上のレントゲン画像は頚椎に前方固定術を施行したものである。頚椎の3番から5番まで(→で示した間)が固定されているので、その部分は可動できない。そのため、固定後にその両端に過度の負担がかかるため変性が進みやすいといわれている。
同部位のMRI画像も示すと変性のていどがわかりやすい。
→で示したC2/3とC5/6の椎間板、とりわけ後者の変性がひどく進んでいることが容易にわかる。これくらい進むと、転倒したり、ちょっとした軽微な事故にあっても脊髄症状を呈することになる可能性大であるといえそうだ。そうなると、賠償実務上でいうところの素因減額による割合認定となる。
ところで、頚椎前方固定術について否定的な有名な研究がいくつもある。その中の代表例の、結論部分だけ紹介したい。
②全例とも神経学的な責任高位診断が不可能であった。
③長期成績ではexcellentはなく、good、fair、poorがそれぞれ1例、4例、5例で満足すべきものではなかった。就業状況もきわめて不良であった。
④外傷性頚部症候群に対して椎間板、選択的神経根造影およびブロック時の症状の再現、軽快を根拠に前方固定術を行うことは臨床的にほとんど無効と思われた。
【「外傷性頚部症候群に対する前方固定術」(奥山幸一郎、阿部栄二)】
ほかにも、Orthopaedics22では、前方固定術について、「有用であるというevidenceはなく、むしろ禁忌と考えるべきである」(村上英樹ほか論文)として、受けるべきでないとさえしている。
もちろん、有用だという意見もあるのかもしれないし、現に脊椎前方固定術はよく行われている。
固定術をうけるかどうか慎重にとしか言いようがない
以前私に相談されていた方の中に、この固定術をやろうとされていた方がおられた。後遺障害業務を専門にする士業の方から、固定術が後遺障害獲得のための要件になっているため積極的に勧められていたし、自分も手術を受けるつもりなのだが、後遺障害に該当するのかどうか、私に相談してきたのだった。たしかに後遺障害の要件になっているし、手術をすることによって短期的には症状が軽減されることもよく知られている。中にはウソみたいに痛みが消失するという話もネットで調べるといくつも見つけることができる。
しかし、長期的には、手術した例と、せずに保存した例とでは有意差がないという研究結果がいくつもあることもかなり知られた事実なので、そのことを私は相談者に告げないわけにいかなかった。手術をしたばっかりに車椅子生活になったという例も聞いたことがある。大して症状もないのに手術される例もあるということだ。なんとか耐えられそうなら受けないという選択も考慮すべきだと私は説明した。
が、相談者本人は、生活にも支障があるほどに痛いらしくて、私の説明などウワの空だった。現に苦しんでいる人にむかって、手術はよほど注意したほうがいいと言っても、お前にオレの苦しみがわかるのかよと言われそうで、それ以上に私は何も言えなかった。最後はやはり自己責任ということにならざるをえない。
脊椎固定術を受けたときの後遺障害
①脊椎圧迫骨折が存在し、それが画像で確認できる
②脊椎固定術が行われた(移植した骨が脊椎に吸収された場合を除きます)
③3個以上の脊椎について椎弓形成術を受けた
なお、「①画像によって確認できる」とは、画像で確認できればどんな微細なものでもいいというわけではなくて、わずかに脊椎の奇形が見られる程度だったり、「各脊椎の横突起・棘突起の局部的欠損や変形程度では「脊柱に変形を残すもの」とみなされず認定の対象にならない」(「後遺障害等級認定と裁判実務」P429)。また②は、人工骨でも脊椎に吸収される種類のものがあることに注意したい。
次のいずれかにより頚部および胸腰部が強直したものをいいます。
頚椎および胸腰椎のそれぞれに脊椎圧迫骨折等が存しており、そのことがエックス線写真等により確認できるもの
頚椎および胸腰椎のそれぞれに脊椎固定術が行われたもの
項背腰部軟部組織に明らかな器質的変化が認められるもの
(a) 次のいずれかにより、頚部および胸腰部の可動域が参考可動域角度の1/2以下に制限されたもの
頚椎または胸腰椎に脊椎圧迫骨折等を残しており、そのことがエックス線写真等に
より確認できるもの
頚椎または胸腰椎に脊椎固定術が行われたもの
項背腰部軟部組織に明らかな器質的変化が認められるもの