事故状況は事故発生の前後について説明が足りないと間違った結論に達することがあります。今回の相談もその種のものでした。本来であれば「発進時の事故」とすべきところを、「進路変更車と後続直進車」と取り違えたケースでした。
目次
路上駐停車から発進と側方通過車の事故相談
2車線の左車線上に客待ちのタクシーが停車していて、左車線が通行できない状態でした。そのため、タクシーの動静に注意しながらその側方を通過し、先の交差点で左折しようとしました。ところが、タクシーがウインカーも出さないで発進したため、タクシーに自車左側面を衝突されました。
タクシーの運転手は後方確認も前方確認もすることなく、発進してしまったと警察にも供述していたのですが、相手の保険会社から、こちらの過失が70で、相手は30だと言われてしました。まったく納得がいきません。
発進車側の過失が大である
過失割合が相談者が70だと判断した理由について、保険会社担当者に詳しく聞くべきですね。
事故状況について簡単な説明だけしかないので、私の大雑把な見立てでしかありませんが、たぶん、相手損保の言い分は「進路変更車と後続直進車」の事故とし、進路変更した側に無理があったと判断して、質問者側に厳しい判断が下されたようです。
判タの過失相殺率基準本の153表(下図)で処理しているのだと思われます。
基本割合 | 赤30:黄(後続→先行車線変更)70 |
---|---|
修正要素 | |
赤 15㌔以上の速度超過 | +10 |
赤 30㌔以上の速度超過 | +20 |
赤 その他の著しい過失 | +10 |
赤 その他の重過失 | +20 |
進路変更禁止場所 | -20 |
黄 合図なし | -20 |
赤 初心者マーク等 | -10 |
黄 その他の著しい過失 | -10 |
黄 重過失 | -20 |
ところで、153表が想定する事故は、事故前双方が車線を走行中であることが前提です。今回のような道路端で停車中の車両の発進時の衝突事故とはまったく違いますね。
道路端からの発進車と後続直進車の事故について発進車側に70%の過失を認定した例(大阪地裁平成12年1月11日判決)、第一車線の路肩駐車後、第二車線への発進車と、第二車線から第一車線への進路変更車との接触事故について発進車側に70%の過失認定した例(大阪地裁昭和61年10月27日)があります(各判例の詳細については次の判例紹介を参照)。
いずれも妥当なもので、発進車側に厳しい判断をしているのが裁判所の姿勢です。
発進時の事故の過失割合(判例)
以下、対歩行者ではない、発進時の車両同士の事故の判例を集めてみました。
エンスト後の発進事故。追突型
札幌地裁 昭和57年8月30日判決
並進中の自動車のうち加害車が交差点で左折しようとしてエンストを起こしたため、被害車が先に左折し右(左?)交差点をほぼ通り抜けたあたりでエンスト中の加害車が突然前方に飛び出し被害車に追突した事故。
前方の状態を確認しないまま発進した加害車運転者の全面的過失とした。被告は加害車を運転して、信号2回ないし3回待ちで通過する本件交差点を西進して差しかかり左折しようとしたところ信号機直前でエンストを起こした。折から右被告車と並進しその左折の合図とエンストの状況を注視していた原告は、自車を同交差点で左折すべく、十分左側車両が左折できる部分を残しながら左折を開始し同交差点をほぼ通り抜けたあたりで、被告は同交差点を飛び出し加害車左前部を原告車の右側後部に追突させた。
信号停止後の発進。が、被害者に重大な過失ある事案
大阪地裁 昭和57年12月23日判決
加害車(普通貨物自動車)が交差点の手前で信号待ちのため、進行方向に向かって左側の歩道から1.1メートル程度の間隔で停止していたところ、後方から進行してきた被害者(原付)が加害車の左側方を通過しようとして、被害車の前輪を歩道側壁に衝突させ、右側に大きく傾いて加害車側に倒れこんだため、加害車と接触し、放り出された被害者が、信号に従い発進した加害車の左後輪で轢過された事故につき、加害車運転者に左側方確認不十分の過失30を認め、被害者にハンドル操作ミスと速度調整ミスによる過失70を認めた。
発進時の事故だが、右側方向指示器が出ており、加害車の発進が予想可能事案
昭和61年10月27日大阪地裁判決
並進中の自動車同士の接触事故につき、前方左側第一車線に停止中の加害車が、右側方向指示器を点滅させていたにもかかわらず、加害車が直ちに発進することはないと軽信し、加害車の動静を確認せずに、加害車が停止位置の前方3.7メートルの地点で第二車線から左側第一車線に進入を開始した被害者に30%の過失相殺を認めた事例。
加害車路肩からの右折発進、合図なし
福岡地裁小倉支部 昭和57年7月28日判決
加害駐車車両の右側を被害バイクで通過しようとした際、加害車が発進の合図なしに右折発進したため衝突した事案につき、被害バイクに事故回避の余裕はなかったとされ、過失相殺されなかった事例。
加害車合図なしの発進・右折。が、被害者にも前方安全確認義務違反あり。
名古屋地裁 昭和63年2月26日判決
見とおしのよい交差点において、交差点手前の道路の左側に停車していた加害車(普通貨物自動車)が突然発進・右折進行したため、後から加害車の側方を通過しようと進行してきた被害車(自動二輪)に接触し、被害者が受傷した事故。漫然と発進・右折した加害者に、後方・側方注意義務違反の過失を認め、前方安全確認義務を怠った被害者に、10%の過失相殺した事例。
加害車発進事故。被害者に右に出てくるかもとの予想あり+速度超過と酒気帯び
大阪地裁平成10年12月1日
左端に停車していた被告自動車が発進し、道路中心部に出てきた際、後方を自動二輪車で走行してきた原告がこれを避けようと転倒・衝突した事案。時速20キロの速度超過、酒気帯びのため、適切な回避措置を怠った原告に4割の過失相殺を認めた。
現場は駐車禁止場所であるが、被告は一時停止のためその点の考慮なし。合図遅れなし。原告は被告が右に出てくることを予想しつつも通り抜けられると過信した結果の事故。
原告側に酒気帯び、速度超過という過失がさらに加わっても4割の過失しか認められていない点に注意したい。判決の事実認定での重要部分のみ引用する。
「原告は、本件事故当時、原告車両を運転し、時速約60キロメートルで南から北に走行してきたところ、前記交差点の真ん中付近で被告車両が右に出てくるのを発見したが、通り抜けられると考え、そのまま進行したが、被告車両の手前付近まで来た時は、被告車両は既に車道の真ん中付近まで出ていて、被告車両と前記ガードレールとの幅が約1メートルよりなかったため、通り抜けるのは困難となったと判断したため、あわてて急制動の措置を講じ、バランスを崩し、原告車両を転倒させて、原告車両は被告車両と衝突した」との事実認定であり、酒気帯びもあったことから、原告に適切な回避措置を怠ったと認定されている。
ハザード点灯したままの発進後の停止。追突事案。
大阪地裁 平成12年1月11日判決
駐車しようと停車した被告車がハザードランプを点灯したまま発進、一時停車したところへ原告車が追突した事案で、指示器右で発進、停車前にハザード点灯の手順をとらず、後方車両の接近を知りながら停車した被告車に7割の過失相殺を認めた事例。