飲酒運転で免責、すなわち保険金が下りないとき

飲酒調査をされるための条件

保険調査の中に飲酒調査という種目がある。どういう場合に調査されるのか。もちろん飲酒の疑いがある場合だが、疑われる条件というものがある。

第一に夜間の事故。
第二に、警察届がされていない事故。
第三に、不自然な事故。たとえば直線路であるにもかかわらず、道路端の電柱にぶつけたというような事故。これが反対車線側の電柱にぶつけたなら、その不自然さは倍加される。

 
以上の3つの条件がそろえば飲酒調査は必至である。個々の条件のうちの2つに該当すれば、飲酒調査の対象に十分なりうるだろう。

以上は一般的な条件だが、個別的な条件もある。たとえばスナックのママさんとかの帰宅時の事故や、忘年会たけなわのシーズンの夜間の事故。飲み屋街がある繁華街に向かっているクルマは疑われにくいが、繁華街方面から出てきた走行車の事故などが疑われる典型例である。

こういう場合はたいていが自損事故だが、ときに相手車両とぶつかった事故で、相手から酒の匂いがしたと申告されることもある。その場合は、昼夜を問わず飲酒調査の対象になる。

どういう調査がされるかについての詳細についてはぼくは書かない。

飲酒して保険金がおりない条件

今回書くのはどういう場合に保険での飲酒免責になるかだ。すなわち、どういう場合に、損保が飲酒を理由に保険金を支払わないかということである。

損保が飲酒免責を主張するのはふつう車両保険にかかわってであるから、車両保険約款の規定を確認してみよう。各社によって表現に若干のばらつきがあるようだが、たいていは「道路交通法第65条第1項に定める酒気帯び運転もしくはこれに相当する状態」での運転中の事故に当たるかどうかである。また、傷害保険でも問題になる。こちらは「酒に酔った状態(アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態をいいます)で自動車を運転している間」と規定されている。規定の内容が違うのである。また、飲酒と事故との因果関係がなくても免責になることに注意したい。(なお、対人・対物賠償保険では飲酒があると20~30%の過失加算されるが、被害者保護の要請により飲酒で損害賠償金が出ないということにはならない。)

では、車両保険の「道路交通法第65条第1項に定める酒気帯び運転もしくはこれに相当する状態」とか、傷害保険の「「酒に酔った状態(アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態をいいます)で自動車を運転している間」とかは、具体的にどういう状態をいうのだろうか。

道交法では、「酒気帯び運転」は呼気1リットル中0.15mg以上のアルコールを検知した場合と規定している。そして、「酒酔運転」は検知結果に関係なく、「酒に酔った状態(アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態をいう)にあった者」と規定している。

これらの規定から、車両保険の飲酒免責にあたるのは、呼気1リットル中0.15mg以上のアルコールを検知した場合となるし、傷害保険の飲酒免責にあたるのは、呼気濃度という客観的基準ではなくて、「アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態」という、定性判断によることになる。

原則は以上のようになるのだが、警察から飲酒検知をされていなくても、0.15mg以上のアルコールなのだから、ビール1本ていどの飲酒の事実が発覚すれば(身体の大きさも関係するが)酒気帯び運転に相当する状態だと判断されるし、同様に、それ以上の飲酒をしている事実が発覚すれば、「アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態」だと判断される。いや、一滴でも飲んでいたら免責にしていた損保もあった。

このように、車両保険などの自動車保険の約款の文言と、傷害保険の約款の文言はやや違うものの、実質はほぼ同じ意味だと思ってもらったらいいだろう。

上野式血中アルコール濃度計算式

保険調査では下記計算式を使う。

上野式血中アルコール濃度計算(注)必要事項

①飲酒開始時刻
②飲酒終了時刻
③事故発生時刻
④被調査者の体重(kg)
⑤推定分解時間

アルコールの種類摂取量(ml)アルコール濃度(%)
ビール1,0005.0%
日本酒54015.0%
ウィスキー水割り408.0%

 
(注)上野式血中アルコール濃度計算式の詳細について知りたい方は、交通事故総合分析センターのサイトに詳しい解説がある。

裁判所は飲酒に厳しい

では、裁判だとどうだろうか。裁判所の少数例(大阪地裁平成21年5月18日判決)は、その約款を制限的に解釈して、酒気帯び運転のうちアルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態での運転を免責事由とする趣旨であるとしている。しかし、多数例は、たとえ一滴であれ飲酒していれば保険会社は保険金を支払わなくていいと判断し、さらに、因果関係や飲酒運転をしているという認識さえ不要としている。裁判所は飲酒に関しては保険会社の運用よりもきびしいくらいだ。

因果関係が不要なのだから、たとえば信号待ちで停止していたところに追突された場合、追突した側が100%事故の原因を作出しており、追突された側は100%の被害者なのだが、たまたま追突された側に飲酒があると、対人・対物賠償保険で20~30%の過失ありとされ、さらに車両保険や搭乗者傷害保険、人身傷害保険は免責となる。また、飲酒運転をしているという認識が不要なのだから、たとえば前夜の酒が体内に残っている場合でも免責になる。

飲酒に因果関係を問わないのは疑問だ

その考え方の基礎に、飲酒はたとえ微量であっても、認知力、情報処理能力、注意力、判断力の低下をもたらし、反応速度が遅くなって交通事故を起こす可能性が著しく高まるという前提がある。その前提から、飲酒での運転は量の程度にかかわらず絶対悪だと評価している。

しかし、この前提はどこまで正しいのだろうか。

ぼくの手元に「歩行者 人動車 道」(牛生扇著)という本がある。副題が「路上の運転と行動の科学」とあるように、クルマを運転する人の行動特性を諸外国の多くの統計や研究資料に基づき考察した本で、目のうろこが落ちるような記載が随所にある。飲酒についてもこのように書いてある。
 
jindousya
 

シャイナーは、アルコールと事故とを直接因果関係で結ぶことは、極めて慎重に、これを避けて、次のように述べている・・・致命的な衝突事故の約半数は飲酒運転によるものであるということが、事故統計の数字を引用して報告されることが多い。しかし、これを裏付ける実験的研究は皆無である。それは、一定の条件を整えて、アルコールを与えた被験者群に、一般道路上を運転させて、死亡事故がどのように発生するかを見るような、死亡者が実際に出る実験計画を立てることが許されるはずがないからである。従って、できるのは事故統計や観察によりアルコールと事故との相関を求めることだけであって、因果関係の立証には不十分な観察的研究で我慢せざるを得ないからである・・・。

シャイナーはさらに続けて、・・・事故統計などを使って行う観察的研究で得られた結果を解釈する際に、避けなければならない落とし穴がある。それは先に個人的不適応について論じたときに「相関と因果の区別」について説明したように、観察的研究では、関連する独立変数の全てを整理して操作することは不可能で、単にそのうちの幾つかの変数を観察できるだけであって、常に、混交変数の影響による「風が吹けば桶屋が儲かる」式の、見せかけの関係を観察する恐れがあるからである。

しかし、とシャイナーは続けて次のようにいう・・・そうはいっても、アルコールと事故との間には、因果関係があるのではないかと疑うに足る充分な先験的な理由が存在する。それは、アルコールは摂取量によっては、ドライバーの認知、判断、操作に影響を与え、運転機能の著しい低下を招くという多くの実験的研究の結果があり、また、ドライバーの運転行動を説明する理論的枠組みからも導かれる結果でもある、という理由による。

・・・それは確かにそのとおりである。しかしそれでも、とシャイナーはさらに続ける・・・やはり、それにもかかわらず、観察的研究によって得られた結果を観察するとき、そのデーターから直ちに因果的結論を下すことが妥当であるか否かについて、常に疑問を投げかけるだけの慎重さが欲しいものである。

(牛生氏はシャイナーの主張に対して)そのとおり、因果関係の存在を決定するには、常に慎重でなければならない。それは例えば、飲酒により、運転機能の若干の低下があっても、要求されるパフォーマンスの「閾値」内に留まるものであれば、事故との因果関係は生じないからである(と感想を述べている)。

因果関係や閾値に目をつぶる裁判所

裁判の多数例は、事故との因果関係や「閾値」にあえて目をつぶったものであり、先に紹介した少数例は「閾値」があることに着目した裁判例だといえる。さらに問題なのは、事故とは因果関係もなく、閾値以下の飲酒運転に対して、国家が社会的制裁を加えるための旗振り役をやっていることである。

当方の感想

飲酒運転はたしかに悪い。ぼくはつきあいで酒を飲む程度で、酒なんかなくてもへいちゃらだから、運転する前に飲酒する奴の気がしれないし、断じて許せない。しかし、事故との因果関係がなかったり閾値以下の飲酒運転に対して法的非難を加えるのはおかしい。そういう問題は道徳や倫理の領域の問題だからである。とりわけ、閾値内かどうかの判断は難しい立証作業を伴うため、取り締まる側や保険金を支払う側はその困難さから解放されたいのだろう。今のご時勢でこんなことを言うのもなんだが、法が道徳の領域にまで口出しするのは、いくらなんでもやりすぎというものだろう。

事故と直接因果関係がない無免許運転等の違法行為の評価【16・12・29追記】

判例タイムズ過失相殺基準本に、上記表題の、このことを考える上で参考になる記載があったことを思い出した。付け加えたい。

全訂3版においては、事故と直接因果関係がなくても、これを著しい過失又は重過失として取り扱う旨の記載があったが、倫理的側面は慰謝料の算定など別の観点から斟酌し得るし、そもそも修正要素として掲げるか否かに当たって、事故との相当因果関係は当然に考慮されており、違法行為のみ別の取扱いをする根拠に乏しいといえよう。

事故との相当因果関係を考慮するとしても、例えば、酒気帯び運転や酒酔い運転をしたり、一度も運転免許を取得したことがない者が無免許運転をしたりした場合は、法令の認識の欠如ないし不足や運転技術の未熟さが影響を及ぼすという意味において、事故と相当因果関係があると事実上推定されるであろう。

しかしながら、昼間、赤信号に従って停車中に追突された車両の運転者がたまたま酒気を帯びていたとしても、酒気帯びの事実が事故と相当因果関係があるとは考え難い。結局、無免許運転等の違法行為についても、他の修正要素と同様、事故と相当因果関係のある場合に考慮すべきであり、ただ、事故態様によっては、それらの事故との相当因果関係が事実上推定されることが多いと考えるべきである。(P44)

 


 
こういう方向の議論がもっと活発にあってもいいと思うし、その方向に判例が修正されるべきだと、ぼくは思う。
 

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