赤信号なのに、人はどうして青だと勘違いしたりうっかりしたりして信号無視してしまうのか

以前の記事でこう書いたことがあります。

たとえば信号のある交差点で双方青主張の出合い頭衝突事故があります。双方青ということはありえないから、どちらかがウソをついているか、勘違いしている。

ウソをついている場合はともかく、どういう場合に勘違いするのでしょうか。私の経験した具体例をご紹介しよう。ひとつは実際にあった事故のケースです。

信号のある交差点が近接していたためうっかりしたケース

下の航空写真を見てほしい。現場は福井県坂井市内です。写真の中央にひとつと左下にもうひとつのふたつの交差点が存在します。いずれも信号のある交差点です。

事故は、北東方面から進行してきた大型バスが信号赤で交差点(地図中央の)を通過し、右方交差道路から青進入してきた普通乗用車と出合い頭衝突事故を起していました。なぜ、大型バスは赤で進入したのでしょうか。

写真をよくみていただくとわかるように、実際の現場はふたつの交差点が隣接しており、その距離はわずか50mほどしかありません。バスの運転者は最初に手前の交差点の青を確認し、その後、もう一つ先の交差点の信号が青なのも確認しています。

そして、もういちど手前の信号が青信号なのを確認するべきだったのに、それをせず、後の青信号の残像だけ網膜に焼き付け進行してしまったわけです。運転手がそのように説明していました。

こういうことはうっかりしていると起しやすい。これは隣接する各交差点の信号機が「オフセット」という制度設計がされていることが原因です。

「オフセット」

幹線道路を走る車が、信号により停止することなく、各交差点をスムーズに通過できるように、隣接する交差点間の青信号開始時間にずれを持たせる。この時間のずれを「オフセット」という。

1サイクルの時間に対する「パーセント」または「秒」で表示する。 たとえば、100秒サイクルの信号機A、Bがあり、AB間の青信号開始時間に10秒の差がある場合は、10パーセントまたは10秒のオフセットがあることになる。

逆光のため信号の色がはっきりしないケース

もうひとつが、私自身の体験によるもので、あやうく事故になりかけました。現場は小松市内の信号のあるT字路交差点です。正確な時間は忘れましたが、西日の刺す夕方のことでした。

私は突き当たり路側からの進入車です。下がその現場の航空写真です。

そのときは、対面信号が太陽光に照らされて、何色なのかはっきりしませんでした。青・黄・赤のどれも点灯しているように見えたのです。

しかし、私より30mほど先を走っていた車が当交差点を右折していったので、まだ青信号だろうと即断しました。念のためもう一度目を凝らすと、やはり青が一番光っているように感じました。それで当交差点に進入したのです。

右折を完了し終えるやいなや、左方交差道路側からの進入車にけたたましく何度もクラクションを鳴らされました。それで、私が赤信号で進入したことがわかったのです。この太陽光に照らされて信号が点灯しているように見える現象を「擬似点灯現象」といいます。

「擬似点灯現象」というのは、下の信号のように、

太陽光が信号灯にまともに照りつけると、青・黄・赤すべての電球が発光しているように見える現象です。内部の光源が青・黄・赤に着色されたガラスを光らせる電球式信号の場合、西日などが外側から直接ガラスに当たると、点灯時と同じように光って見えてしまう現象です。

電球式信号にはこのような致命的な欠点があったため、西日対策のために、電球式からLED信号機への交換が進み、現在は、石川県内は電球式はなくなってしまったように思います。

かつてはいたるところにあった電球式信号。私が事故になりかけたときもそうだったのですが、現在は信号灯も電球式からLEDへ交換されていると思われます。

ところがこのLED信号機にも雪国特有の弱点がありました。

LED信号は発熱が少ないため(LEDはレンズ1個当たりの消費電力が15ワット。電球に比べて5分の1程度とバツグンの省エネ性や長寿命などメリットが多い。)、張り付いた雪が解けず、「信号が見えにくい」との 警察への通報が後を絶たないそうなのです。

省エネ効果の大きいLED信号を円滑に運用するために、県警は人海戦術 といった別のエネルギーを費やしているそうです。LED信号は逆光でも視認性が高く、比較的小さな電力で発熱するため、従来の電球式に比べ省エネ効果があるとして、全国で設置が進んでいるが、雪国にはこんな欠点がありました。

見込み発進のケース、全赤のケース

信号の見落としとしてほかに考えられる原因は、交差道路側の信号機の色が赤なので、自分のほうの信号は青だろうと即断して信号無視でそのまま進入してしまうケースです。あるいは見込み発進してしまうケースですね。双方が赤、すなわち全赤時の衝突事故が起こることもあります。

全赤というのは、全方向の信号機が赤になることをいいます。進行方向の信号が変わった後に交差点内に進入している車両を交差点の外へ排出させ、交差点内での事故を防ぐことが目的だとされています。全赤時間は、一方の道路の停止線から交差する他方の道路までの距離から算出されているらしく、たいていは2秒もしくは3秒に設定されています。

全赤の事故の裁判例

全赤での事故の判例を紹介しておきます。どっちも赤なんだから過失は同じじゃないかと思われた方もおられるかもしれませんが、必ずしもそうではありません。

神戸地裁 平成8年1月18日判決
信号のある交差点中央付近で、全赤状態時に乗用車同士が衝突した事故で、速度超過の度合いがより大きく、かつ、進行方向の信号が青色信号に変わる前に交差点に進入した被害者は加害者よりも過失が大きいと、6割の過失を認めた事例。

 

神戸地裁 平成6年10月27日判決
「全赤」状態での乗用車同士の出会い頭の衝突につき、黄色から赤に変わる時に交差点進入した加害車と、赤から青になる時点に進入した被害者の過失をそれぞれ6:4と認めた事例。

調査をするうえでの基本情報である

以上は、信号青・青主張の場合に必ず確認しなければいけないことのいくつかです。

いずれも代表的なものをとりあげました。調査員ならいずれのケースも熟知しているはずであり、信号の色に争いがある場合の重要な確認事項ですね。

が、警察官の書いた調書の真偽を争うある裁判の中には、「第三者である警察官が、「西日が逆光となり」というようなまことしやかな表現を(捏造)すること自体不自然であり」と評価しているものがありました。

逆光のため信号の色が判然としないのは事故当事者にしかわからない「特別の事情」だと裁判官は判断しているのですが、交通事故を担当する警察官ならふつう知っていて当たり前のことですよ。「特別の事情」でもなんでもありませんね。

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信号関係の争いについてどのようにして解決するのか、その論点で記事を書いたことがあります。

この記事をみた損保のアジャスターさんから連絡をいただきました。やり方教えてくれって。シロウトからおカネとる気はありませんが、お宅はプロなんだから、自分で考えるか、それが無理なら相談料くらい支払う気がないとね。そう思いました。

信号のある交差点でどちらも青を主張したら、どのようにして解決するか

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