交通事故で車が全損したとき、買替諸費用なくして、車は動くのか

車が全損になったとき、修理に出しても意味がありませんから、新たに車を購入する必要があります。そのときの車は新車でというわけにはいかず、自分が持っていた車の時価額相当の中古車が対象になります。

問題なのは、時価額だけ補償されてそれで足りるのかということです。それで原状に復したといえるのかということです。

yahoo掲示板では買替諸費用は認められないの大合唱

保険会社と示談交渉をする際、相談できる人がいなくてインターネットのyahooなどの大手掲示板で解決しようとする人がいます。回答してくれる人の中にはその方面に精通している人もいて、私自身大変参考になるケースもあるものの、10のうち8、9はたいして参考にならず、そればかりか、その中には保険会社の回し者というか、保険会社からいったいいくらもらってんだとしか思えないような悪質な回答者もいたりします。

そういう回答者はだいたいが保険会社につながりのある保険代理店とか、保険会社の所属員であることが多い。中には例外もいるけれども、ごくごく限られています。まあな、利益が通底しているのだからしかたがないかと思いつつも、シロをクロと言いくるめて保険会社に有利な方向に誘導しているとしか思えない悪質な場合は、さすがに許せなくて、反論のコメントをいれたこともありました。

保険会社の味方か事故被害者の味方かを見分ける方法

回答者が保険会社の味方なのかそれとも事故被害者の味方なのかを簡単に見分ける方法があります。それはたとえば自賠責に対する被害者請求に対する姿勢だったりします。保険会社の味方をする回答者は、被害者請求なんてテマヒマがかかるだけで結果は同じ、だから、そんなものは保険会社に任せたほうがいいのだと判を押したように言ってきます。

もちろんそういうケースもあります。また、事故被害者ご自身が権利の主張が面倒だという人もいて、その場合は私もあえて被害者請求をお勧めしないこともあります。権利の上に眠る者まで助ける必要がないからです。

しかし、そうでない場合、すなわち被害者請求をしたほうがいい場合がまちがいなくあります。その場合は交通事故賠償に詳しい人が補佐してくれることが条件です。詳しい人が補佐するのは当然でしょと言われるかもしれませんが、ネットをみるかぎり、そのことに言及しない弁護士がかなりいて、驚いたことがあり書き添えたまでです。

そのことについてこちらの記事で詳しく書きました。

被害者請求か任意一括かどちらがよいかを形式的に論じても意味がない

こちらで記事にしています。被害者請求のメリット・デメリットについて詳しいことを知りたい方はぜひ。

被害者請求のメリットとデメリット

同様のことが評価損についてもいえる。保険会社の味方をする回答者は、評価損を頑なに認めようとしません。そんなものは保険会社は認めませんよというだけならともかく、ときに裁判所も認めていないなどと明らかに事実と違うことを言ってくる。今回取り上げる買替諸費用についてもまさに同様のことがいえるのです。

この3つ、すなわち、

自賠責の被害者請求

評価損

買替諸費用

に対してどういう態度を示すのかで、その回答者が保険会社の味方なのか、それとも事故被害者の味方なのかが明らかになると私は考えています。

評価損については二つ記事を書いています。ひとつは評価損の概説記事、もうひとつは、集めた資料を全部公開してこれぞ決定版のつもりで書いたのですが(汗)

評価損(格落ち)
「評価損」の徹底分析

今回はそのうちの買替諸費用についてです。

買替諸費用(車両購入諸費用)について

時価額だけで足りるのか

某掲示板で、車全損時の買替諸費用は請求できるか質問したところ、保険会社は時価補償のみでそれで原状回復を果たしたことになるから、いわゆる買替諸費用などというものは請求しても認められないとの回答を多数得ました。

たとえば自転車が壊れて使えなくなっても時価だけだし、車内に置いていたパソコンが壊れても時価だけ。車も同じだと言われてしまいました。本当でしょうか。

車はパソコンとか自転車とかと同列に論じるべきでない

車が全損になったとして、保険会社からその車の時価額だけ補償されたとしましょう。中古車市場で運よく同じような車が買えたとして、それだけで、はたして車は動くでしょうか。

物理的にはガソリンさえいれればたしかに動くでしょう。しかし、それだけでは公道に出て車の運転はできません。法律的な手続をしていないためで、その費用がさらに必要になります。

そのあたりが自転車やパソコンなどとあきらかに違う点ですね。

公道で走らせるには買替諸費用が必要になる

つまり、登録費などの買替諸費用を支払い、法律上の手続が終わったのち、ようやく車を路上で運転することが可能になります。事故前は公道で運転ができたのだから、事故後は車を買ってそれで終わりというわけにはいかないんですね。

原状回復とは、公道で車の運転ができるまでに回復させることです。そこまでしないことには原状に復したとはいえないですよ。

誰が考えても極めて当たり前の話です。裁判所もまた同様の考え方をしており、車両購入諸費用としての、自動車取得税・自動車重量税・法定車両検査費用・法定車庫証明費用・登録手続代行料・車庫証明代行料・納車代、消費税を認めています。

認めていないのは、自動車税や自賠責保険料、自動車保険料です。が、これはいずれも還付請求が可能だからです。担当役所に請求すれば戻ってきます。

まとめ

もう1度くりかえします。車が全損になっており、そのため新たに車購入の意思があれば、以上の費用は当然に認められます。さらに、廃車・解体費用についても同様です。また、事故車の残存車検費用についても、残存期間に応じての請求が可能です。

ただし、事故車のスクラップ代については、事故車の所有権が保険会社に移転することから、その分は差し引かれるかもしれません(鉄材については値動きがあるため、スクラップ代を控除するばあいもあるし、逆に、業者に支払うべきスクラップ代として損害認定されるばあいもありえます)。

「裁判例、学説にみる交通事故物的損害・全損」

以上の事実を、この分野の権威書である「裁判例、学説にみる交通事故物的損害・全損」(保険毎日新聞社)という本で確認しました。この本の著者である海道野守氏は、実を申しますと、元大手の損害調査部長だった人です。

この問題については保険会社側の人間でもこのようにはっきりと認めていることなので、もし相手損保が請求を拒否してきたら、そのための立証書面を用意して、粘り強く交渉することです。

kaikaehiyou

下が(続編)。

裁判所で認めていることなので、一見、強気に出ているようにみえても損保の姿勢は虚勢にすぎません。七面鳥のディスプレイとおんなじ。ただのコケ脅し。焼いて食うと、これがまたうまいんだなあ。

ということで、いずれ、どこかで折れざるをえないのです。だって、裁判にされたらことごとく敗訴しちゃうんですからね。

買替諸費用請求可否表

車両買替諸費用
認容費用項目否認費用項目見解がわかれる費用項目
(法定費用)
検査・登録費用
車庫証明費用
自動車取得税
自動車重量税
自動車税
ナンバープレート代
下取車法定費用
消費税
(自動車販売業者に払う手数料)
検査・登録手続代行費用
車庫証明代行費用
納車料
整備料
特定車体カラー塗装料
看板・文字入れ料
行政書士料
割賦手数料
付属品価格
下取車手続代行費用
下取車査定料
特別仕様価格
JAF加入料
消費税
(保険関係費用)
自動車保険料
自賠責保険料
(「全損第2集1」よりまとめました。なお、平成9年発行のため現状にそぐわない項目があるかもしれません)

注意
①自動車重量税については、中古車の購入の際には課税されず、また、使用済み自動車の再資源化に関する法律の規定に定める要件を満たす場合に廃車の手続がされた車両につき期間に応じた還付制度があるので、これら以外の場合に限られる。

②代行費用や納車手数料については認容・否認いずれの裁判がある。

③等級変動による車両保険料アップについて、その差額分を請求できるかどうかについては、「車両保険は被害者のリスク回避のために締結されたもので、これを利用するか否かは被害者の自由な判断にゆだねられていること等から」、事故との相当因果関係を否定している。
(以上「交通損害関係訴訟」初版P231より)

②の代行費用等については「通常は、手続を販売店に依頼している実態があること、報酬も高額にならないことから、事故との因果関係あり」としている裁判例が圧倒的に多く、遠慮せずに請求しましょう。

損保屁理屈集(おまけ)

最後に、損保が買替諸費用を拒絶するときの屁理屈を集めてみました。示談交渉時に強力な武器になると思います。

「どうしてもというのでしたら、裁判になります」

負け戦だとわかっていても、おカネを支払う側にあるからあくまでもどこまでも強気です。が、いずれ折れざるをえません。

「そういうものは保険実務上認められない決まりになっています」

法律よりも内規が優先するようです。

「支払う判例もありますが、支払わないという判例もあります」

それは全損で買替諸費用を請求したが、裁判所はまだ修理できると判断したから買替諸費用を否定した例です。全損だと裁判所が認めれば買替諸費用は当然に認めています。認めていない例なんて一つもありません。

6 COMMENTS

りょうこ

事故で車が全損。
100 0で相手の過失です。
相手保険会社から
時価額のみと言われまだ金額はわからない状況です。
しかし車は長く大切に乗ってきたため
古く走行距離も14万を超えています。
時価額は期待できないし、それでは車は間違いなく買えません。

長く乗ってきた車が急にいなくなり本当に涙が止まりませんでした。
体もかなり負傷しました。

せめて、車を買えるお金は出してほしいです。
納得できず本当に悔しいです。
ネットで色々調べましたが
様々な意見があり、どれが本来のやり方なのかわかりません。
新車が欲しいとか、お金をもらいたいとかじゃない
ただ、せめて できる限りもとに戻してほしい
それだけなんです

返信する
ホームズ事務所

コメントありがとう。新たに記事をおこしました。途中の感想だけですが、全文読んだら加筆するかもしれません。

返信する
匿名希望

Yahoo!知恵袋でまた諸費用については裁判所も認めていないという回答がありました。この回答者は別の回答でプロ代理店と自称していました。
https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q12265714127

回答だけではなく、諸費用に関するこの種の質問は、保険会社につながりのある保険代理店とか保険会社の所属員とかが自分がその種の事故を担当した時、質問を書き込んでシロをクロと言いくるめて保険会社に有利な方向に誘導しているヤラセではないかと思うようになりました。

なぜなら、この質問にも諸費用は認められるという弁護士のブログへのリンクをわざわざ張った回答があるのに、質問した人は「弁護士特約もつけているのですが 特約を利用してそちらに依頼したとすると どの様な事になるのか想像できない為 躊躇しております。このまま 泣くしかないのかと思っています。この度は貴重なアドバイスありがとうございました。」と返信しています。

一方、質問は「全損時には登録諸費用(登録代(ナンバープレート代)、自賠責、任意保険代(残存期間分))は出ないものなんでしょうか?」と具体的です。

このやり取り、明らかにおかしいでしょう。

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ホームズ

全損で買替諸費用を認めていないのが判例の立場だという回答がありますが、それが事実なら、一つでもいいから出してもらったらいいですね。ここのサイトほぼ「開店休業中」なのですが、ヒマができたらヤフーの掲示板に参戦しようかなあ。ヒマないけど。

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