駐車場内の事故。損保はかつてもそうだったし、今もそうなのですが、過失割合を50対50だと主張してくることがあります。どうして50対50になるのか、その納得のいく説明ができないままにそのような主張を繰り返しています。が、そこにはある種の打算があるように思います。
「駐車場内の事故」は典型事故化されたが・・・
以下の記事は、判例タイムズ「過失相殺率の認定基準」全訂5版が出る前に書いた記事です。それまではいわゆる非典型事故だった「駐車場内の事故」が、全訂5版に新たに「駐車場内の事故」が加わったため、典型事故化され、駐車場の事故の過失割合を出すのが容易になりました。
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過失割合の定番。過失割合で争うのだったら、これ読まないと始まらない。
それまでは適切な判例を探してくるというのが常道でした。今回、「過失相殺率の認定基準」本が改定されたことでこの記事もお役御免かと思っていました。ところがそうじゃないんですよね。全訂5版が出てから以降も、駐車場の事故について損保はあいもかわらず50対50の主張をしていることがわかったからです。
そのため、当記事を一部加筆し、ここに再録することにしました。
損保の不可解な事故50対50処理
今回とりあげる「損保は駐車場の事故だとどうして50対50で処理したがるのか」は、実に不可解なことだと読者の方は思われていることでしょう。どうして不可解なのか。
過失割合50対50の典型的なケース
過失割合が50:50になる事故とは、いったいどういうものがあるのかご存知でしょうか。ひとつは信号のある交差点の出会い頭衝突事故で双方青・青主張の場合です。
双方が青・青ということはありえず、どちらかが勘違いしているかウソをついているかです。このようなケースだと、通常は目撃者がいなければ結局どちらが青でどちらが赤なのかはわかりません。そのときは仕方ないので50:50で処理するしかありません。要するに痛み分けです。
もう1つが道路のセンター付近での対向車同士の衝突事故です。これもどちらがセンターを越えたのかわからない場合があります。この場合もわからないのでやはり50:50で処理するしかありません。
理屈に合わない駐車場内の過失割合
50:50で処理する場合がもう1つあって、それは駐車場内の事故です。これは「わからない」ことを理由にしての50:50ではありません。理由は道交法の適用がないからというのが損保の決まって持ち出す理由です。
しかし、判例では駐車場の事故であっても不特定多数の者が通行可能なら道交法の適用を受けるとしているし、仮に道交法の適用をうけないケースだったとしても、だからどうして50:50になるのかさっぱりわかりません。
現に、判例では道交法の適用がなくても不法行為法により過失の大・小で解決しています。道交法の適用を受けないことを理由に50:50を基本とした判例などもちろん存在しません。
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ネットでみつけた50対50のケース
ああ、それなのにどうして、損保は50:50にこだわるのか。インターネットで「駐車場内の事故 過失割合 50」で検索するとその具体例が出るわ出るわ。以下がその検索結果です。特徴だけ拾いましたので、まずは見てください。
駐車場内の事故だからといって、全部が全部、損保は50:50を主張しているわけではありません。上に挙げた例は10例にすぎないし、もっと多くの例を集めればそこにある種の結論を引き出せることもあるいは可能かもしれませんが、わずか10例とはいえ、ある種の傾向はうかがえそうです。
そのことについてだれか論じていないだろうかとインターネットで検索してみたのですが、道交法の適用を受けないからといって50:50で処理するのはおかしいと疑問を呈するものはいくつかあったものの、じゃ、損保はどうして50:50にこだわるのか。その疑問に答えたものはひとつも見つかりませんでした。ていうか、そういう疑問さえ思いつかないようです。
ここからは私の妄想である
繰り返します。損保は、過失相殺率基準本で「駐車場の事故」が新設されたというのに、それでもどうして50:50にこだわるのでしょうか。ここから以下は私の推測です。損保にとっては50:50で処理しても損には全然ならないからなのではないでしょうか。むしろ得する。そんなはずがないと思われるかもしれませんが、そうなるんですよね。
たしかに一つ一つの事故で考えるのなら、過失は小さいほうがいいに決まっているし、逆に過失が大きいのは損です。しかし、1つの事故としてそうはいえても、100件ならどうか、1000件ならどうか、10000件ならどうか。・・・
損保の立場になって考えてみたとき、保険契約者は加害者になることもあるし、被害者になることもあります。結局のところ事故件数が増えれば増えるほど、その加害者・被害者の割合は50:50の率に限りなく近づいていくし、したがって、過失割合もまた50:50に限りなく近づき、その割合に収斂していくことになります。
つまりは、損保は一律に50:50で処理できることが得策なのです。だって、過失割合を決めるための余分な人件費もいらないし、過失割合の争いについて保険調査会社への調査費用もかかりません。
もし可能なら全案件を50:50で処理できることが理想ということになります。しかし、駐車場以外の事故だと道交法の適用がないなんて屁理屈は使えません。第一、過失の大小が明白なケースまで50:50では事故被害者が納得しないでしょう。
ただ、これには大きな前提条件が必要になります。相手損保も自分の加入する損保と同じならその必要はありませんが、通常は相手側の損保は自分の加入している損保と同じではありません。そのため、相手損保もまた駐車場内の事故は50:50で処理するという暗黙の了解というか、足並みをそろえてもらわないとダメなことです。
損保が駐車場の事故を50:50で処理したがるのは――たぶんこういった理由なのではないかと私は強く疑っています。駐車場内の事故は比較的軽微な事故が多いですが、通常(ほかの)の事故と比べて、過失割合をどうするかなど処理自体のメンドーさ変わりません。すなわち、テマヒマがかかる。
駐車場内の事故は査定泣かせの事故なんですね。それなら、いっそのこと50:50で処理してしまえ。・・・と私は考えたのですが、これってうがちすぎでしょうか。お前の妄想だと言われたらそれまでです。が、だったらそれ以外の納得できる理由をどなたかご教示していただけると大変ありがたいですね。

事故の現場をみているのは甲とて乙と警察官であり、事故の顛末を記録して、やがて事故証明となる。事故証明には物損事故あるいは人身事故しか証明されていない。事故の顛末は警察署にあるだけで公表されない。民事不介入であるが免許証の更新は、他の官庁ではできない。道路交通法の取り締まりも警察署のみである。駐車場内の事故の内容を知りたくても、物損事故は民事不介入のかやの外、民事には不介入でも、事故証明の顛末は公表していただきたいものです。
交通事故の当事者が警察に行っても教えてくれないでしょうね。
現在は知りませんが、以前は、事故証明書の甲・乙について、担当の警察官は教えてくれることが多かった。が、途中から担当ではなくてその上司である係長や課長クラスが損保対応をすることになったため、どうしてこっちが甲でこっちが乙なのか、聞いてもわからないということが普通になりました。わかっていてわからないのではなくて、直接の担当でないため、本当にわからないのかもしれません。
そのため、保険会社にしても調査会社にしても警察を退職された元警察官を雇って対応していたところもあります。