慰謝料の沿革
慰謝料は一身専属なものだという沿革があり、当初は被害者本人にのみ認められ、その後、被害者死亡の場合は被害者自身が亡くなっているため請求できないことから、近親者にも慰謝料請求権が認められるようになる(民法711条)。
第711条:他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない。
さらにその後、10歳の女児の容貌が著しく傷つけられ、その母親が慰謝料を請求した事案で、被害者本人の死亡の場合だけでなく重大な傷害の場合についても、「死亡に比肩し得べき精神的苦痛」を受けたとして、近親者の慰謝料請求権を認める最高裁判決が出ることになった。
つまり慰謝料は対象者(本人→遺族)が拡大され、死亡以外(重大な傷害へ)にも認める方向にある。また、原則として人的損害が伴わないと認めないため、物的損害については原則認めず、親の形見など例外的に認定されている。
- 200ページ
- 勁草書房
- 2014/8/31
慰謝料=精神的損害は交通人身事故では基準化・定型化されている
精神的損害は本人には自覚できるが、他人からみてわかりづらい。いわゆる他覚的所見がない。人身事故では、そのため入・通院に着目した(傷害慰謝料)。これだけ入・通院すれば精神的損害もこれだけ生じるだろうと、交通人身事故に関しては、自賠責で基準化・定型化されている。死亡慰謝料についても別に定めている。また、因果関係についても、事故→受傷(たとえば骨折など)と因果の関係が直接的なことがその特徴であり、そこで紛争化することは少ない(軽微な事故だと、それでたとえばむち打ち症になるのかという論点はあるが)
- 592ページ
- ぎょうせい
- 2022/12/17
他の分野では、精神的損害は人的損害が伴わないから、認められるためのハードルが高い
しかし、他の分野ではそうはいかない。たとえばパワハラなど会社からひどい扱いをされ慰謝料を請求する場合、人的損害が伴わないことがふつうなので、入・通院という「客観的指標」がないことから立証および損害額の点でハードルが高くなる。単なる不作為では足りず、会社側が極めて悪質という評価をされないかぎり、むずかしいのが実情だ。また、低額で処理されており、懲罰的賠償(判例で否定されている)でもしないかぎりパワハラなどの根絶は困難だ。
- 456ページ
- 産労総合研究所出版部経営書院
- 2015/2/23
ブラック企業は社会保険料もけちるから気を付けよう
慰謝料請求が認められるかどうかについて「単なる不作為では足りず」と書いたが、これじゃわかりづらいだろうから、実例(裁判例)をあげる。

- 484ページ
- 日本加除出版
- 2020/6/30
ここでも、「事業者が、社会保険加入の資格について事実に反する説明をし、それが原因で労働者も加入を断念したこと、その後、労働者は加入資格があると知ったものの、事業主から給料の減額や退職などの不利益処遇を口にしたりしたこと等の事実から」と、慰謝料請求の正当性を裁判所が認定している。「極めて悪質」といったのはこういう事実があったことをこちらで立証しない限り、慰謝料請求は認められないということになる。