交通事故受傷で、医師面談の際にレセプト資料をどう見るか。

医師面談の際のレセプトが読めるかどうかは大切

後遺障害を認定する際に、自賠責調査事務所はレセプト(診療報酬明細書)の記載内容を重視していることはよく知られている。そのため、たとえば交通事故業務で著名な小松弁護士は、「レセプトは交通事故治療内容についての最も詳細なデータが記載されており、後遺障害程度等が争いになる事案を取り扱う弁護士は、レセプト分析に慣れることが必須条件である」としている。

これほど重要であるにもかかわらず、実をいうと、保険調査員でレセプト分析ができる人は非常に少ない。たとえば、保険会社から後遺障害確認のための医療調査の依頼があったとしよう。後遺障害診断書や経過診断書は調査のための資料として必ず付いてくるが、レセプトは必ずしもそうではない。そうでない理由は、保険調査員でレセプトの分析ができる人が少ないため、必ずしも必須の資料として保険会社に要求していないことがあると思う。さらに、依頼する側の保険会社担当者自身がレセプトを読み取れず、その重要性を理解していないことがあるだろう。そのようなしだいで、医療調査を担当する調査員自身も、レセプトの読み取りを真剣にやっている人は非常に少ない。

かく言う、私自身がそうだった。後遺障害診断書を詳細に見るのは当然だし、経過診断書を時系列を追って確認するのも当然である。しかし、レセプトについてはかんたんに見るていどですませていた。「かんたんに見る」というのは、下図のレセプトから、入通院日や外泊日の特定、傷病(注1)の把握(診断書に書かれた傷病よりもレセプト病名の数が多いことがあったり、逆に、その月のレセプト請求に無関係な傷病は載っからなかったりすることもある)と変遷を見るくらいは当然していたし、画像資料を病院から取り付ける際の特定などにも利用していたが、それ以上ではなかった。診療費の金額の相当性チェックにもレセプトは使われるが、それは保険会社がやることなので、保険調査の調査項目にはそもそも存在しなかった。

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(注1)「診断書の見方」という記事でも書いたことだが、傷病名は医学上の用語が必ずしも使われていないことである(例:ムチ打ち症)。使うべきなのが原則なのだが、実際はあまり守られていない。また、複数傷病の場合は原則として一つの主傷病を明記すべきとなっているが、これも守られておらず、主傷病を明記していなかったり、複数の主傷病を明記してあるレセプト病名も多い。

以上のことは、多少の経験をしコツをつかめば、だれでもかんたんにやれることである。私が言うレセプト分析は、そういうことだけを言うのではない。小松弁護士のサイトでも書かれているが、

レセプトにはその治療内容が、診察、投薬、注射、リハビリ処置、手術・麻酔、検査、画像診断、その他と項目を分けて詳細に記載されるので、治療内容明細が判り、これらの投薬、注射、リハビリ処置、検査、画像診断等の内容を分析することで、その変遷状況から傷害回復程度等が判る

という作業も含まれる。たとえば、レセプトは診療行為がすべて点数化されている。このことから傷害の程度を推測したり、治療内容の適否を判断する。私にはこういう全体を鳥瞰する能力がまるでないが、それでも、個別的にチェックすべきポイントくらいは教わったし、わからないところは自分で調べた。

レセプトの見方・実戦編

さて、以上の総論はだれでも思いつくことなので、レセプトを見る際のチェックポイントについて具体例を使って、書いてみたいと思う。いわば、レセプトの見方の実戦編である。

参考:プロのレセプト・チェック技術 2020-21年版: 請求もれ&査定減全280事例の要点解説 

問題

【資料】
①経過診断書

傷病者甲(男性・40歳)
傷病名外傷性頚部症候群・外傷性腰部症候群
治療開始日2015年3月17日
受傷日2015年3月16日
症状経過・治療内容および今後の見通し初診時、頚部、両肩、胸背部、腰部に疼痛の訴えあり。A病院にてXP施行も異常なしとのこと。左下肢に冷感と痺れ感、左膝蓋腱反射亢進していた。初診後、3月~4月はほぼ毎日通院加療し、症状がかなり改善した。5月からは、通院日も週2~3日ていどで加療中である。
主たる検査所見 
初診時の意識障害なし。
既往症および既存障害なし。
後遺障害の有無について未定。
入院治療 
通院治療74日間(内実日数40日)自2015年3月17日・至2015年5月31日
診断日2015年6月1日・継続
医療機関名B医院

②レセプト

傷病者甲(男性・40歳)
診療の種類自由診療
転帰継続
傷病名外傷性頚部症候群・外傷性腰部症候群
治療開始日2015年3月17日【診療実日数40日】
診察料初診:時間外再診:39回
投薬料内服:29日分外用:4回

 

調剤:4回

処方:4回

注射料 
処置料 
手術料ブロック 78回
検査料 
画像診断料 
入院料 
その他鍼刺通電療法10回
診療内容内訳【内服】フルカム1tab×29日【外用】モーラス18枚×4回

 

【ブロック】

①腰部硬膜外ブロック(29回)

0.25%マーカイン20ml

生理食塩水10ml

②星状神経節ブロック(40回)

0.25%マーカイン10ml

③深頚神経叢ブロック(10回)

ネオビタカイン5ml

医療機関名B医院

③【状況】

信号停止中に先頭で停止していた被害者運転の乗用車にその後ろで同じく停止していた加害者運転の乗用車発進時の軽微事故。被害者甲は事故受傷当日にA病院を事故後自分で受診、翌日からは自宅近くのB医院にて治療中。受傷日から3か月経過後の医療調査。

損保が知りたがっていること

以上から、損保は何を知りたがっているだろうか。

一般論としていえば、傷病名が「外傷性頚部症候群・外傷性腰部症候群」。軽微事故だし、画像上の異常所見等もなし。受傷から3か月経ったんだから、もうそろそろ治療はいんじゃないのかといういわゆる「打ち切り」調査である。

しかし、今回のケースはそれだけにとどまらない。B医院の診断書とレセプトをみて、おかしなところがいくつもあるのだ。私の医師面談ノートを元に、実際にあった事例に若干デフォルメしたのだが、さあ、答えてください。練習問題ですよ。

疑問点1:B医院では画像診断がされていない。A病院でXPがしてあって異常がなかったとあるけど、あくまで伝聞情報じゃないですか。ふつうこういうとき、レントゲンくらい撮るものでしょう。それをやっていないのはおかしい。

疑問点2:レセプトをみると、検査も理学療法もしておらず、神経ブロックばっかり。これも奇異に感じる。

医師面談までに準備すべきこと

それらの疑問点から、さらにレセプトの精査を行なう。

まずは、硬膜外ブロックの1分節あたりの局所麻酔薬量の目安について。南山堂のサイトによる医学書によると、「頚部1ml、胸部1.5ml、腰部2ml、仙骨部2ml」となっている。レセプトをみるとほかに生食がある。これは5mlである。

さらに、ブロック療法といっても、トリガーポイント注射を含めて請求することがある。通常のブロック療法は保険点数が高いがトリガーポイントは低い。この医院は疑わしいことこの上ないから、そこも確認しておいたほうがいい。

さらにさらに、

星状神経節ブロックについての予備知識について。

①星状神経節は下部頚部交感神経節と第一胸部交感神経節とが融合したもの。ブロック部位はC6又はC7横突起付近で行う。

②適応は、頭部・顔面の痛み(偏頭痛、筋緊張性頭痛、三叉神経痛、帯状疱疹後神経痛など)や頚部・上肢・肩関節の痛み、血流障害(Raynaud病)、上肢カウザルキー(自律神経症状を伴った灼熱性疼痛)である。

③ブロックの合併症として反回神経麻痺、上肢の運動障害、気胸などがある。

④ブロックの特徴として肢の温度上昇が見られる。上肢の血管が拡張する。他に結膜充血、鼻粘膜血管が拡張するため、鼻閉が見られる。

⑤ホルネル症候群は、星状神経節ブロックの効果判定の1つになる。両側同時にブロックしてはならない。呼吸困難に陥ることがあるためだ。

以上の疑問点から、この医院は過剰診療の疑いが濃い。私だったら、以上の事実を踏まえて医師面談の準備を行なう。そして、目的である治療打ち切りまで持っていく(笑)。

参考サイト

なお、ブロック療法についてはここが詳しい。[amazonjs asin=”4774141577″ locale=”JP” title=”痛みと鎮痛の基礎知識上基礎編 ~脳は身体の警告信号をどう発信するのか (知りたい!サイエンス)”]の著者である小山医師のHP。ご参考のため。推薦しておいてなんだが、私には難しすぎてはっきり言ってよくわからんけどね(汗)。

(以上に書いたことは4年前の知識に基づくため一部に間違いがあるかもしれません。それと、レセプトにある保険点数については私は無知なので割愛しました。)

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