椎間板ヘルニアに関する判例

椎間板ヘルニアで訪問される人、相談される人が多い

椎間板ヘルニアの後遺障害等でワード検索して当ブログを訪問していただいている方や実際にそのことで紛争中の読者の方がおられる。このことに関して「椎間板ヘルニアの後遺障害」という記事を書いたものの、まだ完成していない。当該「椎間板ヘルニアの判例」という記事もそのつづきのつもりで書いたのだが、これだけでは終わらず、いつ完成するのかわからないため、現状でこの部分だけでも公開することにした。

椎間板ヘルニアの後遺障害に関する判例は膨大にある。以下で取り上げるのは平成6年以降の比較的最近のものに限定した。平成15年以降のものが少ないのは、判例が存在しないわけでなくて、単に、私の持ち合わせている資料の限界のためである。以下の判例をみて、椎間板ヘルニアで悩まされていたり、現に紛争中の方は、自分に一番近いのがどれなのか吟味し、できるなら直接判決文に当たってほしい。また、椎間板ヘルニアの後遺障害認定に対して裁判所がどのような姿勢で臨んでいるのかを探ってほしいのだ。

参考にしたのは判例集からのものが多いが、書籍の記載によるものもある。既出のものは必要があれば加筆するつもりだし、新たな判例については、順次、追記していくつもりである。なお、→以下は私の覚書である。

椎間板ヘルニアに関する判例

神戸地裁 平成6年11月17日判決
銀行の嘱託社員として保養所に勤務する52歳男子が、事故で外傷性頸部症候群により左頸部痛、胸部圧迫感、左手中・小指の痺れ等の症状を残した事案で、自賠責認定では非該当であるも、14級相当の神経障害が残存するものと、4年間5%の喪失率をホフマン式で認められた。

 

原告は、本件事故当時(満51歳)、既に加齢性の変形性頸椎症に罹患してはいたものの、同事故時までの間、これに起因するような格別の症状は全くみられなかったこと、原告の訴える左頸部痛等の症状は、同事故後に初めて生じたものであり、前記約7か月間に及ぶ通院中断期間中にも、右症状が継続していないわけではなかったこと、さらに、証拠(前記A医師の証言、B鑑定人の証言と本件鑑定)によると、外傷性頸部症候群ないし頸椎捻挫については、患者によっては症状に波があり、ある程度緩和した時期を経て再び悪化する場合があり得ないではないことが認められ、これらを考え併せると、本件事故後現在まで継続する原告の左頸部痛等の症状は、同事故によって生じた外傷性頸部症候群に起因するものと認めるのが相当である。

もっとも、原告の第六頸椎椎体骨折については、C医師の診断が存在するものの、一方、前記認定にかかる本件事故当初の甲外科病院及び乙外科における各レントゲン検査所見、原告の訴える痛みの程度と甲病院におけるMRI所見、本件鑑定の前記内容、さらに、自動車工学に関する証人Dの証言等に照らして考えると、右骨折の存在を未だ肯認するには至らないといわざるを得ず、他に右事実を認めるに足りるだけの医学的証拠はない。

したがって、原告の主張のうち、原告が本件事故によって第六頸椎椎体骨折を負ったとする部分は理由がない。

ところで、被告は、本件事故による受傷の有無に関し、乙九号証(D作成の自動車工学鑑定書)を提出の上、D証言、及び被告本人の供述を援用して、本件事故は軽微な事故であり、これによって原告車に加わった衝撃は無傷範囲内のものであるとして、原告が同事故によって前記外傷性頸部症候群の傷害を負うことはあり得ない旨主張する。しかしながら、前記認定にかかる原告の本件事故時の身体の動きや同事故前後における症状の対比、原告の診療に当たった各医師の診断内容と本件鑑定の前記内容等に加え、証拠(略)によって認められる原告車及び被告車双方の破損部位と程度(原告車については、後部バンパー及びトランクの凹損、トランクフロアーパネル及び左サイドバンパーに衝撃波及の損傷が生じた。)、さらに、自動車工学的な判断については、一般的に、衝撃を受ける者の個体差や衝突時の身体的条件、車両及び道路条件等の如何によってばらつきが生じ得るため、当該衝撃が無傷範囲内のものか否かの判断か困難にならざるを得ないことなどに照らして考えると、前記乙一号証やD証言及び本件事故状況に関する被告本人の供述をもってしては、未だ前記認定判断を左右するには足りないといわなければならない。

よって、被告の右主張は採用できない。

大阪地裁 平成8年8月29日判決
L3/4、L4/5に巨大な腰椎椎間板ヘルニアが発見された被害者が、経皮的髄核提出術を受けたが、家庭の事情で長期入院を要する観血的髄核提出術を決心できなかった場合に、自覚される痛みがない程度の腰椎椎間板ヘルニアが存在していた可能性が高く、事故を契機に上記ヘルニアが憎悪したと認め、事故は予期せぬ衝撃であり、無防備状態で腰部をひねったこと、事故直前まで障害児の育児、家事をこなしていたこと、事故後2、3日後から症状が憎悪したことから、ヘルニア症状は事故と因果関係があり9級とし、50%の素因減額をした。
大阪地裁 平成10年1月29日判決
事故で頸部痛等の傷害を負う40歳女子主婦兼パートの事案で、自賠責では14級で認定されるも、12級12号相当の神経障害で認められた事例。原告の本件事故での障害は、経年性の頸椎椎間板変性に事故が作用して生じたものと、素因減額を主張する被告の事案につき、右変性は加齢に伴って当然にその存在が予定されている程度のものであると認められると、減額が否定された。

 

原告は、本件事故当日の平成4年2月17日、A病院にて受診し、頭部外傷I型、顔面打撲、背部打撲、骨盤打撲、右肘打撲、右足関節打撲、左下肢・右大腿打撲、頸椎捻挫の傷病名で、診療が開始された。 翌日の頸椎のX線写真でも異常は認められず、頸部痛があるが、上肢のしびれはなく、指の微細運動は良好であった。

その後も、原告は、頭痛、頸部痛、右肩痛、腰痛等を訴え、 脳外科を受診したが、神経学的所見としては、運動神経脱落症状なく、CT上も異常なく、脳に心配はないであろうと診断された。同日から理学療法が開始され、同年3月12日からは頸椎牽引も開始されたが、同月19日のジャクソンテストはマイナスであり、同月23日に実施されたMRI検査の結果は、第5、第6頸椎間、第6、第7頸椎間に変形性脊椎症性変化及び椎間板ヘルニアの印象ありと報告された。その後も、頭痛、右頸部痛、腰痛等を繰り返し訴え、同年7月4日からは腰椎牽引も開始されたが、同年9月5月には症状固定に近いと診断され、同月10日まで通院した(実通院日数160日)。

その後、原告は、平成4年9月2日からB病院に転医し、外傷性頸腕症候群、腰部捻挫の傷病名で通院を開始し、右手のしびれ感を訴え始め、その外、右前腕から肩のしびれ感、放散痛を訴え、右第6、第7頸神経根障害と診断された。翌日から理学療法(簡単)が開始されたが、同年12月25日には左手から前腕尺側しびれ感を訴え、平成5年1月8日にはしびれ感は左手のみであるとされ、同年2月16日にC病院にて実施されたMRI検査の結果は、第5、第6頸椎間左側に椎間板突出がみられ、脊髄をやや圧迫していると報告された。同月19日における上腕二頭筋反射、上腕三頭筋反射は右左ともに異常はなく、ワルテンベルグ反射はマイナスであり、その後もこれらの反射は概ね正常であり、同年9月6日には、C病院にてMRI検査が実施されたが、第5、第6頸椎間及び第6、第7頸椎間に椎間板突出がみられると報告された。同年9月13日から同月16日まで4日間、筋電図、脊髄造影検査等のため検査入院となった。同年10月14日の徒手筋力テスト(上肢、下肢)に関し、担当者から、テストを進行 していくにつれて上下肢ともに痛みが増強し、運動不可となり、力を入れさせるとのどがつまると言われる、テスト以外の動作を見ていると可能な運動でもテストになると不可能となることもあり、今回のテストの信頼性もわからない旨の報告がされている。後記症状固定日までの実通院日数は292日である。

この間、原告は、D病院で頸椎椎間板ヘルニアを指摘され、手術を念頭にE病院を紹介されたため、平成5年2月26日、同病院の診察を受け、同年3月25日から同月30日まで6日間入院した(実通院日数2日)。主訴は、両手のしびれと痛み、喉の圧迫感、咳、腰痛であった。同病院の医師によると、原告の症状は多彩で身体検査ではよくわからないが、ただ、右梼骨筋反射の低下は認められるとされた。同月6日実施の脊髄造影検査で、第6、第7頸椎間に不完全ブロックが認められたが、脊髄の圧迫軽度であり、また、CT脊髄造影検査で、第5、第6頸椎間の左に椎間板髄核ヘルニアが認められ、両上肢のしびれと痛みはこのヘルニアによるものと思われるが、前頭部の違和感、咳などはヘルニアによるものではないとされた。そして、神経学的所見と脊髄造影の所見とが一致しないと思われるから、当該時点では手術適応なしと診断され、退院となった。

また、原告はB病院の紹介によるF病院にも、平成5年0月18日と同年11月18日に通院し(実通院日数2日)、さらに、ブロック目的でB病院より紹介されたG病院にも、同年12月8日から平成6年2月9日まで通院したが(後記症状固定日までの実通院日数6日)、頸部硬膜外ブロックの効果はあまりなかった。

B病院の甲医師は、平成6年3月31日をもって原告の症状が固定した旨の診断書を作成した。同診断書によれば、自覚的には、頸部痛、腰部痛があり、他覚症状及び検査結果としては、神経学的には右第6、第7頸椎神経領域の知覚鈍麻あり、MRIにて第5、第6頸椎間の椎間板ヘルニア軽度あり、X-P上第5、第6頸椎に後方骨棘ありとされている。

右事実を総合すれば、本件事故を原因とする外傷によって生じた原告の症状は、平成6年3月31日に固定し、その後遺障害は、自賠責保険に用いられる後遺障害別等級表上、12級12号(局部に頑固な神経症状を残すもの)に該当するものというべきである。この点、被告らは、頸椎椎間板ヘルニアは本件事故によって生じたものではなく、本件事故による原告の症状は平成4年9月10日頃には固定していると主張する。しかしながら、本件事故前には原告は特に支障を感ずることなく化粧品の荷詰の仕事に従事していたこと、原告は本件事故により転倒して路面に頭部等を打ったものであること等前認定事実に照らすと、原告の症状は経年性の頸椎椎間板変性に本件事故の影響が加わって生じたものとみるべきであるし、原告の症状の推移及び治療経過に照らすと、その症状固定時期は前認定のとおり認めるのが相当であるから、被告らの右主張を採用することはできない。

また、被告らは、原告の後遺障害は14級10号(局部に神経症状を残すもの)を越えるものではないと主張するが、原告には椎間板ヘルニアが認められること、両上肢のしびれと痛みはこれを原因とするものであること、両上肢のしびれと痛みが長期にわたって持続していることに照らすと、被告らの右主張も採用することはできない。

東京地裁 平成10年2月26日判決
椎間板ヘルニアの既往があった被害者について(事故直前にタクシー勤務を再開していた)、事故直後には特段の自覚症状がなかったが、約10日後から痺れや麻痺が出現し、右足外側全体の疼痛も生じ、MRIでC4/5、C5/6、C6/7の椎間板変性とC4/5後方突出等が認められ、四肢の腱反射亢進、両上肢病的反射陽性などが認められた。頚部脊髄症として固定した場合に、事故との因果関係を認め12級としたが、50%の素因減額をした(自賠責は被該当)。
名古屋地裁、平成11年4月23日判決
事故による衝撃は激烈ではないが、ごくわずかともいえない場合に、背部痛、頸部痛、両下肢痺れ、吐き気を訴えた被害者について、L5とS1間の椎間板に骨棘、骨殻、すべりがあり(経年性変化)、神経根、硬膜への圧迫がみられ、外傷性腰椎椎間板ヘルニアと診断されて手術が行われた場合に、本件事故により発症したものと認めて12級とし、事故の関与を50%とした。
大阪地裁 平成12年2月28日判決
MRIでC4/C5、C5/C6椎間板の突出が認められ、BTR、TTR、PTR、ATRでいずれもやや亢進がみられたが、ジャクソン、スパーリングでは陰性、頸部、僧帽筋、上肢の筋萎縮なく、筋力低下も認められなかったが、手の痺れ等が残存した被害者について、MRI画像上、椎間板ヘルニア発症初期に特徴的な所見が認められるとして、事故により発症あるいは少なくとも増強したと認め、その程度は12級に該当するとし、事故当時に椎間板ヘルニアを起こしやすい状態であったことから20%を素因減額した。
東京地裁 平成12年3月14日判決
事故後1年5か月後のMRIによりL4/L5、L5/S1の椎間板が正中部で突出があり、椎間板ヘルニアが認められたが、下肢の知覚低下、腱反射低下がなかった事案で、腰椎捻挫の症状は時に他覚的な所見がなくても患者本人の痛み等が強い場合があり、腰椎の椎間板ヘルニアは事故とは別の原因で生じたとの反証は不十分であるとして、事故後に生じたものと認め、それが医学的に証明されていることから12級を認定した。
浦和地裁 平成12年3月29日
事故後一定期間経過後にヘルニア所見が出現したが、事故の翌日から激しい右下肢痛などを訴えていたこと、事故4か月後にL4/L5の不安定性や軽度のヘルニア様突出などの所見が得られたこと、事故前に腰痛などの自覚症状がなかったことから、椎間板ヘルニアは事故による受傷が発症契機となって出現したと認められるとした。ヘルニア手術後に出現した全脊柱前ワン変形、両下肢筋力低下と知覚鈍磨を後遺障害と認め7級とし(自賠責はヘルニアと事故との因果関係を認めたものの非該当としている)、30%の素因減額を認めた。
大阪地裁 平成12年4月25日判決
CT特段の異常なし、MRIでC5、C6に頚椎椎間板ヘルニアによる頚髄の圧迫変性が認められ、CTでC5、C6の前後に骨棘が存し、椎間孔の狭小化が認められた事案で、頸部から左上肢の疼痛、左上下肢知覚異常、両下肢腱反射亢進はヘルニアによる頚髄ないし頚椎神経根の圧迫による頚髄傷害ないし頚椎神経根症状であるとして12級を認めた。
横浜地裁 平成12年5月30日判決
被害者に事故後一定期間経過後に腰部椎間板ヘルニアが発症したところ、被害者の受けた事故の衝撃が軽度でないこと、事故直後から腰痛があったと認められることから、事故と椎間板ヘルニア発症との間の相当因果関係を認められるし、12級に認定(自賠責はヘルニアと事故との関係を認めるも、非該当)。
京都地裁 平成12年7月13日判決
当初は打撲程度とされた軽微事故にあった被害者が、頭痛・嘔気のほか、左手第3ないし第5指の軽度の持続的知覚鈍磨(痺れ感)を訴えるようになり、MRIによってC4/5、C5/6に頚椎椎間板ヘルニアが認められたが、これは経年性変化によって事故前から存在したものとされた。もっとも、本件事故前に肉体労働に従事するにも何ら支障がなかったことから、頚椎椎間板ヘルニアによる症状が、本件事故による刺激を契機として発現するに至ったとして因果関係を肯定。頚椎椎間板ヘルニアが存在するとはいえ、神経学的異常所見等の他覚所見に乏しい自覚症状中心のものであり、心因性要素も影響しているとして14級を認定(自賠責はヘルニアを既往のものとしたが、14級に認定)。
京都地裁 平成12年7月13日判決
当初は打撲程度とされた軽微事故に遭った被害者が、頭痛・嘔気のほか、左手第3ないし第5指の軽度の持続的知覚鈍磨(しびれ感)を訴えるようになり、MRIによってC4/5、C5/6に頚椎椎間板ヘルニアが認められたが、これは経年変化によって事故前から存在していたものであるとされた。もっとも、本件事故前に肉体労働に従事するのに何ら支障がなかったことから、頚椎椎間板ヘルニアによる症状が、本件事故による刺激を契機として発現するにいたったとして因果関係を肯定。しかし、神経学的異常所見等の他覚的所見に乏しい自覚症状中心のものであり、心因的要素も影響しているとして、14級とした。自賠責は非該当。ヘルニアは既往のものだとしつつ、14級に認定した。
京都地裁 平成12年7月25日判決
飲食店経営の64歳男子が乗用車運転停車中、小型貨物車に追突され、頚椎捻挫等で228日間通院し上下肢不全麻痺を残した事案。

 

脊髄損傷と神経根症状の有無を否認したうえで、原告の症状の原因である頚椎捻挫については、本件事故の20年以上前に受けた第4・第5頚椎間前方固定術により、その上下の頚椎間に負担がかかり、事故前からすでに骨棘の形成や椎間板突出による脊柱管狭窄症といった変性が生じ脊髄を圧迫していたため、本件事故による刺激で頚部痛、頭痛、眩暈等の症状が発現するに至ったと推認されるとし、事故との因果関係を認定した上で、この頚椎の変形の程度は著しく、加齢に伴って当然にその存在が予定されている程度を超えているというべきであるから、この身体的素因の寄与を斟酌して、全損害額の3割を減額した。

 
→前方固定術により発生した変性を理由に減額した。
 

大阪地裁 平成12年11月20日判決
事故後、項部痛、左上肢痺れ、吐き気、左頸部圧痛等を訴え、ジャクソン陰性(後陽性)、スパーリング陰性、ブラガード陽性、上腕二頭筋反射正常、三頭筋反射正常、ホフマン経度陽性、とレムナー軽度陽性、CTによりC4/C5頚椎に椎間板ヘルニアが認められた事案で、左上肢の疼痛等の神経症状については、「頚椎の椎間板ヘルニアによる神経根の圧迫によるものとして合理的に説明しうる」として12級を認めた。
神戸地裁 平成13年9月5日判決
30歳主婦が駐車場内で乗用車を運転中、バックしてきた乗用車に逆突され、腰椎捻挫等を受傷した軽微事故事案。原告には事故当時すでに椎間板の退行変性が存在しており、本件事故が一因で腰椎椎間板ヘルニアが生じたとし(事故後3日後に腰痛を訴えていた被害者について、他覚的所見等を踏まえて腰椎椎間板ヘルニアが発症し、それに基づく後遺障害が残存したとした)、事故との因果関係は認められるものの、この傷害及び後遺障害の発生及び拡大については、本件事故当時から存在する原告の身体的素因及び本件事故後に生じた日常生活上の何らかの要因が寄与していると認められるから、損害額から7割を減額するのが相当とした(自賠責は非該当)。

 
→事故後に発生した要因による素因減額も加算され7割減額された事例。(交民34・9・5収載)
 

京都地裁 平成14年1月31日判決
52歳女子保母が乗用車に同乗中、居眠り運転の相手車に追突され、頚椎捻挫、腰椎捻挫を受傷した事案。

 

原告の椎間板ヘルニアについては事故から1年間については頚椎症状は肯定できるが、神経根症状は見当たらず、事故直後のヘルニア発症を肯定することは困難だとして、事故より1年後に発症したと判断するのが相当とし、本件事故と椎間板ヘルニア発症との因果関係については、原告の場合、本件事故直後から経年性変化を基礎として、事故の外力により椎間板腫瘤の脱出が徐々に準備され、これが神経根の周囲組織になんらかの刺激を及ぼしたと考えても不自然でなく、被告側意見でも「本件事故により線維輪に亀裂が生じ、それが1年後に椎間板ヘルニアとして現れたことも、その時期のMRIがない以上、100%因果関係がないとは言い切れない」としていることもあわせ考えると、因果関係を肯定するのが相当と判断。椎間板変性や脊柱管狭窄の素因として症状固定前の2割、症状固定後の3割を減額するのが相当である。

 
→事故直後に神経症状がなく、事故より1年後に椎間板ヘルニアが発症した事例だが、事故との因果関係を認める。ただし、素因減額している。
 

名古屋地裁 平成14年3月15日判決
レントゲン異常なし、頚椎MRIでC5、C6椎間板ヘルニアが見つかったが、明確な圧迫は認められず、ジャクソン陰性、スパーリング陰性であった事案で、「事故後により生じたものと認められる原告の後遺障害は、事故後一貫して継続している頸部痛、頭痛のほか右上肢第2、第3指のしびれの範囲であると認められる。また、その程度は、神経根症状の可能性があるという程度にとどまり、ヘルニア等による直接的な神経圧迫はないのであるから、自覚症状が他覚的所見で明らかとなる程度までには至ら」ないとして、14級を認定した。
京都地裁 平成14年4月4日判決
37歳主婦が停車中の乗用車に搭乗中、小型貨物車に追突され、腰椎椎間板ヘルニア等と診断された事案。

 

事故軽微、腰椎椎間板ヘルニアがこの衝撃で生じるのは困難として、私病と評価。しかし、事故以前に生じていなかった腰痛や左下肢の放散痛が本件事故の衝撃により顕在化し、それが残存したものと医学的に了解可能であるため、これら症状について14級に認定。腰椎椎間板ヘルニアの私病関与は25%の素因減額とした。

 
→局部の神経症状として14級認定。ヘルニアは事故との因果関係を認めるものの素因減額として評価。
 

大阪高裁 平成14年6月13日判決
①63歳女子成型工が自転車で交差点を横断中、反対方向から進行してきた右折小型貨物車と衝突、転倒し、腰部挫傷、左ひざ打撲、左股関節挫傷の傷害を負った事案。事故から約40日後にMRIにより腰椎椎間板ヘルニアが、事故の約3か月以降から訴えが出始めた頚部痛については、事故後約7か月後にMRIにより頚椎椎間板ヘルニアが確認され(同時に頚椎には経年性の変化が顕著であった)、約2年4か月の間に185日間入院、308日実通院し、頚椎前方固定術を実施した。
①腰椎椎間板ヘルニアについては事故直後から腰部痛を訴え、診断・治療がされていること等から本件事故との因果関係を認める。素因減額については、被害者の腰椎に加齢性の変性等が事故前から存在したと認めるに足りる証拠がないと却下。
②頚部痛については症状の訴えが事故から3か月後、ヘルニアの確認は事故から7か月後であったこと。頚椎には椎間板ヘルニアと同時に経年性変化が顕著に認められたこと、自転車からの転倒事故で必ずしもむち打ち運動を伴わないこと等から、頚部椎間板ヘルニアと事故との因果関係を認めることはできないとし、腰部神経障害12級(9年間・14%)を認めた。

 
→事故3か月後からの頚部痛、7か月後に頚椎椎間板ヘルニアが確認された事例について裁判所は因果関係を否認。ただし、局部の頑固な神経症状として12級の評価した。
 

京都地裁 平成14年6月27日判決
28歳男子会社員兼夜間アルバイトが乗用車を運転、信号停止中に原付自転車に追突された。

 

当初、頚椎捻挫、腰椎捻挫の診断を受けたが、その後(3つ目の病院であるA整形外科で「第5腰椎第1仙椎椎間板ヘルニアがもっとも疑わしく、2、3か月で改善がなければ経皮的髄核摘出術を考える」との治療方針が決定された。が、原告はB病院の椎間板レーザー治療に関する雑誌記事を読みA整形外科に相談することなく、事故後約8か月の時点でB病院で経皮的レーザー椎間板徐圧術の手術を受けた。しかし、その後腰痛が増強し再びA整形外科を受診するようになった。事故から約1年3か月後に腰椎前方固定術を受け、事故から約3年後に腰痛を残して症状固定の診断を受けるにいたった。

裁判所は、腰椎MRI所見の「ヘルニア」との文言は「椎間板突出」と同義で用いられたものと推察され、本件では無症状の椎間板突出が事故により有症状化したと解釈し、原告の2回の手術および付随する治療については事故との因果関係を肯定し、原告の労働能力喪失率を決定するにあたっては、残存した腰痛の程度に応じて判断するのが相当とし、後遺障害12級で喪失率14%と認定した。原告の主張する脊柱の変形11級、骨盤骨の著しい変形12級の併合10級相当は椎間板ヘルニア治療のための脊柱前方固定術の結果生じたものにすぎず、労働能力に影響を及ぼすものとは認められないが、慰謝料については10級相当として認定した。
なお、原告の症状は本件事故前には無症状であったが、既往症である第5腰椎第1仙椎間の椎間板突出ないし変性が本件事故による衝撃のために有症状化したものであり、本件事故による受傷と既往症が競合して発症したとみるべきところ、原告車の車体本体の損傷が比較的軽微であったことなどに照らし、30%の寄与度減額を行った。

大阪地裁 平成15年9月12日
追突による衝撃は相当なものがあったが、当初、両下肢挫傷と打撲であった。約半年後に後頚部痛が新たに出現し、頚部の回旋が困難となり、歩行困難となった。C6/7間のヘルニアが発見されたが、原因は、線維輪断裂が発症し、その後椎間板ヘルニア症状が発症したと考えるのがもっとも合理的であるが、線維輪断裂と本件事故時の衝撃との関係については、その時間的経過とともに、線維輪断裂が、特別の外力のない場合であっても、一般にだれでもが日常生活程度の伸展・屈曲や姿勢をきっかけに生じてしまうものであることに照らし、その因果関係は明らかでない(自賠責も同旨)。もっとも、右ひじ、左ひじおよび左上腕部の疼痛を訴え、針治療等の施術を続けていたことから、知覚異常の訴えについては、その器質的要因は明らかではないが、事故直後から継続して訴えいる神経症状として14級を認定した。

 
→ 残存する症状はヘルニアによるものと判断しているが、事故との因果関係を否定。神経症状として後遺障害認定された例。
 

大阪地裁平成15年10月3日判決
事故以前に頚部の異常は認められなかったが、事故翌日の診察以降、右肩部、項頚部や腰部に圧痛および筋緊張、両上肢の腱反射の亢進がみられた。MRI検査の結果では、C4/5椎間板ヘルニアと診察されたことが認められた。椎間板ヘルニアは突出に至らず、膨隆の程度も比較的経度であり、C3/4にも膨隆が認められた。変性所見は複数あること、レントゲン検査の結果ではC4/5に椎間腔の狭小化が存在することから、事故前から存在した椎間板膨隆が事故により顕在化して既往のヘルニアが憎悪したものとされ、12級に該当。35%の素因減額も行っている。
名古屋地裁 平成18年2月17日判決
自賠責では遅発的に発症・憎悪したことから、事故との因果関係が否定された。しかし、当裁判所は、重大な後遺障害が本件事故による外傷に基づく椎間板ヘルニアの症状の憎悪を契機として生じたと考え、心因性な要因となって治療が遷延したり、通常考えられるより重い症状が出現することがあること、後遺障害の程度が本件事故と相当因果関係を欠くとはいえないとして因果関係を肯定し、5級に認定。ただし、5割の素因減額をした(ただし、この事例は末梢神経ではなく、脊髄圧迫による四肢麻痺事例である)。

 
 
参考資料:判例集および「後遺障害等級認定と裁判実務」(高野真人編著)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください