契約者の承諾がないと勝手に動けないと主張する損保。損保は当事者じゃなかったのか。

最近あった相談

先日の相談のなかに、事故直後症状がなかったので物損で処理したところ、あとから症状が出てきたため病院へ行き、警察で人身に切り替えたら、それが加害者をいたく刺激したらしく、物損にすると言っていたくせに人身にしやがって、うちの保険を使わせないからと相手損保担当者を介して言われ、その担当者から、自分の加入している人身傷害保険を使えと言われて困っている、なんとかならないかと相談された。

被保険者の同意がなくても、被害者の直接請求権は発生する

事故直後に必ず症状が出るとは限らず、事故の翌日とか、2、3日後とかに症状が出るのがむち打ち損傷なので、相手損保の言い分はおかしいと返事した。それに、契約者の承諾がないと示談代行ができないと、決まり文句のように損保・共済は主張するが、損保・共済がかかわっているのは代理人としてではなく、当事者の資格でかかわっているはずなので(注1)(注2)、それもおかしな主張だと返事した。損保は代理人・当事者を自分に都合よく使い分けていないだろうか。

(注1)

「自動車保険の解説」(保険毎日新聞社)ではこう解説されている。

①対人事故により、被保険者が法律上の損害賠償責任を負担すること。
②保険会社が被保険者に対して支払責任を負うこと。

この2つの要件が充たされたときは、被害者は保険会社に対して損害賠償額の支払いを直接請求することができる。この場合、被保険者の同意は直接請求権発生の要件ではないので、被保険者の同意しないときであっても、被害者の直接請求権は発生し、保険会社は被害者に損害賠償額を支払うことになる。
(11)損害賠償請求権者の直接請求権(P56以下)

 

(注2)

保険会社が示談代行を拒否できる事由

①被保険者に責任がない場合。
②保険約款の免責事由に該当し、保険会社に保険金支払義務がない場合。
③被保険者の負担する賠償額が自賠責保険等の支払額の範囲内の場合。
④被保険者が負担する法律上の損害賠償額が任意保険の保険限度額と自賠責保険の支払額の合計額を超えることが明らかな場合。
⑤損害賠償請求権者が保険会社との直接交渉に同意しないとき。
⑥被保険自動車に自賠責保険契約が締結されていないとき。
⑦被保険者が正当な理由なく保険会社の求める協力要請を拒否したとき。
「新・自動車保険相談」P161~162

 
詳しくは別記事で書いたので、そちらを参照ください。

症状が遅れて発生する慢性硬膜下血腫は事故の特定で争いになる

それはそうと、症状が遅れて出てくるのはむち打ち損傷が有名だが、事故から1か月以上経ってから症状が出てくるものもある。慢性硬膜下血腫である。この傷病のやっかいなところは、軽微な頭部打撲が原因でなることが多く、ぼくが担当した慢性硬膜下血腫事案の中には、酒好きの男性で、頭部打撲? いつしたかなあと思案している高齢者の方がいた。けっきょくはいつの事故なのか思い出せなかった。この例でわかるように、慢性硬膜下血腫でいちばんの争点は、事故との因果関係、事故の特定である。

さて、事故が特定できない場合はどうするのだろうか、ふと疑問になったのでネットで調べてみた。こんな込み入ったことをネットで調べても書いているサイトはなかった。たぶん、事故との因果関係が立証できないことを理由に、保険が使えないということになるように思う。

が、調べていて、びっくりするようなことを書いているサイトがみつかった。そこには、慢性硬膜下血腫は、「頭部に強い衝撃を受けたことがきっかけで」なると書いてあった。弁護士のポータルサイトだった。強い衝撃を受けたら、なんらかの症状がすぐに出ると考えるのがふつうである。医学書にだって、ふつうは軽微な頭部外傷でなると書いてあるし、だからこそ、症状があとになって出てくるというのもわかる。調べが足りなさすぎだ。

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当事務所の立場

突然、交通事故にあわれた被害者は、怪我をされたり、車を破損などされたりして大変なことです。その損害の賠償をしてもらうために、これから、加害者そして加害者側の損保担当者を相手に示談交渉を進めなければならなくなります。しかし、交通事故は人生でそう何度も経験するわけではありません。なにをどのようにしたらいいのか途方に暮れてしまうのがふつうです。

ところが、事故被害者がまず相手にするのが加害者であり、そして、実際は加害者側損保の担当者です。損保の担当者はそのことで生計を立てているいわばプロであり、百戦錬磨で鍛えた知識と経験があります。かたや、知識も経験もほとんどない事故被害者。そんな素人がプロ相手にどのように交渉していったらいいのでしょうか。

交通事故に詳しい弁護士が知人にいるような幸運な方は別にして、たいていの方は途方に暮れてしまうことでしょう。一昔前は、素人とプロの交渉ごとということにふつうはなって、プロの思い描くストーリーどおりに押し切られるのがふつうでした。しかし、ネットが発達した現在、示談交渉を進める上での情報がネットを検索すればあふれかえっています。が、その情報は正しいものもあれば正しくないものもある。玉石混淆です。それらの情報に接した事故被害者にとって、どの情報が正しくて信頼できるのかがまずわかりづらいし、自分だけでは手に負えなくて、調査や交渉ごとをだれかに任せることも時に必要になってきます。が、ネット上には、われこそは事故被害者のためだと謳っているものばかりなので、実際にいったいだれを信頼したらいいのかわかりません。

知識とは中立なものであること

ここで注意してほしいのは、情報の正確さもさることながら、その情報(知識)そのものが中立なことです。

昔、東大卒が多い自民党が間違えるはずがないと豪語している自民党支持者に会ったことがあります。ぼくは苦笑するしかありませんでした。たしかに東大卒は勉強をいっぱいしているわけだから、その知識量も多くかつ正確だといえるかもしれません。ただ、知識それ自体はあくまで中立なものであり、どちらにも役に立つ武器なのです。したがって、その正確でたくさんの知識をどちらの側に使うかにある。わかりやすいたとえ話をしてみましょう。

知識は刀という武器と同じ


その昔、武士という職業が存在しました。この武士は帯刀を許された職業のことであり、刀の専門家です。殿様を頂点にして、殿様に雇用され、殿様を守るために武器である刀の技術を日夜みがいていた。

この武器である刀自体は殿様を守るためにも使えるし、農民に加勢して殿様に刃向かうためにも使えます。しかし、悲しいかな、現実は殿様を守るために使われた例が圧倒的に多く、農民に加勢するために使われた例など不幸にしてきわめて少なかった。ごく稀に後者のような武士が現れますが、こういう武士こそ庶民にとっての英雄であり、「七人の侍」はまさにそのようなタイプの武士たちでした。

利益が一致しているか相反しているかが重要

したがって、問題はその使い手自身にあります。使い手がどちらの側に立つかで知識もそれぞれの側の武器になる。そして、その使い手がどちらの側に立つかは双方の利益が一致するか相反するかでふつうは決まってきます。

この、肝心要のことを説明したサイトが皆無といっていいほどにみあたらないのは不思議なことです(というか、あえて否定しているサイトさえいくらでもみつかるくらいです)。

記事を読んでいただければたちどころにわかることですが、当事務所は「立場」を鮮明にしております。あえて鮮明にしているのは、人間や社会に対する見方は、その人自身の立場から自由にはならないからです。中立を装うことは考察を浅くし、論旨を不明確にし、自己を無責任な立場に置くことになる。「立場」のない「立場」などありようがない。当事務所の立場は、ぼく自身が社会的弱者であるため、弱者の立場に徹することです。ぼくのような弱虫は「七人の侍」のようには決してなれないけれど、せめてその心意気だけでも真似して、社会的強者に阿らないようにしたい。そういう気持ちで当サイトをたちあげました。丸山真男のことばを最後に引用しておきます。

丸山真男から

ゲーテは「行動者は常に非良心的である」といっておりますが、私たちが観照者、テオリア(見る)の立場に立つ限り、この言葉には永遠の真実があると思います。つまり完全にわかっていないものをわかったとして行動するという意味でも、また対立する立場の双方に得点と失点があるのに、決断として一方に与するという意味でも、非良心的です。にもかかわらず私たちが生きていく限りにおいて、日々無数の問題について現に決断を下しているし、また下さざるを得ない。純粋に観照者の立場、純粋にテオリアの立場に立てるものは神だけであります。その意味では神だけが完全に良心的であります。

私たちの社会というものは、私たちの無数の行動の網と申しますか、行動の組合せから成り立っております。社会がこうして私たちの行動関連から成り立つ限りにおいて、私たちは行動あるいは非行動を通じて他人に、つまり社会に責任を負っています。その意味では純粋に「見る」立場、ゲーテの言う意味での完全に良心な立場というものは、完全に無責任な立場ということになります。

したがってこの点でも神だけが、完全に無責任でありうるわけであります。認識することと決断することとの矛盾中に生きることが、私たち神でない人間の宿命であります。私たちが人間らしく生きることは、この宿命を積極的に引き受け、その結果に責任を取ることだと思います。この宿命を自覚する必要は行動関連が異常に複雑になった現代においていよいよ痛切になってきたのです。

世のなかには一方では、認識の過程の無限性に目をふさぎ、理論の仮説性を忘れる独断主義者もいれば、またそもそも認識の意味自体を頭から蔑視する肉体的行動主義者がいます。しかし他方その半面では、物事はそう簡単にはイエスかノーかきめられないのだ、もっとよく研究してからでなければなんともいえないという名目の下に、いつも決断を回避することが学者らしい態度だという考え方がかなり強い。

あるいは対立する政治的争点に対して、あれももっとも、これももっとも、逆にそれを裏返しとして、あれもいけない、これもいけないということで、結局具体的な争点に対して明瞭な方向性を打ち出すことを避ける態度をもって、良識的であるとか、不偏不党であるとか考える評論家やジャーナリストもかなりいるようであります。

たびたびゲーテの言葉を引いて恐縮ですが、ゲーテはこういうことをいっています。「自分は公正であることを約束できるけれども、不偏不党であるということは約束できない。」今申しましたような世上いわゆる良識者は対立者に対してフェアであるということを、どっちつかずということと混同しているのではないでしょうか。
「現代政治の思想と行動」丸山真男 P452-454

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本现场可以用汉语对应、如过在日本有遇到交通事故的无论是中国人还是台湾人、请随时商量、商量的时候、请在网上「留言」。

【推薦図書】

これまでに購入した中で、特に役に立った図書です。アマゾンから購入可能なものに限定しました。アマゾン以外からの購入図書については、こちらこちらの記事をごらんになっていただきたい。

(事故調査)

1⃣
林洋氏の代表作。定番教科書である。現場調査に欠かせない視点を提供してくれる。

 

2⃣
江守一郎氏の代表作。新版(と言っても1984年)あり。これも定番教科書のひとつと言われている。

(過失割合・賠償の範囲に役立つ本)

 

2⃣
交通事故訴訟をリードする東京地裁民事27部の裁判官が参加している。裁判所の判断の傾向を知るのに有用。

 

3⃣
道交法の定番教科書。

 

4⃣
「信頼の原則」という記事を書いた際に、たいへん参考になった。この本なくして「信頼の原則」の記事の信頼度は無きに等しい。

(保険を知るのに役立つ本)

1⃣
これ一冊あれば、任意保険のたいていのことはわかる。

 

2⃣
自賠法条文の解説書。

(後遺障害を知るのに役立つ本)

後遺障害をやるのだったら、これは必読書である。参考文献の紹介も豊富。

 

8⃣
先に紹介した弁護士本をたぶんに意識した本である。つまり、高野他本に載っていない遷延性意識障害とかPTSDとかを積極的にとりあげている。

(交通心理学に関する本)



類書はたくさんあれど、外国の調査研究が宝庫のように詰まっている。

(特殊分野編)
いいもわるいも特殊分野の本なので、これを見るしかないという本。

1⃣
旧版(第2集)は持っているが、その後の判例の展開を示した新版の第3集あり。全損賠償の決定版。

 

 

 

4⃣
上の3著の著者・海道野守氏が一般向けに書かれた物損請求書。古いが、わかりやすくてすごくいい本である。

 

5⃣
これも休業損害分野の唯一の本。毎年のように改定されている。ここの先生は休業損害だけでなく、実は休車損の調査もやられていたから、休車損の本も書いていただけるとありがたいのだが。

(交通事故を考える上で、最初に読んでおきたい本)

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