保険会社への事故報告が遅れると保険金が支払われない場合がある

交通事故にあった場合、保険会社への通報はなるべく早くしてください。遅れると、本当に事故があったのかどうかがわからなくなる場合があるからです。事故があったのかどうかがわからなくなると、せっかく加入した自動車保険が適用されなくなります。今回の相談は、それにプラスして、いわゆるアフロスが問題になるケースでした。

保険会社への事故報告遅れの相談

実は、保険料が未納だったため、数日前に任意保険契約をストップしている状態です。2か月前に事故を起こしてしまい、そのことを保険会社に伝えることを忘れていました。

この場合、保険会社に連絡して相談するのですが、応じてもらえるのでしょうか。 朝早くから申し訳ありません。返答の方をよろしくお願いします。

怪しいだよ、君の相談

事故当日に警察届けは出ていますか。警察官による現場臨場はされていますか。それと、2か月前に事故ったというのに、どうして保険会社に今まで知らせなかったのですか。

警察の現場臨場がなかったとしたら、保険会社と揉める可能性があります。なぜ揉めそうかというと、すごく怪しげな話なんですよ。私がそう思うのだから、保険金を支払う保険会社の立場だともっとそう思うんじゃないのだろうか。

以下に書くことは、下衆の勘ぐりなので気を悪くされたらごめんなさい。

アフロスの疑い

数日前に保険が切れたということですが、今日早朝からあわてて相談されているところをみると、事故が起きたのは2か月前でなくて、今日あるいは昨日事故を起こしたんじゃないのかと疑ってしまいます。それで保険金を請求しようとしたところ、保険契約が切れているのを知り、びっくり。

このままでは保険が失効した後の事故になる。事故日が今日とか昨日ではまずいから、契約が切れる前に事故日をずらした? 業界で言うところのアフロスですね。

アフロスとは

アフロスというのは聞きなれないことばですが、保険用語です。ネットで調べると、「保険用語」というサイトで、このような説明がしてありました。

損害保険業界の慣用語である「アフター・ロス(after loss)契約」の短縮語。

事故発生後に締結された保険契約という意味です。

契約者または被保険者が悪意(保険事故の発生した事実を知っている)の場合は、商法上、契約は無効となります(商法第642条、商法第683条 注:現行法では削除されている→保険法)。

また、保険契約が保険事故の発生前に締結され、保険契約の報告が保険会社に到着する以前に保険事故が発生した場合(この場合は契約者および被保険者は善意である)は、手続上のアフロスと呼ばれ、契約は有効であり、保険料の払込みが事故の発生前であることが確認されれば保険金は支払われます。

MEMO
保険責任の始期と終期
保険期間は、その初日の午後4時に始まり、末日の午後4時に終わります。ただし、保険期間が始まった後であっても、当会社は、保険料領収前に生じた事故による損害に対しては、保険金を支払いません。

保険証券にこれと異なる時刻が記載されている場合は、その時刻とします。

アフロスと保険金詐欺

この説明だけではいまいちわかりづらいので、以前いただいた相談で、具体例で説明します。このことをかつて記事に書いたことがあるので、その一部を引用します。

(相談)
先日バイクで単独事故を起こしました。加入している保険会社に事故連絡したところ、契約して事故日までの日数が短いので(1か月以内)調査をすると言ってました。リサーチをいれるとのことなのですが、どんな調査をするのでしょうか。

(回答)
今回の調査は、いわゆるアフターロス事案とか近接事故とか言われるものだと思います。

わかりやすくいうと、保険金というのは保険に加入後に事故にあえば支払いがされますが、事故の後に保険に加入(正確に言うと保険料の支払)しても支払いがされない――ことはわかりますよね。

そのため、事故のあとに保険に加入し、事故前に保険加入したかのように時系列をごまかすわけです。相談者は保険加入から1か月以内に事故にあったため、保険契約日と事故日が近接しており、そのような偽装を疑われたのです。このことを指して近接事故とかアフロス事案というのです。

この場合のやり方としては2つが考えられます。1つは、事実は保険加入前に起きた事故を保険加入日の後に偽装するやり方。すなわち、事故日をずらすのです。

もう1つが保険加入日を実際に起きた事故日の前に偽装するやり方。すなわち、保険加入日をずらすのです。

前者は契約者による単独犯行が多いのですが、後者は保険代理店の協力を不可欠とする点が特徴です。

上記例は新規契約ですが、更新時にも同じような事態が発生します(注)。契約日(あるいは更新日)と事故日が近接していると、アフロスだと疑われることを覚悟されて保険会社に連絡してください。

保険会社に納得のいく説明をして、あっさり支払ってもらえればいいけれども、警察の現場臨場がないなどだったら、調査事案になるかと思います。保険会社を納得させることに失敗し、もし私が疑ったような事実が判明したら、立派な保険金詐欺です。厳しい言い方かもしれませんが、それも覚悟してください。

軽い気持ちでやる人がいるんだよね。これ、立派な犯罪ですよ。スノーボードに乗っていてケガをした若い女性がいた。当日早朝に保険契約して事故にあったという話だったけど、真相は事故後これもあわてて保険契約していた。罪悪感ゼロだった。せっかくの美人もこれじゃ台無しだわと思った。

保険会社への事故報告はお早目に

事故がいつ・どこで発生し、単独事故なのか、相手がいるのなら、事故当事者はだれなのか、そのときの被害状況はどうかなど、日にちが経ってしまうと確認できなくなる可能性があるため保険約款上事故報告義務が明記されています。

そのため、事故報告を遅延すると保険金を支払わない(免責という)こともあります。人身事故については特則まで設けて事故発生から60日以内としているのも同じ理由です。相談の例だと、どうして2か月間も事故報告しなかったのか、保険会社はそこにすごく関心があります。

それでも、事故の直後に警察へ連絡し、警察が現場に立ち会ったという事実があるのなら、事故があったことを警察も知っているため、その旨保険会社に伝えればいいと思います。

そうすれば、事故があったことを警察という信頼できる第三者が証明してくれるため、事故報告遅延を理由に保険金を支払わないということはできません。

今回の事例でも問題なく保険金が支払われると思います。問題は警察届を怠った場合です。その場合、保険調査の対象になると思います。

事故報告通知義務違反に関する判例

このことに関する判例(昭和62年2月20日最高裁)の要旨を参考のため挙げておきます。

保険事故発生の通知義務違反による免責条項の目的は、保険会社が損害拡大のための前後措置を講じ、填補責任の有無・適正な填補額を決定するためとした上で、義務違反の効果については、保険契約者・被保険者が保険金詐欺または保険会社の事故調査等を妨げる目的で期間内に事故通知をしなければ保険会社は填補責任を免れるが、それ以外の場合には、事故通知を受けなかったことにより保険会社が損害を被ったときにその賠償請求権の限度において保険会社は責任を免れるにすぎない。

わかりやすく言うと、事故から2か月以上経過しており(本件事案は事故発生から1年8か月遅れ)、約款上の免責に形式的には該当するが、保険会社に対して保険金詐欺をしようとしたり事故調査等を妨げる目的がなければ保険金請求は認められると言っているのです。ただし、事故通知を怠ったことにより保険会社が損害を被った場合は、その限度で保険金請求を免れます。

また、千葉地裁一宮支部 平成10年2月6日判決は、車両保険金請求事案ですが、事故から5か月経過した後の保険会社への通知の遅れは、保険約款上の通知義務違反であるとして保険免責を認めています。

保険法ではどうなっているのか

第13条(損害の発生及び拡大の防止)

保険契約者及び被保険者は、保険事故が発生したことを知ったときは、これによる損害の発生及び拡大の防止に努めなければならない。【任意規定】

【任意規定】

法令の規定のうちで、当事者がそれに反する意思表示をすれば適用されない規定。当事者の意思を解釈、補充するために設けられた規定は一般に任意規定である。

第14条(損害発生の通知)

保険契約者又は被保険者は、保険事故による損害が生じたことを知ったときは、遅滞なく、保険者に対し、その旨の通知を発しなければならない。

第79条(給付事由発生の通知)

保険契約者、被保険者又は保険金受取人は、給付事由が発生したことを知ったときは、遅滞なく、保険者に対し、その旨の通知を発しなければならない。

正当な理由なく損害発生(または給付事由発生)の通知義務を怠った場合には、約款でそのことによって保険会社が被った損害の額を差し引きする保険約款があるのが一般的です。

立証責任はどちらにあるのか

今回のような保険料を滞納したため保険が切れたもの(保険休止という)で、事故が保険が切れた後なのか前なのかで争われた場合の立証責任のあり方についてですが、

最高裁 平成9年10月17日判決
保険休止状態の発生による保険金支払い義務の消滅を主張する者は保険休止状態の発生時期及びそれ以降に保険事故が発生したことを主張、立証すべき責任を負う。

としております。立証責任は保険会社側にあるということです。

なお、こちらの記事も読んでおいたほうが理解が深まるかと思います。

車両盗難における「外形的事実」についての立証の実際上の困難さについて
MEMO
アフロス契約に関する判例

札幌高裁 昭和57年12月23日判決

保険契約の更新時に事故が生じた事案で、車両買換えに伴ない保険契約を新規若しくは継続扱いにするかで、保険料領収日及び保険料を空欄にして代理店が料金を受領した事案で、保険料支払日の立証責任は保険契約者が負うものとしたうえで、事故が保険契約締結後であることから、保険の有効性が立証された事例。

【参考にした本】
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【追記】
弊事務所では、一般的な記事として回答することがあるかもしれませんが、保険金詐欺事案の個別の相談は一切受け付けておりません。あしからずです。

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