている業界で…

・100人程度の社員数で、10人新卒をとる。それは毎年10人中9人くらい辞めて行くから。転職して思ったのは、そんなにきつい仕事ではないが、雰囲気は閉鎖的…

 

保険調査会社は第三者機関なのか

なぜこういうことを問題にしたのかというと、当の保険調査会社は、自分たちのことを第三者機関だと称しているし、調査を依頼する保険会社も、交通事故の過失割合などでもめた場合、事故当事者に対して、「では、第三者機関に調査してもらいましょう」というのが口癖になっているからである。だから公平・公正だと言いたいところなのだろうが、このような実態で第三者性が本当に担保できるのだろうか。

第三者性を担保するものは何か

第一に、依頼先である損保からの経済的・組織的独立性である。経済的独立性については、調査会社にとって損保は顧客の立場にあることはすでに述べたとおりである。そして、大手の調査会社は、損保系であれ独立系であれ、損保の天下り先になっている。組織的独立性でも失格なのである。

第二に、独立性を担保するだけの個々の調査員の地位や身分が保障されているかどうかである。

欧米の保険調査員は社会的地位も高く、自分の判断で個々の紛争を処理できる権限が与えられていると聞いたことがある。日本はどうだろうか。日本の損害保険会社の系列調査会社の場合は正社員であるためその地位や身分は比較的保障されているといえるかもしれない。が、独立性という点では100%子会社なのだから第三者性はまったく問題にならない。個々の調査員も自分で紛争を解決する権限は与えられていない。では、独立系はどうか。

独立系は形だけは独立している(資本参入されている独立系もあるが)が、最初に述べたように、損保は調査料を支払う顧客の立場だから、絶対的に優位な立場にあること、さらに身分保障の点でも、独立系は調査員が業務委託化されていることが多いため、ここでも個々の調査員にとって調査会社が顧客という絶対的優位な立場にある。第三者性の要件である独立性に欠けるのである。

第三としては、専門性があるかどうかである。損保系の調査会社は比較的研修が充実しているから、専門性があるといえるかもしれない。しかし、独立系は研修体制が不十分である。別の記事でも書いたことだが、伊豆の医療研修を例にすると、損保本体およびその系列の調査会社が研修に参加すると給料とは別に研修手当が支給される。ところが、独立系は、当初はわずかながら日当(1日1000円)が支給されていたが、その後日当は支給されなくなり、研修費用についても半分は自己負担になってしまった。研修期間中は仕事ができないから、その間は収入が途絶える。この例にあるように、独立系はなにごとも自分の費用で自己啓発しなければ専門性の獲得が非常にむずかしいのである。

以上から、調査会社は、独立系であれ、第三者機関だとはとてもいえないのである。

ネット上に氾濫する間違った情報について

以下に、調査会社に対するネット上の誤解・曲解の具体例をとりあげ、検討してみたい。

リサーチ会社に調査依頼する事があります。人身事故の場合は、かなりの確率で調査依頼しています。そこで出た調査結果には、保険会社はほぼ従います。

 
依頼は圧倒的に過失割合や物損関係が多い。また、調査結果について保険会社を拘束するなんてことはありえない。その理由はすでに述べた。

民間の調査会社は保険会社の子会社のような役割ではありません。複数社と契約関係にありますから、あくまで第三者として事故の精査をします。調査会社の仕事も信頼第一ですので、依頼保険会社の利益になるような仕事をすれば、当然、第三者との公平としての立場ではなくなり信用をなくすことになります。例えば、今回の調査で仮に相手側の有利に調査を進めたとします。すると、今度はご質問者側の保険会社がとの交渉のときに、相手側はその調査結果に基づいて交渉するわけで、その内容に偏りがあると、ご質問者側の保険会社はいい加減な調査をする会社だということで、その保険会社からの仕事がこなくなります。そういう背景から基本的なスタンスとしては、あくまで第三者機関として事故状況を精査するという位置づけで民間の調査会社は動いています。

 
読みづらい文章だが、一見するともっともらしい回答である。でも実態は違う。

損保が調査会社に依頼する種目で一番多いのがいわゆる過失割合事案(原因調査)と呼ばれるものである。たとえばその中のクルマ対歩行者の場合。この場合は調査料はクルマの任意保険会社から出ており、被害者である歩行者が調査料を支払うわけではない。したがって、このようなケースでは、調査会社が行う調査はあくまで保険会社のための調査であって、第三者性が成立する余地はまったくない。

では、クルマ対クルマの事故だったらどうだろうか。先のネット上の回答はクルマ対クルマの事故で双方が任意保険に加入している過失割合事案を想定した回答である。

2つに場合分けして考えてみよう。一つは双方の保険会社から調査依頼があった場合である。理屈の上では双方からの依頼であり、双方から折半という形で調査料がはいるため、第三者性が期待できる。しかし、あくまで期待できるというだけで常に第三者の立場になれるとは限らない。どういうことかというと、要は一見客と常連客の違いと同じだ。年に数回の依頼しかない損保とほぼ毎日依頼してくる損保とでは対応が違ってくるのでないかと警戒したほうが賢明だろう。自分が加入しているところが小損保なら、調査会社が第三者として機能するかどうかちょっとは疑ったほうがいい。とりわけ注意したいのは、10とか20とかの修正要素の争いではなくて、どっちが青でどっちが赤なのか、過失割合が100対0か、0対100かで争っているばあいだ。思わせぶりな言い方だが、後はご想像にまかせる。

もう一つが、片方の損保からの依頼の場合である。片方からしか調査料がはいらないのだから、先ほどの双方からの依頼よりは、依頼先である片方の意向が反映される可能性が高まる。あくまで「高まる」であって、依頼先有利に常になるということではない。注意的に書いたまでだ。双方に保険会社・共済がついているときはさほど問題はないと思う。

以上に書いたことは比較的大手の場合に言えることである。1人ないしは少人数でやっている調査会社の場合はどこかの損保査定者との個人的な付き合いから取引関係が生じている場合が多く、そのため特定の損保の依頼に偏っている。その損保との結びつきはさらに堅固になる。第三者性が確保できるかどうかは損保査定の考え方しだいである。したがって、こういう調査会社では第三者性は期待しにくい。

調査会社は顧客である損保のために報告書を偽造する。

 
ネットをみていると、こんなすごい意見があったので驚く。たとえば、メジャーの当て方、写真撮影の角度により、(地上からの破損部位の高さ)を思い通りの高さに偽造している
 
メジャーやデジカメを使って事実を偽装し、その結果、事故との因果関係を否定するような偽造・捏造調査が行われているとのことなのだが、ぼくの狭い経験からはそのような事実は一切なかった。ぼくのいた調査会社はその点ではまともだったので、そんなことはやっていなかったが、調査会社はいっぱいあるのだから、そのような偽造・捏造をする調査会社が絶対ないとは断言できないものの、そこまでやるかなあ。いくらなんでも、そこまではふつうやらんと思うよ。ばれた場合のデメリットとばれなかった場合のメリットを考えても、そこまでリスクを犯すだろうか。少なくとも、ぼくの周辺ではそのようなことはなかった。
 

調査会社が被害者・加害者双方の損保から共同で調査依頼を受けたケースについて、利益相反関係にある当事者双方からの代理は双方代理にあたるから違法だとの指摘もある。こんな違法なことをやっていて公正な調査などできるはずがないのだという。

 
ここでいう代理行為は法律行為の代理行為である。調査すること自体は法律行為ではないので、双方代理にあたるという批判はあたらないのでないのか。ただ、調査の結果、過失割合まで調査会社が決めたのだったら、この批判はもっともかもしれない。

実態としては、調査会社が参考意見としての過失割合を出している。これは調査会社が積極的に出しているのではなくて、保険会社からの要請によるものである。事故当事者に対して、第三者機関が出した過失割合なのでと、示談交渉を首尾よく行うために使いたいからである。しかし、調査会社が出した過失割合案に損保が拘束されるわけではない。あくまで参考意見なのである。したがって、過失割合案に納得がいかなければ蹴ることも修正させることも可能である。

また、双方代理については、保険会社の肩を持つわけではないが、損保査定によっては、事故当事者に共同依頼であること、調査会社が調査にはいることの了承を得た上で調査を実施しているばあいもある。これだとまったく問題がないはずである。

調査を行うのは、損害保険協会の実施する試験に合格した人で、必要に応じて建築士、土木建築施工管理技士、電気主任技術者、建築整備士などが鑑定します。

 
保険調査員になるのに、「損害保険協会の実施する試験に合格」する必要などまったくない。鑑定人あるいは技術アジャスターなどと混同している。鑑定人は損害額がどれくらいになるのかを算定するのが仕事だが、保険調査員は、算定はせず、事故の原因を調査するのが仕事である。だから、鑑定人と保険調査員とはまったく別ものなのである。

ぼく自身何度か鑑定人といっしょに仕事をしたことがある。火災調査とか会社の施設の破損調査において。ぼくは火災や施設破損の原因や約款上の免責事項の有無を調査し、鑑定人は損害額を調査する。これをいっしょくたにするようでは話にならない。

このサイトは、同じ記事で「あまりソンポリについて書かれたまともな記事がありませんが、悪い印象を持った人が記事にすることが多く、実態はつかめません。」などと書いていたり、調査会社を「公正・中立な立場で事故を調査する」と検証もせずに決め付けている。保険調査員と会ったこともないと自分で告白しているのに、「まとも」かどうかどうやって判断できたのだろうか。

ほかにも、「車対車の事故の場合、双方が動いてた場合には、100対0になることはほとんどありません」などと、損保の受け売り知識ばかり。事故で一番多いのは追突事故である。追突事故の基本過失割合は、追突した側が100%悪い。100対0の事故なんてふつうにありますよ。

ほかにも、このサイトと内容が似たような、鑑定人と保険調査員の区別ができていなかったり、先に指摘したのと似たようなことが書いてあるサイトが「保険調査会社 第三者機関」で検索すると上位でヒットする。こちらも保険代理店のサイトである。

ここで、保険代理店と保険会社の関係についても述べておこう。保険代理店は保険会社と業務委託契約を交わして、保険の代理販売を行っている。そして、保険契約成立ごとに手数料を保険会社からいただいている。ここでも、保険会社と保険調査会社、あるいは保険調査会社と個々の調査員と似通った関係が成立している。すなわち、保険会社は優位な立場にあること、「利益協同関係」の一面があることだ。yahooなどの大手掲示板をみると、保険代理店が保険会社有利な回答ばかりしているのはこのためだろう(結果的に有利であってもかまわないが、事実を捻じ曲げた回答はダメだろう)。もちろん、尊敬すべき例外はいるが、ごく少数である。

結論

調査会社が第三者機関であることはありえない。ただ、唯一の例外は、事故当事者双方に任意保険会社が介在しているクルマ対クルマのような過失割合事案については、大手の調査会社の場合、各損保との取引量が多いため、ある特定の社に有利な扱いはしづらい。結果として第三者的な立ち位置になるということはある。その意味で、過失割合事案については第三者性が期待しやすい。小さな調査会社はその点で問題ありだ。

クルマ対クルマのような過失割合事案以外のもの、すなわち、クルマ対人などのばあいは、バックで保険会社が拮抗する関係がそもそも成立しないのだから、調査はあくまで保険会社のための調査であって、保険契約者のためでもないし、事故被害者のためではもちろんない。

調査員のことについて一言したい。個々の調査員は保険会社の意向を意識して調査をしていないと思う。依頼先の保険会社が得をするかソンをするかを考えながら調査をしている調査員が絶対いないとは言わないが、いてもたぶんごく少数である。そんなことまでいちいち意識しないで調査を行っているのが実情である。ただし、個々の調査員レベルはそうであっても、調査員の書いた報告書が素通りで保険会社に行くのではない。その中間に、調査会社の上司の審査が加わる。そこでどのような「修正」が加わるのかである。

もうひとつ。調査員の調査能力について。これはたとえ小さな調査会社だからといってダメとはまったくいえない。身分保障の点を考えると、むしろ小さな会社の方が恵まれているばあいがあるからである。

それにくらべ、大手の調査会社が第三者であることを期待できるばあいであっても、調査員が下請の低賃金なため、優秀な人材が集まりにくいだろうし、定着もしづらい。低収入でも調査が好きで知識欲も旺盛という例外的な方を別にして、知識習得にまわす金銭的余裕も生まれないため、調査会社に長く勤めていても、調査能力の伸張に直結しない。したがって、調査会社が大手か零細かは能力の点では指標にならないと思う。

以上、ぼくの調査会社にいたときの経験に基づいて書いた。狭い限られた経験を一般化するつもりはまったくない。偏見もあるだろう。もし、おかしいよとか、間違っているよというのであれば喜んで修正に応じたい。なお、個別に、どこの調査会社がどうだというような評価をぼくは一切していないつもりである。誤解のないようお願いしたい。

【17・04・09追記】
調査機関の「第三者性」については、「交通事故調査のあり方に関する提言」が参考になる。

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突然、交通事故にあわれた被害者は、怪我をされたり、車を破損などされたりして大変なことです。その損害の賠償をしてもらうために、これから、加害者そして加害者側の損保担当者を相手に示談交渉を進めなければならなくなります。しかし、交通事故は人生でそう何度も経験するわけではありません。なにをどのようにしたらいいのか途方に暮れてしまうのがふつうです。

ところが、事故被害者がまず相手にするのが加害者であり、そして、実際は加害者側損保の担当者です。損保の担当者はそのことで生計を立てているいわばプロであり、百戦錬磨で鍛えた知識と経験があります。かたや、知識も経験もほとんどない事故被害者。そんな素人がプロ相手にどのように交渉していったらいいのでしょうか。

交通事故に詳しい弁護士が知人にいるような幸運な方は別にして、たいていの方は途方に暮れてしまうことでしょう。一昔前は、素人とプロの交渉ごとということにふつうはなって、プロの思い描くストーリーどおりに押し切られるのがふつうでした。しかし、ネットが発達した現在、示談交渉を進める上での情報がネットを検索すればあふれかえっています。が、その情報は正しいものもあれば正しくないものもある。玉石混淆です。それらの情報に接した事故被害者にとって、どの情報が正しくて信頼できるのかがまずわかりづらいし、自分だけでは手に負えなくて、調査や交渉ごとをだれかに任せることも時に必要になってきます。が、ネット上には、われこそは事故被害者のためだと謳っているものばかりなので、実際にいったいだれを信頼したらいいのかわかりません。

知識とは中立なものであること

ここで注意してほしいのは、情報の正確さもさることながら、その情報(知識)そのものが中立なことです。

昔、東大卒が多い自民党が間違えるはずがないと豪語している自民党支持者に会ったことがあります。ぼくは苦笑するしかありませんでした。たしかに東大卒は勉強をいっぱいしているわけだから、その知識量も多くかつ正確だといえるかもしれません。ただ、知識それ自体はあくまで中立なものであり、どちらにも役に立つ武器なのです。したがって、その正確でたくさんの知識をどちらの側に使うかにある。わかりやすいたとえ話をしてみましょう。

知識は刀という武器と同じ

hitininnno
その昔、武士という職業が存在しました。この武士は帯刀を許された職業のことであり、刀の専門家です。殿様を頂点にして、殿様に雇用され、殿様を守るために武器である刀の技術を日夜みがいていた。

この武器である刀自体は殿様を守るためにも使えるし、農民に加勢して殿様に刃向かうためにも使えます。しかし、悲しいかな、現実は殿様を守るために使われた例が圧倒的に多く、農民に加勢するために使われた例など不幸にしてきわめて少なかった。ごく稀に後者のような武士が現れますが、こういう武士こそ庶民にとっての英雄であり、「七人の侍」はまさにそのようなタイプの武士たちでした。

利益が一致しているか相反しているかが重要

したがって、問題はその使い手自身にあります。使い手がどちらの側に立つかで知識もそれぞれの側の武器になる。そして、その使い手がどちらの側に立つかは双方の利益が一致するか相反するかでふつうは決まってきます。

この、肝心要のことを説明したサイトが皆無といっていいほどにみあたらないのは不思議なことです(というか、あえて否定しているサイトさえいくらでもみつかるくらいです)。

記事を読んでいただければたちどころにわかることですが、当事務所は「立場」を鮮明にしております。あえて鮮明にしているのは、人間や社会に対する見方は、その人自身の立場から自由にはならないからです。中立を装うことは考察を浅くし、論旨を不明確にし、自己を無責任な立場に置くことになる。「立場」のない「立場」などありようがない。当事務所の立場は、ぼく自身が社会的弱者であるため、弱者の立場に徹することです。ぼくのような弱虫は「七人の侍」のようには決してなれないけれど、せめてその心意気だけでも真似して、社会的強者に阿らないようにしたい。そういう気持ちで当サイトをたちあげました。丸山真男のことばを最後に引用しておきます。

丸山真男から

ゲーテは「行動者は常に非良心的である」といっておりますが、私たちが観照者、テオリア(見る)の立場に立つ限り、この言葉には永遠の真実があると思います。つまり完全にわかっていないものをわかったとして行動するという意味でも、また対立する立場の双方に得点と失点があるのに、決断として一方に与するという意味でも、非良心的です。にもかかわらず私たちが生きていく限りにおいて、日々無数の問題について現に決断を下しているし、また下さざるを得ない。純粋に観照者の立場、純粋にテオリアの立場に立てるものは神だけであります。その意味では神だけが完全に良心的であります。

私たちの社会というものは、私たちの無数の行動の網と申しますか、行動の組合せから成り立っております。社会がこうして私たちの行動関連から成り立つ限りにおいて、私たちは行動あるいは非行動を通じて他人に、つまり社会に責任を負っています。その意味では純粋に「見る」立場、ゲーテの言う意味での完全に良心な立場というものは、完全に無責任な立場ということになります。

したがってこの点でも神だけが、完全に無責任でありうるわけであります。認識することと決断することとの矛盾中に生きることが、私たち神でない人間の宿命であります。私たちが人間らしく生きることは、この宿命を積極的に引き受け、その結果に責任を取ることだと思います。この宿命を自覚する必要は行動関連が異常に複雑になった現代においていよいよ痛切になってきたのです。

世のなかには一方では、認識の過程の無限性に目をふさぎ、理論の仮説性を忘れる独断主義者もいれば、またそもそも認識の意味自体を頭から蔑視する肉体的行動主義者がいます。しかし他方その半面では、物事はそう簡単にはイエスかノーかきめられないのだ、もっとよく研究してからでなければなんともいえないという名目の下に、いつも決断を回避することが学者らしい態度だという考え方がかなり強い。

あるいは対立する政治的争点に対して、あれももっとも、これももっとも、逆にそれを裏返しとして、あれもいけない、これもいけないということで、結局具体的な争点に対して明瞭な方向性を打ち出すことを避ける態度をもって、良識的であるとか、不偏不党であるとか考える評論家やジャーナリストもかなりいるようであります。

たびたびゲーテの言葉を引いて恐縮ですが、ゲーテはこういうことをいっています。「自分は公正であることを約束できるけれども、不偏不党であるということは約束できない。」今申しましたような世上いわゆる良識者は対立者に対してフェアであるということを、どっちつかずということと混同しているのではないでしょうか。
「現代政治の思想と行動」丸山真男 P452-454

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