誘導による事故の過失割合

(相談)Yahoo知恵袋の質問より(一部改めた)

先日、入り口の狭いお寺へ車を入れようとした際、警備員が誘導をしてくれました。その際、死角にあたるところにひざくらいの高さの大きな石があり、警備員がオーライと言ったのでそのままハンドルを左に切った際に、左側の助手席、および後部座席を大きく擦る自損事故を起こしました。

警備会社に文句を言ったところ、警備業務実施という法律を楯に警備員には何らの権限もないから私が100%悪いと言われました。幸い、車両保険に加入していたので事なきを得ましたが、なんだか納得できません。

警備員および警備会社の責任

交通誘導員の行う「交通誘導」はあくまでも相手の任意的協力に基づくものであり、警察官や交通巡視員の行う「交通整理」と違って法的強制力はないなどといわれています。このことから、警備会社は何か勘違いして、権限もないのだから責任もないのだと言いたかったのでしょう。

しかし、当たり前のことですが、権限があろうがなかろうが、警備員による誘導に過失があり、その過失により事故が発生したのなら、その警備員およびその警備会社は損害賠償責任を負います。警備業務実施の何とかに何が書いてあるのか知りませんが、不法行為上の要件に該当すれば民事上の損害賠償債務が発生するのは当然です。警備員の誘導ミスによる民事責任を認めた裁判例を探してみたらいくつかみつかりました。

誘導事故に関する判例紹介

東京地裁 昭和52年8月30日判決
給油所において、大型貨物自動車が給油後の後退の際に、給油所従業員の誘導により計量機に接触し破損させた事例。従業員の誘導指示に過失があったことから、給油会社の損害賠償請求に対して、20%の過失相殺を認めた。

 

山口地裁 平成4年5月25日判決
道路改修工事のため道路片側通行にしていたケースで警備員の指示ミスにより警備会社に10%の過失を認めた例。

 

大阪地裁 平成6年2月24日判決
交差点手前の工事現場先で、前方信号が赤であるにもかかわらず、工事現場の警備員が進入可能の白旗を振ったため交差点に進入した加害車が、青で進入してきた被害車と出合頭に衝突した事故について、加害車運転手と警備員の双方に過失を認め、その割合を4対6とした事例。

 

福岡高裁 平成9年3月25日判決
交通事故で受傷した被害者に対し、任意保険会社が一括支払いシステムで保険金支払いした後、誘導員の指示ミスも不法行為と判断されたため、共同不法行為者たる警備会社へ求償金請求した事案につき、任意保険の求償の範囲は、自賠責分を控除した額を共同不法行為者に求償できるものと解された事例。

 

東京地裁 平成15年9月8日判決
交通誘導員の指示にしたがって右折できるものと過信して信号及び対向車を確認しないで交差点を右折したところ、対向車線を直進してきた車両と衝突した事故につき、右折車両運転手と交通誘導員の過失割合を70対30とした事例。

 

警備会社には使用者責任がある

警備会社が責任を負うのは民法715条の使用者責任によるものです。誘導ミスを起こした当の警備員は民法709条責任です。この警備員と警備会社は、いずれも被害者に対して全額の賠償義務を負う関係にあるとされ、そのことをさして不真正連帯債務の関係にあるといいます。今回のケースでは警備員に過失があるとともに、被害者である相談者にも過失があったものと思われるため、被害者の責任割合に応じた損害賠償請求が、警備員個人に対してあるいは警備会社に対して可能です(実際は、会社に対して請求するのが一般的です)。

運転者は道交法に従うべき

繰り返しますが、裁判例にもあるとおり、警備員および警備会社が全責任を負うのではありません。大阪地裁平成6年2月24日判決では、車の運転者に40%の過失を認定していますし、山口地裁平成4年5月25日判決では、運転者に90%の過失を認定しています。警備員の指示に不適切があったとしても、そのことから運転者は警備員らに全責任を転換できるわけではありません。東京地裁平成15年9月8日判決では、交通誘導員を信頼して右折進行したとしても、誘導員の指示に従う道交法上の義務はなく、信号機の表示する信号に従うという道路交通法上の運転者の基本的な義務に違反するという重大な過失があったとして、運転者の過失を70%、誘導員側の過失を30%としています。

まとめ

誘導員による交通誘導は、道交法上何らの権限があってされているものではないのだから、運転者は道交法に従うべきである。従わなくて交通事故を起こした場合は、誘導員側よりも運転者側により重い過失が認定されやすい。

車両保険の填補範囲と対物賠償の填補範囲が一致しない場合

車両保険について言及されていたので一言しておきます。被害者が車両保険を使用した場合、保険会社は加害者に対して、被害者に支払った車両保険金の範囲で、かつ被害者の加害者に対する損害賠償請求権を害さない範囲で、加害者に求償できることになっています。したがって、車両保険の填補範囲と対物賠償の填補範囲が必ずしも一致するわけでなく、一致しない部分については、相談者が加害者側にその不一致部分について請求できます。

より正確にいうと、被保険者は、車両保険金の支払を受けた後であっても、未填補損害が残存するかぎり、自分の保険会社に優先して損害賠償請求権を行使でき、保険会社は、被保険者の同権利行使を害しない残額についてのみ、同請求権を代位取得できるにすぎません。

今回は全損ではなくて部分損なので、車両保険で通常担保されないいわゆる評価損や代車代などの損害が発生していたら、相手警備会社に請求することも可能な点、注意してください。

なお、アイキャッチ画像は、ディースタッフ株式会社様のHPより借用しました。

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突然、交通事故にあわれた被害者は、怪我をされたり、車を破損などされたりして大変なことです。その損害の賠償をしてもらうために、これから、加害者そして加害者側の損保担当者を相手に示談交渉を進めなければならなくなります。しかし、交通事故は人生でそう何度も経験するわけではありません。なにをどのようにしたらいいのか途方に暮れてしまうのがふつうです。

ところが、事故被害者がまず相手にするのが加害者であり、そして、実際は加害者側損保の担当者です。損保の担当者はそのことで生計を立てているいわばプロであり、百戦錬磨で鍛えた知識と経験があります。かたや、知識も経験もほとんどない事故被害者。そんな素人がプロ相手にどのように交渉していったらいいのでしょうか。

交通事故に詳しい弁護士が知人にいるような幸運な方は別にして、たいていの方は途方に暮れてしまうことでしょう。一昔前は、素人とプロの交渉ごとということにふつうはなって、プロの思い描くストーリーどおりに押し切られるのがふつうでした。しかし、ネットが発達した現在、示談交渉を進める上での情報がネットを検索すればあふれかえっています。が、その情報は正しいものもあれば正しくないものもある。玉石混淆です。それらの情報に接した事故被害者にとって、どの情報が正しくて信頼できるのかがまずわかりづらいし、自分だけでは手に負えなくて、調査や交渉ごとをだれかに任せることも時に必要になってきます。が、ネット上には、われこそは事故被害者のためだと謳っているものばかりなので、実際にいったいだれを信頼したらいいのかわかりません。

知識とは中立なものであること

ここで注意してほしいのは、情報の正確さもさることながら、その情報(知識)そのものが中立なことです。

昔、東大卒が多い自民党が間違えるはずがないと豪語している自民党支持者に会ったことがあります。ぼくは苦笑するしかありませんでした。たしかに東大卒は勉強をいっぱいしているわけだから、その知識量も多くかつ正確だといえるかもしれません。ただ、知識それ自体はあくまで中立なものであり、どちらにも役に立つ武器なのです。したがって、その正確でたくさんの知識をどちらの側に使うかにある。わかりやすいたとえ話をしてみましょう。

知識は刀という武器と同じ


その昔、武士という職業が存在しました。この武士は帯刀を許された職業のことであり、刀の専門家です。殿様を頂点にして、殿様に雇用され、殿様を守るために武器である刀の技術を日夜みがいていた。

この武器である刀自体は殿様を守るためにも使えるし、農民に加勢して殿様に刃向かうためにも使えます。しかし、悲しいかな、現実は殿様を守るために使われた例が圧倒的に多く、農民に加勢するために使われた例など不幸にしてきわめて少なかった。ごく稀に後者のような武士が現れますが、こういう武士こそ庶民にとっての英雄であり、「七人の侍」はまさにそのようなタイプの武士たちでした。

利益が一致しているか相反しているかが重要

したがって、問題はその使い手自身にあります。使い手がどちらの側に立つかで知識もそれぞれの側の武器になる。そして、その使い手がどちらの側に立つかは双方の利益が一致するか相反するかでふつうは決まってきます。

この、肝心要のことを説明したサイトが皆無といっていいほどにみあたらないのは不思議なことです(というか、あえて否定しているサイトさえいくらでもみつかるくらいです)。

記事を読んでいただければたちどころにわかることですが、当事務所は「立場」を鮮明にしております。あえて鮮明にしているのは、人間や社会に対する見方は、その人自身の立場から自由にはならないからです。中立を装うことは考察を浅くし、論旨を不明確にし、自己を無責任な立場に置くことになる。「立場」のない「立場」などありようがない。当事務所の立場は、ぼく自身が社会的弱者であるため、弱者の立場に徹することです。ぼくのような弱虫は「七人の侍」のようには決してなれないけれど、せめてその心意気だけでも真似して、社会的強者に阿らないようにしたい。そういう気持ちで当サイトをたちあげました。丸山真男のことばを最後に引用しておきます。

丸山真男から

ゲーテは「行動者は常に非良心的である」といっておりますが、私たちが観照者、テオリア(見る)の立場に立つ限り、この言葉には永遠の真実があると思います。つまり完全にわかっていないものをわかったとして行動するという意味でも、また対立する立場の双方に得点と失点があるのに、決断として一方に与するという意味でも、非良心的です。にもかかわらず私たちが生きていく限りにおいて、日々無数の問題について現に決断を下しているし、また下さざるを得ない。純粋に観照者の立場、純粋にテオリアの立場に立てるものは神だけであります。その意味では神だけが完全に良心的であります。

私たちの社会というものは、私たちの無数の行動の網と申しますか、行動の組合せから成り立っております。社会がこうして私たちの行動関連から成り立つ限りにおいて、私たちは行動あるいは非行動を通じて他人に、つまり社会に責任を負っています。その意味では純粋に「見る」立場、ゲーテの言う意味での完全に良心な立場というものは、完全に無責任な立場ということになります。

したがってこの点でも神だけが、完全に無責任でありうるわけであります。認識することと決断することとの矛盾中に生きることが、私たち神でない人間の宿命であります。私たちが人間らしく生きることは、この宿命を積極的に引き受け、その結果に責任を取ることだと思います。この宿命を自覚する必要は行動関連が異常に複雑になった現代においていよいよ痛切になってきたのです。

世のなかには一方では、認識の過程の無限性に目をふさぎ、理論の仮説性を忘れる独断主義者もいれば、またそもそも認識の意味自体を頭から蔑視する肉体的行動主義者がいます。しかし他方その半面では、物事はそう簡単にはイエスかノーかきめられないのだ、もっとよく研究してからでなければなんともいえないという名目の下に、いつも決断を回避することが学者らしい態度だという考え方がかなり強い。

あるいは対立する政治的争点に対して、あれももっとも、これももっとも、逆にそれを裏返しとして、あれもいけない、これもいけないということで、結局具体的な争点に対して明瞭な方向性を打ち出すことを避ける態度をもって、良識的であるとか、不偏不党であるとか考える評論家やジャーナリストもかなりいるようであります。

たびたびゲーテの言葉を引いて恐縮ですが、ゲーテはこういうことをいっています。「自分は公正であることを約束できるけれども、不偏不党であるということは約束できない。」今申しましたような世上いわゆる良識者は対立者に対してフェアであるということを、どっちつかずということと混同しているのではないでしょうか。
「現代政治の思想と行動」丸山真男 P452-454

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【推薦図書】

これまでに購入した中で、特に役に立った図書です。アマゾンから購入可能なものに限定しました。アマゾン以外からの購入図書については、こちらこちらの記事をごらんになっていただきたい。

(事故調査)

1⃣
林洋氏の代表作。定番教科書である。現場調査に欠かせない視点を提供してくれる。

 

2⃣
江守一郎氏の代表作。新版(と言っても1984年)あり。これも定番教科書のひとつと言われている。

(過失割合・賠償の範囲に役立つ本)

 

2⃣
交通事故訴訟をリードする東京地裁民事27部の裁判官が参加している。裁判所の判断の傾向を知るのに有用。

 

3⃣
道交法の定番教科書。

 

4⃣
「信頼の原則」という記事を書いた際に、たいへん参考になった。この本なくして「信頼の原則」の記事の信頼度は無きに等しい。

(保険を知るのに役立つ本)

1⃣
これ一冊あれば、任意保険のたいていのことはわかる。

 

2⃣
自賠法条文の解説書。

(後遺障害を知るのに役立つ本)

後遺障害をやるのだったら、これは必読書である。参考文献の紹介も豊富。

 

8⃣
先に紹介した弁護士本をたぶんに意識した本である。つまり、高野他本に載っていない遷延性意識障害とかPTSDとかを積極的にとりあげている。

(交通心理学に関する本)



類書はたくさんあれど、外国の調査研究が宝庫のように詰まっている。

(特殊分野編)
いいもわるいも特殊分野の本なので、これを見るしかないという本。

1⃣
旧版(第2集)は持っているが、その後の判例の展開を示した新版の第3集あり。全損賠償の決定版。

 

 

 

4⃣
上の3著の著者・海道野守氏が一般向けに書かれた物損請求書。古いが、わかりやすくてすごくいい本である。

 

5⃣
これも休業損害分野の唯一の本。毎年のように改定されている。ここの先生は休業損害だけでなく、実は休車損の調査もやられていたから、休車損の本も書いていただけるとありがたいのだが。

(交通事故を考える上で、最初に読んでおきたい本)

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