停止待機中だと主張した場合の判例と過失割合

車を停止中にぶつけられたという事故は、追突事故を筆頭に意外に多いものです。追突型の事故は追突された側が停止中であろうがなかろうが基本過失ゼロです。したがって、もめることはほとんどありません。

が、追突型でない事故で停止中の主張がある事故だと、本当に停止していたかどうかがわからないことがあり、紛糾することがあります。とりわけ「直前停止」までいれるとかならずもめますね。

停止待機中の車にぶつかったとき

交通事故の中でもやっかいなもののひとつに、停止待機していたところに相手車がぶつかってきたというやつがあります。停止中ということであれば、停止車側が基本過失ゼロになるわけですが、相手側がその主張をすんなり認めないケースです。

たとえば、相手から話を聞くと、本当に停止中だったかわからないというものから、いや、動いていたのを見たと主張したり、完璧な停止中だったといえども停止位置が不適切ではなかったのかという主張、もっと困るのは仮に停止中だったとしてもいわゆる「直前停止」だったのではないのかという主張まであって、解決まで長引きます。

直前停止とは

「直前停止」というのは、事故直前に停止していたものの、それが3秒以内(あるいは未満)であった場合は「停止」の評価を受けないものです。たんに一瞬先に停まっただけであり、事故の原因を作出していることに変わりがないという評価を受けます。3秒をメルクマールにするのが一般的かと思います。

停止中だったとしても「直前停止」など必ず過失ゼロになるわけではない

事故原因としては追突が多い

停止中の事故というのは少ないようにみえて、意外に多いものです。事故原因のいちばんは追突であり、追突の中でいちばん多いのが停止車への追突だからです。追突の場合は追突された側が停止していたなら、原則追突した側が100%悪い事故です。仮に被追突車側が動いていたとしても、追突した側が100%悪いケースが圧倒的です。このケースはまだ解決が容易です。「直前停止」の主張が少ないからです。

駐車場でのバック事故や脇道での頭出し待機中の事故、狭い道での離合事故

停止中でよく問題になるのが、駐車場などでバックしていて、後ろにいた車にぶつけるケースです。後ろにいた車が動いていたなら、場合によっては過失を問える場合があるのですが、停止中だったらどうなるかですね。あるいは、脇道から頭出し待機中にぶつけられたという事故。他に、狭い道なので他方が停止待機したが、すれ違いの際に相手車にぶつけられたという事故。

直前停止10秒説なんてのもあって唖然とした

動いていたか停止していたか。停止していたとし、3秒内なら「直前停止」だと主張したり、中には驚くべきことに、ネットでは10秒をメルクマールにしているところがあるらしく、いくら何でもそれはないんじゃないと思いました。10秒ってすごく長いんですよ。10秒まで「直前停止」になるなんて、すなわち、停止に該当しないということになって、本当にそんな基準があるのかと唖然としました。

こういう主張をしている保険会社が「ない」とは必ずしも思いません。過失ゼロを認めたがらないから、ありそうだともいえます(下記記事に詳しく説明しました。「直前停止」問題ではこれは必見ですよ)。ただ、どうやって事故当事者にその主張の正当性を主張するのかと思ってしまいます。
過失があると、代車費用も買替諸費用も評価損も休車損も認めたがらないわけ

このように「直前停止」にあたるとして、停止であることを認めない見解もあります。いったい、衝突前に何秒の停止だったら、それは停止とはいえなくなるのか。3秒(通常はこの3秒説を聞くことが多い)とか、中には驚きの10秒説とかまで出てきます。そもそもそんなふうに秒数で一刀両断に決められるものなのかという根本的疑問もないわけではありません。

このように、完璧に停止した車両への衝突事故についても、停止時間や停止位置、クラクションを鳴らすなどの回避余地があったとしてゼロ主張を認めないケースがあります。

調査員を悩ませる事故のひとつである

私もこの種の事故調査をかなりやっており、これらのことで頭を悩ませます。当記事では、このような場合、どのようにして解決するのか、その具体的な相談例を示します。

さらに、判例ではどう判断しているのか。いろんなケースがあるだろうけれど、解決に資すると思われた判例をいくつかご紹介してみることで、現に紛争中の事故の解決に少しでも役立てられたらと思います。

駐車区画からバックしたら、通路を走行している車に衝突。相手は停止中だったというのだけれど

ご相談させてください。

駐車場内で事故を起こしました。駐車区画からバックで通路側にバックしたところに相手車にぶつかりました。相手の方は止まっていたと主張しています。私は後方を一度確認したのみで、確認しながらバックしていたわけではないため相手の言い分が正しいのかどうかわかりません。

ぶつけた場所は相手車の運転席側面の真ん中あたりです。この場合10対0になるのでしょうか。私としては通路なので車が走る場所だし、相手の方は私がぶつかるかもという危険は感じていたようで、先に進めばよかったんだけど・・・とおっしゃっていました。

弁護士にも相談したのですが、相手が停止していたと言っているわけだし、後方の確認をしていなかった貴方が悪いというのみです。

それに対する私の回答。

相談者が相手車の存在に気づかずバックし衝突したからといって、相手が停止中であったという主張が正しかったのかどうかの確認ができないわけではありません。

たとえば、相手は相談者の車の後方で停止していたというのだけれど、どうしてそんなところに停止したのかを確認してください。

ぶつけられるかもしれないと相手が事前に危険を感じていたのなら、なおさらバック正面に停止などしないはずです。にもかかわらず相手車はぶつけられる位置で停止した。その理由は何なのか。停止しないといけない何か必然性があったのかどうか。この点は過失にかかわる重要なことなので必ず確認すべきです。

それと、今回のようなケースは、双方の車の破損部位を仔細に観察することで、相手車が停止していたかどうかがかなりの確率でわかるかと思います。

すなわち、今回の事故は相手車の側面の運転席真ん中あたりにぶつかったということでした。それだと質問者の車が相手車の心向きに衝突した可能性が高くなります。

仮に相手車が停止中だというのが事実なら、衝突面が横滑りしていない、いわゆる押込み変形だけが残るケースです。相手が動いていた場合は、衝突面に横滑りが発生するから、押込み変形といっしょに摩擦力が作用する方向の引きずり痕が印象される可能性が高くなります。

衝突部位から考えて、相手車の右前輪に衝突した事実はなかったのでしょうか。もし右前輪にも衝突していたなら、走行中ならタイヤが回転していたことになるわけなので、タイヤが回転していたために発生する特徴的な痕跡も刻印されます。停止中ならタイヤは回転していないので、また別の痕跡が残っているはずです。

押込み変形の有無あるいはタイヤの刻印の状態をまずは確認すべきです。

判例紹介

岡山地裁倉敷支部 昭和46年6月10日判決
方向転換のため途中停車中の後続車に衝突した事故につき、後続車も停車中とはいえ、前方車両の動静に注視すべき注意義務を怠ったとして、10%の過失相殺を認めた。フェリー乗り場で自動車が順々に列を作って停車している場所にて、後方の確認不十分なまま方向転換させようとして警告音を鳴らしバックランプを点滅させながら左右のバックミラーで確認した上で運転席窓から顔を出してバックした被告大型トラックに対して、死角にはいっていた5メートル後方の原告車にぶつかったもの。

【感想】被告の後方確認不足が事故原因の大半だけれど、原告も5メートルもあったのだから、クラクションを鳴らすなりの行動がとれったってことなのかなあ。回避余地がまったくなかったとは言えないということで、停車中といえども原告のゼロ主張を認めなかった。

津地裁四日市支部 昭和49年9月18日判決
片側2車線の中央分離帯に乗り上げた貨物自動車を救出するため、第2車線に停車していた貨物自動車に被害車が追突した事故。救出作業中だったとはいえ、後続車に対する注意と誘導措置についてまったく過失がなかったとはいえない(誘導位置不適切)として、酩酊状態の被害車運転者に90%の過失相殺、運転者とともに飲酒していた同乗者についても、30%の過失相殺を認めた事例。

 

千葉地裁 昭和53年10月23日判決
センターラインのない道路の中央付近に停車していたブロドーザーに原告車が衝突した事故。前方注視義務を著しく欠いていた原告に90%の過失相殺を認めた事例。認定事実によれば、本件事故当時は夜間で小雨が降っていたとはいえ、事故現場は見通しのきく平坦・直線区間であることから判断して、原告において通常の注意義務をもって前方を注視してさえいれば、相当の距離をおいた手前から被告車の存在に気づくはずであった。しかし、路上にいた訴外Aの停止を求める合図にも気づかず、衝突寸前まで気づくことがなかった。

 

東京地裁 昭和55年7月25日判決
路外から車道に右折しようとしたA車に右方からの直進してきたB車が衝突した事例。Aは、右折進入する際に、B車を認めながら通過するのを待ちきれず右折を開始したが、ぶつかると判断して、途中で相手車線上で停止したものの衝突した。不適切な車道進入をしたAに、30%の過失相殺を認めた。

エェ、30%?? 判決文が長くて、こっちの根気もなくなった。あとまわしにして・・・

京都地裁 昭和56年7月27日判決
西側道路外のガレージから道路に進入、反対車線に進入すべく中央線付近に至った加害車(普通貨物車)に、北進中の被害車(自動二輪)が衝突した事故。制限速度を20キロ超過し、前方不注視等の過失があった被害者に60%の過失相殺を認めた事例。

 

仙台高裁 昭和56年10月12日判決
夜間、暗いT字路交差点において右折のため一時停止中のトラクターと対向直進の自動二輪車とが衝突した事故。トラクターを中央線から約1m35cmほど対向車線【幅員約3m)内にはみ出して一時停止させていた運転者は無過失とはいえないとして、自賠法3条による免責を認めなかったが、制限速度を約5キロ超過した速度で中央線寄りを走行し、加害車の発見が遅れたため避譲措置など回避措置をとらなかった被害者に50%の過失相殺を認めた事例。

 

大阪地裁 昭和58年10月28日判決
左方に駐停車中の車両との衝突を避けるため、中央分離線を約30センチ対向車線上へはみ出して進行し、信号待ちのため、交差点手前で先行車につづいて右後部を中央分離線よりやや対向車線上へはみ出し、左斜めとなった状態で停止したA車の右後部に、交差点を左折して左方に駐停車中の車両との衝突を避けるべく、中央分離線寄りを走行中のB車の右前部が衝突した事故。A車運転者に運転操作ミス、対向車進路妨害による25%の過失を認め、B車側に、ハンドル操作を誤るなどの安全運転義務違反により75%の過失相殺をした。

 

大阪地裁 昭和63年5月31日判決
Aが所有し、これを車検のためB会社に預け、その従業員であるCに試乗させていた甲車(普通貨物車)が路外から通行車両で混雑していた道路に進入、左折しようとして道路外側線手前まで進入した後、道路に進入、同所に約12秒間停止していたところ、直進してきた乙車(原付)が衝突した事故。Aは甲車を自己のために運行の用に供していたものというべきであるから、自賠法3条に基づく責任ありとしたが、前方注視等を怠った乙車運転者に70%の過失相殺を認めた事例。

 

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