高次脳機能障害

父が脳梗塞になった

父が脳梗塞になった。左脳に脳梗塞を発症し、右半身麻痺以外に、高次脳機能障害を発症している。今後、長期のリハビリなど、家族の助け・理解が必要になる。そのためには高次脳機能障害についての正確な知識が必要である。このことをきっかけに、高次脳機能障害について自分のできる範囲で調べてみよう。今後、調べた結果やわかったことなどをこのページに書きとどめていきたい。これは読者を想定したものというより、自分に対する覚書である。

経過

2017年4月11日、コンビニで買物中に意識を失い、転倒。救急車で病院へ運ばれる。脳梗塞だった。部位は大脳皮質左頭頂葉。右に麻痺あり。翌日、呂律が回らない症状も加わる。

5月1日。ICUからリハビリ病棟に移る。

6月7日。右半身麻痺と超皮質性失語と、主治医より言われる。看護士によれば、失語症に構音障害も加わっているとのこと。

高次脳機能障害の原因

父は、脳梗塞による高次脳機能障害だが、高次脳機能障害の原因は脳梗塞や脳出血以外にも、脳腫瘍、頭部外傷などが原因で発症すると言われている。

高次脳機能障害とは

「かんたんにいえば、頭が悪くなること」と言う医者もいるが、それは必ずしも正しくない。石合によれば、

ヒトに限らず、少なくとも動物と称せられているものは、広い意味での感覚と運動を介して外界と交渉を持っている。この時、「どこ」、「何が」という観点が加われば、それはもう、たんに触れたとか光が見えたという要素的な感覚の範囲を超えている。また、物に向かって手を伸ばす、そして正しくつかむというような動作は、すでに筋の収縮や関節の伸展などの要素的な運動よりも複雑な行為である。要素的な感覚と運動を超えた能力は、生まれながらにして備わっているものではなく、しだいに学習して身についてくる。

ヒトでは、さらに複雑な感覚と運動の上に成立する「言語」を家庭、社会において習得する。これらの、「どこ」――空間性認知、「何」――対象の認知、「どのように」――目的を持った行為、そして、実際の物や行為のない場合でも様々な事象を表現・伝達・理解できる言語が高次脳機能に含まれる。このような能力を学習し、また、時間の流れの中で有効に活用していく上で重要な役割を果たしている記憶も重要な高次脳機能である。

さらに、幅広い高次脳機能を組織的に活用して、将来的展望を持ち、目的を持って、計画的に行動することも、「高次元」の高次脳機能である。

 
としている。

各種検査・評価法

レーヴン色彩マトリシス検査

父の主治医は、高次脳機能障害について説明するときに、「かんたんに言ってしまえば頭が悪くなることだ」と言ってのけました。高次脳機能障害になると場合によってはたしかに頭が悪くなることもあるのでしょうが、常に頭が悪くなるわけではありません。先生よ、貴方の頭のほうこそ問題がありそうだ、と私はそう思ってしまいました。

高次脳機能障害のひとつに、失語症というのがあります。言語能力が低下することです。言語能力が低下すると、一見すれば思考能力まで低下したのではないかと、しろうとは考えます。いや、私の父の例のように主治医までそのような誤解がありそうだし、看護婦さんもそのように理解して、失語症患者に対し、幼児語で話しかける例が少なくありません。しかし、必ずしもそうではありません。言語能力と思考能力は別のものだからです。いっしょくたにすると、主治医のような発言になるのでしょう。ホント、この先生で大丈夫なのかいな。

当検査は、言語能力の低下した失語症の人の思考能力のていどを調べるために考案された検査です。言語能力に頼らなくていいので、非言語性の知能検査です。①はかんたんですが、②はどうでしょうか。私は一瞬考え込んでしまって、即答できなかったですね。



 


 
この検査にはこのような問題が36問あり、健常者の成績が年齢別に調べられていますので、失語症患者はそれと比較することで、その知的機能をかなり正確に知ることができると言われております。

ブルンストロームステージ(Br.Stage)

脳卒中の運動麻痺の回復過程を順序により判断するために考案され、尺度としては順序尺度として用いられています。交通事故の頭部外傷事案でも「BRS」とカルテに載っていることもあるので、ご存知の方も多いと思います。

【基本概念】
StageⅠ 弛緩性麻痺(完全麻痺)
筋肉がダラッと緩んでしまっている状態で、自分ではまったく動かせず(随意的に動かすことはできない)、脳卒中発症早期に見られる。
StageⅡ 連合反応の出現
連合反応が誘発され、体の一部を強く働かせると、他の麻痺した部位まで筋収縮や運動が起こる。例として、「あくび」や「くしゃみ」をしたとたん、上肢では腕や指が曲がり、下肢では足がピンとまっすぐに伸びる。
StageⅢ 共同運動パターンの出現
共同運動では、個々の筋肉だけを動かそうとしても、付随するほかの筋肉までいっしょになって動いてしまう(一定の運動パターン以外の運動ができない)。共同運動には、屈筋共同運動(足や手が全体的に屈曲方向に曲がってしまう)と伸筋共同運動(足や手が全体的に伸びてしまう)2 種類の運動パターンがある。
StageⅣ 分離運動の出現
共同運動のように全体的に動いてしまうのに対して、それぞれの関節が少し分離して動くようになる
StageⅤ  分離運動の進行
共同運動・痙性の出現が弱くなり、より多くの運動(分離運動)が可能になる。
StageⅥ さらに分離が進み正常に近づく。
共同運動・痙性の影響がほとんどなくなり、運動の協調性や速度も正常化し、個々の関節が自由となる。しかし、その動きは少しぎこちない。


 

【上肢】
stageⅠ 弛緩性麻痺。
stageⅡ 上肢のわずかな随意運動。
stageⅢ 座位で肩・肘の同時屈曲、同時伸展。
stageⅣ 腰の後方へ手をつける。肘を伸展させて上肢を前方水平へ挙上。肘90°屈曲位での前腕回内・回外。
stageⅤ 肘を伸展させて上肢を横水平へ挙上、また前方頭上へ挙上、肘伸展位での前腕回内・回外。
stageⅥ 各関節の分離運動。


 

【手指】
stageⅠ 弛緩期(完全麻痺)。
stageⅡ 指の屈曲不能、または僅か可能。
stageⅢ 手指集団にぎり、鉤形にぎり可能。ただし指の随意伸展不能 。(反射的には可能かもしれない)
stageⅣ 横つまみ可能。母指外転によるつまみ開きが可能。半ば随意的な手指進展可能。ただし不十分。
stageⅤ 先端つまみ可能、円柱にぎり、球形にぎり可能だが、下手で実用性が少ない。随意的な手指伸展はかなり可能。
stageⅥ すべてのにぎり、つまみが可能。巧緻性向上し随意的手指伸展完全に可能。個別の手指運動ができるが、反射が側よりわずかに劣る。


 

【下肢】
stageⅠ 弛緩性麻痺。
stageⅡ 下肢のわずかな随意運動。
stageⅢ 座位、立位での股・膝・足の同時屈曲。
stageⅣ 座位で足を床の後方へすべらせて、膝を90°屈曲。踵を床から離さずに随意的に足関節背屈。
stageⅤ 立位で股伸展位、またはそれに近い肢位、免荷した状態で膝屈曲分離運動。立位、膝伸展位で、足を少し前に踏み出して足関節背屈分離運動。
stageⅥ 立位で、骨盤の挙上による範囲を超えた股外転。
座位で、内・外側ハムストリングスの相反的活動と、結果として足内反と外反を伴う膝を中心とした下腿の内・外旋。


 

意識障害レベルと高次脳機能障害の関係


〈工事中〉

参考書籍リスト

(一般啓蒙書)
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[amazonjs asin=”4260117076″ locale=”JP” title=”神経心理学入門”] [amazonjs asin=”4263213963″ locale=”JP” title=”高次脳機能障害学第2版”] [amazonjs asin=”4000229583″ locale=”JP” title=”高次脳機能障害――医療現場から社会をみる”] [amazonjs asin=”4880022942″ locale=”JP” title=”言語聴覚障害学―基礎・臨床”] [amazonjs asin=”4880021806″ locale=”JP” title=”脳が言葉を取り戻すとき 失語症のカルテから”] [amazonjs asin=”426001515X” locale=”JP” title=”「話せない」と言えるまで―言語聴覚士を襲った高次脳機能障害”] [amazonjs asin=”4409940031″ locale=”JP” title=”失語症を解く―言語聴覚士が語ることばと脳の不思議”] [amazonjs asin=”4303850055″ locale=”JP” title=”高次脳機能障害と損害賠償―札幌高裁判決の解説と軽度外傷性脳損傷(MTBI)に (精神医学と賠償シリーズ 4)”] [amazonjs asin=”4260000829″ locale=”JP” title=”言語聴覚士のための基礎知識 臨床神経学・高次脳機能障害学”] [amazonjs asin=”4303610402″ locale=”JP” title=”言語聴覚士の音響学入門”] [amazonjs asin=”4385345880″ locale=”JP” title=”日本語音声学入門”]

「奇跡の脳」から
附録A 病状評価のための10の質問
1.見たり聞いたりできているか、誰かに目と耳をチェックしてもらいましたか?
2.色が判別できますか?
3.三次元を知覚できますか?
4.時間についての何らかの感覚がありますか?
5.からだの全ての部分を、自分のものだと確認できますか?
6.背景の雑音から、声を判別できますか?
7.食べ物を手に取ることができますか? 手で容器を開けられますか? 自分で食べる力と器用さがありますか?
8.快適ですか? 充分に暖かいですか? 喉が渇いていますか? 痛いですか?
9.感覚的な刺激(光や音)に対して敏感すぎていませんか? もし「敏感すぎる」なら、眠れるように耳栓をもってきて、そして、目を開けていられるようにサングラスをかけて。
10.順序立てて考えられますか? 靴下と靴が何であるかわかりますか? 靴の前に、靴下をはくという作業が理解できますか?

附録B 最も必要だった40のこと
1.わたしはバカなのではありません。傷を負っているのです。どうか、わたしを軽んじないで。
2.そばに来てゆっくり話し、はっきり発音して。
3.言葉は繰り返して。わたしは何も知らないと思って、最初から繰り返し、繰り返し、話してください。
4.あることを何十回も、初めと同じ調子で教えてくれるよう、忍耐強くなって。
5.心を開いて、わたしを受け入れ、あなたのエネルギーを抑えて。どうか急がないで。
6.あなたの身振りや顔の表情がわたしに伝わっていることを知っていて。
7.視線を合わせて。わたしはここにいます-わたしを見に来て。元気づけて。
8.声を大きくしないで。わたしは耳が悪いのではなく、傷を負っているのです。
9.適度にわたしに触れて、気持ちを伝えて。
10.睡眠の治癒力に気づいて。
11.わたしのエネルギーを守って。ラジオのトーク番組、テレビ、神経質な訪問者はいけません-訪問は短く(五分以内に)して。
12.わたしに何か新しいことを学ぶエネルギーがあるときは、脳を刺激して。ただ、ほんの少しですぐに疲れてしまうことを憶えていて。
13.幼児用の教育玩具と本を使って教えて。
14.運動感覚を通して、この世界を紹介して。あらゆるものを感じさせて(わたしは再び幼児になったのです)。
15.見よう見まねのやり方で教えてください。
16.わたしが挑戦していることを信じてください-ただ、あなたの技術レベルやスケジュール通りにいかないだけです。
17.いくつもの選択肢のある質問をしてください。二者択一(Yes/No)式の質問は避けて。
18.特定の答えのある質問をして。答えを捜す時間を与えて。
19.どれくらい速く考えられるかで、わたしの認知能力を査定しないで。
20.赤ちゃんを扱うように優しく扱って。
21.わたしに直接話して。わたしのことについて他の人と話さないで。
22.励ましてほしい。たとえ二〇年かかろうとも、完全に回復するのだという期待を持たせて。
23.脳は常に学び続けることができると、固く信じてください。
24.全ての行動を、より小さい行動ステップに分けてください。
25.課題が上手くいかないのは何が障害になっているのか、見つけてください。
26.次のレベルやステップが何なのかを明らかにして。そうすると、何に向かって努力しているかがわたしにもわかります。
27.次のレベルに移る前に、今のレベルを十分に達成している必要があることを憶えていてください。
28.小さな成功を全て讃えてください。それがわたしを勇気づけてくれます。
29.どうか、わたしの文章を途中で補足しないで。あるいは、わたしが見つけられない言葉を埋めないでください。わたしには脳を働かせる必要があるのです。
30.もし古いファイルを見つけられなかったら、必ず新しいファイルを作るのを忘れないで。
31.実際の行動以上にわたしが理解していることを、わかってもらいたいのです。できないことを嘆くより、できることに焦点を合わせましょう。
32.わたしに以前の生活ぶりを教えてください。
33.前と同じように演奏できないからと言って、もう音楽を楽しんだり、楽器を演奏したりしたくないなんて考えないでください。
34.一部の機能を失ったかわりに、わたしが他の能力を得たことを、忘れないで。
35.家族、友人たち、優しい支援者たちと親しい関係を保てるようにしてください。カードや写真を貼り合わせたコラージュを作って見せてください。それらに見出しをつければ、わたしはゆっくり見ることができます。
36.大勢に助けを求めましょう。「癒しチーム」を作るように頼みましょう。みんなに伝言しましょう。そうすれば、みんなはわたしに愛を伝えてくれます。わたしの病状の最新情報を伝え続けて。そして、わたしを助けてくれるような特別なことを頼んでみて。わたしがらくに飲み込んでいるところや、からだを揺り動かして、上半身を起き上がらせるところを見せてあげて。
37.現在のわたしをそのまま愛して。以前のようなわたしだと思わないで。今では、前と異なる脳を持っているのです。
38.守ってください。でも、進歩を途中で阻まないで。
39.どのように話したり歩いたり、どんな身ぶりを見せたかを思い出させるために、何かをやっているわたしの古いビデオテープを見せて。
40.薬物療法が疲れを感じさせ、それに加えてありのままの自分をどう感じるかを知る能力をぼやけさせていることも、忘れないで。