診断書によくある「外傷性頸部症候群(疑い)」の意味

診断書の・・・(の疑い)の意味について

診断書を見ていると、傷病名欄に「傷病名」+「(疑い)」というのをときどきみかける。たとえば「外傷性頸部症候群(疑い)」とかがそうである。「疑い」とあるから、字引にあるような「疑うこと」や「怪しむこと」の意味なら、ウソだ、虚偽だ、詐病だと疑っていることになる。これを第一の意味としよう。

しかし、そのような意味で使っている医者は非常に少ないと思う。詐病扱いはさすがに少ないものの、もう少し意味を広めて、患者さんが症状を訴えているのだけれど、果たしてどうなんだろうか、疑問を含んだ意味で使われることが多い。しかし、そうではなくて、可能性の意味で使っている場合もある。すなわち、まだ確定していないが、外傷性頸部症候群である可能性があるとかその可能性が高い――というものである。これを第二の意味としよう。

(疑い)の第三の意味

しかし、もうひとつ別の、第三の意味で使われていることがある。たとえば、こんな例だと傷病名をどうつけるべきだろうか。

交通事故で受傷された方が、後ろの首から肩にかけて痛みを訴えてきた。交通事故によるものかと当初思われていたが、診察の結果、加齢による頚椎症性神経根症だったとしよう。損保は、事故との因果関係のある傷病名にしか関心がない。主治医が、傷病名を「頚椎症性神経根症」とし、その原因を「頚椎の加齢性変化」としたら、事故とは関係ないだなあとなって、私病扱いされ、支払いを拒否してくると思ったほうがいい。だから、こういう傷病名は正しくてもバカ正直に書けないことがある。

そこで、便宜的というか、裏技的に「・・・(疑い)」と書く。こんな傷病名はもちろん存在しないが、こう書くことで、当初外傷性頸部症候群の疑いで検査などの診断行為をしたが・・・という言い訳ができるわけだ。これだと、結果的に私病だったが、これまでの検査を含めた診断は、交通事故によるものかどうかの確定のために必要だったことになるから、損保も認めざるをえなくなる。第二の意味との相違点は、傷病名が確定しているかどうかである。

もちろん、このことは損保人身担当者も熟知している。だから、ここまでは認めるが、今後の治療については患者さん負担でやってくださいというのが医師と損保の暗黙の了解事項になっている。そう思っていたら、ときどき違ったりすることもあるようだが。

閉話休題

話は変わる。昔、ある事故被害者の方が、自賠責に後遺障害の申請をしたいと言い出したことがあるのだが、これまでの通院状況等を考えると、後遺障害に該当するのはかなり容易でないことがわかる事例だった。たぶんダメでしょと私は言ったのだが、納得してくれない。申請する場合は、主治医に後遺障害診断書を書いていただかないといけないし、その費用もただではない。後遺障害に認定された場合は自賠責がその費用を支払ってくれるが、非該当だと自己負担になってしまう。したがって、こういう被害者は自己負担覚悟でやらないといけない。しかし、このあたりを裏技的に解決することができなかったのかどうかと思ったことがある。

専門家かどうかの鑑別法にどうだろう

ところで、ネット上、10年前はあまりいなかったはずの後遺障害の専門家が、今はいくらでもみつかる。その謳い文句も、これまでに扱った件数は数百件とか数千件とか。獲得した判例とか。お客さんの喜びの声の数々だとか。医学書を数百冊持っていますとか、アマゾンの医学の専門書のブックレビューにその本の具体的な感想を述べるのではなくて、自分の宣伝を入れているすごい人もいる。

みんな、われこそは専門家だと思ってもらいたいための創意工夫を凝らしている。しかし、ネットでそう謳っているだけかもしれない。そう書いてあるだけで、その実際のところはよくわからない。ネット情報だけでその専門性を信じてしまうのは危険である。もちろん情報を吟味すればどれくらいの専門性があるのかわかるのだが、事故被害者は素人だからわかるのはむずかしい。交通事故被害者はだれが本当の専門家なのか迷ってしまうにちがいない。

そういうときは、この「・・・疑い」の第三の意味を知っているどうか確認してみたらどうだろうか。簡易に判別できるリトマス試験紙みたいなものだ。知らなければ、診断書をあまり見たこともないことがわかるし、医師面談の経験もあまりないことがわかる(医師面談の際に、どうして「疑い」にしたのかを考えるきっかけを与えてくれるから)から、そういう専門家に依頼するのは、まあ、止めといたほうが無難かなあと、私は思う。ぜひお勧めする。

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