「広路」、すなわち「広い道路」って、どれくらい広ければ「広い道路」になるのだろう。「狭路(きょうろ)」、すなわち「狭い道路」って、どれくらい狭ければ「狭い道路」」といえるのだろう。当然の疑問ですね。広いとか狭いとかは相対的なものだし、個々人によっても違ってきます。
こういう場合は実際にあった事例で考えるとわかりやすいです。
目次
広路・狭路(きょうろ)の相談
見通しのいい信号のない交差点でクルマ同士の出会い頭衝突事故を起こしてしまいました。相手は右方交差道路の県道を走行しており、こちらは農道を走行していました。県道ではありますが、優先道路というわけでなく、双方ともに一時停止規制もありません。
その結果、相手損保からは広路・狭路を主張されています。こちらの幅員は3.6m、県道側は路側帯も含めて5.7mです。広路・狭路といえるのでしょうか。
判タの過失相殺率認定基準本の広路・狭路
広路狭路とは
道路(車道)が広いか狭いかは、「広い」・「狭い」が相対的な概念なのだから、これだけでは何の解決にもなりません。「広路狭路」については、最高裁は、
としています。
こんな説明でわかる人がいるのでしょうか。だって、上記判例の「客観的にかなり広いと一見して見分けられるもの」という定義自体がおよそ客観的とはいいがたいですよね。
このような胡散臭い、主観の入り込む要素がいっぱいある定義の仕方だから、保険実務上はまったく使えません。事故被害者と加害者側損保は利益相反の関係にありますから、はっきりした基準でないと、説得力に欠け、まとまる示談もまとまりません。
広路が狭路の1.5倍以上あること
そこで、保険実務では、広路が狭路の1.5倍以上あることが目安とされています。これなら客観的ですね。
なお、裁判では上記判例のとおり1.5倍なる基準は存在しません。判例上「明らかに広い」と認めたものと、否認したものとにわけて、そのときの道路幅員がどうだったのかをご紹介します。
①8.9m対4.4m
②15.9m対6.5m
③10.07m対6.4m
④9.6m 対3.0m
⑤7.0m 対 3.5m
⑥8.7~6.8m 対 4.6m
⑦6.0m 対 4.2m
⑧6.0m 対 3.8m
⑨5.6m 対 2.0m
①7.0m対6.4m
②9.0m対7.9~5.5m
③8.85m 対 6.55~6.2m
④8.5m 対 5.4m
⑤4.9~4.77m 対 2.9m
広路狭路の測り方
さて、次に問題になるのが道路です。正確には、ここでは車道のことです。
バイクの路側帯走行と過失割合
道路のどこからどこまでを測って「広路狭路」を決めるのでしょうか。「道路交通法解説」(16訂版P334)にはこう書いてあります。
ここに「幅員が明らかに広い」にいう、その「道路の幅員」は、道路の路肩部分(路肩構造のない道路においては、路肩相当部分――0.5メートル)を含めた幅によって比較しなければならない。法第17条4項で述べたとおり、本条(36条のこと)で道路という場合で歩道等と車道の区別のある道路では、「車道」と読みかえなければならないことになっているので、本条の道路の幅員の広狭は、歩道又は路側帯を除いた車道の部分によって比較しなければならない(昭47・1・21最高裁)。
道路両側に非舗装部分(歩道設置予定)がある場合には、法第17条4項、第36条2項、3項の趣旨から判断して、道路の広狭の判断は舗装部分の幅員を道路幅員とみるのが相当であると考えられる(昭50・5・28東京高裁)。
もうひとつ、広路狭路を決める際に重要な判例があります。
すなわち、広路・狭路は、乙側の車道幅の「10.1」に対して、甲側は「6.2」ではなく、「9.1」のほうで比較せよということなのです。したがって上記判例のケースでは広路・狭路には該当しないことになります。
「明らかに広い」かどうかの結論
では本件はどうなるのでしょう。農道側の幅員が3.6mです。したがって、3.6m×1.5=5.4mになります。県道側が路側帯を含めて5.7mあります。その差は0.3m。
路側帯は通常0.5~1.0mあるので、保険実務上、本件は広路狭路には該当しないと考えられます。現場調査では、路側帯の実際の長さがどれだけあるのかが重要です。
道交法の「道路」とは
では、あらためて本件事故はどの事故類型に該当するのだろうか。まず考えてほしいのは、農道が「道路」なのかどうかである。当該農道が「道路」だったら、当該事故は「交差点の事故」になるが、「道路」でなかったら、「路外からの進入車との事故」となる。その違いが過失割合に影響する。
そこで、「道路」とは、
Wikipediaによると、
――としています。ここで問題になるのは道路交通法の「道路」です。
道路交通法第2条1項は、以下の3つに該当する場合を「道路」としています。
2道路運送法第2条第8項に規定する自動車道(専ら自動車の交通の用に供することを目的として設けられた道で道路法による道路以外のもの)
3一般交通の用に供するその他の場所
1、2はわかります。問題は「一般交通の用に供するその他の場所」です。「一般交通の用に供するその他の場所」とは、公道や自動車の交通のために設けられた道以外で、現実の交通の実態から道路とみなされる土地のことをいいます。不特定の人や車が自由に通行することができる場所で、現実に通行に使用されている場所が該当します。
そのため、一般に道路としての形態を有していなくても該当する場合があり、私有地であるか公有地であるかは関係ありません。具体的には、農道、林道、赤線が該当し、一般の交通に供用されていれば、私道、広場、公園、河川敷、地下街等も含まれます。
以上から、農道は「一般交通の用に供するその他の場所」にあたる可能性があります。当該農道が「道路」に該当するかどうかは、「現実の交通の実態から道路とみなされる土地のことをいう。不特定の人や車が自由に通行することができる場所で、現実に通行に使用されている場所が該当する」ということです。これが「道路」であるかどうかのメルクマールです。
道路であるための4つの要件
詳しく説明してみます。
道路法第2条1項に規定する道路(注:高速道路や国道、都道府県道、市町村道のこと)及び道路運送法第2条8項に規定する自動車道を除いた場所において、現実の交通の有無をとらえてこの法律上の道路とするものをいう。
具体的には、事実上道路の体裁をなして交通の用に供されているいわゆる私道がはいるほか、道路の体裁をなしていないが、広場、大学の構内の道路、公園内の通路というようなところで、それが一般交通の用に供され開放され、しかも一般交通の用に客観的にも使用されている場所をいう。しかし、それが管理者の意思によって閉鎖されたときは、ここにいう道路でなくなる(国会審議における政府説明要旨)」(「執務資料・道路交通法解説」より)。
上記「解説」によれば、①道路の体裁の有無②客観性・継続性・反復性の有無③公開性の有無④道路性の有無を挙げています。
要は、道路としての体裁に欠けるところがあったとしても、道路らしさがいちおうあり、「不特定の人や車が自由に通行できる状態になっている場所が道路」(昭和44年7月11日最高裁)ということです。
以上から、本件はこう考えるべきですね。かりに左方の農道が袋小路になっていて農作業で訪れる人くらいしか利用されていないのであれば、不特定多数の通行があるとはいえないから、「道路」ではない。どこかへ通り抜けが可能で、不特定多数の通行に利用されているなら「道路」にあたる。
調査では、左方の農道が袋小路なのかどうかを確認する必要があります。
最終結論
ご相談の事例は、農道が「道路」に当たるのかどうかをまず判断する。もし、「道路」なら「交差点内の事故」、「道路」でないなら、「路外からの進入車との事故」になる。過失割合が違ってくるのだ。
今回はとりあげなかったが、農道が「道路」に該当したばあい、「交差点内の事故」になるが、そのばあい、広路狭路に該当しないことはすでに述べたとおりである。では、左方優先の原則で処理するのかどうかという問題がある。そのことについては、またの機会にしたい。
道交法の優先関係を理解するために、分類から始める
道路上で車がぶつからないようにするために、優先関係を定めています。以下で、どのように考えたらこの優先・劣後の関係を理解しやすいのかについて書くことにしました。ここで提起している分類法は過失割合を考える上でも有効ですね。
分類は、いうまでもなく、ある意図をもとにした体系化ですから、意図が変われば同じ対象についてまったく異なる体系・分類が可能です。たとえば人間を男と女というふうに二大別することもできるし、大人と子供というふうに二大別することもできます。分類は、それをすることによって、これまでよくわからなかったことがわかるようになり、複雑なものが単純化され、物事が整理しやすくなります。
ただしそのことによる弊害もあって、分類化=カテゴラズのため個体をみないことによる思考の省略・停止につながりやすい。このことからまったく自由な人は稀でしょう。
交点が生じるか否かを基本に分類する
ほかにもっと有効な分類があるのかもしれませんが、交通事故で過失割合を考える場合でもっともわかりやすい分類は「交点の生じない事故」と「交点の生じる事故」にまずは二大別してみることです。そうすることで、それまではわからなかったことがわかるようになったし、説明の便宜のうえでもたいへん有効だからです。
どんな分類が事故の過失割合を説明する上で有効なのかを自前で試行錯誤することが、交通事故の過失割合を考える上での整理に役立ちます。
前にも説明したことだけれども、「交点の生じる事故」というのはそのまま進んでしまうと相手車と必ずぶつかってしまうため、双方に優先・劣後の関係を作る必要がある事故のことです。それに対して「交点の生じない事故」は、ふつうの運行をしている限り、双方は決して衝突することがないため、優先・劣後の関係を作る必要がありません。
T字路交差点での左折車同士や右折車と左折車の事故の過失割合
典型的な例として、たとえば直進対向車同士の場合ですね。自分の車線を走行している限り双方は決して永遠にぶつからないのだから、そこに規制を加える必要はありませんが、直進車が路外に右折するときなどのように、相手車線に進行しようとするときは、対向車の進路を妨害しないよう優先劣後の関係を作り出すために規制を加えなければいけなくなります。
交差点において交点が生じる場合も同様であって、やはり優先・劣後の関係が必要です。そのために考案されたのが、信号による規制であったり、優先道路であったり、一時停止規制であり、広路狭路、左方優先であったりします。これは、優劣をつけるために適用の優先順位があります。
第一:優先道路かどうか
第二:一時停止規制があるかどうか
第三:広路か狭路か
第四:左方側がどちらか
なお、信号のある交差点では、信号機の規制による。ただし例外あり(例:右折車と直進車の事故で、双方の信号が黄色の場合は、右折車側に優先がある)