圧迫骨折と後遺障害

相談例

年金で暮らしていた75歳の母が交通事故に遭い、「第一腰椎圧迫骨折」と診断された。主治医から変形障害があると聞いているため、後遺障害の申請をするつもりです。どのようにしたらいいのか、被害者請求でしたほうがいいのかどうか、他に気をつけるべき点等がありましたら、それも教えてほしい。

決め手は症状固定時の画像

交通事故による後遺障害でぼくがいちばんよくやった調査は圧迫骨折か頚椎捻挫かの後遺障害です。それくらい、圧迫骨折事案というのは多い。この圧迫骨折による変形障害に関しては、原則いわゆる被害者請求にこだわる必要はないというのがぼくの考えです(注1)。つまり相手損保にまかせておいてもいい。理由は、後遺障害に該当するかどうか、その証明手段がはっきりしているためです。すなわち、決め手は症状固定時の画像だからです。したがって、相手損保がやっても相談者がやっても画像自体が変わるわけではないので、どちらでもいい。テマヒマを考えると相手損保に任せたらいいと思います。

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上記画像はAll About圧迫骨折の症状・診断・治療より転載しました)

注1

ただし、あくまでも「変形障害」についてです。脊椎の圧迫骨折による障害は、「変形障害」にかぎりません。運動機能障害もあれば局部の神経障害もあるからです。

そもそも論になりますが、任意一括との比較で被害者請求がメリットがあるのは、その手続きを行う人に任意一括の損保人身担当者ていどの能力が備わっていることが前提条件です。任意一括だと利益相反関係にあることから、妨害行為があるという人もいますが、ぼくの経験からはそのような悪質な例は一度もありませんでした。定型的・事務的処理の傾向が強いものの、それ以下ではありません。時には熱心にやっていた例さえありました。

ぼくの限られた経験を一般化するつもりはありませんし、利益相反関係にあるという基本の関係も無視はできないでしょう。だから、担当者によってはあるいは手抜きくらいはあるのかもしれません。ぼくだって生意気な奴が相手だったら、心の中で、はーい、それで過失1割とったろう、そう思ったことがないわけではありません。しかし、そう思うのとそれを実際の行動に移すこととはまったく次元の違う話です。故意に妨害行為をするというのはそういうことです。ちょっと考えにくいことです。人を見る目が甘いのかもしれませんが。

脱線してしまいました。ここで言いたかったのは、被害者請求を行う場合のその人の能力。その肝心要のところがあまり議論されていないように思えることでした。

脊椎圧迫骨折について

脊椎圧迫骨折は各年齢で起こりうるが、その治療は若年者と骨粗鬆症を伴う高齢者では大きく異なる。若年者では骨折による変形を防ぐため1か月以上のベッド上安静や体幹ギプス固定を必要とするが、高齢者では長期臥床による合併症が危惧されるため多少の遣残変形よりも早期離床が優先される。(P166)

脊椎圧迫骨折は明らかな外傷によるものも多いが、骨の脆弱化が著しい場合では明らかな外傷がなくても発生する。また経過中に椎体の圧壊が進行する場合も多い。骨粗鬆症に関連する骨折の中で脊椎圧迫骨折は最も頻度が多いが、軽症あるいは無症状で経過することが多い。(P166)

しかし、治療経過中に偽関節や骨片の脊柱管内突出により脊髄麻痺をきたす例も近年増加しており、そのような症例は手術治療が必要になる。(P166)


 
高齢者の圧迫骨折でよく言われることですが、くしゃみしただけで骨折したり、受傷機転の説明ができなかったり。

圧迫骨折は背中の椎骨の高さが減少することです。椎骨は軽量レンガを積み重ねたようなもので、それで体重を支えている。圧迫骨折というのは、そのレンガの1つあるいは複数が体重によってつぶれることです。骨粗鬆症のためつぶれやすくなっています。つぶれるとものすごく痛いこともあるが、たいていは痛がらない。レントゲンを撮らなければ骨折していることがわからないことも多い。すなわち、他覚的所見はあっても自覚症状がないものが多いのだ。そのため、損保は逸失利益を否定することがよくあります。

たとえば、

脊柱に変形を残したとしても下位胸椎か上位腰椎の場合では機能障害や労働能力の喪失はもたらさない。しかし、下位腰椎(L3・L4・L5)は腰部前後屈のほぼ95%の可動に関与しており、同部位における損傷は遅発障害として椎間板の変性による痛みや椎間板ヘルニア、場合によっては脊椎可動域制限を招くことがある(P89)

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後遺障害が認定される上での一般要件

①【外傷性であること】

まず、認定されるためには外傷性であることが必要です。外傷性であるかどうかは、その原因が交通事故により発生したらしいという事実と、新鮮な骨折であることを立証する画像資料が必要になります。

画像についてですが、初診当時のMRIで高輝度変化が確認できるかです。しかし、病院によってはMRIの撮影装置がない場合もあります。そのときはレントゲンで時間を追って骨の圧潰が進行していることが確認できるかどうかです。ということは、MRIは初期のものを1枚だけ、レントゲンについては複数枚必要になるということです。

すなわち、MRIで輝度変化が確認できること、あるいはレントゲンで時系列的に骨の圧潰が進行していることが確認できること。以上がわかればその圧迫骨折は新鮮なものだということがわかります。それらが確認できなければ陳旧性です。古い骨折だと判断されます(注)。

古い骨折だと判断されると、交通事故よりも前に骨折したことになり、交通事故との因果関係は否定されます。

新鮮骨折だとどうしてその事故により受傷したことになるのか、厳密にいえば、直近の別の事故だった可能性はないのかとの疑問が生じるかもしれません。しかし、そこまで厳密に因果関係を求めるのは被害者にとってあまりにハードルが高くて酷なことなので、新鮮な骨折なら当該事故によるものだろうとの一応の推定をします(したがって、別の事故で受傷したことがわかるなら反証は可能です)。

一応の推定

とは、民事訴訟法の用語で、高度な蓋然性をもつ経験則のはたらきによって、過失や因果関係を推認することであるといわれる。裁判官が蓋然性の非常に高い経験則にもとづいて事実上の推定をするときには、その例外の事態はめったに生じないから、その事実は、ほとんど証明されたものとしてあつかってもよいと考えられる。このような非常に蓋然性の高い経験則にもとづく事実上の推定のこと。(「新民事訴訟法概要」林屋礼二著P318)

 

(注)

圧迫骨折が新鮮なものか陳旧性(古いもの)かについては画像で判断するというのが自賠責の決まりですが、たとえば「赤本の2016年講演録編」において朝妻孝仁医師は、「診察所見で、怪我をしたときに痛みがあるとか、あるいは叩打痛といいましてハンマーで叩いて痛いとかいうことがわかればいいのですが・・・」(P88)としている。痛いかどうかは患者の恣意が入る余地があるため、自賠責では無視もしくは軽視されるが、裁判では必ずしもそうはならないように思われる。

変形障害の要件

                脊柱障害の後遺障害等級
変形障害運動障害
6級5号脊柱に著しい変形を残すもの脊柱に著しい運動障害を残すもの
8級2号脊柱中程度の変形を残すもの脊柱に運動障害を残すもの
11級7号脊柱に変形を残すもの

脊柱の変形障害要件
 等級後彎のていど側彎のていど
椎体減少個数前方椎体高減少の程度
6級脊椎圧迫骨折等により2個以上の椎体の前方椎体高が著しく減少し、後彎が生じているものX=(A+B+C)-(a+b+c)
Y=(A+B+C)÷3
YがX以下
脊椎圧迫骨折等により1個以上の椎体の前方椎体高が減少し、後彎が生じているものX=(A+B+C)-(a+b+c)
Y=(A+B+C)÷3
YがXの1/2以下
かつ→
コブ法による側彎度が50度以上となっているもの
8級1個以上の椎体の前方椎体高が減少し、後彎が生じているものX=(A+B+C)-(a+b+c)
Y=(A+B+C)÷3
YがXの1/2以下
コブ法による側彎度が50度以上となっているもの
環椎または軸椎の変形・固定により、つぎのいずれかに該当するもの
ア60度以上の回旋位となっているもの
イ50度以上の屈曲位または60度以上の伸展位となっているもの
ウ 側屈位となっており、エックス線写真等により、矯正位の頭蓋底部の両端を結んだ先と軸椎下面との平行線が交わる角度が30度以上の斜位となっていることが確認できるもの
11級(a) 脊椎圧迫骨折等を残しており、そのことがエックス線写真等により確認できるもの
(b) 脊椎固定術が行われたもの(移植した骨がいずれかの脊椎に吸収されたものを除く)
(c) 3個以上の脊椎について、椎弓切除術等の椎弓形成術を受けたもの

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各等級ごとに要件が違います。6級、8級は明確で客観的な要件なのに、11級は、症状固定時の画像で圧迫骨折であることが画像上わかること(注2)です。「わかること」などというのはきわめて主観的な要件です。

さらに上位の等級になるかどうかは減少した前方椎体が何箇所あるのか、当該前方椎体高とその後方椎体高の差がどれくらいになるのかという客観的な要件で決めていきます。

特記

後遺障害認定の際の要件には、客観的な要件と主観的な要件が混在しています。本来なら基準は客観的なものであるべきなのに、実際は、このように主観的な要件が混在しています。そうさせているのは、自賠責の財源からくる政策的自由度を確保するためではないかと思われます。

 
他に、側彎変形についてコブ法により50度以上の変形が確認できれば上位後遺障害に該当します。しかし、50度以上などというような高いハードルが設定されているため、側彎による後遺障害に該当するケースをぼくは一度も確認したことがありません。この条件に当てはまるのは相当に稀なケースだと思ってください。

注2

11級の場合「25%」説を唱えている人がいます。言いだしっぺは交通事故110番の宮尾氏のようです。しかし、根拠が不明です。経験則によるものだそうです。少なくとも「労災認定必携」ではそのような基準は存在しません。また「後遺障害等級認定と裁判実務」という本では「変形の程度は問わない」とされています。

その後、宮尾氏は自分の説が正しいことを証明するために、新たな医証を付け加えております。このことについてはいずれ別記事でとりあげてみたい。

運動機能障害の要件

6級 「脊柱に著しい運動障害を残すもの」

次のいずれかにより頚部および胸腰部が強直したものをいいます。

  • 頚椎および胸腰椎のそれぞれに脊椎圧迫骨折等が存しており、そのことがエックス線写真等により確認できるもの
  • 頚椎および胸腰椎のそれぞれに脊椎固定術が行われたもの
  • 項背腰部軟部組織に明らかな器質的変化が認められるもの
8級「脊柱に運動障害を残すもの」

(a) 次のいずれかにより、頚部および胸腰部の可動域が参考可動域角度の1/2以下に制限されたもの

  • 頚椎または胸腰椎に脊椎圧迫骨折等を残しており、そのことがエックス線写真等に
    より確認できるもの
  • 頚椎または胸腰椎に脊椎固定術が行われたもの
  • 項背腰部軟部組織に明らかな器質的変化が認められるもの

(b) 頭蓋・上位頚椎間に著しい異常可動性が生じたもの

特記

運動障害、すなわち可動域制限については、医師の計測方法に疑問があるケースがあります。正規の器具でちゃんと測っているのだろうか、計測法に間違いはないのかというものです。実際に、目見当で計測(?)していた例もありました。

14級「局部の神経症状」

画像等では、脊椎圧迫骨折等または脊椎固定術が認められない。また、項背腰部軟部組織の器質的変化も認められず、単に、疼痛のために運動障害を残しているもの。

後遺障害による具体的な賠償算定例

後遺障害による賠償額は後遺障害慰謝料と逸失利益の合計額です。後遺障害慰謝料は通常は定額、逸失利益は個別的な算定になります。

逸失利益の算定式

基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

被害者の属性

性:女性
年齢:75歳
職業:無職(年金暮らし)
家族構成:夫と2人暮らし

高齢家事従事者の基礎収入

(基礎収入)
高齢者の家事従事者の逸失利益における基礎収入については65歳以上の女子平均賃金を使う。

これは、平成11年に発表された東京・大阪・名古屋の各地裁の「交通事故による逸失利益の算定方式についての共同提言」による。その提言内容は、「家事労働についての逸失利益は原則として全年齢平均賃金によるも、年齢、家族構成、身体状況及び家事労働内容等に照らし、生涯を通じて全年齢平均賃金に相当する労働を行う蓋然性が認められない特段の事情が存在する場合には年齢別平均賃金を参照して適宜減額する」としている。

そのことをうけて、高齢者の家事従事者の逸失利益は「特段の事情」に該当するため、65歳以上の女子平均賃金を使う。

「特段の事情」に該当する理由。高齢者の家事従事者の場合は、扶養すべき子供がいない。したがって、家事の負担が軽いのがふつう。今回は、老夫婦だけの家庭なので、原則である全年齢平均賃金ではなく、提言にある年齢別平均賃金が適用される典型例である。

ただし、その全額は認めず、他人のための家事労働をどの程度行っていたかによってその金額を決めているのが判例の傾向である。

 

年金との関係

老齢年金の受給権は事故によって影響を受けるものではなく、年金の有無と休業損害や後遺障害による逸失利益とは無関係である。老齢年金は保険料をこれまで支出してきた結果支給されるもので、対価性があるからだ。年金受給だけを理由に休業損害や逸失利益が否認されることはありえない。

 

労働能力喪失率

本件は第一腰椎の1箇所だけの圧迫骨折です。当部位は機能障害や労働能力の喪失をもたらさないとされています(「参考:弁護士の為の交通外傷・後遺障害読本」)。したがって、逸失利益が否定されるか、労働能力喪失率が下げられる可能性があります。

労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

高齢者の逸失利益における労働能力喪失期間は余命年数の2分の1です。本件ではライプニッツ係数は7年になります。

高齢者の家事従事者の逸失利益に関する判例

①息子(52歳)と2人暮らしで家事の一切を行っていた78歳の女性について、年齢、家族構成、息子の健康状態等からの家事労働の実態を総合して65歳以上女子平均賃金の70%を基礎に逸失利益を算定(東京地判平成12年5月24日)。

②息子の経営する会社の経理を担当し年収180万円を得て息子と2人暮らしで1日2時間程度家事労働に従事したいた75歳女性について、65歳以上女性平均賃金を基礎に逸失利益を算定(岡山地判平成10年10月20日)。

③夫と2人暮らしで家事をこなしていた86歳女性について、持病もなく、1人で買い物に出かけ、家事をこなしていたことから、65歳以上女子平均賃金の50%を基礎に逸失利益算定(神戸地判平成8年.5月23日)。

④健康で夫の通院付添等もしていた主婦(79歳)について65歳以上女子労働者の平均賃金の50%と算定(大阪地判平成8年6月20日)。

結論

65歳以上の女子平均賃金を使い、さらに割合的減額をされる可能性が高い。

以上から先の公式:
基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
に下記の具体的な数値を入れる。

【基礎収入】
(65歳以上の女子平均賃金・賃金センサスより)
278万円(平成18年度)

【労働能力喪失率】
別表Ⅰ
労働 能 力 喪 失 率 表
自動車損害賠償保障法施行令別表第1の場合
障害等級労働能力喪失率
第 1級100/100
第 2級100/100
自動車損害賠償保障法施行令別表第2の場合
障害等級労働能力喪失率
第 1級 100/100
第 2級 100/100
第 3級 100/100
第 4級 92/100
第 5級 79/100
第 6級 67/100
第 7級 56/100
第 8級 45/100
第 9級 35/100
第10級 27/100
第11級 20/100
第12級 14/100
第13級 9/100
第14級 5/100

【労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数】
5.7863

素因減額

骨粗しょう症による影響の有無について、年齢相応なら問題なし。しかし、骨密度検査で同世代・同姓平均よりも80%以下なら素因減額される傾向があります(某損保基準)。なお、損保が使っている慈恵医大式分類表についてですが、ぼくがこれまで医師面談した何人もの医師からその精度に疑問を持たれていました(→たとえば「医療審査 覚書」井上久著)。正式な骨密度検査を受けるべきでしょう。

特記

とはいっても、骨密度検査自体にも、過剰診断の可能性があるとの批判もあります。

 
(追記:16・3・20)
平林洌・松本守男論文→脊柱関係:http://www.jsomt.jp/journal/pdf/061030170.pdf
 
【17・04・03追記】「赤本の2016年講演録編」の朝妻医師の講演部分を(注)として追記した。
 

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