身に覚えのない交通事故で加害者扱いされたとき

相談

先月、スーパーの駐車場で私の車にぶつけられたと言って相手がどなりこんできました。こちらは接触した覚えがなかったので、相手にそのように伝え、私の保険会社にも接触の覚えはない旨を伝えました。保険会社の担当者から、事故がないと保険会社は動けないと言われ、そのことを相手に伝えました。その後、相手からなんの連絡もなく、1か月以上経過しました。すると、いきなり弁護士から手紙が来て、修理代と代車代の19万円をその弁護士の口座へ1週間以内に振り込め、振り込まないなら、法的手段をとると通知してきました。

それで慌てて警察に行き、経緯を話し、事故がなかったことを証明するための実況見分をしてほしいと告げました。警察は、1か月も前のあったかどうかわからん事故じゃ・・・などといってやる気がありません。このままだと相手から裁判を起こされ、私自身で事故がなかった証明をしなければならないのでしょうか。それとも、調書をとってもらうため、いったん事故があったことを認め、その上で、過失責任を争ったほうがいいのでしょうか。

まったく事故に関与していなかったとして

相談者と相手との交渉経過が分からないのですが、相談者には、まったく身に覚えがない事故だということでよろしいでしょうか。もうそのように確信している。事故など起こしたことはまったくないし、自分の車にも事故があったことを推測させる痕跡も見つからない。相手が言いがかりをつけているものとして回答します。

事故そのものがなかったのでしたら、そもそも警察に実況見分をしてもらう必要があるのでしょうか。「なかった」ことをどのようにして実況見分するのかぼくにはさっぱりわかりません。警察だって、物損事故でしかも1か月前のあったかどうか定かでないことに付き合ってくれるほどヒマだとも思えません。

相手側弁護士が何を言ってこようが何を通知してこようが、ただのハッタリ・こけおどしにすぎません。弁護士バッチの威光を借りて嵩にかかって無理難題を通そうとしている。裁判に訴えるぞといえば法律に無知な人はびっくりして支払ってくれるかも・・・と期待しているにすぎません。そんなものは無視すればいい。本当に裁判に訴えてきた場合は無視することができなくなりますが、その場合も相談者が事故が「なかった」ことを証明する必要はまったくありません。

悪魔の証明

「なかった」ことの証明を「悪魔の証明」といいます。

「悪魔の証明」というのは、悪魔がいることを証明しようと思ったら、悪魔を1人つれてくればすむことですが、悪魔がいないことを証明しようと思ったら、この世のすべての存在について調べてその中に悪魔がいないことを証明する必要があります。そんなことは土台不可能なことなので、「ないこと」の証明は一般的には不可能か相当に困難であることが多く、そのことを比喩的に指して「悪魔の証明」というわけです。

 

怒鳴り込んでくるくらいだから本当は事故があったとして

ただ、相手が怒鳴り込んでくるくらいだから、ひょっとして相談者が気づいていないだけという可能性もある。そういう可能性がないとは絶対いえないから、もし相手が真摯な態度なら、相手の言い分も聞いたほうがいいと思います。そして、相手車の損傷の内容とその損傷位置を確かめて、自分の車の同じ高さの位置に損傷や相手車の塗装片があるのかどうかも念のため確認してみるべきです。確認してそれでも損傷らしき傷がないのだったら、無視すべきでいいと思います。

読者からのアドバイス

読者の方からこの記事についてメッセージをいただいた。メッセージの内容を要約すると、

弁護士が通知までしてくるくらいだから、それ相当の証拠を握っている可能性が高く、やはり無視というのはいけない。弁護士に対して、証拠の開示を求めるべきである。もし、開示しないようなら、それはそれでそのことを書面化することでトラブルを未然に防ぐこともできるのだから、いずれにしろ証拠の開示は必要である。

 
というものであった。

ごもっとも。適切なご意見だと思う。ぼくが書いた記事は相談者の言い分を100%正しいものとした上での回答だった。しかし、そうでなかった場合の可能性ももっと考えて回答すべきだったでしょう。

ただ、弁護士に証拠の開示請求をすることとは別のことだけれども、一点だけ付け加えたい。

事故があったことを後になってから証明するのはむずかしい

交通事故が発生した場合、すぐにも警察に報告せよとよく言われる。その理由は、事故があったこと、発生日時、事故場所、事故当事者がだれかを警察という第三者を介して立証させる点にある。今回はそれを怠った。そのような場合、あとで立証するのは大変困難な作業になる。今回の場合はさらに事故から1か月も経ってからの弁護士の通知である。車もすでに修理されているのがふつうだ。

・・・ということで、このケースについては、事故があったことの立証は相当に困難な事例だとぼくは思ったため、無視してもいいだろうと回答しました。ぼく自身、このような案件を過去に何度か扱ったことがあります。事故の目撃者探しをしたり、防犯カメラに事故が記録として残っていないかなどの調査をしたのですが、事故からあまり間がないならともかく、日が経ってからの証拠探しは大変苦労するし、結果はたいていダメであった。
 

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突然、交通事故にあわれた被害者は、怪我をされたり、車を破損などされたりして大変なことです。その損害の賠償をしてもらうために、これから、加害者そして加害者側の損保担当者を相手に示談交渉を進めなければならなくなります。しかし、交通事故は人生でそう何度も経験するわけではありません。なにをどのようにしたらいいのか途方に暮れてしまうのがふつうです。

ところが、事故被害者がまず相手にするのが加害者であり、そして、実際は加害者側損保の担当者です。損保の担当者はそのことで生計を立てているいわばプロであり、百戦錬磨で鍛えた知識と経験があります。かたや、知識も経験もほとんどない事故被害者。そんな素人がプロ相手にどのように交渉していったらいいのでしょうか。

交通事故に詳しい弁護士が知人にいるような幸運な方は別にして、たいていの方は途方に暮れてしまうことでしょう。一昔前は、素人とプロの交渉ごとということにふつうはなって、プロの思い描くストーリーどおりに押し切られるのがふつうでした。しかし、ネットが発達した現在、示談交渉を進める上での情報がネットを検索すればあふれかえっています。が、その情報は正しいものもあれば正しくないものもある。玉石混淆です。それらの情報に接した事故被害者にとって、どの情報が正しくて信頼できるのかがまずわかりづらいし、自分だけでは手に負えなくて、調査や交渉ごとをだれかに任せることも時に必要になってきます。が、ネット上には、われこそは事故被害者のためだと謳っているものばかりなので、実際にいったいだれを信頼したらいいのかわかりません。

知識とは中立なものであること

ここで注意してほしいのは、情報の正確さもさることながら、その情報(知識)そのものが中立なことです。

昔、東大卒が多い自民党が間違えるはずがないと豪語している自民党支持者に会ったことがあります。ぼくは苦笑するしかありませんでした。たしかに東大卒は勉強をいっぱいしているわけだから、その知識量も多くかつ正確だといえるかもしれません。ただ、知識それ自体はあくまで中立なものであり、どちらにも役に立つ武器なのです。したがって、その正確でたくさんの知識をどちらの側に使うかにある。わかりやすいたとえ話をしてみましょう。

知識は刀という武器と同じ

hitininnno
その昔、武士という職業が存在しました。この武士は帯刀を許された職業のことであり、刀の専門家です。殿様を頂点にして、殿様に雇用され、殿様を守るために武器である刀の技術を日夜みがいていた。

この武器である刀自体は殿様を守るためにも使えるし、農民に加勢して殿様に刃向かうためにも使えます。しかし、悲しいかな、現実は殿様を守るために使われた例が圧倒的に多く、農民に加勢するために使われた例など不幸にしてきわめて少なかった。ごく稀に後者のような武士が現れますが、こういう武士こそ庶民にとっての英雄であり、「七人の侍」はまさにそのようなタイプの武士たちでした。

利益が一致しているか相反しているかが重要

したがって、問題はその使い手自身にあります。使い手がどちらの側に立つかで知識もそれぞれの側の武器になる。そして、その使い手がどちらの側に立つかは双方の利益が一致するか相反するかでふつうは決まってきます。

この、肝心要のことを説明したサイトが皆無といっていいほどにみあたらないのは不思議なことです(というか、あえて否定しているサイトさえいくらでもみつかるくらいです)。

記事を読んでいただければたちどころにわかることですが、当事務所は「立場」を鮮明にしております。あえて鮮明にしているのは、人間や社会に対する見方は、その人自身の立場から自由にはならないからです。中立を装うことは考察を浅くし、論旨を不明確にする。「立場」のない「立場」などありようがない。当事務所の立場は、ぼく自身が社会的弱者であるため、弱者の立場に徹することです。ぼくのような弱虫は「七人の侍」のようには決してなれないけれど、せめてその心意気だけでも真似して、社会的強者に阿らないようにしたい。そういう気持ちで当サイトをたちあげました。よろしくです。

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