軽微物損事故なんて、当事者にとっては深刻なのかもしれないが、私にとってはそういうのはテキトウなところで妥協するのがいいことだと思っている。もっと深刻な相談が他にあるからである。だから、この種の相談があってもさらっと流すのがふつうである。
が、これは違った。これはひどい。シロウトが相手なのでみくびって飛び出した発言なのかもしれない。相談者も女でシロウトだからバカにされているようだと大いに憤っている。
ということで、ふつうこのような取り上げ方をしないのだが、あえて取り上げてみた。
駐車場での、後方からの左折車と駐車スペースからの発進車の事故
私にはどうしようもないほど解決困難な相談がときどき寄せられる。たとえば、過失割合で争いがあるケースで、事故は駐車場内で発生。通路側から見通しのよい交差部分を時速20㌔で左折した赤車が左折途上で駐車スペースから発進した黄車と衝突したという事故。下図がその状況図である。
左折には徐行義務がある
左折は徐行義務がある。徐行とはすぐに停止できる速度ということで、時速10㌔以下である。したがって、赤車は徐行義務違反である。判例でも過失がとられている。時速20㌔の停止距離は9m。本件事故の主因は赤車の徐行義務違反である。後方から来て無理な左折をしなければ事故にはならなかった。
駐車場内の速度について
駐車場内は道交法の適用を受けるかどうかは、駐車場の規模や不特定多数の出入りがあるかどうかなどで決まってくるため、道交法の適用をうけない駐車場も存在する。が、たとえ前者であっても駐車場内の法定速度を規律する法令がない。そのため駐車場の管理者が看板などの「標識」で「最徐行」とか「徐行」とか表示している例が非常に多い。
判例タイムズの「過失相殺率の認定基準本」では駐車場の特性から「走行している四輪車に対し、前方注視義務や徐行義務が(公道を走る場合と比較して)より高度に要求されるという点(運転慣行)を踏まえて、過失相殺率を定めている」としている。
[amazonjs asin=”B072QQVXWQ” locale=”JP” title=”別冊判例タイムズ38号 (民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準全訂5版)”]以上から、右左折時だけでなく、駐車場内の走行はすべて徐行だと解説している弁護士もいるほどである。
これはひどい
にもかかわらず、相手保険会社担当者の言い分がひどい。
> 制限速度より+15km、30km以上のスピード時は著しい過失と判断できます。お相手は20kmですので、著しい過失には該当しません。
判例タイムズ「過失相殺率基準本」で、制限速度違反があり、超過が+15㌔で過失10、+30㌔で過失20はいずれも公道上の直進車の速度違反で言及されている修正要素である。どうして左折時にこんな反論が可能なのか。しかも駐車場である。ただの屁理屈でしかない。というか、こんな人物が査定をやっていることに驚いた。
無知と無恥による強さ
この人物は無敵である。言い換えると「1+1=2だ」と言われても、「いや、3だ」と言い続けられる強さの持ち主である。「無知と無恥による強さ」とも言えよう。こういう担当者をどうやったら説得できるのかお手上げですな。
参考判例
大阪地裁平成20年2月19日判決 黄車30:赤車70