調査会社の調査の正確性・信頼性について

損害保険調査会社。あまりその存在が知られていませんが、交通事故とか火災など保険がからむ時に現れるのがこの会社に属する保険調査員です。さて、彼らは調査の専門家だと称しておりますが、その調査はどこまで正確で信頼に値するのでしょうか。

かつて保険調査員だった私がそのありのままの姿をここに示してみようと思います。

保険調査会社の調査はどこまで正確で信頼できるのか

交通事故が発生し、交通事故被害者と加害者(加害者側損保)が示談交渉にはいります。ときに、決着がつかなくなることがあります。

そういうときこそが保険調査員の出番です。損保からは、調査員の属する保険調査会社は第三者の立場であり、事故解決のプロだとの紹介を受けたことがある人も多いかと思います。その調査員は調査を実施するのですが、その調査はどこまで正確で信頼のおけるものなのか。一般の方にはよくわからないかと思います。で、実際のところの話です。

注意
保険調査会社の「第三者性」については、こちらが詳しいです。結論をいえば、「第三者性」などありません。じゃ、だれの味方なのか。その点について具体例を示して書きました。関心のある方はごらんになってください。
「第三者機関」としての損害保険調査会社 結論:保険調査は正確性・信頼性に欠けるところあり
個々の調査員には実力のある人もいればない人もいます。これはどんな組織だって同じことです。が、それとは別に、保険調査会社特有の構造的・制度的な問題があるのです。そのため、個人の努力だけではどうにもしようがない。以下はその具体的な話です。

調査会社の報告書をみてぞっとしたという、ある弁護士さんの話

ある弁護士さんのサイトを拝見していたら、こんなことが書かれていました。

最近、相次いで、損害保険リサーチ会社(調査会社)が事故状況の調査に入ってきたケースが続きました。

そもそも、調査会社がどういうものか知られていませんが、建前としては、損保会社からは独立した会社で、事故状況などを調査するところです。損保会社は、第三者機関が調査した結果だといって、調査会社の報告書に基づいて、過失相殺率を主張したりします。

しかし、調査会社は、損保会社が出資している会社です。損保会社が出資していない調査会社もあるように言われていますが、そうだとしても、調査費用は、損保会社が支払っているはずです。そうすると、やはり損保会社寄りの調査しかしないのではないかという疑いは拭えません。もっとも、加害者側・被害者側双方が自動車保険(任意保険)に入っている場合は、過失相殺率にしたがって双方の損保会社が支払をするので、どちらかに偏るともいえないのでないかという気もします。

そんなわけで、調査会社の調査については、何となく信用できないなあといった程度の印象で捉えていたのですが、先日、調査会社の調査には、実は、もっと初歩的な問題があることを痛感しました。

調査会社の担当者は、双方に面談して、双方の言い分をまとめ、図面を作ります。ところが、その面談のときに話した内容が、不正確にまとめられていることがあったのです。その被害者の面談には、代理人弁護士として立ち会いました。その被害者が話したこと、しかも、その点は重要だとして強調していたことが、違う内容で、被害者からの聴取内容としてまとめてあったのです。

幸い、そのときは、弁護士が立ち会っていて、弁護士が被害者の話したことをメモしていたので、その誤りを指摘することができました。しかし、立ち会う者がいなければ、誤った報告書の内容を前提として過失相殺率を考えなければいけなかったのかと思うと、ぞっとしました。

裁判所でも調査会社の報告書は重要らしい

最近になって読み返している「判例をよむ 簡裁交通事故損害賠償訴訟の実務」でも、調査会社の報告書が一定の役割を果たしていることを知りました。

物損請求事件(は)・・・保険会社が背後にいるから、少し時間をおけば保険会社がきちんと対応していろいろ書証を出してくる。(P19)

そして、その書証の中には調査会社の報告書も含まれていて、

信号機の設置の有無やその他の交通規則の有無、制限速度等の認定には、物損請求事件では、警察官の作成した実況見分調書が存在しないから、保険会社又は調査会社等が作成した事故状況報告書等が参考になる。(P23)

としています。

裁判所が一定の評価をしていることがわかったかと思います。こうなると、損保の下請けの1民間の機関が勝手に書いた報告書でその価値は「ゴミ」などと言う人もいますが、そんな呑気なことは言ってられませんね。
保険調査員はもっとぞっとしている

構造的な理由1・報酬が労力に見合わないこと

読者の中にもし調査員の方がいらしたら、驚き、ぞっとしているのではないかと思います。自分たちの書いた報告書がここまで重要なものだとの認識に欠けているからです。示談時の参考資料くらいの意識しかない調査員がほとんどだからです。裁判の資料になると思いつつ調査している調査員はかなりの少数派です。

調査員の立場になっていえば、事故状況調査の単価が非常に安く、量をこなさないと生活ができません。量をこなすということは、1件1件の質が当然落ちるということです。それを、調査員の怠慢だと批判するのはかんたんです。しかし、1000円もらって、2000円分の労力を使えと言われてできますか。1回だけならともかく、たいていがそうなのです。

注意
このように仕事に忙殺され、土曜・日曜返上どころか、自宅に帰ってもパソコンを叩いているのが、ふつうの調査員の日常なのです。詳しくは以下の記事に書きました。
有能な弁護士と無能な弁護士、有能な調査員と無能な調査員

このように、調査員個人の資質というような問題ではなくて、もっと構造的な問題なのです。であるなら、調査員の地位向上にもっと目をむけるべきではないでしょうか。

構造的な理由2・事故現場に行かないこと

まず、事故当事者から事情を聞くといっても、たいていは自宅か喫茶店です。事故現場で事情を聞くことはふつうやりません。事故当事者が現場まで行くのを嫌がるというのがひとつの理由ですが、それだけでなくて、現場まで行くなら、事故の発生時刻に合わせることも必要になりますから、テマヒマが倍加されることになります。とてもじゃないけれど、調査員の報酬に見合わない。

その結果、自宅か喫茶店で、かんたんな図面上で、ここで相手車に気づいて、ここで危険を感じて、ここでブレーキを踏んで・・・などと、その図面上に印をつけていく。はたして、そんなので事故状況の再現が可能なのでしょうか。正確な位置関係を知りたいなら、事故現場で、できれば同時刻に、少なくとも夜の事故を昼間に検証するようなやり方ではだめだと思います。

調査員になりたてのころ、私は律儀に夜の事故は夜に、なるべく事故発生時刻にあわせて現場確認をしていました。たとえば夜の12時に発生した事故なら、その時間帯に現場に行くのです。自宅から50キロほども離れているところに。午後11時に自宅を出発して、1時間かけて現場の確認をする。自宅に帰るのは午前2時です。しかし、そのための特別手当が支給されるわけではありません。

どんなに使命感が高かったとしても、いずれ萎えてきます。あなたなら、できますか。

その理由3・予断による偏向

もうひとつは、事故状況の調査に慣れてくると、一種の予断が生じることです。予断と言ったらなんですが、仮説と言ってもいい。意識的であれ、無意識的であれ、予断を抱かないことは不可能です。この事故はたぶんこういう事故なのだろうと、事故当事者に会う前から決めてかかることです。

これは警察の事故調査でもよく言われていることですが、自分の描いたストーリに沿って、事情を聴取していくことになる。事故当事者としては自分の答弁にアイマイなところがあるのですが、それも描いたストーリに沿うような質問を繰り返すために改変される。この改変作業は、意識的というより無意識的に行われることが多い。

だから、一番最初に紹介した弁護士が驚いている話ですが、私にはちっとも驚きではありません。十分ありそうな話なのです。

その理由4・調査員に権限がないこと

事故当事者の質問でよくあるのが、調査の結果について文句をいうとき、どっち、すなわち損保に文句をいうべきか、それとも調査会社に文句をいうべきか。というのも、事故当事者が調査の結論に納得がいかないとき、損保にそのことをいうと、それは調査した調査会社の問題だと言います。それで、こちらに文句をいってくるわけです。

調査依頼は損保からです。調査費用も損保から出ています。調査した結果である報告書(の内容)の所有権も損保にあることになります。したがって、調査会社になんら権限はなく、欧米だ個々の調査員にも権限があるようですが、日本の個々の調査員にもありません。権限を持たない調査はどうしても中途半端になりがちなのです。

その理由5・事故状況調査の現状

事故状況調査はまだいいと思います。時間制限がないからです。事故当事者が嫌がらなければ1時間でも2時間でも面談できるからです。面談内容の再確認を実施するだけの時間的余裕があるからです。実際に私は再確認を行っていました。

しかし、ひとつの面談時間に1時間も2時間もかけていたら、対費用効果は明らかにマイナスです。それでも、いい調査をしたいと思ったら、対費用効果マイナスを覚悟しなければいけません。事故状況調査についてはマイナス覚悟でたいていの調査員はやっていると思います。

医療調査はもっと深刻だという話

これが医療調査だともっと事態は深刻です。医師との面談時間が時間制限なしというわけでなく、たいていは10分とか15分とかで行わなければいけないからです。さらに、調査を依頼する保険会社のほうも、高い料金を支払っているという意識が強いのかどうかわかりませんが、なんでもかんでも調査事項にいれてくる。わずか、10分か15分の面談時間しかないにもかかわらずです。

そのことで一度だけ依頼先の保険会社に質問事項をもう少し絞りたいのだがよろしいでしょうかと提案したことがありました。相手の主治医は途中退席の常習者だったためのやむをえない提案です。

ところが、この提案に対して、やれないのだったら医療調査を出した意味がないなどと、保険会社担当者は立腹され、最終的には損保支社の所長クラスにまで話がいってしまって、おまえのところにはもう依頼はしないということになりました。私個人に依頼しないのはそちらの勝手ですが、全体の責任にする。

通院状況などはレセプトや診断書をみればわかることなのですが、そんなことまで調査事項にいれてくる。一般的な調査事項は言われなくてもわかるのだから、ここがキモだよともっと頭を使った調査依頼にすべきです。事例に応じた適切な調査事項を考えろよと言いたくなったくらいですね。

医師面談時間の制約があることからの限界

話を元に戻すと、時間制限があり、調査事項が多ければ、ひとつひとつの調査事項を矢継ぎ早にテキパキと処理する必要が生じます。調査事項が多いと、全部を確認するだけで面談時間が終了してしまいますから、聴取した面談内容の再確認ができないことが非常に多い。ときどき、話好きの先生がいて、20分も30分もつきあってくれるときは、再確認を実施します。で、してみると、最初の面談でメモった内容が違っていることがときどきありました。

もうひとつの実体験。医療調査でA病院に行ったときのこと。私と同業者らしいのを待合い室で見かけることがよくあるのですが、そのときもそうでした。面談開始時間まで待っていたのですが、主治医が出てきて、おたくら、同じ患者さんのことを聞きに来ているのだから、どうでしょう、お2人いっしょに面談されては。

ということで、私は某大手損保の調査担当者と同席で医師面談に臨みました。で、面談が終わったあと、双方で医師面談の内容の感想を述べ合ったのですが、同一の医師からの同一の面談内容だったのに、調査主体が違うと、その抱く感想がぜんぜん違うのです。それで面食らったことがあります。

弁護士は保険調査員をパートナーとして迎えるべき

弁護士や裁判官は、今私が書いたような事情をまったく知りません。まったく知らないで書類だけが一人歩きしている。その書類で権利関係を判断していることになる。

弁護士の方への提案なのですが、過失割合や後遺障害などを調査されるとき、調査の内実について、調査の舞台裏について知っている調査員を自分のパートナーとして協力させてみたらどうでしょうか。調査の仕事を弁護士事務所内で内製化している現実があります。失礼な言い方になりますが、貴方たちのやっていることは素人に毛がはえた程度ですよ。

餅は餅屋に任せる。調査は調査員に任せてみる。そのことの重要性がまるでわかっていない弁護士を私はこれまで何人も見てきたので、こんな提案をしても無駄かもしれません。この際に、ちょっとは検討していただきたいものですね。

2 COMMENTS

lucky

こんばんは。

私の知っている調査員は、調査料を稼げば「自分が優秀」と勘違いする人が多いです。
だから、どこで仕入れてくるの、思いつくのか、正しさの根拠がとんとわかりませんが、
迷惑なアドバイスを平気でしてくるのでとても困ります。

例えば「車は60度までしか曲がらない」
「症状固定という医学用語はないが、医学的症状固定という医学用語がある」
頸椎捻挫の医師面談の質問事項で、「『受傷部位』を聞かない調査は調査でない」
ほかにも笑えるアドバイスがあるのですが・・・。

中には基本的な知識がわからない(経験を積めば知識も身につくと考えている愚かな人物)人も
いますので、待遇改善と同時に愚かな調査員の淘汰は必要なのかもしれません。

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ホームズ事務所

luckyさん、いつもコメントありがとう。

>私の知っている調査員は、調査料を稼げば「自分が優秀」と勘違いする人が多いです。

ぼくがいたところもそうでしたよ。そういう人がふたり。会社側はそういう人を重宝するし。

仕事が早いというのは大切なことのひとつですが、そういう人たちというのは件数をこなすことばかり考えて、無駄だと思われていることには見向きもしません。たとえば医研センターの研修。この研修に参加すると、研修期間とその前後も含めると1週間近く調査ができなくなるため、減収を強いられるので、出たがりません。会社は会社のほうで、その間の収入補償というか日当くらい出したらいいと思うのだけれど、交通費くらいしか出してくれません。研修中に親しくなった共済の人にそのことを話したら、びっくりされていました。

調査員個人の問題よりも、人を育てようという気がまったくない会社に、その姿勢に問題の根源がある。いやならやめてくれてけっこう、代わりはいくらでもいるのだという姿勢です。だから、すぐに代用できる程度のスキルしか身につかず、育ちません。かつて調査員は正社員で身分が保障されていたのに、今は業務委託という下請け化がそうとうに進んでいるとも聞いています。研修も下請けの負担でという姿勢です。これではますます専門知識の習得がむずかしくなります。

依頼する損保もそのことにうすうす気づいていて、調査員の書いた報告書を尊重する気がありません。交渉の材料として、都合のいいところをつまみ食いしているだけのように思います。それで責任問題が生じたら、調査会社のせいにする。調査会社は調査会社で、調査員個人の問題に矮小化する。

症状固定については何語なのかぼくも調べたことがあります。
医学用語。労災用語。賠償用語。法律用語・・・。

医学用語だと唱えているのは某NPO法人の代表者です。ほかに「交通損害賠償算定基準」という本で弁護士も同様のことを書いていたように記憶しております。

しかし、当の医師である井上久は、医学用語ではないとはっきりおっしゃっていますし、ネットの医学用語辞典で調べてみたことがありますが、見つかりませんでした。

労災用語というのは労災の認定必携という本に載っていることを根拠にしているので、これがすわりがいいようにも思いました。

いずれにしろ、「医学的症状固定」という表現は初耳です。その人が勝手に作った造語なのでしょう。自分ができると勘違いすると、苦し紛れにだったり、できることを誇示したいがためにだったりで、こんなおかしなことを言う人がたまにいますね。

>中には基本的な知識がわからない(経験を積めば知識も身につくと考えている愚かな人物)人もいますので、待遇改善と同時に愚かな調査員の淘汰は必要なのかもしれません。

現状ではだれでもなれそうな職業のひとつなので、待遇改善と愚かな調査員の淘汰、それと調査会社の「ひらめ」幹部の総入れ替えくらいやらないとダメかもしれません。

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