休車損を実際に請求するときに注意すべきこと

休車損とは?

事業用に使っているクルマが事故にあったとする。事故で小破して修理をしなければならなくなったり、大破して新たに買い換えなければならなくなったりする。前者なら修理費用、後者なら買換費用が必要になる。

しかし、損害はそれだけにとどまらない。その修理期間中あるいは買換期間中はクルマが使えなくなるわけだから、本来クルマが使えた場合に得られたであろう利益まで失うことになる。その損害のことを休車損害という。たとえばタクシーなら、客からのタクシー運賃がはいってくるだろうし、運送用トラックなら、荷物を運ぶことによる運送賃がはいってくるだろう。

休車損の計算式

したがって、休車損害の基本の計算式は、
 

(事故車の1日当たりの営業収入-変動経費)×休車日数(修理日数or買換日数)

 
になる。
 

営業収入

事故車の事故前の過去3か月分とか半年分とかの営業収入を対象にする。しかし、それだと不都合な場合もある。営業収入に時期的変動があって、休車期間中の売上が多く認められる場合は、前年度の当該休車期間を目安にしたりする。そして、過去3か月なら実日数(注)で割り、半年なら実日数で割って、1日当たりの利益(営業収入-変動経費)をもとめる。

(注)対象となる「過去3か月」がたとえば30日・31日・31日なら92日となる。その92で割るということ。

 

変動経費

クルマが動かないことによって比例的に出費を免れる経費のことである。たとえばガソリン代や修繕費などがそれにあたる。すなわち、休車期間中、クルマが使えないから燃料であるガソリン代もいらなくなるし、動かしていたらガタが来るなどしてそのための修繕が必要になるが、クルマが使えないのだから、修繕費もいらなくなる。

 
このような、出費を免れた経費についてはその分の補償の必要がないから、変動経費として営業利益から控除する。しかし、休車期間中も出費を免れない経費、すなわち固定経費については補償対象になる。たとえば税金だとか減価償却費だとかは、休車期間中も変わらず発生する経費なので、控除の対象にしない。請求していいのだ。したがって、算定式上は控除の対象からはずす。

差額説とその問題点

休車損害がどれくらいになるのかは、差額説といって、事故がなかったら得られていた利益と事故後に実際に得られた利益とを比較して、その差額を賠償すればいいというのが判例の原則的立場である。たとえば事故前が100で、事故後が50になったとしよう。100から50を差し引けば残りは50。その差額分の50が損害額ということになり、その50を補填すればいいという考え方である。ということは、事故前と事故後で差額が生じなければ、たとえクルマが使えなかったとしても、補償する必要がないという結論になりやすい。

さて、クルマが使えなくなったにもかかわらず、事故前と事故後で差額が生じないということがありえるのだろうか。それがあるのだ。どういう場合がそうなるのか。
 

ケース1:
会社で遊んでいるクルマ(遊休車)があって、それを使って穴埋めした場合。

 

ケース2:
遊休車はないが、他の業務に使用している車両を使ってなんとかやりくりした場合。

 

ケース3:
クルマを借りてきた場合。

 

ケース4:
同業他社に傭車した場合。

 

傭車

車両が不足したときに、他の運送業者からトラック、ドライバーを一時的に借り受けて、配送してもらうこと。

 
ほかにもあるが、ここでは代表的なこの4つだけをとりあげる。たいていはこの4つか、その組み合わさったものが多い。

結論を先に述べると、ケース3、ケース4では休車損害は発生しない。代わりのクルマを使ったのだから、相当の代車料や傭車費用を支払うだけでいい。立証も比較的かんたんだ。

問題はケース1、ケース2の場合である。このケースが休車損害のある・なしで大変もめ、立証のための作業も大変だからだ。

ケース1は、事故車に代わって遊休車(予備車)を使い、運送契約上の義務をはたした場合である。この場合は休車損害が発生しないとされる。遊休車を使ったから休車損害が発生しないのなら、最初から遊休車を使わないで休車損害を請求したほうがよかったのかと、文句を言う運送会社の社長さんがこれまでに何人もおられた。

しかし、そういう理屈は成り立たない。被害にあっても損害を拡大させないという義務が被害者側にあるからだ。だから、遊休車があるにもかかわらずそれを使わなかった場合は、回避できた損害を発生・拡大させたことになる。被害者の義務違反を理由に、この場合も休車損害は成立しない。

ケース2についてはかなり複雑だ。遊休車はないけれども、現有車両でなんとかやりくりしたのだから、事故車以外の他車にそのしわ寄せがいくケースだからだ。

たとえば、A車が使用不能になって、その代わりにBC車を使ったとしよう。BC車はA車の仕事も負担するわけだから、BC車本来の業務以外にA車の業務の一部が加わることになる。そのため残業になったりという場合も考えられる。そうすると、BC車のドライバーの残業代を会社は支払わなければならなくなる。その分が損害だといえよう。

しかし、事故車であるA車のドライバーは修理期間中A車に搭乗できないわけである。そのドライバーが仮にアルバイトだったら、アルバイトに休んでもらえばいい。会社はその間の賃金を支払わなくてすむわけだ。この場合の賃金は変動経費扱いになって、賠償の対象にならない。

では、正社員だったらどうなるか。A車が使用できないので休んでもらっても、固定給分は休もうが休まなかろうが賃金を支払わなければいけないからだ。実際は、トラックの助手をやるとか、倉庫の荷降ろしなどをやるとかしていることが多い。この場合は、トラックの運行以外の他の業務で会社に利益をもたらしている。また、A車のドライバーは事故車に乗れないのだから、搭乗手当てをもらえなくなる一方、会社は搭乗手当ての債務から免れる・・・。

休車損を実際に請求してみると苦労ばかりだが・・・

・・・とまあ、考えなければいけないことが次から次へと発生して、ケース2の場合の算定は大変なのである(いちばん大変なのは、一部は傭車し、一部は現有車両でやりくりしたというような組み合わせのケースである)。そして、どれほどの損害が生じたのかを苦労して立証できたとしても、実際は残業代分の請求ができる程度にしかならないことも多く、立証に費やした時間とその労力を考えると、労多くして功少なしということがよくある。そういうことが予想できる場合は、休車損害の請求自体を断念することが少なくなかった。

このように、休車損害の請求で苦労を強いられている運送会社が非常に多い。しかし、休車損を請求する側にとって朗報ともいうべき裁定例をみつけたので、ご紹介したい。上述のケース2にあたる。

裁定で休車損害を認めた例

福岡支部平成18年9月25日裁定・福審第534号
事故日:平成17年2月12日
申立人:飼料・花卉の陸送業者(貨物自動車130台保有、事故車は飼料部に属し、飼料部所属車は26台、事故車と同型車は、事故車を含め4台)
被害車両:大型貨物自動車(粉粒体飼料運搬トラクター・平成10年6月新規登録)
業務内容:特定複数の飼料工場と養鶏業者等間の飼料運搬。
休車期間;18日間
争点:休車損害の発生の有無および損害額算定方法

 
相手損保の主張は、売上減がないのだから、休車損害もなしとする。判例の基本的な立場を踏襲したものだが、本件は、にもかかわらず休車損害が認められた。

(認定理由)
①飼料配合・管理などの業務も加わり、特殊業務であるため外注ができないこと。

②申立人会社は当該事故車を事故前フル稼働させていたこと、事故後は、社内の他の車両をやりくりし、時間外稼動をさせ、事故車の穴を埋めた。その結果、予定された売上を維持し、損害発生の防止に努めたことは評価されるべき。

③仮に、予定されていた売上をこなさなかった場合、取引先から債務不履行による損害賠償を請求されるだけでなく、将来にわたって重要な顧客先を失うこと。

以上から、休車損害を認め、飼料部門における事故前3か月の粗利益(運賃収入-変動経費)を算出し、これをもとに本件事故車の18日分の得べかりし利益を推計している。

 
このケースでたいへん残念だったのは、立証書類(事故車の運行管理記録や運行日誌など)に不備があったことだ。そのため、算出された額の半分しか認められなかった。不備のある書類は使えないため、どういう資料を使って、どのようにして算定したのか。非常に重要な点なので書きとどめておきたい。
 

すなわち、事故前3か月間の飼料部門に属する全車両(26台)の月別総売上をもとめ、そこから、(各車両の積載トン数)×(月別走行距離)の比率で按分して、事故車の事故前3か月の売上を推定している(なお、当該申立会社の貨物自動車は全部で130台。他の営業所等にあったものと思われる。裁定例ではその点について言及されていない。申立側は、遠隔地である等のため130台全車の活用は不可能だったことを主張・立証したものと考えられる)。

 
なお②については、当該裁定例は差額説の原則を採用していない。常に差額説が妥当するわけでなく、以下のような例外が存在する。本件裁定例もそれに基づいている。
 

裁判例の中には、休車損を認めるための要件として、事故後の被害者の営業収入が事故前のそれと比較して減少したことを挙げるものがあるが、営業収入は、注文の件数、荷物の量、運送距離、営業努力等によっても変動し、営業収入の減少がなくても、仮に事故車両が稼動していればより多くの営業収入が得られていたであろうと認められる場合もあるから、営業収入が減少しなかった原因を探求することなく、単に営業収入の減少がないことのみをもって休車損を否定するのは相当でない(P236)。[amazonjs asin=”4417016011″ locale=”JP” title=”交通損害関係訴訟 (リーガル・プログレッシブ・シリーズ)”]

 
③で、休車損を認めたことが、この裁定例の最大の特色だと思う。詳細は、交通事故裁定例集25平成18年度/ぎょうせい
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教訓

【その1】
①~③までの事実を書面で立証しなければいけないのだから、立証書面の事前準備・整理を怠らないこと。事故後に資料を収集・調製しようとする運送会社もあるけれど、たいていは事故後に作ったことが見破られる。
 
【その2】
一次資料だけ準備しておけばいいという姿勢だけではまずい。どれくらいの休車損害が発生しているのか、全ての数値を集計し、計算式も明示して、判断する者が判断しやすいように便宜をはかること。休車損害の資料だけで、ときにはダンボール箱にいっぱいになることだってある。その全部に目を通すことは判断する側には困難なのだから、判断がしやすいように、休車損を請求する側は努力・工夫してみせること、誠意をつくすことが必要である。この点が非常に大切なことだと私は思う。
 
【その3】
交通事故被害者の中には、交通費が支払ってもらえないとか、医者への謝礼分を支払ってもらえないとかに執心する人がいるが、損害費目で最も大きなウエートを占めるは後遺障害部分である。同様に、休車損害の主要な損害費目は事故車の得べかりし利益であり、人件費を固定経費として扱うことによる粗利益の最大確保である。そこに集中すべきなのに、ドライバーの残業代がどうしたとかなど、そういう小さな損害費目にこだわる。本件申立人は、そういう小さな費目にこだわっていない。
 
【その4】
今回紹介した裁定例は資料の不備を理由に50%の減額を強いられている。とにかく計画だてた事前準備を怠らないことにつきる。
 
なお、当記事に間違い等ございましたら、ご指摘いただけるとありがたいです。
 

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