仮定的代車料とは

「仮定的代車料の提案」という記事を何年か前に書いたことがあります。ネットでは「仮定的代車料」は不評だったみたいで、中にはこういう請求をするのは非常識だとしてたいへんおかんむりの方もいます。そうでしょうか。私は非常識とは思いません。

仮定的代車料の再提案

仮定的代車料とは

「仮定的代車料」という言葉を知っている人はあまりいないと思います。私の手元にある何冊かの専門書にあたってみたのですが、ふれていてもちょこっと、まったくふれていないもののほうが多かった。ネットで検索してみても、10件くらいヒットしただけでした。ほとんど知られていないのです。

「仮定的代車料」とは

「代車を借りたと仮定したときの料金」(海道野守氏)

「代車を借りたと仮定」したということは、実際は借りていないということです。借りていないのだから、損害がないということになって、そんなもの認めらるかという方向に結論が進んでいきます。

不公平を解決するのが「仮定的代車料」

そんなに結論を急がないで、ちょっと待ってよと言いたい。どういうケースでこれが問題になるのかです。ここを抜きに議論がドンドンすすんでしまうと、実損がないこういう請求は「けしからん」となってしまいそうだからです。

交通事故で自分の車が壊れた。修理に出したが、その間、自分の車が使えない。で、代車としてレンタカーを借りようとしたら、相手保険会社から過失があるから代車費用は出ませんと言われます。

そんな、バカな。出るはずだ。それで、相手保険会社の承諾なしで、自分が正しいはずだからと、やむを得ずレンタカーを借りるとします。

自分は正しいと思っていても、その時点では本当に出るかどうかわかりません。最終的には裁判まで予想して、一か八かのカケです。そうやって借りる決心のついた人はいいのですが、おカネに余裕のないたいていの人はそんな無謀なことができないためレンタカーを借りるのをあきらめてしまいます。

その後、やっぱり保険会社の対応はおかしい。本来なら代車が借りられたはずなのに、それを過失がどうとか言って借りられなかった。それじゃ、借りたと仮定した代車費用を請求してみよう。

こういうのが実際のところだと思うのですよ。

お金持ちはレンタカーを借りられて、おカネのない人は借りられない。不公平ですよね。それを解決するのがこの「仮定的代車料」だと思います。このことの不満は下記の記事で書きました。この記事読んで怒りを共有しましょう。

過失があると、代車費用も買替諸費用も評価損も休車損も認めたがらないわけ

仮定的代車料を具体的に要求される場面

海道野守氏は、「仮定的代車料」を具体的に要求する場面について、以下の6つの例をあげています。

その1。車がないため電車やバスを利用するしかなかった。そのため、出勤時間を1時間早めることになった。

その2。車でする買い物や用事ができなくなった。そのため大変不便だった。

その3。会社の同僚に自宅まで来てもらい、送ってもらった。そのお礼をした。

その4。自転車で通勤することになった。雨の日は苦労した。

その5。車の修理期間中も駐車代や自動車保険料を支払った。

その6。車を買ったときの月賦を車がないのに支払った。

その1からその4まではわかるのですが、その5とかその6も「仮定的代車料」に含まれるのですね。すなわち、車がないためにいらぬ出費を強いられたり、経済的損失をこうむったり、苦労や不便をしたことを金銭的に評価するためにこの「仮定的代車料」があるのです。

ドイツの裁判所は、代車を使用する意思と可能性があればこれを認めています。レンタカー料金の30%としています。

ドイツはドイツ、日本は日本なのだから、代車を借りてもいないのにそういうものは認められないという意見があります。はたしてそうでしょうか。どうして代車を借りなかったのでしょうか。代車を借りなかったためにそんなに不便までして。

その理由は、繰り返しますが、損保が過失があるからと言って、代車費用を出し渋ったことが原因です。日本の法制は実損填補主義だからというご意見もありますが、だったら、どうして修理もしていないのに、修理をしたと仮定して、修理代分を損保は支払っているのでしょうか。ここでは過失があるからと保険会社がいわないため、修理費については現実に修理しようがしまいが修理代相当額を保険会社が支払っているためこの種のトラブルがありません。裁判所も「仮定的修理費」を認めています。

大阪地裁平成10年2月24日判決
修理がされておらず、また、今後も修理する可能性がないとしても、現実に損傷を受けている以上、損害は既に発生しているとして修理費相当額を損害として認めた。

そういうことを考えると、ドイツで認めたからと言って日本は…ではなく、損保が過失があるからというわけの分からん理由で出し渋っている現実があるからこそ、ドイツ以上に日本で認められるべきです。

仮定的代車料を認めた判例

実をいうと日本でもこの「仮定的代車料」を認めた裁判例があります。名古屋高裁平成9年7月23日判決です。どういう理由で認めたのでしょうか。

車の修理中、実際にレンタカーを借りていなかったのですが、勤め先の車に乗ったり、タクシーや友人の車を利用したなどたいへん苦労を強いられたことから、事故車と同じクラスのレンタル料金は1日2万円を下回らないことを考えて」代車料相当額40万を認めるとし、「仮定的代車料」を認めたわけです。なお、地裁段階でも「仮定的代車料」を認め、1日あたり4651円計算で認定されています。

「仮定的代車料」を認めたのはこれらの例だけかと思っていたのですが、ほかに2つの裁判例があることを「注解 交通損害賠償算定基準(上)」P407で知りました。

そこでは、

現実に代車料の出費をしていなくても、代車使用料を認めた判例には(略)神戸地裁平成8年9月20日判決のほか、東京地裁平成10年10月7日判決がある

としていました。

ひとつがこちらです。

東京地裁平成10年10月7日判決

代車を友人から借りて現実の出費がない場合に、そのお礼をしようと考えていること、外車で中古市場に同種の車両が多く出回っていないことから、国産ワゴン車の代車料金等を考慮して日額1万5000円、30日分を認めた。

もうひとつがこちらです。

神戸地裁平成8年9月20日判決
メルセデスベンツE500リミテッドが事故で損壊し、修理期間中原告が経営する会社所有のボルボを使用していた事案で、原告主張の日額5000円を基礎に、 合計23万円の代車使用料が相当な損害と認めた。

 

原告は、原告車修理期間中、自分の会社所有の普通乗用自動車ボルボを使用した。レンタカー料金は、1日当たり、小型車でも5500円以上であり、高級車では2万円以上である。

 

ところで、代車使用料は、車両が使用不能の期間に代替車両を使用する必要があり、かつ現実に使用したとき、相当な範囲内で認められると解するのが相当である。右認定によると、原告は、原告車の修理期間中、原告が使用できないため、原告が経営する会社所有の普通乗用自動車を使用していたのであるから相当の代車使用料が認められるというべきところ、右のレンタカー料金等を斟酌すると、原告主張の1日当たり5000円、合計23万円の代車使用料は相当な損害として是認できる。

なお、「仮定的代車料」を否定した裁判例もいくつかあるようです。また、判例タイムズ「過失相殺率の認定基準本」では、「仮定的代車料」を明確に否定しています。

仮定的代車料は認められるべきだ

判例が1つしかないじゃないかという人もいますが、そうではなかったことを書きました。まだ2つあったんですよ。それでも認められないのでしょうか。

ネットで調べてみると、「代車の必要性があれば被害者はその分不便を強いられていることになり,その不便について代車料相当額の損害を受けたと評価することも理論的に可能ではあります」と考えておられる弁護士もいますので、それほど荒唐無稽の主張でもないようですね。

もしも代車料を過失があるからなどと言って保険会社が拒否した場合、この「仮定的代車料」が認められないと、私のような貧乏人には大変不公平です。どなたか、この「仮定的代車料」を裁判所に訴えてみたらどうでしょうか。でないと、貧乏人はいつまでたっても救われないですね。

車の物損関係の第一人者であり、元大手損保損害調査部長だった海道野守氏は以下のように述べられています。

日本の保険会社・共済がドイツと比べて遅れているという問題ではありません。

多くの被害者が仮定的代車料の請求をしないからです。もしも、仮定的代車料の裁判がいくつもあり、裁判所も仮定的代車料を認める判決を出せば、日本の保険会社・共済も変わってくると思います。

海道氏は「仮定的代車料」を認めた判例はひとつとおっしゃっていましたが、他に2つ認容例がありました。これはたいへんな自信になりますね。

通勤で同僚の車に送ってもらった。そのお礼について相手損保に請求できるか

先上げた例のなかに、

その3。会社の同僚に自宅まで来てもらい、送ってもらった。そのお礼をした。

このお礼として、たとえば1回につき1000円、15回送ってもらったので1万5000円を会社の同僚に支払ったとします。これは請求できるのでしょうか。「仮定的代車料」がだめなら、せめてお礼相当額くらい認めてほしいものですよね。

お礼としては1回につき1000円のお礼というように現金の場合もあれば、モノ、すなわち果物とかタバコとか、そういったモノをお礼として渡す場合があります。あるいは使った分のガソリン代とか。現金を渡した以外のものは領収書があるのでそれを保険会社に提出すれば認めてくれます。

問題は現金です。常識の範囲内なら保険会社も認めてくれるのですが、肝心の領収書がありませんし、「常識」というのもわかるようでわかりません。この場合について海道野守氏はこのように書いています。

お礼として渡す金額が、どの程度のものなら問題にならないで全額賠償してもらえるか。これを計る目安は、レンタカー料金との比較です。あなたがクルマを借りた時間あたり、あるいは日数あたりのレンタカー料金の30%くらいがいいでしょう。その30%の金額にクルマを借りた時間や日数を掛けた金額程度です。

1日24時間のレンタカー料金が1万3500円ならば、30%にあたる4000円です。あるいは、1回あたり2000円から3000円くらいの金額なら、常識の範囲内にある金額として問題にならないでしょう。(前掲書・P 99)

繰り返しますが、海道氏は元大手損保、東京海上だったと思いますが、そこの損害調査部長だった方です。大手損保にもといた方がこうおっしゃるのだから、われわれはもっと自信をもって主張しようではありませんか。

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