自賠責保険における脳損傷に係る障害認定に関する質問主意書

質問主意書(第193回国会(常会))

交通事故などにより「むち打ち損傷」が起きたとされたものの、実際には中枢神経系の損傷である脳損傷だったという症例が見られている。WHO(世界保健機構)による二〇〇七年の報告では、「外傷性脳損傷という、静かに進行しながらも無視されて来た流行病に対する世界的な闘いに取り組むべきである。」と呼びかけられているところである。

脳損傷の診断については、身体性機能障害である運動障害・感覚障害・神経因性膀胱・脳神経麻痺、精神障害である高次脳機能障害・てんかんなどに対する系統的・学際的な神経学的検査法が有効だとされている(千六百名を超える患者を診察した石橋徹・相馬啓子・安田耕作・篠田淳の四人の医師による共同論文「軽度外傷性脳損傷の実際 学際的アプローチと多重的脳画像診断学」二〇一五年十月参照)。

自賠責保険における後遺障害の等級の認定は、「原則として労働者災害補償保険における障害の等級認定の基準に準じて行う」こととされているが(「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」二〇〇一年金融庁・国土交通省告示)、労災保険における脳の器質的障害に関する概念の整理が自賠責保険において徹底されていない。

すなわち、労災保険においては、労災認定基準の医学的な根拠である「精神・神経の障害認定に関する専門検討会報告書」(二〇〇三年)で、脳損傷など脳の器質的障害は「高次脳機能障害」及び「身体性機能障害」として現れると整理されているが、自賠責保険においては、脳損傷による精神障害のひとつである「高次脳機能障害」という言葉が一人歩きし、「身体性機能障害」が軽視されており、脳の器質的障害に関する概念が混乱している。

そこで、以下の四点について政府の見解を問う。

一 労災認定基準である「神経系統の機能又は精神の障害に関する障害等級認定基準」(二〇〇三年)では、画像所見が認められないものの、脳損傷のあることが医学的にみて合理的に推測でき、高次脳機能障害のためわずかな能力喪失が認められる場合には、後遺障害として認定することとされている。

また、厚労省の「画像所見が認められない高次脳機能障害に係る障害(補償)給付請求事案の報告について」(二〇一三年六月十八日付厚生労働省労働基準局労災補償部補償課長通知)においても、画像所見が認められない場合であっても障害等級第十四級を超える障害の残る可能性があると認められている。

したがって、原則として労災保険に準拠することとされている自賠責保険においても、これらの労災認定基準等と同様の考え方に基づいて後遺障害の認定を行うべきではないか。

二 厚労省の「神経系統の機能又は精神の障害に関する障害等級認定基準改正の留意点等について」(二〇〇三年八月八日付厚生労働省労働基準局労災補償部補償課長通知)においては、「精神・神経の障害認定に関する専門検討会報告書」を業務の参考とするよう指示されている。

したがって、自賠責保険における後遺障害の認定においても、同報告書を業務の参考にすべきではないか。

また、自賠責保険における後遺障害の認定に当たっては、同報告書に基づき、脳損傷による高次脳機能障害だけでなく、脳損傷による身体性機能障害(運動障害・感覚障害・神経因性膀胱など)も視野に入れ、総合的に判断すべきではないか。

三 労災保険においては、「認定基準の要件を満たしている疾病については原則的に業務上の疾病として取り扱われ」、「認定基準に該当しない疾病であっても業務と疾病との間の相当因果関係の存在が認められる疾病については、業務上の疾病として取り扱われる」とされる(労働省労働基準局編著「労災保険・業務災害及び通勤災害認定の理論と実際」中巻十五から十六頁)。

前記のとおり、自賠責保険における等級認定は「原則として労働者災害補償保険における障害の等級認定の基準に準じて行う」こととされていることから、自賠責保険においても、労災保険に準じた認定基準の策定と運用をすべきであり、事故等と疾病との因果関係の認定について、労災保険より厳しい認定基準の策定や運用をすることは許されないのではないか。政府の見解を示されたい。

四 労災保険においては、認定基準の根拠となる報告書や、労災の認定にあたる専門家、具体的には中央労災医員・地方労災医員・労災協力医・地方じん肺診査医などの氏名が公開ないし開示されている。

原則として労災保険に準拠することとされている自賠責保険においても同様に、認定基準の根拠や認定にあたる専門家の氏名を公開すべきではないか。具体的には、損害保険料率算出機構「自賠責保険における神経系統又は精神の障害に関する認定システムについて(報告書)」(二〇〇三年十二月)など、従来公表されていない認定基準の根拠となる一切の文書や、自賠責保険審査会の委員ないし専門部会委員の氏名を公開されたい。

また、労災保険では、障害認定の審議内容について、調査結果復命書が請求した被災者に開示される。自賠責保険においても、自賠責保険審査会の審議内容が、請求した被害者に開示されるべきではないか。

右質問する。

 
現在の自賠責の運用上の問題点が指摘されていて、参考になる。ちなみに、主意書に対する政府の回答では、労災準拠であるとしている。詳細については上記リンク先で。
 
ほかに、「軽度外傷性脳損傷友の会」HPでは、資料が整理されているのでこちらも参照されたい。
 

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知識とは中立なものであること

ここで注意してほしいのは、情報の正確さもさることながら、その情報(知識)そのものが中立なことです。

昔、東大卒が多い自民党が間違えるはずがないと豪語している自民党支持者に会ったことがあります。ぼくは苦笑するしかありませんでした。たしかに東大卒は勉強をいっぱいしているわけだから、その知識量も多くかつ正確だといえるかもしれません。ただ、知識それ自体はあくまで中立なものであり、どちらにも役に立つ武器なのです。したがって、その正確でたくさんの知識をどちらの側に使うかにある。わかりやすいたとえ話をしてみましょう。

知識は刀という武器と同じ


その昔、武士という職業が存在しました。この武士は帯刀を許された職業のことであり、刀の専門家です。殿様を頂点にして、殿様に雇用され、殿様を守るために武器である刀の技術を日夜みがいていた。

この武器である刀自体は殿様を守るためにも使えるし、農民に加勢して殿様に刃向かうためにも使えます。しかし、悲しいかな、現実は殿様を守るために使われた例が圧倒的に多く、農民に加勢するために使われた例など不幸にしてきわめて少なかった。ごく稀に後者のような武士が現れますが、こういう武士こそ庶民にとっての英雄であり、「七人の侍」はまさにそのようなタイプの武士たちでした。

利益が一致しているか相反しているかが重要

したがって、問題はその使い手自身にあります。使い手がどちらの側に立つかで知識もそれぞれの側の武器になる。そして、その使い手がどちらの側に立つかは双方の利益が一致するか相反するかでふつうは決まってきます。

この、肝心要のことを説明したサイトが皆無といっていいほどにみあたらないのは不思議なことです(というか、あえて否定しているサイトさえいくらでもみつかるくらいです)。

記事を読んでいただければたちどころにわかることですが、当事務所は「立場」を鮮明にしております。あえて鮮明にしているのは、人間や社会に対する見方は、その人自身の立場から自由にはならないからです。中立を装うことは考察を浅くし、論旨を不明確にし、自己を無責任な立場に置くことになる。「立場」のない「立場」などありようがない。当事務所の立場は、ぼく自身が社会的弱者であるため、弱者の立場に徹することです。ぼくのような弱虫は「七人の侍」のようには決してなれないけれど、せめてその心意気だけでも真似して、社会的強者に阿らないようにしたい。そういう気持ちで当サイトをたちあげました。丸山真男のことばを最後に引用しておきます。

丸山真男から

ゲーテは「行動者は常に非良心的である」といっておりますが、私たちが観照者、テオリア(見る)の立場に立つ限り、この言葉には永遠の真実があると思います。つまり完全にわかっていないものをわかったとして行動するという意味でも、また対立する立場の双方に得点と失点があるのに、決断として一方に与するという意味でも、非良心的です。にもかかわらず私たちが生きていく限りにおいて、日々無数の問題について現に決断を下しているし、また下さざるを得ない。純粋に観照者の立場、純粋にテオリアの立場に立てるものは神だけであります。その意味では神だけが完全に良心的であります。

私たちの社会というものは、私たちの無数の行動の網と申しますか、行動の組合せから成り立っております。社会がこうして私たちの行動関連から成り立つ限りにおいて、私たちは行動あるいは非行動を通じて他人に、つまり社会に責任を負っています。その意味では純粋に「見る」立場、ゲーテの言う意味での完全に良心な立場というものは、完全に無責任な立場ということになります。

したがってこの点でも神だけが、完全に無責任でありうるわけであります。認識することと決断することとの矛盾中に生きることが、私たち神でない人間の宿命であります。私たちが人間らしく生きることは、この宿命を積極的に引き受け、その結果に責任を取ることだと思います。この宿命を自覚する必要は行動関連が異常に複雑になった現代においていよいよ痛切になってきたのです。

世のなかには一方では、認識の過程の無限性に目をふさぎ、理論の仮説性を忘れる独断主義者もいれば、またそもそも認識の意味自体を頭から蔑視する肉体的行動主義者がいます。しかし他方その半面では、物事はそう簡単にはイエスかノーかきめられないのだ、もっとよく研究してからでなければなんともいえないという名目の下に、いつも決断を回避することが学者らしい態度だという考え方がかなり強い。

あるいは対立する政治的争点に対して、あれももっとも、これももっとも、逆にそれを裏返しとして、あれもいけない、これもいけないということで、結局具体的な争点に対して明瞭な方向性を打ち出すことを避ける態度をもって、良識的であるとか、不偏不党であるとか考える評論家やジャーナリストもかなりいるようであります。

たびたびゲーテの言葉を引いて恐縮ですが、ゲーテはこういうことをいっています。「自分は公正であることを約束できるけれども、不偏不党であるということは約束できない。」今申しましたような世上いわゆる良識者は対立者に対してフェアであるということを、どっちつかずということと混同しているのではないでしょうか。
「現代政治の思想と行動」丸山真男 P452-454

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