会社役員が交通事故で死傷したため会社の売り上げが落ちたとき

相談

自転車でおばさんとぶつかりました。病院に行ったところ骨折がわかり入院、後日手術をするようです。その後おばさんのパート先から人手不足になり仕事ができないことを理由に、パート先から損害をこうむった分を補償してくれといわれています。

おばさんの治療費や休業によるおばさんの損害についてはわかるのですが、パート先の損害までと言われて困っています。どうすればいいのでしょうか。

企業損害請求のあれこれ

この手の調査を何度かやったことがあります。ひとつは看板屋さんです。交通事故にあったのはご主人のほうでなくて、奥さんでした。2人で事業をやっており、奥さんは会計や物品の納入などを担当、奥さんが脳挫傷などの大怪我をして働けないため、看板屋の事業に損害を蒙ったから、代替労働の手配もふくめて何とかしてくれというものでした。もうひとつが、自動車販売店の工場長が事故で怪我をし休業した。そのため、販売店の業務のうちの修理業務に支障をきたし、会社は損害をこうむった。その分を補償してくれというものでした。まだ他にもたくさんあると思いますが、いま思い出せたのはこれくらいです。

企業が損害をこうむったからと言っても認められない

でも、こういう請求はたいてい認められません。そのことがわかっていて調査をするわけなので、調査というよりも、お気持ちがわかりますが、たぶん難しいかもしれない。たいていはダメなんですよそういう請求は。断定はできないものの、かくかくしかじかの事情で・・・というようなまわりくどい言い方にならざるをえない。そういう説明的な要素が多少とも伴う調査になります。こういうのって、調査員の本来の仕事ではないのですが、企業損害が認められるのはきわめて例外のばあいだということがわかっていない人が多いため、やむをえません。こういう請求があることは依頼先も事前にわかっているのに、どうしてガツンと言ってやらないのか、ぼくはそのことがすごく不満でした。

企業損害について

通常は企業損害という言い方をしますが、会社の間接被害のことです。すなわち、交通事故の直接的な被害者でない会社が従業員などが怪我をし休業したために間接的に被った損害のことです。が、裁判所は基本的にそのような請求を認めていません。今回の被害者はパートのおばさんということなので、おばさんが事故によって出費を強いられた治療費だとか、休業損害、慰謝料については認められますが、事故に遭った直接の被害者以外の、勤め先の被害についてまで賠償しなければならないなんてことにはまったくなりません。

これを認めだすと、事故とは直接関係のないところまで事故との因果関係が拡大して、際限がなくなってしまい、とてつもない賠償をしなければならないことになってしまうからです。今回はパートだから「とてつもない」ということにはならないでしょうが、役員だったり社長だったりしたばあいはどうでしょう。ときに、「とてつもない」請求がされがちだからです。そのため、裁判所はこのような請求についてどこまで認めて、どこから認めないのかの一線を引いています。

企業損害に対する判例

有名な最高裁(昭和43年11月15日)の例で説明します。薬局の経営者が事故により負傷したケースですが、税金対策から形だけ法人組織にしていた。実態は経営者と薬局は実質的には同一と認められるものです。このような場合、法人格否認の法理が適用され、経営者イコール薬局として扱い、薬局の企業損害を認めました。したがって、企業の間接被害が認められるのはきわめて例外的ケースのみということです。

もっとわかりやすく言うと、会社といっても小規模ないわゆる個人会社クラスであり、直接の被害者も他を持って代えがたい人物であり、経済的一体性がある場合です。今回のようなパートはまったく該当しません。会社というのはそのような不慮の事故があることも予想し、リスク分散を講じておくことが経営者の責任だという考えからです。パートくらいなら、なんとかしろよ。それが経営者の才覚というものだ。そういう考えです。

もうひとつ参考のために判例を紹介します。企業損害の考え方がよくまとまっていると思いました。

東京地裁 平成3年12月12日判決です。   

不法行為によって被害者の生命・身体が害された場合に、その直接の被害者と一定の社会的、経済的、法的関係にある第三者に被害や損害が波及することが少なくない。例えば、直接の被害者が経営したり就労する会社に損害をもたらす場合のあることが認められる。これは、いわゆる「企業損害」の問題であるが、こうした間接的に被害を受けた者すべてに際限なく当然のように損害賠償を認めることは許容できない。

すなわち、人身事故において、もっとも重視されるべきことは直接の被害者の保護であり、損害賠償法の目的とするところも侵害された生命・身体の価値の回復が中心であり、いわゆる「企業損害」の賠償を安易に肯定することは、取引関係が複雑に連続しあっている現代社会において賠償範囲の拡大をもたらす虞れがあり、偶発的な交通事故の加害者に余りにも大きな負担を課すことになり、一般人の社会的行動についての予測可能性や計算可能性を破壊する。また、企業の従業員等の死傷に伴う業務上の損害など営業上のリスクは、予め企業計算の中に含めて考えることも可能である。元来、収益のため人を使用する企業は、従業員から提供された労務を受領し、従業員に対し、これに相応する賃金、報酬等を支払うことに尽きるから、従業員が交通事故によって労務の提供ができなくなったとしても、これによって企業の被る損害は、提供されなかった右労務に相応する右賃金、報酬等と同程度に限られるものであり、当該従業員を企業活動に利用して利益を追及できなかったとしても、その利益を企業の負担としても、それほど酷な取り扱いではない。また、生命・身体の侵害による賠償額を基準化・定額化する方向で考えるならば、いわゆる「企業損害」などの間接被害者の損害は一律に賠償範囲外にする方がよいとも考えられるところである。

したがって、ある人に対して加えられた不法行為の結果、その人以外の第三者に損害を生じた場合でも、不法行為者の損害賠償義務は、直接に加害された者に生じた損害に対してあるに止まり、第三者に生じた損害についてまでは及ばないものとするのが不法行為の原則とするのが妥当である。

原告主張のいわゆる「相当因果関係の法理」も、被害者として損害賠償請求の主体であることを認められた者が、発生した損害のうち賠償請求をなし得る範囲を画定することに本来の目的があるのであるから、この法理をもって、直ちに第三者に生じた損害について不法行為の賠償責任を肯定することは疑問があり、損害賠償の請求主体は、基本的には直接被害者であるものと考える。

しかし、原則は右のとおりであるとしても、第三者が法人とは名ばかりの、いわゆる個人会社であり、直接の被害者以外には当該会社の機関としての代替性がなく、直接の被害者と会社とが経済的に一体をなすなどの関係にあるような、きわめて小規模な個人会社で、被害者と会社と財布が1つと言えるような場合には、この会社に生じた損害の賠償請求を定型的な例外として容認しなければ、右のような個人会社及びこれを構成する個人の現実の社会的・経済的実態に適合しないから、間接的に損害を被った会社が右のような個人会社である場合には、その構成員に対する不法行為がなかったならば得られたであろう会社の逸失利益等の損害について、損害賠償の請求を肯定すべきである。

 

以上から、そのような請求をされた場合、そういうのは裁判所も認めていませんと教えてあげてください。それでもなんだかんだと言ってきたら、無視すればいいです。

会社が肩代わりに給与を支払った場合

以上に述べたことは「固有損害」といわれるもので、裁判所もほとんど認めていません。ところで、会社が怪我をした役員や従業員の肩代わりに役員報酬や給与等を出すことがありますが、これは「反射損害」といわれており、この範疇のものは加害者に請求が可能です。ふつうは休業損害として支払われるのですが、休業損害の支払いが遅いときなどに、会社側が肩代わりに給与等を支払うばあいです。

代替労働の請求の可否について

「固有損害」「反射損害」以外に、代替労働の請求があります。これは認められません。この点については、「交通関係訴訟の実務」という本のP158の解説に譲ります。

代表者が休業し、同人が行っていた業務を代替労働又は外注によって補ったとして、その代替労働費又は外注費を会社の損害として請求する場合もある。これは、会社にとってみれば事故によって支出を余儀なくされた費用の賠償であり、会社の収入の減少分の賠償を求める事案とは性質を異にするようにも思われるが、裁判所の大多数はこれについても企業損害の問題と位置づけて、昭和43年判決の要素を満たすことが必要であるとしている。

 


 

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