休業損害が事故前3か月間の収入で決められるわけ

【托卵する鳥、される鳥。される側は運が悪い】

相談

追突事故の被害者です。怪我をしたため仕事ができず休業損害が発生し、保険会社から毎月5700円をもらっています。しかし、その額が不満です。事故前の3か月間の給料が算定の基準になっているのですが、その3か月も含めてここ数か月、会社の売上が上がらず、そのため減給〈50%減〉を強いられている事情がありました。

しかし、現在は受注量も以前並みに回復し、それどころか同僚たちは残業までしないとおいつかなくなっています。たまたま運悪く給料が少なかった時を基準にされていて不満なのですが、どうにかならないのでしょうか。

休業損害とは

消極的損害(注1)の一種であり、一般に、被害者が交通事故により受けた傷害の症状が固定するまでの療養の期間中(注2)に、傷害及びその療養のため休業し、又は十分に稼動することができなかったことから生じる収入の喪失をいう。(「交通損害関係訴訟」P139)

 
とされています。


 
この定義どおりなら、事故前の3か月の収入が対象になるのではなくて、本来は、事故後の、実際は休業したけれども、休業しなかったと仮定した場合に得られたであろう収入が対象になるべきです。すなわち、(事故時から見て)過去ではなくて将来が対象です。

注1

消極損害とは加害者の行為がなければ被害者が得られたであろう財産的な利益を失ったことによる損害のことをいいます。交通事故の場合には被害者が交通事故により受傷または死亡したことによって、将来に向かって生ずる減収などの経済的不利益を指します。もっと単純にいえば、消極損害は、交通事故さえなければ将来得られたであろう利益分のことです。

 

注2

休業損害の対象期間をこのように症状固定時期までと解説する本が多い。しかし、実際は休業期間イコール症状固定時期までとは必ずしもいえない。症状は初診時がいちばん重くて、それから暫時軽くなると考えられており、実際は症状固定の前のどこかの地点で、就労が可能になりうるからである。したがって、症状固定時期は休業期間の最大期間を示すにとどまり、それよりも前に就労が可能な時期に達することも多い。

実際の算定は、過去を基準にしているのはなぜか

休業損害とは消極損害であり、交通事故さえなければ将来得られたであろう利益分のことです。理屈の上では将来が対象になるべきなのですが、実際は、今回のように、過去の、たとえば事故前3か月間の給料の平均値の収入で計算しているのが実務上の運用です。どうしてそうなっているのでしょうか。

ひとつは、休業損害は、症状固定後に積算するというようなやり方になじみにくく、毎日の生活をしていく上ですぐにも必要な損害項目だからです。被害者にとって、なるべく早く賠償してもらいたい。そうでないと、お金持ちは別にして、われわれのような貧乏人はすぐに生活ができなくなります。

もうひとつが、給与所得者は事故前3か月間の給与の平均額と、事故後、事故にあわなければ得られたであろう収入がたいていは一致するからです。将来の収入を立証するのはなかなかたいへんですが、過去の、しかも直近の3か月間の収入の立証は容易だからです。

すなわち、
 

被害者が生活をしていくのにすぐにも補償しなければならないという緊急性の要請

と、

被害者の立証責任の負担の軽減をはかる要請。

 
この2つがあるのだと、ぼくは思います。そのような事情があるために、便宜的に事故前3か月で処理されているわけです。

今回は前提そのものが成立しないケースである

だが、今回のケースはその前提そのものが成立しないわけです。すなわち、「給与所得者は事故前3か月間の給与の平均額と、事故後、事故にあわなければ得られたであろう収入は一致する」のがふつうだが、今回は一致しなかった。したがって、事故前3か月間の給与の平均額ではなくて、本来の原則である休業期間中に得られたであろう収入で請求すべきです。

ただその場合は問題があります。その立証が将来にかかるものであるため、生活費の補填としてすぐにも補償してもらいたい事故被害者の要望に答えにくいことです。だったら次善の策として、過去3か月ではたまたま低額だったことと、休業損害の対象期間を過去3か月ではなくて、1年間を対象にしてもらう方向で立証されたほうがよろしいと思います。

事故前3か月だと忘れてしまいがちの賞与・ボーナスのこと【16・12・07追記】

事故前1年なら視野に入りやすいのですが、事故前3か月だとつい忘れてしまいがちだし、休業損害証明書にも、よ~く見ていただくとわかるのですが、賞与・ボーナス欄がないのです。
 
kyuugyousyoumeisyo01
 
 
賞与・ボーナスは、経営者からよく頑張ったからいって特別に支給される恩恵的なものと、賃金に準じたものとのふたつがあります。後者なら、就業規則や労働契約などで支給額や支給条件が明確に定められており、使用者に支払義務が課せられているといえる場合には、賃金に当たるため、労働基準法の適用を受けます。

労基法12条

賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。

 
このように、賃金に準じるばあい(賃金の後払い的性質のもの)なら請求できますので、お忘れなく。ただし、来期の賞与・ボーナスが確実に減少されることを立証する必要があるので、ハードルが低くない。また、被害者が事故受傷のため長期間欠勤したため、次年度以降の昇給が遅延したことによる損害は認定されづらい。公務員のように法令や就業規則等で明確化され、確実に損害が生じることがわかるなら別ですが。
 

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突然、交通事故にあわれた被害者は、怪我をされたり、車を破損などされたりして大変なことです。その損害の賠償をしてもらうために、これから、加害者そして加害者側の損保担当者を相手に示談交渉を進めなければならなくなります。しかし、交通事故は人生でそう何度も経験するわけではありません。なにをどのようにしたらいいのか途方に暮れてしまうのがふつうです。

ところが、事故被害者がまず相手にするのが加害者であり、そして、実際は加害者側損保の担当者です。損保の担当者はそのことで生計を立てているいわばプロであり、百戦錬磨で鍛えた知識と経験があります。かたや、知識も経験もほとんどない事故被害者。そんな素人がプロ相手にどのように交渉していったらいいのでしょうか。

交通事故に詳しい弁護士が知人にいるような幸運な方は別にして、たいていの方は途方に暮れてしまうことでしょう。一昔前は、素人とプロの交渉ごとということにふつうはなって、プロの思い描くストーリーどおりに押し切られるのがふつうでした。しかし、ネットが発達した現在、示談交渉を進める上での情報がネットを検索すればあふれかえっています。が、その情報は正しいものもあれば正しくないものもある。玉石混淆です。それらの情報に接した事故被害者にとって、どの情報が正しくて信頼できるのかがまずわかりづらいし、自分だけでは手に負えなくて、調査や交渉ごとをだれかに任せることも時に必要になってきます。が、ネット上には、われこそは事故被害者のためだと謳っているものばかりなので、実際にいったいだれを信頼したらいいのかわかりません。

知識とは中立なものであること

ここで注意してほしいのは、情報の正確さもさることながら、その情報(知識)そのものが中立なことです。

昔、東大卒が多い自民党が間違えるはずがないと豪語している自民党支持者に会ったことがあります。ぼくは苦笑するしかありませんでした。たしかに東大卒は勉強をいっぱいしているわけだから、その知識量も多くかつ正確だといえるかもしれません。ただ、知識それ自体はあくまで中立なものであり、どちらにも役に立つ武器なのです。したがって、その正確でたくさんの知識をどちらの側に使うかにある。わかりやすいたとえ話をしてみましょう。

知識は刀という武器と同じ

hitininnno
その昔、武士という職業が存在しました。この武士は帯刀を許された職業のことであり、刀の専門家です。殿様を頂点にして、殿様に雇用され、殿様を守るために武器である刀の技術を日夜みがいていた。

この武器である刀自体は殿様を守るためにも使えるし、農民に加勢して殿様に刃向かうためにも使えます。しかし、悲しいかな、現実は殿様を守るために使われた例が圧倒的に多く、農民に加勢するために使われた例など不幸にしてきわめて少なかった。ごく稀に後者のような武士が現れますが、こういう武士こそ庶民にとっての英雄であり、「七人の侍」はまさにそのようなタイプの武士たちでした。

利益が一致しているか相反しているかが重要

したがって、問題はその使い手自身にあります。使い手がどちらの側に立つかで知識もそれぞれの側の武器になる。そして、その使い手がどちらの側に立つかは双方の利益が一致するか相反するかでふつうは決まってきます。

この、肝心要のことを説明したサイトが皆無といっていいほどにみあたらないのは不思議なことです(というか、あえて否定しているサイトさえいくらでもみつかるくらいです)。

記事を読んでいただければたちどころにわかることですが、当事務所は「立場」を鮮明にしております。あえて鮮明にしているのは、人間や社会に対する見方は、その人自身の立場から自由にはならないからです。中立を装うことは考察を浅くし、論旨を不明確にする。「立場」のない「立場」などありようがない。当事務所の立場は、ぼく自身が社会的弱者であるため、弱者の立場に徹することです。ぼくのような弱虫は「七人の侍」のようには決してなれないけれど、せめてその心意気だけでも真似して、社会的強者に阿らないようにしたい。そういう気持ちで当サイトをたちあげました。よろしくです。

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