仕事中の交通事故で、運転手が会社から損害額を全額弁償しろと言われたが・・・

(相談)

仕事中に交通事故をおこしました。相手よりクルマ修理代として40万の賠償請求がきています。勤務先は保険を使う気がなく、被害者の損害を全部負担せよと言われてしまいました。勤務先が負担しなければならない決まりがあるのかないのか、あるとして、どのくらいの負担があるのか教えていただけないでしょうか。

使用者の責任

民法715条の使用者責任により、勤務先である使用者にも負担義務がある。ふつうはお金のある使用者に全額請求し、使用者が被害者に賠償金を支払った場合、事故を起こした従業員に対して求償することは可能である。ただし、その全額の請求が可能かについてだが、最高裁は以下のような判断を下している。

使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防もしくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償または求償の請求をすることができる(最高裁昭和51年7月8日)

 

要は、使用者は被用者を使うことでふだん利益を得ているのだから、被用者がたまたま交通事故で損害を与えたからといって、被用者にすべての負担をさせるべきでない、それが事業を行う者の責任であると言っているのだ。

使用者は被用者に対してどこまで求償できるか

問題は使用者が被用者に対してどの程度の求償が可能かであるが、上記最高裁判決の例では労働環境等にかなり問題があったことから、使用者の被用者に対する求償権が25%に制限された。

すなわち、

石油等の輸送及び販売を業とする使用者が、業務上タンクローリーを運転中の被用者の惹起した自動車事故により、直接損害を被り、かつ、第三者に対する損害賠償義務を履行したことに基づき損害を被った場合において、使用者が業務用車両を多数保有しながら対物賠償責任保険及び車両保険に加入せず、また、右事故は被用者が特命により臨時的に乗務中生じたものであり、被用者の勤務成績は普通以上である等判示の事実関係のもとでは、使用者は、信義則上、右損害のうち4分の1を限度として、被用者に対し、賠償及び求償を請求しうるにすぎない。

 
また下級審裁判例では、被用者の交通事故に関して50%(東京地裁昭和60年3月13日)、40%(横浜地裁平成7年3月27日)、20%(名古屋高裁昭和61年12月24日)、5%(大阪高裁平成13年4月11日)、求償をまったく認めない(大阪地裁昭和51年6月9日判決)などがあり、使用者の被用者に対する求償権がかなり制限されていることがわかる。

たとえば20%に制限された名古屋高裁のケースであるが、アスファルトローリー車という高価な車両であるにもかかわらず任意保険に加入していなかったこと、時間外労働が常態化していたことなどを理由とするものである。判決の「理由」から引用すると、

運転手Aの過失は通常の過失の城を出るものではなく、勤務先Bの主張するような重過失とはとうてい評しえないものである。そして、右に加うるに、勤務先Bが本件車両の如き高価な車両を保有しながらこれに任意の対物賠償責任保険、車両保険をかけていなかったことやAの支給されていた給料がその労務に比して必ずしも恵まれたものではなかったことなど原判決挙示の諸事情に、更に、(証拠略)によれば、Aは本件事故後「事故を起こしたことを反省し、向う5年間退職せずに真面目に勤務する」旨の始末書をBに提出しながら昭和54年3月始めころBを退職してしまったことが認められるが、これはBがAに事故の弁償について話し合いを求め、同年2月分の給料を支払わなかったりしたためと認められることなどを総合して考えるときは、BのAに対する本件損害賠償請求権及び求償権の行使は、損害額の2割である48万0408円をこえる限度においては信義則に反し、許されないものと解するのが相当である。

 
5%に制限された大阪高裁の例は、運転手の労働条件が悪く加重な勤務を課していたこと、そのために運転手の定着が悪かったこと、その結果、運転手が交通事故を起こすことが日常茶飯事であったにもかかわらず、会社は車両保険に加入していなかったことや安全指導を怠っていたこと、トラックに過積載があったこと、事故を起こした運転手について重大な過失が認められないことや過去の事故歴や勤務態度に問題がなかったこと等を指摘して、会社が運転手に請求できる損害の範囲は全損害の5%にとどまるとしている。

被用者側の抗弁事由だということ

なお、「求償権を信義則上制限すべきことを根拠づける具体的事実については、使用者から求償を受けた被用者が、抗弁として主張・立証しなければな」らない(「債権各論Ⅱ・不法行為法」潮見佳男著)。

使用者の損害についての求償権の制限

さらにもう一つトラブルになりやすいのが、被害者のクルマの損害だけでなくて、会社のクルマの損害についてである。すなわち、被用者が業務の執行につき行った行為により、被害者に損害が生じただけでなく、使用者自身の権利も侵害され、使用者固有の損害が発生した場合だ。たとえば、会社のクルマを運転していて追突事故を起こし、被害者のクルマに損害を与えると同時に、会社のクルマにも損害を与えた場合である。この場合の会社のクルマの損害についても、先の理屈で使用者の被用者に対する損害賠償請求が制限されている。

被用者の故意による不法行為についても使用者責任が認められる

なお、業務中に引き起こした故意による追突事故事案(東京地裁 平成20年10月27日判決)についても、民法715条の使用者責任が認められている。
 
(追記)忙しいため、記事出しがなかなかできず、今回は語句の若干の修正ていどにとどめた。こういう手抜き記事はいかんのだけれど、機会があったら加筆したいし、手抜きを続けないようにしたい。
 

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突然、交通事故にあわれた被害者は、怪我をされたり、車を破損などされたりして大変なことです。その損害の賠償をしてもらうために、これから、加害者そして加害者側の損保担当者を相手に示談交渉を進めなければならなくなります。しかし、交通事故は人生でそう何度も経験するわけではありません。なにをどのようにしたらいいのか途方に暮れてしまうのがふつうです。

ところが、事故被害者がまず相手にするのが加害者であり、そして、実際は加害者側損保の担当者です。損保の担当者はそのことで生計を立てているいわばプロであり、百戦錬磨で鍛えた知識と経験があります。かたや、知識も経験もほとんどない事故被害者。そんな素人がプロ相手にどのように交渉していったらいいのでしょうか。

交通事故に詳しい弁護士が知人にいるような幸運な方は別にして、たいていの方は途方に暮れてしまうことでしょう。一昔前は、素人とプロの交渉ごとということにふつうはなって、プロの思い描くストーリーどおりに押し切られるのがふつうでした。しかし、ネットが発達した現在、示談交渉を進める上での情報がネットを検索すればあふれかえっています。が、その情報は正しいものもあれば正しくないものもある。玉石混淆です。それらの情報に接した事故被害者にとって、どの情報が正しくて信頼できるのかがまずわかりづらいし、自分だけでは手に負えなくて、調査や交渉ごとをだれかに任せることも時に必要になってきます。が、ネット上には、われこそは事故被害者のためだと謳っているものばかりなので、実際にいったいだれを信頼したらいいのかわかりません。

知識とは中立なものであること

ここで注意してほしいのは、情報の正確さもさることながら、その情報(知識)そのものが中立なことです。

昔、東大卒が多い自民党が間違えるはずがないと豪語している自民党支持者に会ったことがあります。ぼくは苦笑するしかありませんでした。たしかに東大卒は勉強をいっぱいしているわけだから、その知識量も多くかつ正確だといえるかもしれません。ただ、知識それ自体はあくまで中立なものであり、どちらにも役に立つ武器なのです。したがって、その正確でたくさんの知識をどちらの側に使うかにある。わかりやすいたとえ話をしてみましょう。

知識は刀という武器と同じ

hitininnno
その昔、武士という職業が存在しました。この武士は帯刀を許された職業のことであり、刀の専門家です。殿様を頂点にして、殿様に雇用され、殿様を守るために武器である刀の技術を日夜みがいていた。

この武器である刀自体は殿様を守るためにも使えるし、農民に加勢して殿様に刃向かうためにも使えます。しかし、悲しいかな、現実は殿様を守るために使われた例が圧倒的に多く、農民に加勢するために使われた例など不幸にしてきわめて少なかった。ごく稀に後者のような武士が現れますが、こういう武士こそ庶民にとっての英雄であり、「七人の侍」はまさにそのようなタイプの武士たちでした。

利益が一致しているか相反しているかが重要

したがって、問題はその使い手自身にあります。使い手がどちらの側に立つかで知識もそれぞれの側の武器になる。そして、その使い手がどちらの側に立つかは双方の利益が一致するか相反するかでふつうは決まってきます。

この、肝心要のことを説明したサイトが皆無といっていいほどにみあたらないのは不思議なことです(というか、あえて否定しているサイトさえいくらでもみつかるくらいです)。

記事を読んでいただければたちどころにわかることですが、当事務所は「立場」を鮮明にしております。あえて鮮明にしているのは、人間や社会に対する見方は、その人自身の立場から自由にはならないからです。中立を装うことは考察を浅くし、論旨を不明確にする。「立場」のない「立場」などありようがない。当事務所の立場は、ぼく自身が社会的弱者であるため、弱者の立場に徹することです。ぼくのような弱虫は「七人の侍」のようには決してなれないけれど、せめてその心意気だけでも真似して、社会的強者に阿らないようにしたい。そういう気持ちで当サイトをたちあげました。よろしくです。

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