Mさんからの質問
数日前、交通事故被害者のMさんから質問の電話をいただいた。私が書いた記事に関連する質問だった。その時は出先だったし、即答できるような質問ではなかったので、ネットで調べれば誰かが書いているだろうからまずは調べてみたらどうでしょうかと、私は答えた。ところがMさんいわく、丹念に調べてみたのだが、そういうことに触れているのは私の記事だけなのだそうな。わかりました。もしそうなら、新しい記事で回答することにしますということになってしまった。
診断書にも出てくる保険病名
Mさんの質問というのは、レセプト病名にかかわっての「保険病名」についてであった。レセプトには保険病名が出てくることがある。診断書にも、うっかりして出てくることがある。たとえばこんなふうに。
胃潰瘍
末梢神経炎
こんな診断書をみたら、あれれ、交通事故とは関係なさそうな病名(胃潰瘍、末梢神経炎)が載っている。どうしてこんな病名まで載っているのだろうかと私は最初思ったものだ。あるいは、事故と関係があるのかもしれないが、どういう関係があるというのだろう。このようなことを思ったものである。これは私だけでなくて、損保の査定者も同じようなことを言っていたことを思い出した。事故との因果関係が不明なので確認してくださいね。で、主治医に確認する。すると、「これ、保険病名です」との回答が返ってくる。
そういう経験を何度もすると、診断書をみていて、ああこれは保険病名なのだろうとおよその見当がつくようになる。
保険病名とは?
さて、保険病名とは何か。医療機関では、患者の診断名や検査、治療の内容、料金をまとめた明細書をつくる。この診療報酬明細書をレセプトという。そして、レセプトに書かれる病名(レセプト病名)の中に保険病名が存在する。
レセプト病名のつけ方にはきまりがあるらしくて、現在の保険医療では薬、検査、処置(手術)に対しては適応する病名が決められていて、それをつける約束事になっている。それから外れた病名だと保険適応にならないから、保険請求しても却下される。そして、適応病名は、たとえば薬なら効能書きに書いてある。
ビタミンB12製剤を例に
一例をあげる。ビタミンB12製剤。この薬の効能書きではこうなっている。
医薬品情報データベース
ビタミンB12製剤の適応病名がいろいろ書いてあった。ビタミンB12製剤を使ったときは、適応病に処方してレセプト病名をつけるのがふつうである。しかし、ビタミンB12製剤を適応病以外でも使いたいばあいがある。そのばあいは、便宜的に適応病名を借りてきて、それをつける。そして、保険請求する。
このような、保険を使うための便宜的に付ける病名を「保険病名」と言う。能書きに書いてない、本来の病名でないことに使ったときに、保険請求を通すためだけに適応病名を使うことを、医師の間では保険病名と言う。
診断書に保険病名が出てくるわけ
交通事故で怪我をされた被害者の方の診断書に、ときどき、「むち打ち損傷」といっしょに「胃潰瘍」とか「椎間板ヘルニア」といっしょに「末梢神経炎」とか書いてあったりする。これはたいてい保険病名である。消炎鎮痛剤を使ったことによる胃腸障害を防止するために使われる抗潰瘍剤に対する保険病名が「胃潰瘍」だし、疼痛に対して処方したビタミンB12製剤の適応病名が「末梢神経炎」だったことはすでに説明したとおりである。そういう保険病名はふつう診断書に書かないのだが、医師がうっかりして健保診療のクセでつい書いてしまうのだ。
診断書の見方として、診断書に保険病名がつけられていることがときどきあるので、当惑されないよう注意したい。
Mさん、簡単な説明だったかもしれないが、これくらいでお許しを。また、わからんことがありましたら電話なりメールなりしてください。どちらかというと、メールのほうがいいかなあ。
(追記)医療事務に精通しているわけでないので、なにか間違いがありましたら、ご教示願います。