車の速度を落とさせるための施策いろいろ

松本清張の「速度の告発」

もうずいぶん昔に読んだ松本清張の「速度の告発」という小説は、氏の最高傑作のひとつではないだろうか。題名が示すとおり、この作品は、交通事故で妻子を失った主人公が、真摯な謝罪をする加害者の青年に心を打たれ、青年ではなくて、自動車そのもの、そして自動車メーカーを告発する。

自動車による交通事故は、犠牲者の側だけでなく、運転者の側にも大きな運命の狂いを与えています。私はさきほど私の妻子を殺した憎悪の対象を吉村君(注:加害者の青年の名前)だけに当てるのはどうも違っているような気がしてきた、と書きました。それというのが、ちょうどそのころの新聞広告に「テイコウ」の車(注:加害車種名)の宣伝が全5段で載っているのが目についたからです。

「疾走するという感覚は遅れています。飛翔している感覚です」

これだな、と私は思いました。新発売の車の美しい写真の上には、図案化された旅客機が飛んでいます。自動車メーカーは車の高速力をここでうたいあげています。

売上を上げんがために高速力を宣伝材料にする自動車メーカー。そのために毎年多くの犠牲となる交通事故被害者。妻子を高速車に殺された主人公は、速度の出ない車を作るよう、メーカーおよび行政に訴え、告発する・・・。

モラル頼みでは事故は減らない

交通事故を減らすために、速度が出ない車を作らせる。これが最も有効な方法のひとつである。しかし、車優先社会にどっぷり浸かっていて、疑問にすら感じない人間がことのほか多いこの日本で、この方法は実現の可能性がきわめて低い。

かといって、運転者のいわゆるモラルに頼っていたのでは、いつまでたっても前進しない。速度を出すなとか、路上駐車をするななどという交通規範は、そもそもモラルとは別物だからだ。現に、速度違反で捕まっても、運が悪かったとしか思わないし、路上駐車も同じである。殺人や窃盗など、良心が痛むということが交通違反ではありえず、モラル化はドダイむりな話である。だから、罰則を強化するというようなもっとも安易な方向にしかいかない。しかし、これでは実効性に限界があると思うし、お金を払えばいいやという考え方にむすびつきやすい。メーカー側の売った後は知らないという態度も問題だし、道路インフラの未整備という行政の不作為に目が届かなくなることも問題だ。

自動運転による速度制御

こんな人権後進国で何を言ってもはじまりそうにないが、高速車自体の規制はできなくとも、速度を落とす方法はある。そのいくつかをご紹介しよう。まずはよく話題にされる、自動運転により、強制的に速度を落とす方法である。これは画期的なことである。もし実現したら、交通事故が相当に減りそうなのだが、一つ大きな疑問がある。交通事故が減ることにより車そのものの生産台数も大幅に減ることが予想されているが、これが事実だとすると、自動車メーカーは大きく売り上げが減って死活問題にならないのだろうか。このあたりのことを自動車メーカーはどう考えているのだろうか。

メーカー側が自動運転の開発・実現に努力していることはわかるのだが、もし自動運転が実現すると交通事故が減って、車を新たに買わないですむ。つまり、車生産台数減になるため、メーカーにとって利益相反関係になるからだ。だから、ぼくは自動運転により交通事故そのものがなくなるような未来図を描いているジャーナリストや評論家、弁護士が存在するが、技術的には可能であっても、経済の問題で果たしてどこまで可能なのだろうか。という、根本的なところでぼくは疑問がないわけではない。

視覚的錯覚に訴える方法

それはそれとして、車に改良を加えるのではなくて、車の速度を落とすための方法がいくつかある。まずは視覚的な錯覚に訴える方法である。

警察官の人形を立てる。こういうのって、どこまで効果があるのかしら。タイではよく見かけるらしい。パトカーの模造品とか絵を置いておくのも似たようなものである。

 
「浮かび上がる横断歩道」。これは日本の例である。

 
これはすごい。

 
種明かしをすると・・・。

 
ここで、平尾収著「運転と安全の論理」という本から、「事故多発カーブの対策」(P60~62)という一文をご紹介したい。

シャイナー博士はその著書に、他の研究者とともに1975年前後の数年間に行った「カーブを含んだ道路の幾何学的構造」の認知における知覚判断の問題についての広範な一連の研究を紹介しています。この一連の研究で、カーブの認知に当たって「きつさ」の過小評価の誤りを防ぐためのマーキングの研究結果が1975年に報告されています。実験では、5か所の事故多発カーブを選んで、マーキングの描き方や警告標識の設置等の環境構造を変更すると、カーブ進入直前の車の速度が如何様に影響されるかが測定されました。

カーブの直前で減速させる効果が最も大きかったのは、カーブ部分の道幅が実際より狭く見えるように、かつ、カーブの「きつさ」が実際よりも急に鋭く曲がっていると見えるように、縞々模様のマーキングを施したケースでした。しかし、カーブの手前に警告標識を設置しても、予期に反して有意の影響は認められませんでした。

ところが、減速させる効果が大きかった上記の縞々模様のマーキングも、進入速度を低下させる効果は長続きせず、施工後30日もするとカーブ直前の減速効果は失われることが判明しました。

このように、縞々マーキングのカーブ「きつさ」過小評価防止効果が経時的に退化する理由について、研究グループで種々検討した結果、実験地点を通過する大部分の車は定期的にここを利用している車であるため、何回か通過して学習するうちに、視覚情報に頼らず条件反射的知覚判断でこのカーブに対する最適進入速度の選定が可能になったことによるものと解釈されました。縞々マーキングの影響の経時的対価の理由をこのように考えてよいとすると、初めてここを通過する土地不案内のドライバーに対しては、縞々模様のマーキングは十分な減速効果があり、事故防止に役立つと考えてよいことになります。

シャイナーはもう1つ、別の着想による実験を紹介しています。それは、ドライバーの速度知覚の手がかりは周辺視野に映し出される景観の網膜上の動きが主となることを利用することでした。このことを利用してカーブ手前で減速させようという試みが、デントン(Denton)とシャイナーその他(Shiner et al.)によって行われました。

この研究は、カーブに向かう直線道路の路面に横縞の模様を描き、カーブに近づくにつれて横縞の間隔を詰め、始めは太かった縞が段々に細くなるようにします。ドライバーの目には、カーブの入り口に近づくにつれてこの縞模様が、どんどん速く動くように映り、ドライバーは自分の車が加速しているものと錯覚してブレーキを踏むのではないかという想定で計算されました。結果は予想通り通過車両の速度はこの「元太先細」の横縞模様によってカーブの手前で低下することが示されたのです。

このデントンらの結果の事故抑止効果を検証するために、カーブ「きつさ」の過小評価の誤りによるスピードの出し過ぎ事故が年間14件という事故多発のカーブで、英国のルトレイ(Rutley)により追試が行われました。1975年のその報告で、カーブの直前の道路にこの「元太先細」の横縞マーキングを施したところ、次の1年間に事故は1件のみという大きな成果をあげることができたとしていることをシャイナーは紹介しています。

一方、次節で述べる標識を使った文字情報による警告は、第一にドライバーが見落とすことも考えられるし、またたとえ標識に気がついても、視覚的にカーブが緩く知覚されると、標識のメッセージよりも自分の直接的知覚判断の方に引かれて、警告を無視する結果になりやすいことも指摘されています。

 
この応用がこれである。「ドラブペティア」というサイトの説明を引用する。

5月25日に開通した阪神高速の「正蓮寺川トンネル」ではカーブ直前の直線区間の側壁面に「矢印」のような白い幾何学模様が連続して描かれています。奥へ進むにつれ、「矢印」の間隔が狭くなっており、トンネルに入って車の速度を下げなければ、矢印が目に飛び込んでくる間隔がどんどん短くなるので、「スピードが上がった」とドライバーが錯覚してしまう効果が期待されています。

 

 
外国(オランダ)にはこういうものもある。一見すると車道全体がレンガ敷きになっているかのように見えるが、アスファルトの表面にレンガ模様の凹凸を付けただけである。これがかなり普及しており、費用もたいしてかからないようだ。施行方法については、ユーチューブを張り付けておいた。日本も、せめて生活道路くらいでやってほしい。

 

物理的に速度を落とさせる方法

視覚的錯覚による方法は、いずれにしても、しかけがわかってしまうと騙されにくいこと、夜間は効果が薄くなることが、視覚的方法の致命的欠点である。そこで速度を出したくても物理的に出せないようにする方法がある。

たとえば生活路の出入り口にボンエルフやハンプを設ける。

 

 
イギリスではロンドンなど、市街地の道路に「スピードバンプ」と呼ばれる隆起が多数設置されている。

このスピードバンプはすごすぎですね。車を減速させるだけでなく、ぶっこわしてしまうほどの威力がありそうだ。アメリカの例だが、住民が相当に頭にきた結果からかもしれない。ぼくの自宅前にもこういう強力なやつをつけてくれるとありがたいのだが・・・。そう思って小学生の人身事故をきっかけに行政に提案してみたことがあるが、無しのつぶて。車のハケをよくすることばっかり考えているようで、住民の安全とか住宅街の静逸とかにはほとんど無関心のようだ。

 
それか、いっそのこと、ジグザム道路にして、強制的に徐行速度にしてしまうのはどうだろうか。

まとめ

以上のことから、交通安全対策上、警告するなどの交通規範に頼るよりも視覚的予防措置のほうが効果があるし、視覚的予防措置よりも物理的予防措置のほうがはるかに予防効果がある。
 

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

CAPTCHA


事務所所在地・連絡先

ホームズ調査事務所:
石川県加賀市
電話番号:090-1314-0234

電話・メールをされる前に、「お問い合わせ」欄を読んでくださいね。

当事務所の立場

突然、交通事故にあわれた被害者は、怪我をされたり、車を破損などされたりして大変なことです。その損害の賠償をしてもらうために、これから、加害者そして加害者側の損保担当者を相手に示談交渉を進めなければならなくなります。しかし、交通事故は人生でそう何度も経験するわけではありません。なにをどのようにしたらいいのか途方に暮れてしまうのがふつうです。

ところが、事故被害者がまず相手にするのが加害者であり、そして、実際は加害者側損保の担当者です。損保の担当者はそのことで生計を立てているいわばプロであり、百戦錬磨で鍛えた知識と経験があります。かたや、知識も経験もほとんどない事故被害者。そんな素人がプロ相手にどのように交渉していったらいいのでしょうか。

交通事故に詳しい弁護士が知人にいるような幸運な方は別にして、たいていの方は途方に暮れてしまうことでしょう。一昔前は、素人とプロの交渉ごとということにふつうはなって、プロの思い描くストーリーどおりに押し切られるのがふつうでした。しかし、ネットが発達した現在、示談交渉を進める上での情報がネットを検索すればあふれかえっています。が、その情報は正しいものもあれば正しくないものもある。玉石混淆です。それらの情報に接した事故被害者にとって、どの情報が正しくて信頼できるのかがまずわかりづらいし、自分だけでは手に負えなくて、調査や交渉ごとをだれかに任せることも時に必要になってきます。が、ネット上には、われこそは事故被害者のためだと謳っているものばかりなので、実際にいったいだれを信頼したらいいのかわかりません。

知識とは中立なものであること

ここで注意してほしいのは、情報の正確さもさることながら、その情報(知識)そのものが中立なことです。

昔、東大卒が多い自民党が間違えるはずがないと豪語している自民党支持者に会ったことがあります。ぼくは苦笑するしかありませんでした。たしかに東大卒は勉強をいっぱいしているわけだから、その知識量も多くかつ正確だといえるかもしれません。ただ、知識それ自体はあくまで中立なものであり、どちらにも役に立つ武器なのです。したがって、その正確でたくさんの知識をどちらの側に使うかにある。わかりやすいたとえ話をしてみましょう。

知識は刀という武器と同じ

hitininnno
その昔、武士という職業が存在しました。この武士は帯刀を許された職業のことであり、刀の専門家です。殿様を頂点にして、殿様に雇用され、殿様を守るために武器である刀の技術を日夜みがいていた。

この武器である刀自体は殿様を守るためにも使えるし、農民に加勢して殿様に刃向かうためにも使えます。しかし、悲しいかな、現実は殿様を守るために使われた例が圧倒的に多く、農民に加勢するために使われた例など不幸にしてきわめて少なかった。ごく稀に後者のような武士が現れますが、こういう武士こそ庶民にとっての英雄であり、「七人の侍」はまさにそのようなタイプの武士たちでした。

利益が一致しているか相反しているかが重要

したがって、問題はその使い手自身にあります。使い手がどちらの側に立つかで知識もそれぞれの側の武器になる。そして、その使い手がどちらの側に立つかは双方の利益が一致するか相反するかでふつうは決まってきます。

この、肝心要のことを説明したサイトが皆無といっていいほどにみあたらないのは不思議なことです(というか、あえて否定しているサイトさえいくらでもみつかるくらいです)。

記事を読んでいただければたちどころにわかることですが、当事務所は「立場」を鮮明にしております。あえて鮮明にしているのは、人間や社会に対する見方は、その人自身の立場から自由にはならないからです。中立を装うことは考察を浅くし、論旨を不明確にする。「立場」のない「立場」などありようがない。当事務所の立場は、ぼく自身が社会的弱者であるため、弱者の立場に徹することです。ぼくのような弱虫は「七人の侍」のようには決してなれないけれど、せめてその心意気だけでも真似して、社会的強者に阿らないようにしたい。そういう気持ちで当サイトをたちあげました。よろしくです。

【当サイトご利用上の注意】

当サイト内の情報を利用したことにより何らかの損害が発生しても、一切責任を負いません。自己責任でお願いいたします。また、記事を書いた後に、法律が変わったりするなど、現状を反映していないことがあります。その後の改正等についてはフォローしていくつもりですが、ご注意ください。

著作権にかかわることですが、当サイトの記事をコピーされる方が後を絶たない。公開した記事なので、コピーしていただくのはまったくかまわない。ただし、判例文のコピーによる引用は別にして、それ以外の文章の引用については、引用元を示したうえで、どこからどこまで引用したかも明示してください。

おすすめ記事

アーカイブ

カテゴリー

ページ上部へ戻る