脊椎圧迫骨折と後遺障害

相談例

年金で暮らしていた75歳の母が交通事故に遭い、「第一腰椎圧迫骨折」と診断された。主治医から変形障害があると聞いているため、後遺障害の申請をするつもりです。どのようにしたらいいのか、被害者請求でしたほうがいいのかどうか、他に気をつけるべき点等がありましたら、それも教えてほしい。

決め手は症状固定時の画像

交通事故による後遺障害でぼくがいちばんよくやった調査は圧迫骨折か頚椎捻挫かの後遺障害です。それくらい、圧迫骨折事案というのは多い。この圧迫骨折による変形障害に関しては、原則いわゆる被害者請求にこだわる必要はないというのがぼくの考えです(注1)。つまり相手損保にまかせておいてもいい。理由は、後遺障害に該当するかどうか、その証明手段がはっきりしているためです。すなわち、決め手は症状固定時の画像だからです。したがって、相手損保がやっても相談者がやっても画像自体が変わるわけではないので、どちらでもいい。テマヒマを考えると相手損保に任せたらいいと思います。

kossetuzou
上記画像はAll About圧迫骨折の症状・診断・治療より転載しました)

注1

ただし、あくまでも「変形障害」についてです。脊椎の圧迫骨折による障害は、「変形障害」にかぎりません。運動機能障害もあれば局部の神経障害もあるからです。

そもそも論になりますが、任意一括との比較で被害者請求がメリットがあるのは、その手続きを行う人に任意一括の損保人身担当者ていどの能力が備わっていることが前提条件です。任意一括だと利益相反関係にあることから、妨害行為があるという人もいますが、ぼくの経験からはそのような悪質な例は一度もありませんでした。定型的・事務的処理の傾向が強いものの、それ以下ではありません。時には熱心にやっていた例さえありました。

ぼくの限られた経験を一般化するつもりはありませんし、利益相反関係にあるという基本の関係も無視はできないでしょう。だから、担当者によってはあるいは手抜きくらいはあるのかもしれません。ぼくだって生意気な奴が相手だったら、心の中で、はーい、それで過失1割とったろう、そう思ったことがないわけではありません。しかし、そう思うのとそれを実際の行動に移すこととはまったく次元の違う話です。故意に妨害行為をするというのはそういうことです。ちょっと考えにくいことです。人を見る目が甘いのかもしれませんが。

脱線してしまいました。ここで言いたかったのは、被害者請求を行う場合のその人の能力。その肝心要のところがあまり議論されていないように思えることでした。

脊椎圧迫骨折について

脊椎圧迫骨折は各年齢で起こりうるが、その治療は若年者と骨粗鬆症を伴う高齢者では大きく異なる。若年者では骨折による変形を防ぐため1か月以上のベッド上安静や体幹ギプス固定を必要とするが、高齢者では長期臥床による合併症が危惧されるため多少の遣残変形よりも早期離床が優先される。(P166)

脊椎圧迫骨折は明らかな外傷によるものも多いが、骨の脆弱化が著しい場合では明らかな外傷がなくても発生する。また経過中に椎体の圧壊が進行する場合も多い。骨粗鬆症に関連する骨折の中で脊椎圧迫骨折は最も頻度が多いが、軽症あるいは無症状で経過することが多い。(P166)

しかし、治療経過中に偽関節や骨片の脊柱管内突出により脊髄麻痺をきたす例も近年増加しており、そのような症例は手術治療が必要になる。(P166)


 
高齢者の圧迫骨折でよく言われることですが、くしゃみしただけで骨折したり、受傷機転の説明ができなかったり。

圧迫骨折は背中の椎骨の高さが減少することです。椎骨は軽量レンガを積み重ねたようなもので、それで体重を支えている。圧迫骨折というのは、そのレンガの1つあるいは複数が体重によってつぶれることです。骨粗鬆症のためつぶれやすくなっています。つぶれるとものすごく痛いこともあるが、たいていは痛がらない。レントゲンを撮らなければ骨折していることがわからないことも多い。すなわち、他覚的所見はあっても自覚症状がないものが多いのだ。そのため、損保は逸失利益を否定することがよくあります。

たとえば、

脊柱に変形を残したとしても下位胸椎か上位腰椎の場合では機能障害や労働能力の喪失はもたらさない。しかし、下位腰椎(L3・L4・L5)は腰部前後屈のほぼ95%の可動に関与しており、同部位における損傷は遅発障害として椎間板の変性による痛みや椎間板ヘルニア、場合によっては脊椎可動域制限を招くことがある(P89)


 
圧迫骨折の部位によって運動機能障害ひいては労働能力に差が出てくるので、ここは注意が必要です。

さらに進んで、こういう意見もあります。→平林洌・松本守男論文→脊柱関係:http://www.jsomt.jp/journal/pdf/061030170.pdf

1椎体の前後縁長の比が 1/2以下に楔状変形するか,可動域が1/2以下に制限されると,障害等級は第8級(労働能力喪失率45%)に認定される.それらは四肢の 1 関節の用廃(強直)あるいは1眼の失明に相当するが,果たして労働能力や日常生活動作にそれ程の支障が生じるであろうか.椎体変形によって後弯変形を生じたとしても,また頸椎の回旋運動や腰椎の前・後屈運動が1/2に制限されたとしても,それらはある程度は脊椎の他の部位で代償される.さらに日常の生活では,頸椎の回旋は体全体で,腰椎の前後屈は股関節や膝関節でも代償される.その程度の変形や可動域低下では,被害者本人から局所の多少の痛みやせき柱のこわばりを訴えられることはあっても,そのために労働能力や日常生活能力が半分程度に低下するとは到底考え難い.

したがってそれらの8級の等級は10~11級(労働能力喪失率27%~20%)に改定することが妥当といえる.1/2程度の変形や可動域制限の労働能力喪失率を20~30%としている米国の基準とも整合するからである.

 
大変参考になる論文だと思いました。たとえば可動域制限について若者基準でやるのはどうか、同年齢を基準にやるべきだというのはもっともだと思います。そのやり方についても提案されていて、「椎体の圧迫変形を評価する時,胸腰椎部に存在する生理的楔状化を差し引かなければ,外傷の寄与分を正しく評価することはできない.当該椎体の生理的楔状化は隣接する健常な上・下の椎体(前縁高/後縁高)を計測すれば容易に知ることができる」としています。損保もこの意見を実際の示談交渉に活用しているとも思いました。が、納得できないこともいくつかありました。

たとえば「胸腰椎部の前後屈は股・膝関節でも代償される」など、「代償」されるからいいじゃんという考え方にはどうなんだろうかとおもいます。また、引用文には書かれていませんが、労災基準は炭鉱労働をもとに決められたものであり、省力化が進んだ現代にはそのような労働はほとんどなく、時代に合わないということなのですが、座椅子に座って本ばかりながめているとこういう労働観になってしまうのかなあ、書を捨てて町に出よじゃありませんが、労働現場に出てみて、実際に力仕事をされたらどうかと思いました。

(もちろんそうでない仕事もあまたあるという前提の上で)まだまだ、そういう仕事は中小零細企業だといくらでもある。どうして省力化やロボット化が思ったほどにすすまないのでしょうか。そういった設備を導入しようとしたら、かなりの費用を要する。そうするよりも、安い労働力を長時間コキ使ったほうがより経済的だからです。日本の企業が工場を海外へ移転しているのは、安くて長時間使える労働力を求めているからです。

なお、裁判実務では、片岡裁判官が「高度の脊柱変形は、脊椎の骨折という器質異常により脊椎の支持性と運動性を減少させ、局所等に疼痛を生じさせ得るものであるという点を重視すると、原則として喪失率表の定める喪失率を認めるのが相当」(「労働能力喪失率の認定について」赤本2004年版)としており、平林氏らの脊柱の変形障害における労働能力の喪失率(現行自賠責の後遺障害等級実務)に対する疑問・意見を認めていません。裁判所は正しい判断をしたと、ぼくは思います。

後遺障害が認定される上での一般要件

①【外傷性であること】

まず、認定されるためには外傷性であることが必要です。外傷性であるかどうかは、その原因が交通事故により発生したらしいという事実と、新鮮な骨折であることを立証する画像資料が必要になります。

画像についてですが、初診当時のMRIで高輝度変化が確認できるかです。しかし、病院によってはMRIの撮影装置がない場合もあります。そのときはレントゲンで時間を追って骨の圧潰が進行していることが確認できるかどうかです。ということは、MRIは初期のものを1枚だけ、レントゲンについては複数枚必要になるということです。

すなわち、MRIで輝度変化が確認できること、あるいはレントゲンで時系列的に骨の圧潰が進行していることが確認できること。以上がわかればその圧迫骨折は新鮮なものだということがわかります。それらが確認できなければ陳旧性です。古い骨折だと判断されます(注)。

古い骨折だと判断されると、交通事故よりも前に骨折したことになり、交通事故との因果関係は否定されます。

新鮮骨折だとどうしてその事故により受傷したことになるのか、厳密にいえば、直近の別の事故だった可能性はないのかとの疑問が生じるかもしれません。しかし、そこまで厳密に因果関係を求めるのは被害者にとってあまりにハードルが高くて酷なことなので、新鮮な骨折なら当該事故によるものだろうとの一応の推定をします(したがって、別の事故で受傷したことがわかるなら反証は可能です)。

一応の推定

とは、民事訴訟法の用語で、高度な蓋然性をもつ経験則のはたらきによって、過失や因果関係を推認することであるといわれる。裁判官が蓋然性の非常に高い経験則にもとづいて事実上の推定をするときには、その例外の事態はめったに生じないから、その事実は、ほとんど証明されたものとしてあつかってもよいと考えられる。このような非常に蓋然性の高い経験則にもとづく事実上の推定のこと。(「新民事訴訟法概要」林屋礼二著P318)

 

(注)

圧迫骨折が新鮮なものか陳旧性(古いもの)かについては画像で判断するというのが自賠責の決まりですが、たとえば「赤本の2016年講演録編」において朝妻孝仁医師は、「診察所見で、怪我をしたときに痛みがあるとか、あるいは叩打痛といいましてハンマーで叩いて痛いとかいうことがわかればいいのですが・・・」(P88)としている。痛いかどうかは患者の恣意が入る余地があるため、自賠責では無視もしくは軽視されるが、裁判では必ずしもそうはならないようである。

変形障害の要件

                脊柱障害の後遺障害等級
変形障害運動障害
6級5号脊柱に著しい変形を残すもの脊柱に著しい運動障害を残すもの
8級2号脊柱中程度の変形を残すもの脊柱に運動障害を残すもの
11級7号脊柱に変形を残すもの

脊柱の変形障害要件
 等級後彎のていど側彎のていど
椎体減少個数前方椎体高減少の程度
6級脊椎圧迫骨折等により2個以上の椎体の前方椎体高が著しく減少し、後彎が生じているものX=(A+B+C)-(a+b+c)
Y=(A+B+C)÷3
YがX以下
脊椎圧迫骨折等により1個以上の椎体の前方椎体高が減少し、後彎が生じているものX=(A+B+C)-(a+b+c)
Y=(A+B+C)÷3
YがXの1/2以下
かつ→
コブ法による側彎度が50度以上となっているもの
8級1個以上の椎体の前方椎体高が減少し、後彎が生じているものX=(A+B+C)-(a+b+c)
Y=(A+B+C)÷3
YがXの1/2以下
コブ法による側彎度が50度以上となっているもの
環椎または軸椎の変形・固定により、つぎのいずれかに該当するもの
ア60度以上の回旋位となっているもの
イ50度以上の屈曲位または60度以上の伸展位となっているもの
ウ 側屈位となっており、エックス線写真等により、矯正位の頭蓋底部の両端を結んだ先と軸椎下面との平行線が交わる角度が30度以上の斜位となっていることが確認できるもの
11級(a) 脊椎圧迫骨折等を残しており、そのことがエックス線写真等により確認できるもの
(b) 脊椎固定術が行われたもの(移植した骨がいずれかの脊椎に吸収されたものを除く)
(c) 3個以上の脊椎について、椎弓切除術等の椎弓形成術を受けたもの

kobuhou

各等級ごとに要件が違います。6級、8級は明確で客観的な要件なのに、11級は、症状固定時の画像で圧迫骨折であることが画像上わかること(注2)です。「わかること」などというのはきわめて主観的な要件です。

さらに上位の等級になるかどうかは減少した前方椎体が何箇所あるのか、当該前方椎体高とその後方椎体高の差がどれくらいになるのかという客観的な要件で決めていきます。

特記

後遺障害認定の際の要件には、客観的な要件と主観的な要件が混在しています。本来なら基準は客観的なものであるべきなのに、実際は、このように主観的な要件が混在しています。そうさせているのは、自賠責の財源からくる政策的自由度を確保するためではないかと思われます。

 
他に、側彎変形についてコブ法により50度以上の変形が確認できれば上位後遺障害に該当します。しかし、50度以上などというような高いハードルが設定されているため、側彎による後遺障害に該当するケースをぼくは一度も確認したことがありません。この条件に当てはまるのは相当に稀なケースだと思ってください。

【側彎変形】

注2

11級の場合「25%」説を唱えている人がいます。言いだしっぺは交通事故110番の宮尾氏のようです。しかし、根拠が不明です。経験則によるものだそうです。少なくとも「労災認定必携」ではそのような基準は存在しません。また「後遺障害等級認定と裁判実務」という本では「変形の程度は問わない」とされています。

その後、宮尾氏は自分の説が正しいことを証明するために、新たな医証を付け加えております。このことについてはいずれ別記事でとりあげてみたい。

運動機能障害の要件

6級 「脊柱に著しい運動障害を残すもの」

次のいずれかにより頚部および胸腰部が強直したものをいいます。

  • 頚椎および胸腰椎のそれぞれに脊椎圧迫骨折等が存しており、そのことがエックス線写真等により確認できるもの
  • 頚椎および胸腰椎のそれぞれに脊椎固定術が行われたもの
  • 項背腰部軟部組織に明らかな器質的変化が認められるもの
8級「脊柱に運動障害を残すもの」

(a) 次のいずれかにより、頚部および胸腰部の可動域が参考可動域角度の1/2以下に制限されたもの

  • 頚椎または胸腰椎に脊椎圧迫骨折等を残しており、そのことがエックス線写真等に
    より確認できるもの
  • 頚椎または胸腰椎に脊椎固定術が行われたもの
  • 項背腰部軟部組織に明らかな器質的変化が認められるもの

(b) 頭蓋・上位頚椎間に著しい異常可動性が生じたもの

特記

運動障害、すなわち可動域制限については、医師の計測方法に疑問があるケースがあります。正規の器具でちゃんと測っているのだろうか、計測法に間違いはないのかというものです。実際に、目見当で計測(?)していた例もありました。

14級「局部の神経症状」

画像等では、脊椎圧迫骨折等または脊椎固定術が認められない。また、項背腰部軟部組織の器質的変化も認められず、単に、疼痛のために運動障害を残しているもの。

圧迫骨折による後遺障害確認の医療調査

圧迫骨折による後遺障害確認の医療調査で、ぼくが実際に使っていた質問状を公開しましょう。

①新鮮・陳旧性・病的の別

1.新鮮
2.陳旧性
3.病的な骨折

②新鮮な骨折の場合、その理由

1.初診時のMRI(T1強調・T2強調)画像において、低信号もしくは高信号を認めたことから、出血・浮腫が推察されたため
2.各レントゲン画像において、経時的に圧潰の進行が確認できたため
3.受傷機転による
4.その他→

③陳旧性・病的な骨折の場合、その理由

 

④骨粗鬆症の程度・治療の有無

1.骨密度測定ありの場合

測定時期
測定部位
測定方法
測定結果:同性同年齢比  %、YAM  %

2.骨密度測定なしの場合

腰椎レントゲン画像からの慈恵医大式表による分類
jikeiidaisiki
以上から、骨密度の程度
ア:生理的減少の範囲であり、年齢相応である。
イ:生理的減少の範囲を超えており、年齢以上に悪い。
ウ:年齢よりも良い
エ:その他→
今回受傷前からの骨粗鬆症治療歴:不明・なし・あり→治療先・治療期間・治療内容
今回入、通院期間中における骨粗鬆症治療:なし・あり→治療期間・治療内容

⑤骨粗鬆症が本件圧迫骨折受傷に与えた影響および影響度

ア:なし
イ:あり→100・75・50・25%、あるいは、極めて大きい・大きい・半々、小さい・極めて小さい
ウ:不明

上記いずれの場合もその理由
ア:まだ  歳であり、骨粗鬆症自体が存在しないから。
イ:前述の骨粗鬆症の程度から
ウ:その他→

⑥後遺障害

(いずれも症状固定時期当時における内容)
1.今回の傷病以外の、陳旧性としての圧迫骨折の有無

2.ありの場合、
部位:第  胸椎・腰椎
受傷時期:
受傷原因:

3.症状固定時期における可動域制限
ア:なし
イ:あり
ウ:確認していないので不明だが、おそらくなし
エ:確認していないので不明だが、おそらくあり
オ:確認していないので不明
カ:その他→

4.胸腰椎の可動域
ア:前屈(参考可動域合計75度。2分の1以上か)
イ:後屈
ウ:右回旋(参考可動域合計80度)
エ:左回旋
オ:右側屈(参考可動域合計100度)
カ:左側屈

5.可動域制限がある場合、陳旧性の圧迫骨折の影響を除いた、本件圧迫骨折のみによる、考えられる胸腰椎の可動域制限の有無・程度
ア:なし。
イ:あるが、各可動域(特に主要運動について)は参考域値の2分の1以上あったと考えられる
ウ:あるが、各可動域(特に主要運動について)は参考域値の2分の1未満にまで制限されていたと考えられる
エ:その他→
#可動域制限の原因について

6.硬性コルセットを常に必要とするか(最終時点で)
ア:常に必要
イ:起きたり座ったりする時以外は必要
イ:不要
#必要とする場合はその理由

7.後彎の有無・程度
ア:有無
イ:部位
ウ:各部位の前方椎体高  ㎜、後方椎体高  ㎜
エ:上記画像測定日

8.側彎の有無・程度
ア:有無
イ:コブ法による側彎度は50度以上か

9.疼痛が存在する場合
ア:通常の労務に服することができるか
イ:時に強度の疼痛のために労働にある程度差しさわりがある
ウ:医学的に証明もしくは推定できるか・証明手段、推定理由

圧迫骨折の後遺障害確認のための基本的な質問事項。医師面談の時間は10数分ていどがふつうなので、質問事項と予想される回答例を作って、このようにアンケート形式にします。質問が多いため、テキパキやらないと間に合わないからです。個別にはさらに質問を加える場合もありますが、基本的なことはだいたい網羅してあると思います。なお、当時は「慈恵医大式表」を使って骨粗鬆症の程度を調べるのがふつうでした。現在は、精度に問題があるという批判が強い。

後遺障害による具体的な賠償算定例

後遺障害による賠償額は後遺障害慰謝料と逸失利益の合計額です。後遺障害慰謝料は通常は定額、逸失利益は個別的な算定になります。

逸失利益の算定式

基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

被害者の属性

性:女性
年齢:75歳
職業:無職(年金暮らし)
家族構成:夫と2人暮らし

高齢家事従事者の基礎収入

(基礎収入)
高齢者の家事従事者の逸失利益における基礎収入については65歳以上の女子平均賃金を使う。

これは、平成11年に発表された東京・大阪・名古屋の各地裁の「交通事故による逸失利益の算定方式についての共同提言」による。その提言内容は、「家事労働についての逸失利益は原則として全年齢平均賃金によるも、年齢、家族構成、身体状況及び家事労働内容等に照らし、生涯を通じて全年齢平均賃金に相当する労働を行う蓋然性が認められない特段の事情が存在する場合には年齢別平均賃金を参照して適宜減額する」としている。

そのことをうけて、高齢者の家事従事者の逸失利益は「特段の事情」に該当するため、65歳以上の女子平均賃金を使う。

「特段の事情」に該当する理由。高齢者の家事従事者の場合は、扶養すべき子供がいない。したがって、家事の負担が軽いのがふつう。今回は、老夫婦だけの家庭なので、原則である全年齢平均賃金ではなく、提言にある年齢別平均賃金が適用される典型例である。

ただし、その全額は認めず、他人のための家事労働をどの程度行っていたかによってその金額を決めているのが判例の傾向である。

 

年金との関係

老齢年金の受給権は事故によって影響を受けるものではなく、年金の有無と休業損害や後遺障害による逸失利益とは無関係である。老齢年金は保険料をこれまで支出してきた結果支給されるもので、対価性があるからだ。年金受給だけを理由に休業損害や逸失利益が否認されることはありえない。

 

労働能力喪失率

本件は第一腰椎の1箇所だけの圧迫骨折です。当部位は機能障害や労働能力の喪失をもたらさないとされています(「参考:弁護士の為の交通外傷・後遺障害読本」)。したがって、逸失利益が否定されるか、労働能力喪失率が下げられる可能性があります。

労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

高齢者の逸失利益における労働能力喪失期間は余命年数の2分の1です。本件ではライプニッツ係数は7年になります。

高齢者の家事従事者の逸失利益に関する判例

①息子(52歳)と2人暮らしで家事の一切を行っていた78歳の女性について、年齢、家族構成、息子の健康状態等からの家事労働の実態を総合して65歳以上女子平均賃金の70%を基礎に逸失利益を算定(東京地判平成12年5月24日)。

②息子の経営する会社の経理を担当し年収180万円を得て息子と2人暮らしで1日2時間程度家事労働に従事したいた75歳女性について、65歳以上女性平均賃金を基礎に逸失利益を算定(岡山地判平成10年10月20日)。

③夫と2人暮らしで家事をこなしていた86歳女性について、持病もなく、1人で買い物に出かけ、家事をこなしていたことから、65歳以上女子平均賃金の50%を基礎に逸失利益算定(神戸地判平成8年.5月23日)。

④健康で夫の通院付添等もしていた主婦(79歳)について65歳以上女子労働者の平均賃金の50%と算定(大阪地判平成8年6月20日)。

結論

65歳以上の女子平均賃金を使い、さらに割合的減額をされる可能性が高い。

以上から先の公式:
基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
に下記の具体的な数値を入れる。

【基礎収入】
(65歳以上の女子平均賃金・賃金センサスより)
278万円(平成18年度)

【労働能力喪失率】
別表Ⅰ
労働 能 力 喪 失 率 表
自動車損害賠償保障法施行令別表第1の場合
障害等級労働能力喪失率
第 1級100/100
第 2級100/100
自動車損害賠償保障法施行令別表第2の場合
障害等級労働能力喪失率
第 1級 100/100
第 2級 100/100
第 3級 100/100
第 4級 92/100
第 5級 79/100
第 6級 67/100
第 7級 56/100
第 8級 45/100
第 9級 35/100
第10級 27/100
第11級 20/100
第12級 14/100
第13級 9/100
第14級 5/100

【労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数】
5.7863

素因減額

骨粗しょう症による影響の有無について、年齢相応なら問題なし。しかし、骨密度検査で同世代・同姓平均よりも80%以下なら素因減額される傾向があります(某損保基準)。なお、損保が使っている慈恵医大式分類表についてですが、ぼくがこれまで医師面談した何人もの医師からその精度に疑問を持たれていました(→たとえば「医療審査 覚書」井上久著)。正式な骨密度検査を受けるべきでしょう(注)。

とはいっても、骨密度検査自体にも、過剰診断の可能性があるとの批判もあります。さらに、骨密度検査は致命的な欠陥があるようです。「骨粗しょう症による素因減額」という記事で詳しく書きましたので、確認したほうがよろしいかと。

 
【17・04・03追記】「赤本の2016年講演録編」の朝妻医師の講演部分を(注)として追記した。

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

CAPTCHA


事務所所在地・連絡先

ホームズ調査事務所:
石川県加賀市
電話番号:090-1314-0234

電話・メールをされる前に、「お問い合わせ」欄を読んでくださいね。なお、メールについてはお返事に時間を要することもあるし、内容によっては、たとえば記事に書いてあることの再確認とか、あまり深刻とは思えないものについてはお返事しないこともありえます。電話ならその点確実です。ただし、「非通知」はだめです。

当事務所の立場

突然、交通事故にあわれた被害者は、怪我をされたり、車を破損などされたりして大変なことです。その損害の賠償をしてもらうために、これから、加害者そして加害者側の損保担当者を相手に示談交渉を進めなければならなくなります。しかし、交通事故は人生でそう何度も経験するわけではありません。なにをどのようにしたらいいのか途方に暮れてしまうのがふつうです。

ところが、事故被害者がまず相手にするのが加害者であり、そして、実際は加害者側損保の担当者です。損保の担当者はそのことで生計を立てているいわばプロであり、百戦錬磨で鍛えた知識と経験があります。かたや、知識も経験もほとんどない事故被害者。そんな素人がプロ相手にどのように交渉していったらいいのでしょうか。

交通事故に詳しい弁護士が知人にいるような幸運な方は別にして、たいていの方は途方に暮れてしまうことでしょう。一昔前は、素人とプロの交渉ごとということにふつうはなって、プロの思い描くストーリーどおりに押し切られるのがふつうでした。しかし、ネットが発達した現在、示談交渉を進める上での情報がネットを検索すればあふれかえっています。が、その情報は正しいものもあれば正しくないものもある。玉石混淆です。それらの情報に接した事故被害者にとって、どの情報が正しくて信頼できるのかがまずわかりづらいし、自分だけでは手に負えなくて、調査や交渉ごとをだれかに任せることも時に必要になってきます。が、ネット上には、われこそは事故被害者のためだと謳っているものばかりなので、実際にいったいだれを信頼したらいいのかわかりません。

知識とは中立なものであること

ここで注意してほしいのは、情報の正確さもさることながら、その情報(知識)そのものが中立なことです。

昔、東大卒が多い自民党が間違えるはずがないと豪語している自民党支持者に会ったことがあります。ぼくは苦笑するしかありませんでした。たしかに東大卒は勉強をいっぱいしているわけだから、その知識量も多くかつ正確だといえるかもしれません。ただ、知識それ自体はあくまで中立なものであり、どちらにも役に立つ武器なのです。したがって、その正確でたくさんの知識をどちらの側に使うかにある。わかりやすいたとえ話をしてみましょう。

知識は刀という武器と同じ


その昔、武士という職業が存在しました。この武士は帯刀を許された職業のことであり、刀の専門家です。殿様を頂点にして、殿様に雇用され、殿様を守るために武器である刀の技術を日夜みがいていた。

この武器である刀自体は殿様を守るためにも使えるし、農民に加勢して殿様に刃向かうためにも使えます。しかし、悲しいかな、現実は殿様を守るために使われた例が圧倒的に多く、農民に加勢するために使われた例など不幸にしてきわめて少なかった。ごく稀に後者のような武士が現れますが、こういう武士こそ庶民にとっての英雄であり、「七人の侍」はまさにそのようなタイプの武士たちでした。

利益が一致しているか相反しているかが重要

したがって、問題はその使い手自身にあります。使い手がどちらの側に立つかで知識もそれぞれの側の武器になる。そして、その使い手がどちらの側に立つかは双方の利益が一致するか相反するかでふつうは決まってきます。

この、肝心要のことを説明したサイトが皆無といっていいほどにみあたらないのは不思議なことです(というか、あえて否定しているサイトさえいくらでもみつかるくらいです)。

記事を読んでいただければたちどころにわかることですが、当事務所は「立場」を鮮明にしております。あえて鮮明にしているのは、人間や社会に対する見方は、その人自身の立場から自由にはならないからです。中立を装うことは考察を浅くし、論旨を不明確にし、自己を無責任な立場に置くことになる。「立場」のない「立場」などありようがない。当事務所の立場は、ぼく自身が社会的弱者であるため、弱者の立場に徹することです。ぼくのような弱虫は「七人の侍」のようには決してなれないけれど、せめてその心意気だけでも真似して、社会的強者に阿らないようにしたい。そういう気持ちで当サイトをたちあげました。丸山真男のことばを最後に引用しておきます。

丸山真男から

ゲーテは「行動者は常に非良心的である」といっておりますが、私たちが観照者、テオリア(見る)の立場に立つ限り、この言葉には永遠の真実があると思います。つまり完全にわかっていないものをわかったとして行動するという意味でも、また対立する立場の双方に得点と失点があるのに、決断として一方に与するという意味でも、非良心的です。にもかかわらず私たちが生きていく限りにおいて、日々無数の問題について現に決断を下しているし、また下さざるを得ない。純粋に観照者の立場、純粋にテオリアの立場に立てるものは神だけであります。その意味では神だけが完全に良心的であります。

私たちの社会というものは、私たちの無数の行動の網と申しますか、行動の組合せから成り立っております。社会がこうして私たちの行動関連から成り立つ限りにおいて、私たちは行動あるいは非行動を通じて他人に、つまり社会に責任を負っています。その意味では純粋に「見る」立場、ゲーテの言う意味での完全に良心な立場というものは、完全に無責任な立場ということになります。

したがってこの点でも神だけが、完全に無責任でありうるわけであります。認識することと決断することとの矛盾中に生きることが、私たち神でない人間の宿命であります。私たちが人間らしく生きることは、この宿命を積極的に引き受け、その結果に責任を取ることだと思います。この宿命を自覚する必要は行動関連が異常に複雑になった現代においていよいよ痛切になってきたのです。

世のなかには一方では、認識の過程の無限性に目をふさぎ、理論の仮説性を忘れる独断主義者もいれば、またそもそも認識の意味自体を頭から蔑視する肉体的行動主義者がいます。しかし他方その半面では、物事はそう簡単にはイエスかノーかきめられないのだ、もっとよく研究してからでなければなんともいえないという名目の下に、いつも決断を回避することが学者らしい態度だという考え方がかなり強い。

あるいは対立する政治的争点に対して、あれももっとも、これももっとも、逆にそれを裏返しとして、あれもいけない、これもいけないということで、結局具体的な争点に対して明瞭な方向性を打ち出すことを避ける態度をもって、良識的であるとか、不偏不党であるとか考える評論家やジャーナリストもかなりいるようであります。

たびたびゲーテの言葉を引いて恐縮ですが、ゲーテはこういうことをいっています。「自分は公正であることを約束できるけれども、不偏不党であるということは約束できない。」今申しましたような世上いわゆる良識者は対立者に対してフェアであるということを、どっちつかずということと混同しているのではないでしょうか。
「現代政治の思想と行動」丸山真男 P452-454

【当サイトご利用上の注意】

当サイト内の情報を利用したことにより何らかの損害が発生しても、一切責任を負いません。自己責任でお願いいたします。また、記事を書いた後に、法律が変わったりするなど、現状を反映していないことがあります。その後の改正等についてはフォローしていくつもりですが、ご注意ください。

著作権にかかわることですが、当サイトの記事をコピーされる方が後を絶たない。公開した記事なので、コピーしていただくのはまったくかまわない。ただし、判例文のコピーによる引用は別にして、それ以外の文章の引用については、引用元を示したうえで、どこからどこまで引用したかも明示してください。

なお、当サイトは中国語でも対応可能である。電話でもいいし、メッセージでもよろしい。

本现场可以用汉语对应、如过在日本有遇到交通事故的无论是中国人还是台湾人、请随时商量、商量的时候、请在网上「留言」。

【推薦図書】

これまでに購入した中で、特に役に立った図書です。アマゾンから購入可能なものに限定しました。アマゾン以外からの購入図書については、こちらこちらの記事をごらんになっていただきたい。

(事故調査)

1⃣
林洋氏の代表作。定番教科書である。現場調査に欠かせない視点を提供してくれる。

 

2⃣
江守一郎氏の代表作。新版(と言っても1984年)あり。これも定番教科書のひとつと言われている。

(過失割合・賠償の範囲に役立つ本)

 

2⃣
交通事故訴訟をリードする東京地裁民事27部の裁判官が参加している。裁判所の判断の傾向を知るのに有用。

 

3⃣
道交法の定番教科書。

 

4⃣
「信頼の原則」という記事を書いた際に、たいへん参考になった。この本なくして「信頼の原則」の記事の信頼度は無きに等しい。

(保険を知るのに役立つ本)

1⃣
これ一冊あれば、任意保険のたいていのことはわかる。

 

2⃣
自賠法条文の解説書。

(後遺障害を知るのに役立つ本)

後遺障害をやるのだったら、これは必読書である。参考文献の紹介も豊富。

 

8⃣
先に紹介した弁護士本をたぶんに意識した本である。つまり、高野他本に載っていない遷延性意識障害とかPTSDとかを積極的にとりあげている。

(交通心理学に関する本)



類書はたくさんあれど、外国の調査研究が宝庫のように詰まっている。

(特殊分野編)
いいもわるいも特殊分野の本なので、これを見るしかないという本。

1⃣
旧版(第2集)は持っているが、その後の判例の展開を示した新版の第3集あり。全損賠償の決定版。

 

 

 

4⃣
上の3著の著者・海道野守氏が一般向けに書かれた物損請求書。古いが、わかりやすくてすごくいい本である。

 

5⃣
これも休業損害分野の唯一の本。毎年のように改定されている。ここの先生は休業損害だけでなく、実は休車損の調査もやられていたから、休車損の本も書いていただけるとありがたいのだが。

(交通事故を考える上で、最初に読んでおきたい本)

おすすめ記事

アーカイブ

カテゴリー

Count per Day

  • 4977現在の記事:
  • 909229総閲覧数:
  • 9今日の閲覧数:
  • 1442昨日の閲覧数:
  • 9757先週の閲覧数:
  • 17825月別閲覧数:
  • 620880総訪問者数:
  • 5今日の訪問者数:
  • 941昨日の訪問者数:
  • 6084先週の訪問者数:
  • 11405月別訪問者数:
  • 868一日あたりの訪問者数:
  • 9現在オンライン中の人数:
  • 2016年5月2日カウント開始日:

ピックアップ記事

2017.5.24

タスマニア人の民族丸ごと滅亡とニーメラーの警句

【最後のタスマニア人】 会計士? その職業は必要ない 以前、BSで「ディファイアンス」という映画を見たことがあります。 1…

ページ上部へ戻る