ホステスなど個人事業主の休業損害

ホステスからの相談

私はスナックのホステスです。4か月ほど前に入店したばかりだったのですが、先日、交通事故に遭ったため、1か月以上の入院となりそうです。この場合、相手の保険による休業補償はあるのでしょうか。水商売は補償されないことがあると聞き、不安です。働いていて4か月ほどなので源泉徴収もなく、どのようにしたら補償してもらえるのか教えてください。

ホステスは個人事業主か従業員か

なかなか難しい事例ですね。ホステスさんだと雇用されているのか、個人事業主なのかがまず問題になってきます。どちらなのかのメルクマールは、以下の使用従属性の有無にあります。

仕事の依頼、業務の指示に対する許諾の自由の有無
業務の内容、遂行方法に対する指揮命令の有無
勤務場所、時間についての指定、管理の有無

 
ホステスさんは通常出退勤が自由であり、報酬額も自分のお客の支払額に対する歩合で決まることが多く、したがって、個人事業主であることが多いし、私が担当した事案はすべて個人事業主でした。そして、個人事業主の場合は、確定申告による立証という方法になります。従業員の場合は通常雇用主に休業損害証明書を発行してもらい、さらに前年度の源泉徴収票を提出する方法になります。

では、個人事業主だった場合と従業員だった場合とで補償上どういう違いがあるかです。まずは労災の適用が可能かどうかということがひとつ、もうひとつが、個人事業主だった場合は変動経費分が収入から控除されることです。

ほかには、交通事故が原因でケガをし勤務できない状態が続いた場合に解雇されることもありますが、労災なら、治療中の解雇制限があるので解雇できないという法律上の制限があります。業務労災の場合です。通勤労災はそのような制限がありません。ほかにもなにかあるかもしれませんが、今思い出せたものはこれだけです。

確定申告がされていない場合

ところで、ホステスさんで確定申告をされている人は経験上少ないように思いますし、今回の場合は4か月前に入店したということなので、確定申告をしようにもできないケースです。資料として出せるものといっても支払調書くらいではないかと思います。また、従業員だった場合も入店して4か月ということなので、前年度の源泉徴収票が提出できません。

いずれの場合も賃金台帳の提出という方法が原則としてあるにはあるのですが、問題があります。スナックなど水商売だと、たいていは賃金台帳をオーナー自身が作成していることが多く、私文書ということになり、実態にあわないことでも書くことができるため、文書の信頼性に欠けます。税理士に丸投げというか、税理士を経由することで第三者性が付与されているならともかく、そうではないため、賃金台帳で損失額を立証したという評価を任意保険会社に期待しても困難だと思います。

第三者性を付与することで立証する

こういうケースについては以下の方法で立証してみるべきです。すなわち、オーナー提出の支払調書とその支払として振り込まれたことを立証する通帳の写しを保険会社へ提出するのです。銀行は信頼できる第三者なので、そこで記帳された通帳への振込みの事実及び支払額は証明力が高いわけです。2つの書証をセットにして保険会社へ出してください。支払いが銀行振り込みの場合という条件を満たさないとこの方法は使えませんが、もし銀行振り込みなら、保険会社へ提案してみたらどうでしょうか。

私自身、保険会社からの休業損害調査依頼があった場合、こういう立証方法を提案していました。だから、こういう立証方法が有効であることも覚えてください。ポイントは、信頼のおける第三者を介在させることによって立証に客観性を持たせるのです。これは今回のケースに限らず、休業補償を請求する場合に大変重要なことなので覚えておいてください。

自賠責の最低補償で

もし、この方法ができない場合、つまり、支払いが銀行振り込みではなくて、現金渡しの場合は立証ができなくなります。その場合は、自賠責から休業損害の最低額である日額5700円で我慢するしかありません。この場合の手続について、自賠責は「休業損害の立証資料が添付されていないとの理由で、安易に損害なしとはせずに、被害者等関係先に照会し、事実を確認したうえで、現に損害のある者については積極的に認定する」という運用基準があります。

あるいは、白色申告事業主として、自冶会長や区長などが証明する「職業証明書」を提出するか、どちらかでいいはずです。ただし、自賠責の場合の休業損害は実通院日数で算定されること、120万円の自賠責の枠があることにも注意してください。

衣装代などの変動経費を補償してもらうために

ホステスが個人事業主にあたる場合、報酬から変動経費分を控除する必要があります。それが原則です。そのため、報酬の全額が休業補償の対象になるのではなくて、そこから衣装代や化粧品代などの変動経費分を控除したものが休業補償の対象になるわけです。ここは常に争いになるところです。

さらに、ホステスさんの場合、チップや指名料、ドリンクバック等をどう評価するかでトラブルになりやすい。これらは労働の対価性に対する蓋然性に欠け、不確定要素が強いことから収入としての評価を裁判所はあまりしたがりません。任意保険会社も収入としての評価をすることはないと考えてください。

このように変動経費の扱いについては現実の扱いは厳しいのですが、裁判所は常に控除対象にしているかというと必ずしもそうではありません。

「勤務先によって収入が証明されている金額が「賃金センサス」同年齢の平均給与額より多額の場合は、その実収入で算定する、また、収入証明されている金額が「賃金センサス」同年齢の数値と同程度である場合には、必要経費を控除しない」(「交通事故 損害賠償の知識」(自動車保険ジャーナル)より)というふうに裁判所は区別して判断しているからです。

だから、収入が「賃金センサス」同年齢程度なら、変動経費である衣装代等について収入から控除しなくてもいいはずなのです。それでも、任意保険会社が控除してきたら、そのときはここの情報をもとに弁護士等に相談されるべきです。

自賠責の最低補償では納得できない方へ

日額5700円で、さらに実通院日数分だけの補償では納得できない方も多いと思います。その場合は、最終的には裁判するしかありません。当記事では、参考になりそうな裁判や裁定例を紹介しておきます。

裁判

東京地裁 平成元年9月7日判決
頸部捻挫等で5ヶ所の病院に1年7月余入通院した30歳女子クラブホステスの 事案につき、被告は被害車の修理代が21万円余で血流状態が悪い以外他覚所見 がなく、心因性・私病・既往症等で割合的認定をすべきだと主張していた事案につき、「加害者は被害者のあるがままを受け入れなければならない」のが不法行為法の基本原則であり、肉体的にも精神的にも個別性の強い存在である人間を基準化して、当該不法行為と損害との間の相当因果関係の存在等を判断することは、この原則に反するから許されないとされた事例。1400万円余の休業損害を請求については、収入主張額には裏付けがなく、確定申告額は過小申告とされ、事故時センサス同年齢を基礎に333万円余が認められた事例。

 

名古屋地裁 平成2年10月19日判決
原告は事故時44歳でホステスとして働き、年間374万4000円の報酬を得ていたこと、仕事の性質上2割程度の必要経費を要したことが認められるので、本件事故日から前記症状固定日までの550日間の休業損害を算定すると、次の計算式のとおり、451万3315円となるとした(請求額572万円)。

 

大阪地裁 平成4年5月28日判決
日額1万7000円、月額42万5,000円で休業損害を請求するクラブホステスの事案につき、経費3割を控除して20日の休業を要したとされ、19万1935円の休業損害が認められた事例。

原告Aは、第1事故当時、クラブのホステスとして勤務し、日額1万7000円(月額はその25日分42万5000円)の収入を得ていたところ、前記認定のとおり、第1事故により約20日は治療のため休業し、その間、収入を取得できなかったものと認められる。しかしながら、一般にホステスは右収入のうちから、衣装代、化粧代、交通費及び交際費等の経費を支出しなければならず、原告Aにおいても、右収入のうち3割は経費として支出していたものと認めるのが相当である。したがって、これによる損害は19万1935円となる。

裁定

大阪支部 平成20年3月28日裁定671号
主婦・ホステス(女・34歳)の休業損害請求につき、ホステス稼働分については申立人は休業損害証明書と報酬支払証明書を提出するが、勤務先がこれに対応する源泉所得税を納付していなかったため、課税証明書等の公的書面の交付が得られないとして、ホステスとしての休業損害を否定。主婦稼働分について、平成18年(事故年度)賃金センサス女子学歴計30~34歳平均賃金(年358万0500円)を基礎に、休業期間を事故日から診断書上の要自宅安静期間満了時までの69日間とし、67万6821円とした。

 

札幌支部 平成20年7月31日裁定433号
アルバイトホステス(女・22歳)の休業損害算定に際し、基礎収入につき、休業損害証明書・賃金台帳・給与明細書・雇用契約書の記載内容(1日5時間勤務、日額2万円)、実際にはされていないが源泉徴収しているとの記載)、申立人は確定申告をしていなかったこと、賃金が現金支給であったために入金証明は困難であり、定期的に記帳している家計簿等もないこと、求人広告の記載内容(時給1500円~2500円以上)等からすると、控えめな算定を旨としつつも、短期的には平成18年(事故前年)賃金センサス女子学歴計20~24歳平均賃金(日額7491円)よりも高い収入を得たであろうとの推認に基づくべきであるとして、日額1万2500円(時給2500円×5時間)を基礎にした。休業期間については、欠勤68日間のうち、家事や就業ができなかった当初の32日間は100%、その後の36日間は、家事ができるようになり、通院回数も減少して、身体状況の改善もみられたことから、50%とし、62万5000円を休業損害とした。

 

大阪支部 平成23年8月19日裁定860号
申立人(女・43歳・飲食店従業員)の休業損害算定に際し、勤務していたことがうかがわるが、申立人提出の休業損害証明書に記載された日額2万円を常時継続して取得していたのかは明らかでないものの、子ども(専門学校生)と生活していたことが認められ、この事実を考慮すると、平成19年賃金センサス女子学歴計40~44歳平均賃金389万7800円/年を基礎とするのが相当であるとして、休業期間を事故日から症状固定日までの364日間、入院12日間は100%、右膝関節の症状が心因的要素をかなり受けているとの旨の記載が後遺障害診断書にあることから、残りの352日間を50%とした。

 
【17・09・08】裁判例3、裁定例2を追記した。

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