発行年度が1987年と古いことが気になるが、ある著名で実力も備わった交通事故鑑定人が定番教科書のひとつとして絶賛している。また、この本もそうだが、江守一郎氏や林洋氏の本もいずれも古い。が、学術論文でも現在も引用されているし、損保のアジャスターでも参考図書として挙げる人が決して少なくない。
古い本は新しい情報をフォローしていないという欠点があるのはわかるが、それでも基本図書として挙げる人が多いのは、「基本」がしっかり書かれているからである。「教科書」といわれるゆえんである。
ぼくには講評するだけの力がないので、目次だけでもあげておこう。交通事故によって生成される各種痕跡を理論的、体系的に述べてある本は、後にも先にもこの本のみと言われているが、目次をみるだけでそのことがわかる。
たしかに「各種痕跡」についてこれほど詳しい本はみたことがない。これが他の定番教科書といわれる江守一郎氏や林洋氏のものと比較した上での最大の特徴である。「第2章 事故現場で発見される路上痕跡等」の「はじめ」(P19-)を引用する。
交通事故が発生した場合、路上には少なくとも1つ以上の痕跡を残す。この痕跡を分析することにより、事故がどのように起こったかがある程度推定できる。たとえば、タイヤ痕の濃淡によって車両が走行してきた方向が、またタイヤ痕の長さによって痕跡前の車両の走行速度が推定できる。本章では、交通事故の現場で発見される路上痕跡等のうち、事故調査に特に重要な、
①車体および人体の最終停止位置
②スキッド痕
③スキップ・スキッド痕
④ヨーイング痕
⑤金属痕
⑥路上散乱物
の6つの項目について、定義、形態、重要性、適用、測定と記録、一般的注意事項を詳細に説明する。
という出だしからはじまり、事細かな説明を加えている。現場の痕跡調査ではこの本は欠かせない。