言いがかりをつけたり、理不尽な要求をするたちが悪い事故被害者たち

交通事故被害者の方は事故のためたいへんな困難にあわれている。が、中には、それをいいことに、被害者という立場を悪用してなんでもかんでも要求してくる方がいます。保険調査員としてこれまでに遭遇した「たちが悪い被害者」列伝。

たちが悪い、困った事故被害者たち

今日はいつもとは趣向をちょっと変えて、これまでに出会った「困った事故被害者たち」の話をしてみようと思います。「困った事故被害者たち」というのは典型的には何でもかんでも要求しないとソンだとでも考えているのか、要求すればゴネ得するのだと勘違いしているいわゆるクレーマーのことです。 明らかな言いがかりをつけてきたり、理不尽な要求をしたりする人たちのことですね。

どうしてそういう話題を取り上げてみようと思ったかといいますと、損保示談担当者向けに書かれた「新 示談交渉の技術」というクレーマーに対する想定問答集をたまたま読み返していたからです。

この本は「設問」と「答え」という形式で書かれているのですが、その設問の中には、示談担当と保険調査という立場の違いはあるにせよ、「本当にまったくそのとおりだよなあ」と、頷くことしきりだったからです。その「まったくそのとおりだよなあ」と思わせられた設問をご紹介してみよう。

「新 示談交渉の技術」の設問の中から

以下に、 設問とそれに対する模範解答、最後は私の感想です。

加害者との直接交渉はまかりならぬ

第一問 保険屋は帰ってくれ。加害者と話をする。

模範解答。この事故の補償は、当社が負担する用意がある。事故当事者同士では感情的になるばかりなので、担当者がなかに入って話をすすめるほうが、スムーズ・・・。

これは私もときどき言われちゃいました(苦笑)。この亜流は、お前じゃダメだ。他の調査員に変えてくれ。

高級外車を、まわりには平らなところがいっぱいあるにもかかわらず、ボートをとめるような護岸の斜面にわざわざとめて、サイドブレーキを引いていたというのです。が、クルマが勝手に動き出し、そのまま海に沈没。車両保険金の請求があった事例です。

釣りに行ってたとご本人がいうから、どんな魚を釣るつもりだったんだと聞いたら、「そんなこと、何が関係あるんじゃ。おれ様をだれやと思っておるんじゃ」と逆上してしまいました。そのとき言われたのが、「お前じゃダメだ。他の調査員に変えてくれ」。

それまでは中学校の父兄会の役員をやっている善良な一市民だと自分のことをことさら強調し、標準語の丁寧な言い方だったのに、私の言った一言に逆上してからは関西弁丸出し。ゴリラのような身体を仁王立ちにさせて怒りだしました。お・お、こわー。

何が善良な市民だ。以前は火災で莫大な保険金を手にいれ、次にこの事故。結局こいつはその後覚せい剤かなんかで捕まってましたね。自業自得というやつです。

被害者が加害者に直接交渉することを禁じている法律はありません。直接交渉は可能なのです。念のため。下記記事で詳しく書きました。

被害者は相手側の代理人である弁護士との示談交渉を拒否できるか

日本の民法は金銭賠償が原則

第二問。お金はいらん。元の体にしてくれ。

模範解答。賠償は金銭賠償が原則なので・・・。

「お金はいらん。元の体にしてくれ」。これは人身事故被害にあった方の切実な要求です。だから、否定はしない。しかし、本当にそうなのだろうかと疑わざるをえない事案もないわけではありません。

喫茶店で会った若造。伏し目がちにしてオレを怒らせたらどうなるかわからんぞという雰囲気たっぷりのチンピラ。怖いので相槌をうっていたんじゃ商売にならない。で、私はそのチンピラの言うことを一つ一つ否定する発言をしたら、「お金はいらん。元の体にしてくれ」。

さらに、(恐れ入ったかという感じで)じゃ、裁判にするぞと言って来た。ヘェ~。このお兄さん、けっこう合法的な考えの持主なんだなあと拍子抜けしちゃいました。

この亜流は、お金はいらん。元のクルマを返してくれ。

また、第一問で登場した「善良な一市民」に再登場していただこう。この方は、いいがかりのようなことを言うのがお得意とみえて、こんどは、水没した車を元の状態に戻してくれと言ってきました。

おい・おい。自分で車を海に沈めておいて・・・とまでは言いませんが、自分の過失(車を斜面に駐車させた)で車が海に没したんじゃなかったのか。それとも車が勝手に動いたとでも言うつもりなんでしょうか。自分のミスから生じた水没でしょ。駄々をこねたらダメでちょ。いい加減にしてほしいんですよ。この方。

保険調査員にも予定というものがあります

第三問。すぐ来い。

模範解答。 事故の補償のことで一刻を争うようなことはほとんどない。そのような要求はつっぱねる。

これも何度か言われたことでしょうか。一番ひどいのが30分以内でという期限つき。

30分以内って、そんなのは距離からいって物理的に不可能ですよ。第一、私にも予定があるじゃありませんか。予定があるのですぐには無理ですと説明したものの、相手はまったく承知しない。怒鳴りまくってらちがあかないため、じゃ、今からそっちに行くと返事しました。

相手の事務所に着き、どんな奴だとお顔を拝見したところ、とたんに、先の勢いはまったくなくなって、私の顔を見てただただ畏まっている。おれってそんなに怖そうか。目つきが悪いから眼鏡をかけろとたしかに以前の上司から言われたことはあるけれども。

休日とか夜間とかは割増賃金にしてほしい

第四問。休日あるいは夜間に来てくれ。

模範解答。休日、夜間は勤務時間外なのでご容赦ください。

これもけっこうあるんですよね。相手から夜の10時に来てくれと言われたら、それなら日曜日などの休日はどうでしょうかと私の方から逆提案していました。夜は寝る時間なのでね。

ただ、休日は用事があるからだめだということで、深夜に訪問する羽目になったことが2、3度ありました。一番ひどいのが午前4時。相手は目撃者で、夜間の警備のお仕事をされていた方。目撃者はあくまで協力者という立場なので、こちらも強硬な態度に出れません。それでやむなく応じました。自宅から片道1時間の遠方のところ、もうこりごりです。

事故の加害者になったら謝罪するのは当たり前、子どもでもわかりそうなことなのに

第五問。加害者は一度も見舞いに来ない。

模範返答。ご意向は伝えます。

これは加害者が悪いのですが、被害者からよく言われました。大怪我をして入院しているのに、加害者は保険会社にまかせっきり。その一因は保険会社にもありますね。

被害者とは直接交渉をするなとアドバイスするからです。しかし、賠償面はともかく、事故で怪我をさせた道義的責任があるのだから、何でもかんでも保険会社にまかせっきりというのはダメですよ。子どもでもわかりそうなことを大の大人がどうしてわからんのか、まったく理解できません。

自分のことになりますが、私が物損事故を起こしたとき、被害者宅を2度訪問しました。1回目訪問時に本人が不在だったので、謝罪のため2度訪問しています。人を怪我させたら、1度謝罪するくらいじゃだめですよ。

調査の仕事できる自信のある方なら

第六問。休業補償はいいから、代わりに働いてくれ。

模範返答。損害賠償は金銭賠償が原則です。代替労働が必要なときは、その費用としてお支払いします。

これはどんな場面だったか思い出せないが、何度か言われたことがあります。で、たしか、こんなふうに答えました。いいですよ。でも、それだと私は自分の仕事ができなくなるので、私の仕事、代わりにやっていただけますか。

任意保険の休業損害は個別具体的に算出する

第七問。休業損害は統計の平均賃金でいいから、それで出してくれ。あるいは、3人の扶養家族いるんだから、月に50万円の生活費がかかるのは当たり前だろう。

模範解答。平均賃金程度の収入があるかどうかは、提出していただいた資料により後日検討します。

はい、そうしますと言ってしまいそうになりますが、それだと私の仕事がなくなります。だから、もちろんそのような提案は認めません。

あんたの運転手じゃないんだからね

第八問。通院するから、送り迎えをしてくれ。

模範返答。必要な費用は負担しますので、ご容赦願います。

この種の要求は通常もちろん断っています。

ただ、何度も会っていて人間関係ができてしまうと、通院のたびではなくて後遺障害の診断を受けるような特定の1日だけ、たまたま私の行き先と同じだったので、送り迎えをしたことがあります。横暴な要求をする被害者に対してはこっちもある程度強く言うことがありますが、ふだんから謙虚で、信頼されていると思われる被害者だとそうもいきません。

よろしいですよ。で、病院の駐車場で2時間待たされました。

頭のよすぎる方はテキトウに

第九問。これは想定問答集にありませんが、興味深いのでとりあげることにしました。

「私はクルマのプロライセンスを持っているから、コンマ何秒の世界までわかるのだ」と豪語して、発見地点がどこでそのときの速度が時速64キロで相手との相互の距離が20.5メートルで、危険を感じた地点がどこそこ云々で、そのときの回避措置がコンマ何秒で左ハンドルを切り、コンマ何秒でブレーキを踏み、制動距離は何メートルで、衝突時の自車速度が時速12キロでなどと薀蓄を開陳する事故被害者がいました。

まるでスーパーコンピューター並みの頭脳の持ち主ですね。この場合、どう対応するべきでしょうか。

模範解答? こういうやたらに細かく詳しいことを言う奴は、かえって信用できないんだよね。わぁ、すごいですね・・・とか言って相手をおだてて、適当にやりすごすのが一番です。

権限のない保険調査員は大変なのだ

どれもごもっともな模範解答だし、弁護士や損保査定ならこのように対応してつっぱねることも可能なのでしょう。しかし、保険調査員がこんなことを言ったら、保険会社からクレームになりそうな、机上の空論のような回答が多いようにも思えます。

弁護士も損保査定も権限があるから気楽でいいよね。もともと、損保査定に向けての問答集だから、こういう不満は筋違いなのかもしれませんが。

↓も同趣旨の記事なので、よかったら見てね

身に覚えのない交通事故で加害者扱いされたとき

非接触事故で言いがかりとしか思えないというときの解決法についてはこちらの記事も見るといいですよ。

非接触事故と判例

2 COMMENTS

lucky

こんばんは。

最近発売された『Q&A交通事故加害者賠償実務~被害者からの過剰請求対応』(弁護士法人 愛知総合法律事務所編 第一法規)に被害者からの過大請求に対する切り返しが紹介されています。参考にどうぞ。

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ホームズ事務所

luckyさん、コメントありがとうございます。

>『Q&A交通事故加害者賠償実務~被害者からの過剰請求対応』(弁護士法人 愛知総合法律事務所編 第一法規)に被害者からの過大請求に対する切り返しが紹介されています。

おもしろそうですね。今月はすでに予算オーバーなので、来月くらいには買って読んでみたいと思います。

それにしても医学書というのはバカ高すぎますね。200ページほどの本が13000円近かった。この1冊で2か月分の予算を使ってしまいました。中古で買ったのですが、値下がりするのを待とうかとも思ったものの、いつ値下がりするのかかいもく見当がつかなかった。さらに値が上がるかもしれない。もしそうなったら、とてもぼくには手が届かなくなる。というか、諦めがつくからいいのかもしれませんが。

いずれこの分を回収できたらと思いつつ・・・

いつも貴重な情報をありがとう。

それはそうと、luckyさんの最近の記事で、後部トランクに突っ込んだまま亡くなられた子どもの記事がありましたよね。その記事の結びに、保険が使えるのかどうかとしていた記事のことです。たぶん使えないんじゃないかとは思ったものの、その場では正確なところはわからなかったので調べてみたのです。ちょっと時期遅れだったため記事にするかどうか迷っていたのですが、一般論に通じるような書き方にして、記事にできたらと思いました。

また、コメントしてください。大歓迎です。

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